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プレゼント

作者: 秋桜

是非、ご一読を。

知人の要望に応えました。

どうですかね、

さぁ、ネタバレしないうちに本編へどうぞ。


もうすぐ9歳になる一人の小年がいた。

少年と言っても中身はあどけなさが残っていた。

そして、彼は両親を困らせる天才でもあった。


彼が7歳の誕生日を迎えた時、両親に「プレゼントは何が欲しい」と聞かれた彼は「世界の全てが知りたい。全知が可能な本が欲しい。」と答えた。

この要望には両親も頭を悩ませた。

結果的に両親は息子に辞書を買って与えた。某I書店の日本が世界に誇る代物で、7歳の少年にはもったいないくらいだ。

最初、彼はそれをとても喜んでいたが数週間もしないうちに物足りなさでいっぱいになった。

両親は、息子のその様子を見て哀愁を募らせた。


そしてその翌年、彼は8歳の誕生日を迎えた。

誕生日恒例の両親からの質問に彼は目を輝かせ、「知りたいんだ、全部を。人類の犯した罪や行いを。」と答えた。

これまた両親を困らせる回答だった。

両親は悩んだ挙げ句、彼にこれまで起きた全ての事柄や全ての言語などが記載されている資料や論文を息子に用意した。

勿論、彼が喜びの顔を見せたのは最初だけであった。

確かに彼の望むものは全て書かれていた。

論文を読破した時、彼は高熱で倒れた。

疲労によるものであった。


彼が寝ている間、夢の中にベージュ色のジャケットを着た紳士が現れた。

彼は不思議とその紳士が神であることを悟った。


その紳士は彼に向かって「全知の能力が欲しいのか?」と問いた。

彼は迷うことなく首を縦に振りながら「うん」と言った。

紳士は少し残念そうな顔をしていたけれど、「そうか」と頷くと彼の額にひとつ、デコピンをやった。

その瞬間、彼の身体に衝撃に似たものが走った。


遠のいていく意識の中で、やっと望みを叶えられたという喜びと嬉しみで涙が頬を伝った。



目を覚ますと、そこには不安そうな顔をして僕の顔を覗き込む両親がいた。

だが、彼らの頭上に紫色をしたなぞの文字がゆらゆらと浮かんでいた。

よく見るとその文字は前回読破した論文の中で取り上げられていたラテン語だ。

ラテン語については以前からそこそこ興味があったので難なく読解することができた。


だが、彼らの頭上に浮かんでいる文字はどれも表情とは逆のマイナスに近いものであった。

僕は疑心暗鬼になり、以前の僕とは打って変わり、自室に引きこもる暗い性格に変わってしまった。


そんなある日、僕は久々に外出することにした。

僕は好んでいた公園までのルートを歩いた。


あの日までは全てが新鮮で世界が輝いていた。


幼い頃は花や飼い犬とよく話をしたものだ。

ワクワクしながら通学路を通らなくなったのはいつからだろう。

尊敬の目で見ていたお巡りさんも今では近くにいるだけでドキッとしてしまう。

「ただいま」が言えなくなったのは何故だろうか。

みんなで手を合わせて言っていた「いただきます」と「ごちそうさま」はいつから言わなくなってしまったのだろうか。

好きなものを好きと言うのはこんなにも難しいことだっただろうか。

最後に我儘を言ったのはいつだろうか。


僕は川のフェンスを乗り越えてしばらく立ち尽くすと、目を閉じ腕組みをした形で頭から川に身を投げた。

前日の大雨で水かさの増した川は僕を見事に飲み込んだ。



例のジャケット姿の紳士が電柱の陰に隠れてその様子を見ていたことを彼は知る由もなかった。

一人でも多くの方の心の支えになればと思います。

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