40 マクシミリアンの最期
今日がドゥヌエ辺境伯の家を、つまりはマクシミリアンの家を襲撃することになっているはずです。
計画の詳細についてはお母様は話してくれませんでしたが、我が家に仕える騎士たち全員に動員がかかっていますし、わたしやお兄様には家から一歩も出ないように強く言われております。
先日もお母様に、
「シャルロット、将来自分自身の手でと思っていたことを他の人に任せるのは不本意かもしれませんが、すでに王国として不可避の問題となっております」
と言い渡され自重せざるをえない状況に。
マクシミリアンの家、前世ではあそこで罠にはめられたのでした。
フェリックスは屋敷に忍び込んで女性を殺したことにさせられ、マクシミリアンの言うがままに地下の隠し通路から逃亡し、そのまま犯罪者として二度と王都に戻れないことになったのでした。
そういえば、あの隠し通路のことをお母様に話していません。
あの隠し通路は古ぼけていましたから、すでにマクシミリアンの家に存在するはずです。このままでは、あの隠し通路から逃亡されてしまうのではあないでしょうか。
きっとすでにマクシミリアンの家への襲撃は始まってると思われます。今から連絡を取っていたのでは間に合わない公算が強そうです。
わたしは考えた末に、あの隠し通路の出口のある王都の東外れの古ぼけた屋敷に向かうことにしました。
家の扉から出たのでは気づかれてしまうでしょう、わたしは部屋の窓から抜け出すことにしました。
幸いなことに家の人間は少なく誰にも咎められず家を抜け出すことができました。
前世の記憶をたよりに王都を東へ駆け抜けます。少し迷いましたが、この家で間違いなさそうです。
誰も住んでいる気配のなさそうな古ぼけた屋敷の門を抜け、鍵がかかっていた玄関を壊して家の中へ侵入します。
記憶にあるその部屋は誰の気配もしません。床の扉は何年も使われたことがなさそうな感じでほこりをかぶったままです。
間に合ったかな?
そもそもあの隠し通路を使う機会があったかどうかもわかりませんが……
様子を伺っていると、床の扉がきしみました。
わたしは部屋の外に出て様子をうかがいます。
扉を開けて出てきたその男はマクシミリアン!
マクシミリアンがただ一人だけで、その姿を現したのです。
自分の手でマクシミリアンを討つことができる。
その喜びにわたしは震えました。
「マクシミリアン!」
わたしはマクシミリアンの前に飛び出したました。
「シャルロット!
何故ここを知って……」
マクシミリアンの話が終わる前に、わたしの放った最大威力の雷撃魔法がマクシミリアンを貫きました。
やったよ!
ついに念願の一つを果たしたよ!
あの無念さをついに……
「恐るべき魔力だな、さすがというべきか。
さすがのわたしも危ないところだったぞ。
何故ここを知っているか聞き出したいところだが、もうそんなことはどうでもいい」
え……今の雷撃魔法は直撃したはず……あの威力の雷撃魔法を受けて生きていられる人間なんているはずが……
「おや? わたしが生きていることがそれほど不思議かい?
わたしににしてみれば、シャルロット。君が今こうして生きていることが不思議なんだがな」
マクシミリアンの姿が変わっていきます。体が膨らんで大人より大きくなり、背中からは羽根が生え、顔も人間だった面影はすでになく、額には三つめの目を持った魔族の姿に。
「わたしの未来視ではすでに君は死んで、この世にはいないはずなんだけどな。
イレギュラーなことばかりが起こるのは、君のせいかな?
これまでの計画はすべておしゃかにされてしまったが、君のようなイレギュラーな存在だけは、今ここで殺しておいたほうがいいだろうな」
わたしは次の魔法を唱えようとしましたが、体が震えてイメージも乱れ、魔法が撃てません。
このマクシミリアンの波動のせいでしょうか。
かつて襲ってきた魔族とは比べ物にならないほどの波動です。
「連れ去って研究対象としたいところだが、ここは確実を期すことにしよう。
四天王の一人ゲルヴィーンがその命を確実に断ってやろう」
四天王……ゲルヴィーン……
そんな……このままわたしは死んじゃうの?
前世に続いてまたひとりぼっちで……
ゲルヴィーンの手がわたしに伸びようとしたその瞬間。
「ぐわっ!!」
ゲルヴィーンが断末魔の声を上げました。
ゲルヴィーンの胸からは剣が突き通っています。
わたしが見渡すとそこにはお兄様の姿が。
「フェリックス!!
キサマまで何故ここに……キサマとわたしの運命が交わるのはまだ何年も先の……」
わたしを捕まえていた波動が消え去りました。わたしはお兄様にアイコンタクトを送ると、ここぞと最大威力の火炎魔法を放ちます。
お兄様はタイミングよく飛び下がり、ゲルヴィーンは炎に包まれ焼け落ちていきました。
「お兄様!」
わたしはお兄様に胸に飛び込んで、そして思いっきり泣き崩れました。
お兄様は優しくわたしの頭をなでてくれるのでした。




