9 学力試験
特待生試験の日になりました。
受験会場は初等学校です。会場に集った受験生は十人。皆わたしよりずいぶん大きいんですよ。なんか周りのつきそいの大人たちから一人だけ幼い子が混ざってますよって感じの温かい目で見られてます。
貴族っぽい感じの人は他にいないようです。この特待生試験が平民の救済が趣旨ですからね。
十人は別にライバルってわけではありません。
才能を認められれば十人全員合格することもありえますし、逆なら合格者はゼロとなります。
確か前世ではこの学年の特待生は歌唱の才能を認められた男子のピエール一名だけだったはずです。
皆、とっても緊張してるようです。当然わたしも緊張はしてますが、夏の魔族襲撃事件を経験してますのでこのくらいの緊張はなんでもありません。
別に失敗したって死ぬわけじゃないんだもんね。
「皆、がんばりましょうね」
って声をかけてみましたけど反応はなさそう。
「うん、がんばろう」
ちょっと遅れて、そう声を返してくれたのはピエールかな?
いっしょに合格しようね、ピエール。と心の中だけでエールを送りました。
「シャルロット、落ち着いてやれば大丈夫ですからね」
お母様に見送られて学力試験の教室に入りました。
最初の関門は椅子によじ登ることのようです。
ここって高学年用の教室じゃない?
レディーが椅子によじ登るのは大きく問題ありそうですが、この試験会場には付き添いの人がいませんから仕方ありません。
なんとか椅子に座ったものの、顔が机の前になんとかちょこんと出てる状態。
これでは試験用紙に回答を書くなんてできないじゃないですか。ぷんぷん。
お行儀悪いことこの上ない感じですが、椅子の上に中腰で座ることにしました。
なかなか疲れます。これは大きなハンデですよ。
試験用紙が配られてテスト開始。
テスト問題は、国語・算数・理科・社会のあらゆる分野から出ます。内容的には初等学校中学年程度のレベルでしょうか。
当然、普通の入学前の六歳児に解けるような簡単な問題ではありません。
このくらいの問題も解けないようでは特待生とかおこがましいといったレベルの問題です。
まぁ、わたしには簡単なんですけどね。これでも高等学校卒業してるんですからね、前世でだけどさ。
二十分くらいで解答用紙を埋め終わって、一応見直し。
この問題で満点取れなかったらちょっと恥ずかしいところですから、あっとイージーミス発見。あぶないあぶない。
「終わりました」
手を上げて解答用紙を提出します。三十分も中腰だったのでとても辛かったんです。
テスト時間は二時間です。
次の試験は剣技ですが、これはパスすることに決めてます。
評価は優れたものだけで決まるとのことですから、苦手な種目は受ける意味がありません。
この後は午後からの魔力検査のみ受ける予定です。
教室を出てもお母様が見当たりません。
まぁ三十分で出てくるとは思ってないでしょうから仕方ありませんね。
初等学校は懐かしいので勝手に遊びに行くことにしました。
テケテケと廊下を走って行くと曲がり角で大人の女の人とぶつかってしまいました。
「お嬢ちゃんは迷子かな? お父さんかお父さんといっしょじゃないの?」
あ、この人は前世で初等学校で担任だったルミア先生じゃないですか。いやぁ懐かしいなぁと思っていても口に出すわけにはいきません。
「ぶつかってごめんなさい。特待生試験を受験に来たシャルロット・ベルトラムです。
試験時間の合間に散歩してました」
まず謝罪した後、スカートの端をつまんであいさつした。
「あら、ではフェリックスの妹さんかな」
「兄がお世話になってます」
「まぁこんなに小さいのにしっかりしてること」
ルミア先生を優しげに微笑んでくれた。見た目ほどは小さくないんだけどね。
「それじゃ試験の方、頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
あまり遠征するのはやめたほうがいいかな? 試験の結果に響いたら大変ですしね。
試験会場の前に戻ると、お母様も戻ってました。他の子たちはまだ外には出てきてないようです。
まぁ普通の子なら二時間でも足らないくらいでしょうから。
「お母様」
わたしが駆け寄ると、
「あら、シャルロット。もう試験は終わったの?」
「はい、もうずいぶん前に」
「どうでした?」
「バッチリです!」
「自信ありそうね」
「はい、自信あります」
「それでは次の試験は午後でしたね。
ちょっと早いですが、お弁当にしましょうか」
「はい、そういたしましょう」
初等学校は休みの日なので食堂は営業してません。
それでもテーブルと椅子は普通に使用できるようになってます。とは言ってもわたしにはサイズが合わないんだけどさ。
お弁当はサンドイッチでしたので、テーブルの高さとか、特に問題なく食べれましたが、来年からの食堂利用とか憂鬱になってきたよ。