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無能冒険者、ため息をつく

 訓練場予定跡地からの帰り道、セーラはがっくりと肩を落としていた。

 魔法による片付けがうまくいかなかったことに落ち込んでいるらしい。


「うぅ、失敗ばかりですわ……」


 恥ずかしさからか、彼女の頬はうっすらと赤く、そして瞳からは活力が失われていた。

 しかし、あれだけ高威力の魔法を使ったにも関わらず、体力的にはまだまだ元気なように見える。

 さすが、魔王の血族といった所であろうか……。


「どうやら魔法の制御が苦手らしいな。スキルがあるって言ってなかった?」

「魔術適正スキルは、魔力の威力向上、詠唱強化などの技能なんですの……。一応、制御強化の技能も入っておりますが、比例するような形で強化されますので……」

「元の技術がなければ意味がないってことか」


 魔王城はきっと広いのだろう。魔力の制御などせずに威力を向上させる方向に向けて練習でもしていたのだろう。

 何かを壊さずに、なんて計らいをする必要もない。


「うっ、面と向かって言われると傷つきますわ」

「ごめんごめん、まぁ、手伝ってくれようとした気持ちだけはありがたくいただいておくよ」

「そうしてくださいまし」


 彼女はプイっと顔を背ける。年よりも少し幼げなそんな仕草はかわいらしい。

 妹がもう一人で来たような気分で、ふっとした笑いが喉から漏れた。


 ポチ太に運んでもらったおかげか、家はもう目の前であった。

 降りた後に、ポチ太の頭をなでてやると、嬉しそうに舌を出し、尻尾を振って見せる。

 

「さぁ、飯でも食べて、今日は休もう」


 そう言って、扉を開けた瞬間だった。

 扉と家の隙間からにゅっと手が出て俺の腕をつかむ。見た目だけなら立派なホラーだ。

 だけれども、そういった悪戯には耐性がある。間違いなくラビーニャの仕業だからである。

 しかし、セーラにはそれがないせいか、一気に顔が青ざめる。


「うぉ、ウォレン、何かに腕が……」

「気にするな、どうせ――――――」


 止まっていた扉を一気に開け放つ。

 すると、そこには俺の妹がエプロン姿でにっこりとほほ笑んでいるのだった。


「ラビーニャ、心臓に悪いからやめてくれ」

「兄さんは全然驚いていないように見えるのですが」


 それはもちろん、驚いていないからである。この手はくらったことがある。

 反対に、セーラはほっと胸をなでおろしているようだった。

 扉から急に腕が出てくるのは何も知らなければ怖いに決まっている。


「なんだ、妹君でしたのね」

「セーラさんはきちんと驚いてくれてうれしいですね」

「あんまりこういったことは慣れていなくてですね……」


 そんなやり取りをしながら、俺たちはリビングへと足を運ぶ。

「さて、今日は腕によりをかけて作りましたよ、冷めないうちに食べましょう」

 

 ラビーニャがそう言うだけのごちそうが机の上には載っていた。

 季節の山菜や、牛の肉が煮込まれたとろとろのシチュー。それに合わせて焼けたばかりでアロ香ばしい匂いを放つパン。メインにはジュージューと音を立てるステーキが用意されていた。

 だけれども、そんな中ひときわ異彩を加えているものがった。

 それはセーラが昨日座っていた席に装われている。


 それを見つけた瞬間、俺はため息をつかざるを得なかった。


「ありがとう、ラビーニャ。 ただ、何か変なものが出ているぞ」

「わたくしの皿の上に靴が乗っているように見えるのですが」


 そう、革靴である。少なくとも食べれるものではない。

 だけれども、ラビーニャはふふっと笑いをこぼし、こんなことを言うのだった。


「あら、立派な革靴ですね。とても美味しそうです」

「そういう冗談はよくないと思う」


 いや、冗談で済まないまである。

 なんとなく、ラビーニャがセーラのことを気に入っていないことは気づいていたのだが、これは近いうちに改善しなければならないな。


「えっと、そのわたくしでも革靴はちょっと……」

「す、すみませんでした。親睦を深めようとした私なりに考えてみたのですが」


 まだ責めていないというのに、妹はその瞳に雫を溜め始める。そして、手で顔を覆うのだった。

 どうにも、たちの悪い行いをする。俺一人なら簡単にさばけるのだが、今はセーラがいる。

 だから、引っかかってくれるのが嬉しくてラビーニャも調子に乗るのだろうか……。


「な、泣かないでください」

「いや、嘘なきだぞ」


 今までは体が弱いからと見逃していたが、本当に考えないといけないかもな……。


「兄さんは、何でもお見通しですね。 相思相愛とはこのことですわ」

「いいからさっさと靴を片付ける」

「……お腹が空いてたのですが、少し食欲なくなってきましたわね」


 一連のラビーニャの悪戯は俺たち二人の精神を削ったみたいだった。

 俺もセーラに同意見である。相違点がないので話し合う必要すらない。


 だけれども、しばらくは三人で暮らしていくのだ。あまり仲が悪いのもよくないだろう。

 だから俺は、ラビーニャが靴をあるべき場所に直している間に少しだけフォローする。


「元気になった上に賑やかになってうれしいんだよ、ラビーニャは。 俺相手には冗談なんてしなかったからな」

「冗談で済むレベルなのですかね……」


 もちろん冗談や悪戯は常日頃からされていた。

 だけれどもそういうことにしておいた方が都合がいい。

 

 俺の微妙そうな顔を見てか、セーラはため息をつく。


「ウォレンはやっぱりシスコン、ですわね」


 俺としても、そう思うところであった。


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