神様どうか。 ボクらにはハッピーエンドしかいらない。
◯滝山公園(朝)
満開の桜。閑散としている河川敷。
白石みどり(69)と白石京太(73)
が娘たちに車椅子をおしてもらいなが
ら、河を眺める。
みどり「京太さん、お話があるの」
京太「どうした」
みどり「ガン……みたいなの。すぐにでも、
入院が必要だって」
京太「そんな、せっかく……」
みどり「そうよ。せっかく、夢が叶ったのにね。
あなたと一緒に、一緒の老人ホームに入れ
ることになったのに」
京太「みーちゃん。だったら、ぼくは老人ホ
ームに行かない」
娘1「お父さん、ごめんなさい。私たちこれ以
上面倒見れないの」
娘2「会えるように、お医者さまと介護スタ
ッフさんに掛け合ってみるから」
みどり「だったら娘たち。季節ごとに一度
は会いたいわ。お願いね」
みどり、京太の手を握って、涙をにじ
ませる。
みどり「京太さん、好きよ、大好き、愛して
るわ」
◯南多摩病院・入院病棟・個室
窓が全開になっている。風に白いカー
テンが揺れる。青空に入道雲。アブラ
ゼミの鳴き声。みどり、ベッドに横に
なっている。京太が、娘1に連れられ
お見舞いに来ている。
みどり「京太さん」
京太「……」
みどり「京太さん!」
娘1「お母さん。さっきも言ったけど、お父さ
ん転けて寝たきり になってから、名前を
呼ばれても無反応なの」
みどり「ごめんなさい。信じたくなくて。私
だったら違うんじゃないかって。まるで、
片想いしてるみたい。だけどいいの会えた
から。京太さん。私を忘れてもしまっても
いいから。お願い。側にいさせて」
みどり、京太の頬へキスをする。
◯家族葬ホール(夜)
遺影、棺桶にコスモスを添えているみ
どり。娘2が、よろけるみどりの体を支えている。
娘2「お母さん、無理しないで。治療の副作用でしんどいんじゃ……」
みどり「なによ。心筋梗塞であっという間。京
太さんがいないんじゃ治療なんて意味ない
のよ。この世のどこにもいたくない!」
娘2「お母さん、そんな悲しいこと言わない
で」
みどり「わかってよ。好きなの! 大好きな
の! 愛してるの! 京太さんのもとへ帰
りたいだけなの」
◯多摩霊園・京太の墓前(朝)
線香をあげ、手を合わせているみどり。娘1が墓に、菊を手向けている。
娘1「お母さんみて。雪が降ってきた。もう
戻りましょう」
みどり「もう少し、もう少しいさせて」
◯滝山公園
満開の桜。花見客で賑わっている。ガリガリに痩せて血色が悪いみどり。
みどり「ねえ。もう、そろそろいいかしら」
娘2「本当に……本当に治療をやめてしまっ
ていいの?」
みどり「いいの」
娘2「お母さんがそう言うならっ……」
みどり「ありがとう。嬉しい。やっと。やっと、
京太さん、あなたに会いにいける」
娘2の瞳から涙が溢れる。
みどり、少女のような満面の笑顔。