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8 勇者のお兄様

 運命の日の翌日からわたしは高熱を発しました。

 熱をよく出すのはいつものことなんですが、今回ばかりはハンパなかったです。

 いやぁ、せっかく死すべき運命さだめを乗り越えたのに熱を出して死んでしまうのかと思いましたよ。

 そんな熱も三日経つとすっかり下がって、念のためもう一日だけ余裕を見て安静にしてすごし、その翌日には王都へ戻ることになりました。


 本来ならもう一週間ほど滞在する予定だったんですが、勇者の目覚めということで王都から召喚命令があったのです。

 わたしが元気なら、もうとっくに出発していたはずです。確か前世では事件の二日後には出発してました。


 王都へ戻るとすぐにお兄様は国教会にて勇者判別の儀式に向かいました。

 見学したかったんだけど、ダメって言われちゃった。残念です。


 でも前世で体験済みですから内容は知っています。

 国教会で神父さんっぽい人の前でひざまずいて、神父さんっぽい人がよくわからない難しい言葉を唱えると、明るい光に包まれたものです。

 体験したと言っても八歳でしたので、そのくらいしかわからなかったんです。

 今見ればもう少しどんな儀式だったのか理解できると思うんだけどなぁ。


 前世の通り、お兄様が勇者に間違いないってことになりました。

 勇者育成のために初等学校も特待生扱いになって、他に剣術指南の家庭教師として、前騎士団長のロベールが週二回、家にくるようになりました。

 このロベールの指導がこれまた厳しいんです。

 お兄様、頑張って!

 正直何度も挫けそうになったものですよ。


 前世ではこの時期は妹を亡くした悲しみを忘れようとガムシャラになって打ち込んでいたものでしたが、さすがに今のお兄様にはそこまでの気合がありませんね。

 トラウマがないことはいいことなんですが、もうちょっと気合をいれたほうがいいんじゃないかと思うんです。

 ということで、ロベールとの特訓を見学させてもらうようにしました。


 タイミングを見計らって、

「お兄様、頑張って」

「お兄様は負けないもん」

「お兄様、素敵です」

「お兄様、ファイト」

 といろいろ声をかけるんです。基本的に妹の前では強くてかっこいい兄を目指してるはずなので、効果てきめんです。

 ロベールもわたしに親指を立てて「いいぞ」って合図してくれてます。


 お兄様、ロベールの指導はきっと役に立ちますから。頑張ってくださいね。


 さて、お兄様は頑張ってくれるようになりましたから、わたしももっと頑張らないといけませんね。

 とは言ってもまだまだ、初等学校にも行ってない状態ではあまりできることもありません。

 外出するための口実もないんですよね。


 前世ではこの時点で死んでいたはずのシャルロットですので、これからの人生はまったくの白紙。

 やっと人並みになってきたってところです。

 とりあえず、今後の人生設計を考えるにあたっては、まずは初等学校。


 お兄様は特待生に組み入れられましたので、わたしも特待生になっておいたほうがいろいろ便利でしょう。

 王都の学校は基本的にお金さえ出せば無条件に学べます。

 その費用がめちゃくちゃ高いので一般には中級以上の貴族や豪商の子しか在学していません。

 ただ、それだけでは才能ある若者を教育する機会が失われるという理由で毎年若干名の特待生を受け入れてます。

 学問や芸術、武術などの分野で著しく優れた子供が特待生となります。

 基本的には入学時に選別されますが、王が認めた場合に限り途中からでも特待生になります。場合によっては編入もあります。


 お兄様はもともと一般生として初等学校に入学していましたが、この度の勇者認定により、王の指示で特待生になったのです。

 特待生になると授業料などの一切の費用免除のほかに、学校内でも特待生専用喫茶室などが利用できます。

 特待生だけでのサロンが形成されているわけです。


 この特待生サロンで前世では、聖女クリスティーヌと仲良くなれました。まぁ、あの裏切り者のマクシミリアンともここで知り合ったんだけどね。

 お兄様の活動を助けるためにも、わたしも特待生になっておく必要がありそうです。


 執事のレオポルドに調べてもらったところ、初等学校の特待生試験が十月に行われるようです。あと一ヶ月ですね。

 夕食の時に受験のことをお願いすることにしました。


「お父様、わたしは初等学校の特待生試験を受けたいと思ってますの」

「あの試験は、基本的に平民のためのものだから、貴族の受験はあまりないと思ったほうがいいんだが」

「お兄様といっしょがいいんですの」

「フェリックスの場合は王命だったからな」

「父さん、シャルが受けたいのだから受けさせてあげてよ」

「そうだなぁ、そのかわり受験するからにはベルトラム家の名誉にかけて、不合格になるような真似は許さないぞ」

「シャルはお利口だから問題ないと思うんだけどなぁ」

「ありがとう、お父様。必ず合格いたします」


 調べてもらったところ、テストは学力以外にも魔力検査もあるみたい。

 順当なら学力テストだけでも十分合格できると思うんだけどなぁ。ここは確実を期して魔力検査も受けておいたほうがいいかも。

 魔力検査でわたしが落ちるようなケースは考えられないと思うんだけどね。

 ちょっとだけ本気見せちゃおうかな。

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