46 アンリエット襲来
ローラ様と共にヨハン殿下のところへ遊びに行ってきました。
どうやら、ローラ様の独特のノリはヨダン殿下にそこそこ気に入られたようで、めでたしめでたし。
これで上手く行けばわたしへの関心が下がってくれるのではと期待したのですが、帰り際に、
「また二人で遊びに来るとよい」
と言われました。このヨハン殿下の一言にがっくり来ましたよ。
「シャルロット様と二人でまた遊びに参ります」
と、ローラ様も幸せそうな笑顔で答えてますから、わたしは知らないわよって、ヨハン殿下からの誘いを断りにくくなったじゃない……
何事も上手くいかないものです。
まぁそのおかげで、四年のクラスの雰囲気はとってもよくなったのでいいことにしておきましょう。
平和な日々を送り始めて一週間経ったある日のことでした。
バタン! と大きな音を立てて、授業中の静まった教室に扉が開く音が響きました。
ズカズカと入ってきた姿にクラスの皆は静まっていますが、あまり驚いた様子はありません。
そう、その入ってきた女の子は、前世で見た記憶はあるものの、シャルロットとしては初めて見る姿。
四年生の奨学生、天才として名高いアンリエットではありませんか。
栗毛のほとんど手入れのされてない長い髪と、ひょろっとした長身。
一見野暮ったく見えますし、前世ではそう思っていたんですが、こうしてよく見るとなかなかの美少女じゃない?
そのアンリエットはズカズカと無言で歩いてきました。
窓際の一番前の席、わたしの左隣がアンリエットの席ですので、そこへ向かっているのだとばかり思っていましたが、わたしの前で立ち止まりました。
「どう見ても幼女のその姿、あなたがシャルロットね」
わたしの前で仁王立ちになって、すっごく失礼なことを言ってくれます。
幼女で悪かったわね。でも、淑女たるものそうは言えません。
「そうですが、なにか?」
「じゃあ来て」
いきなりわたしの手首をつかんで引っ張っていこうとします。
いったい何が起こってるの?
「アンリエットさん、シャルロット様に失礼ですわよ」
ローラ様が立ち上がって、アンリエットに抗議の声をあげます。
「あ゛?」
アンリエットの一睨みでローラ様は撃沈。
ローラ様、弱いですわよ……
それにしても、アンリエット凶悪すぎ。
「アンリエットさん、そんないきなりムチャな……」
ピエールが声をあげますが、すでに最初からびびりまくってます。声がうわずってるわよ。
「なにかな?」
アンリエットの視線怖いよ……
「いえ、何も……」
ピエール……あまり期待はしてなかったけど……
いえ、ムリして一言抗議してくれただけでも嬉しかったですよ。
「アンリエットさん、授業中ですから今はムリです」
わたしが抗議すると、アンリエットは一応ちゃんと受け答えてくれたようです。
「聞いた限りの情報では、シャルロットに四年生の授業は不要でしょう。
わからないことがあれば、あとでわたしが教えれますから」
そりゃまぁ、四年生の授業は確かに聞かなくてもわかるけどさぁ……
「でも、授業に出席しないと……」
「構いませんよね、ブノワ先生?
必要なら、オーギュスト校長にも話をしておきますが」
アンリエットは担任のブノワ先生に対して毅然とした態度でそう言います。
「あ、あぁ。構わないかな……」
ブノワ先生……わたし、売られたかも……
もうクラスの全員が俯いていたり、視線を逸していたり……
どうやら、誰もわたしのことをアンリエットから守ってくれる人はいないようです。
なにこの、無双状態。
前世の勇者だったときもこんな無双をしたことなんてありませんよ。
しかたなく、わたしはアンリエットに手を引かれて、彼女の研究室に連れ込まれました。
いったい何なの? このアンリエットって娘は。
とりあえず、初対面のクラスメートに対し、この傍若無人な態度は。
誰もアンリエットに何も言えないなんて。
どこの王女様よ。
記憶によると、アンリエットって平民どころか、孤児院の出身なんだよね。
別に孤児院出身だからといって差別するつもりはないけど、貴族に対して平民がここまで横暴な態度って普通に許されるの?
なんかこれまでの常識がすべて吹っ飛んでいった気分なんですけど……
なんかこの学年って異質な感じがするなぁって前世は一学年下を見てそう思ってました。
シャルロットとして一学年下から見ても、なんかそうした印象を受けてました。
同じ学年になって、ローラ様の派閥のせいかなって思ったものですが、どうやら違ったようですね。
すべての元凶は、このアンリエットにあるのでは……そんな気がします。
いったい、この子は何者なの? わたしはどうすればいいの?