7 運命の日
領地の城について三日目。
今日こそが魔族襲撃の日で間違いないはずです。
前世では魔族襲撃のあったのはお昼前、フェリックスとシャルロットは城の中庭にいました。
その時、他の皆がどうしていたのかは記憶にありません。
唯一、騎士のマルコが近くにいたことは覚えています。兄妹を襲った魔族を傷を負いながらも斬り倒したのがマルコだったからです。
下手なことを言ったために、皆の当日の動きが変わって魔族襲撃で思わぬ人が怪我したり、命を落としたりしては大変です。
できるだけ自然に自然にと思っていても、どうしても恐怖で体がすくんできます。
あの時と同じように、わたしはお兄様と中庭にいます。マルコがちゃんと護衛にいてくれます。
すべてあの時と同じです。わたしはあらかじめ自分とお兄様に身体強化魔法をかけておきました。お兄様は、あれなんかいつもと違って変だなって感じの顔をしてますが、特に疑ってる様子はないようです。
でも、マルコにはまだ身体強化魔法をかけるわけにはいきません。マルコは身体強化魔法のことを知っているはずですから、自分に魔法がかかったと思えば態度にあらわれてしまうと思うんです。
心臓がすごくバクバクしています。
もうすぐあの惨劇が起こるのです。
なんとしても生き延びてみせるんですからね。
城に来たときからずっとかけ続けていた探知魔法が警戒すべき敵を感知しました。
ついに魔族が現れたようです。
大丈夫、きっとできる!
この日のために何度もシミュレーションしたんだから、落ち着いて一つ一つを確実にするだけ。
お兄様とマルコの位置を確認して、わたしは次の行動に移りました。
「隠れて!」
マルコの声が響きます。
マルコは剣を抜いて魔族とわたしたちの中間へ駆け出します。
お兄様は固まったように恐怖に包まれた顔で魔族を見つめています。そしてわたしのほうをちらっと見たかと思うと、わたしの方に向かって駆け出すとともに、叫ぶような声を発しました。
お兄様の中の勇者の資質が今、目覚めたのです。その叫びとともに「勇者の盾」がまわりを覆います。
でも、お兄様の「勇者の盾」はあまりにも小さく弱々しいものでした。わたしにはあきらかに届いていません。
魔族の放った魔法がわたしを中心に爆発しました。その衝撃でわたしの影は消え去りました。
わたしは自分に幻影魔法をかけていました。あの時の魔族にならこの幻影は見破ることはできないはずです。
その幻影を元の位置に残したまま、お兄様の後ろに瞬間移動するとともに、お兄様の出した「勇者の盾」と重なるように「まもりのたて」を唱えました。
魔族の放った魔法の衝撃波が二人を襲いましたが、重ねがけした二つの「盾」を突破するほどの威力はありません。
わたしたちは無傷で助かりました。
わたしはすかさず、マルコの抜いた剣に光属性の魔力付与を行います。魔族に対しては絶大な効果があるはずです。
そして、魔族に向かって威圧をかけます。魔法ではなく、魔力そのものをぶつける威圧は、自分より魔力の低いものの行動を著しく制限します。
そのままマルコの剣は一撃で魔族を切り伏せました。
マルコにも怪我がなかったようで、よかったよかった。
「シャル!」
わたしの吹き飛んだ幻影の方へ向かって、お兄様の声が響きます。
「はい、お兄様」
わたしはお兄様の後ろから返事を。
「シャル、無事だったのか。よかったよかった」
絶望から一転して最高の笑顔になったお兄様に抱きしめられてしまいました。
いや、わたしも最高に嬉しいのですが、そこまで強く抱きしめられると、ちょっと痛いですよ。
「お兄様、怖かったですの。お兄様のおかげで助かりました」
お兄様の胸で震えていることにしましょう。
マルコは少し首をひねってますけど、特に何もツッコミはないようです。
皆が城のあちこちから集まってきました。
他の誰も怪我とかしたりしてないようです。
お兄様の「勇者の盾」に守られてわたしが助かって、マルコの活躍で魔族をやっつけることができて、めでたしめでたし。
この襲撃イベントはそういうふうに無事に収まったようです。
でも魔族の狙いがわたしの命であったのならば、まだ魔族は目的を達していないわけです。わたしの運命の低下してる時期が終わったわけではありません。
もしかしたら今後、第二・第三の刺客が襲ってくるかもしれません。
決して油断するべきではないでしょう。特に今後については前世で経験してない、まったく未経験のことなんですから。
それでも、生まれたときから立ってた死すべき運命を乗り越えることができました。
この瞬間だけは喜んだっていいでしょう。
やったよ!