49 非常識なのはどちら?
空中散歩を終えてアンリエットの元に戻ると、最高の笑顔で迎え入れてくれました。
この子、こんな素敵な笑顔ができるんだ!
この笑顔を見ただけで朝からの非常識な行動やらなんやらも、すべて許せちゃうような気がします。
「シャルロット、ありがとう。
あなたのおかげでわたしの研究が実証できたわ。
何度も机上での検証を進めて大丈夫なことはわかってはいたんだけど、この非常識な量の魔力を一人で供給できる人がいなくて……」
アンリエットに感激のあまりに抱きしめられてしまいました。
こういうのって悪くないね。
そういえば、何故か他人の魔力を反発しあう傾向があって、安定するまでは一つの魔道具に魔力を注ぐのは一人の魔力で供給しないと上手くいかないっていう話は前世で聞いたことがあります。
いったん安定しちゃえば、他人の魔力で作られた魔道具でも使えるんだから、不思議な話ですよね。
「そういえばごめんね。
たくさん魔力使ったから疲れてるよね。
強引に実験までさせちゃって……
本当なら、実験の前にいったん休憩を入れるべきだったわ。ついつい夢中になっちゃって」
ずいぶん魔力が吸い取られて、ここまで魔力が減ったのははじめての経験ではあるんですけど、別に疲れてるってわけじゃないんですよね。
「今日は本当にありがとう。
これで研究も次の段階に進めるわ。
また研究におつきあいしてほしんだけど、魔力ってどれくらいでいっぱいになる?
これだけ使ったから一ヶ月くらい……」
「んー、さすがにこれだけ使うと、一晩寝ただけじゃいっぱいにならないかな?
明後日になればきっと……」
「え?」
なんか異常なまでに驚かれてる気がするんですけど、なにか?
一ヶ月とか聞こえた気もするけど、魔力消費してそんなに戻らなかったら不便じゃないのかな?
「待って、一晩で魔力が戻るとかいうのは一般のレベルの魔力量の人の話でしょ?
シャルロットくらいの量があったら一ヶ月や二ヶ月かかっても不思議では……」
「魔力の回復量も成長するでしょ?
魔力の量に応じて魔力の回復量も上昇しないと不便じゃないの?」
不便よね。
わたしの考え方で間違ってないよね?
「んー、わたしもそっちの方は専門じゃないから詳しくはないけど、魔力の回復量が上昇するのは十歳くらいまでって……
あー、シャルロットはまだまだ回復量も伸びる歳なのか……」
魔力の回復量が上昇するのは十歳までって、そういう話は始めて聞いたよ。
そういうものだったのか。
でも、わたしはまだ七歳だから問題ないよね。
「確かに……でも、二日でこの魔力がマンタンに。
しかもさっきの言い方だと、一晩寝るだけでほぼ回復してるくらいの回復量とか、そんなの普通じゃ考えられないよ。
そうね、魔力の素質に溢れた子が生まれた直後からずっとかかさずに魔力の圧縮拡張を繰り返しでもしてたとしか言いようが……」
ギク!
まさにその通り! って言えるわけないでしょ。
わたしって魔力量だけじゃなく、魔力の回復量の方でも常識外れの存在だったのか……
「まぁいいわ。
なんか深く突っ込んでほしくないって顔してるし」
え?
顔に出てますか……
「とにかく、本当なのね。
二日あれば魔力がマンタンに復活するって」
アンリエットがわたしをつかんで、肩をゆすりながら聞いてきます。
なんか目が怖いよ。
「うん、本当」
わたしは、うんうんと頷きます。
「本当なら大歓迎よ。
いいわね。週に三日、わたしのところに来てお手伝いしてちょうだい。
そうね、月水金の三日にしましょうか」
「え……
ちょっとそれ困ります。月水金の授業に出れなく……」
「そんなつまらない問題にこだわってられても……
じゃ、隔週で曜日は変えましょう。
月水金と手伝ってくれた翌週は火木土って感じでどう?」
「う……」
アンリエットって頭の回転も凄まじく早いので、何を言っても無駄な気がしてきました。
「そうね、特待生とは言え、なかなかそこまで授業に出ないのも辛いかもしれませんね。
わたしの方から、オーギュスト校長に話はしておきますから」
あ、完全に逃げ道を塞がれたっぽい!
「二日に一度魔力を使えるのなら、この反重力魔法の魔道具の実用化も考慮に入れれるわね。
これを軍で実用化できれば対魔族戦においても……」
え、 なんか今、大事なことを言わなかった?
「シャルロットに払う対価についても決めないといけないわね」
「対価ってさっきの話で……」
「あれは、今日の分の対価。
これからの分はこれからの分でちゃんと支払いますわ。
もっと、自分の魔力の価値の重要さを理解しないとダメですよ」
そういうものなんだ。
なんかアンリエットって常識があるのかないのか、さっぱりわからないんですが。