41 【フェリックス視点】初陣
俺はフェリックス、八歳で初等学校の四年生だ。
最近、シャルが母上とコソコソと内緒の行動が多い気がする。
もうすぐ俺の九歳の誕生日だから、きっとサプライズで何か用意してくれてるんだろうな。
こういう時は気づかないふりをしていてやるのが、兄としての優しさであろう。
そういえば先日もシャルが、「男の子は誕生日に何をもらったら嬉しいんですか?」って質問に来てたよな。
俺は、「シャルからもらえるなら何でもうれしいぞ」って答えておいた。男の子とかいう曖昧な聞き方をしてくるところがシャルの可愛いところだな。きっと恥ずかしいんだろう。
シャルの仲のいい男の子って言ったらピエールくらいだろうけど、以前に特待生専用喫茶室で聞いた記憶ではピエールの誕生日は秋って話だから関係ないだろうしな。
ピエールも先日から我が家に家族ごと同居するようになって、シャルも喜んでいるようだ。よくいっしょに勉強しているのを見かけるようになった。
ピエールの両親の演奏を夕食の時に聞いたが、音楽とかさっぱりわからない俺が聞いても素晴らしいと感じるんだから、本当にすごいものだと思ったものだ。
そんなある日のことだ、シャルと俺は一日中家から出ないように言いつけられたのだ。それだけでなく我が家に仕えている騎士全員に動員がかかっているようだ。
何かが起こっているということは俺にもわかるんだが、誰も何もおしえてもらえないという状況はとても不満である。
俺が部屋の窓から外を眺めていると、シャルが窓から庭へ抜け出しているのを見つけた。あいつ、家から出ないように言いつけられてるっていうのに何を考えているんだ。
俺はシャルに声をかけて止めようと思ったがスアルの顔を見て思い直した。いつもの色ボケしたようなお気楽な顔でなく、極稀に見せる何かを思いつめたような真剣な表情だ。
そう、領地の城で魔族の襲撃を受けた時にもシャルはあんな顔をしていた。
俺は剣を携えシャルの後をそっとつけていくことにした。
そっとと言ったがそれは大間違いだった……家の門を出るとシャルはすごいスピードで東へ向かって走り出した。どうやら魔法を使っているようだな。
俺は見失わないようについていうくのがやっとって感じでひたすら走り続けた。
でもさすがに最後まで追い続けるのはムリだったようだ。
王都の東のハズレの家もまばらなあたりでシャルの姿を完全に見失ってしまった。
困った、何か嫌な予感がしてたまらない。
何か手がかりはないものかとあたりの家の様子を見渡しても、まったくそれらしい手がかりなんて得られそうにない。
俺が途方に暮れていると、遠くの家から天に向かって大きな雷撃が弾けた。
今の雷撃は魔法だと思われる。あんな雷撃の魔法を使えるのはシャル以外に思い当たらない。それにしてもあれほどの雷撃を使うような何かがシャルに起こったのだろうか。
その雷撃が起こった家の門に駆け込むと、玄関のドアが乱暴に叩き壊されていた。
これはひどい!
このような無法なことをするやつにシャルが襲われたに違いない。
俺は剣を抜いて、用心深くその家に入り込んだ。
奥の部屋から声が聞こえる。物音を立てないようにその声のする部屋に俺は近づいていった。
「四天王の一人ゲルヴィーンがその命を確実に断ってやろう」
見るからに魔族と思われる影の向こうに立ちすくんでいるシャルの姿が見える。魔族は相当なダメージを負っているようだな、きっとシャルの雷撃の魔法が効いているんだろう。
シャルが危ない!
俺は剣を構え、全身全霊を込めてそ魔族の背を貫いた。
手応えあり!
この二年間の修行の成果は確実にあったようだ。
「フェリックス!!
キサマまで何故ここに……キサマとわたしの運命が交わるのはまだ何年も先の……」
この魔族は俺のことを知っているのか?
それにしても、この状態でまだこれだけ話す余裕があるのか、魔族の生命力はどれだけあるんだ。
シャルが俺の方をじっと見ている。俺が来たからにはそんな不安そうな顔をしなくてももう大丈夫だぞ。
そう言おうと思ったら、シャルが魔法を撃ってきやがった。慌てて飛び下がったが危なっかしいな、いきなり。
最後のシャルの魔法がトドメとなって魔族は炎に包まれていった。
「お兄様!」
シャルが泣きながら俺に抱きついてきた。もう大丈夫だぞ、俺は優しくシャルの頭をなでてあげた。
しばらくそのままいたんだが、床の扉が開いてマルコが出てきたからビックリだ。
マルコの方も俺とシャルを見てビックリしている。
「誰もこちらに逃げてきませんでしたか?」
マルコがそう聞くけど、正直俺は事情が何もわかってない。
「マクシミリアンが一人逃げてきました」
シャルがマルコにそう言ってるけど、マクシミリアンってあのマクシミリアンか?
でも、ここにいたのは魔族が一人だけだぞ。しかも四天王と名乗ってたが。
「それでマクシミリアンは?」
「マクシミリアンの正体は四天王のゲルヴィーンと名乗った魔族でした。お兄様のおかげで倒すことができました」
さっきの魔族がマクシミリアンだったというのか?
「それで、どうしてお二人はここに?」
俺はシャルの後をついてきただけだが、シャルはどうしてここに?
そう思ってシャルのほうを見ると目が泳いでる。なにかごまかそうとしてるときのシャルの態度だな。
「俺の勇者としての勘だな。ここで何かが起こりそうな、ここに来なければいけないっていうそんな勘がしたんだ。
シャルは俺にこっそりついてきただけだ」
「お兄様……」
まぁ本当は完全に逆なんだけどな。シャルが言いたくないことがありそうなので、そういうことにしておいてやろう。