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38 ピエールの家族とお食事

 アバロ家での話し合いの後、ピエール親子を迎えに戻ってそのまま帰宅することになりました。

 ピエールは学校へ行く用意と着替えだけという身軽さ。ピエールの両親も本当に身の回りのものだけを持っての移動です。


 ピエール親子はとりあえず、騎士棟に家族用の部屋が空いているとのことでそちらへ仮入居してもらうことになりました。

 お母様が言うには、落ち着いたら庭の一部に独立した屋敷を建てようということですが、今は騎士棟が最も安全だろうとの配慮からです。

 騎士棟ならわたしのいる奥の屋敷からも屋根続きですので、すぐ遊びに行けそうです。

 このときのお母様とピエールの両親の会話で聞きましたが、ピエールのお父様の名前はエリックというようです。エリックとフルール、忘れないようにしましょう。


「しばらくは不自由をかけますがここで我慢してください」

 お母様がピエール一家にそう声をかけますと、エリックは、

「何から何まで気を遣っていただいて申し訳ありません」

「身一つで来ていただいたので食事もお困りでしょう。明日からは家族で食事できるようにいたしますが、今日は歓迎を兼ねて一緒にいかがでしょうか?」

「そんな身分の違いもありますし、恐れ多いことで」

「勘違いしないでいただきたいのは、あくまで皆さんのことは召し抱えたわけではありませんので、畏まっていただく必要はありません。

 あくまで客人として迎え入れておりますので身分は関係ありません」

「ピエールと夕食を一緒にいただけたら、嬉しく思いますの」

 わたしもお母様からの夕食のお誘いに便乗することにいたしました。


「せっかくのお誘いですので、喜んでお受けいたしましょう。

 ね、エリック」

 フルールがエリックにそう言ってます。

「これ以上の遠慮は失礼に当たりそうですね。お誘いありがとうございます。

 謹んでお招きをお受けいたします」

 なんだかんだ言って、一流の楽師であるピエールの両親は貴族とのつきあいに慣れているようです。


 お父様の帰宅後に皆で夕食を囲みます。

 どうやらお父様の耳にはちゃんと今回のことが入っているようです。いつどうやってお母様から連絡が行っているのやら。

 王都でも高名な楽師を客人として招き入れてお父様もご機嫌のようです。


「感謝の気持ちを込めて一曲披露させていただきます」

 エリックは携帯用の小さな竪琴を抱え、美しいメロディと奏で始めました。そのメロディに合わせてフルールが歌い始めます。

 二人の演奏を聞くのは初めてですが、さすがピエールのお父様お母様です。わたしはピエールの歌の方が好きですが、歌のテクニックは明らかにフルールの方が優れているとわたしにもわかります。

 短い曲でしたが二人の演奏に聞き惚れてしましました。

「素晴らしい! 二人の演奏をこんな身近で独占してしまって申し訳ないくらいだ。

 我が家で保護するとはいえ、独占するつもりは毛頭ないから、これからも自由に活動してもらいたい」

 お父様がこれだけ絶賛するのは初めてみました。


 食事後、わたしはピエール一家の仮住居となった部屋へピエールを尋ねて行きました。

「ピエールに少々お話があるのですが、お邪魔してもよろしいでしょうか?」

 フルールが出迎えてくれたので、そう言いますと

「いらっしゃいませ、シャルロット様。ピエールは自室に居りますので案内いたしましょう」

「申し訳ありませんが、男女二人で密室でお会いするの避けるように言われておりますので」

 別にこの年齢でどうこうってことはないと思うのですが、お母様の言いつけですので守らないといけません。

「それは失礼いたしました。こちらへどうぞ、ピエールを呼んでまいります」

 リビングに通され、フルールに持ち上げてもらって椅子に座ってピエールを待つことにします。


 すぐにピエールはリビングにやって来ました。フルールはリビングのドアを大きく広げたまま席を外してくれました。

「ピエール、今日おっしゃってくれたこと、とても嬉しかったのです。まずそのお礼が言いたくて。

 そして、ピエールに早めにお話しておいたほうがいいと言われたことがあるので、そのことをお話に来ました」


 実は先程、お母様にピエールに将来のことを話ししておいたほうがいいと言われて、将来って言葉に赤くなってドギマギしてたものです。

 単にわたしの勘違いで、飛び級してお兄様に学年を追いつこうという計画のことをピエールに内緒にしておいてはいけないってことを言われたのですが。


「実は前々から計画してたことがあるんです。将来お兄様が勇者として行動するにあたってお手伝いしやすいように、同じ学年になりたいと考えていたのです」

「同じ学年にですか?」

「はい、制度として初等学校では二年に一度、飛び級を受けることができるんです。二年生の終わりと五年生の終わりに受けるつもりでおりました」

「そうだったんですか……飛び級のテストって難しいんでしょうね。またお勉強で、歌う時間が減っちゃいそうです」

「一緒に受けてくださるんですか?」

「正直言って合格する自信はないんですが、それを受けないことにはシャルと一緒に学校生活を送れなくなってしまうんですよね。しかたないじゃないですか」

 なんかしょぼんとした顔で普通に言ってくれてますけど、本当にいいんですか? すごく嬉しいんですけど。


「わたしのために歌の時間が減ってしまうなんて……そうだ、こうしましょう!

 これから家に帰ってからでもいつでもこうして会うことができるんですから、一緒にお勉強しましょう」

「え、シャルが教えてくれるんですか? シャルは別に勉強しなくても合格できそうなのに」

「ピエールがわたしのために勉強してくれるんですから、わたしが一緒に勉強するのは当たり前です」

 うん、とてもいい考えだと思いませんか?

「あ、そうそう。このことはお兄様には内緒ですよ。約束ですよ」

 お兄様に知られるわけにはいかないのです。せめて飛び級で一年差になるまでは。

 そうしないときっとほっぺをつねられるに決まってます。


「明日は一緒に通学いたしましょう。わたしが熱を出したりしなかったらですが……」

 正直、今日はずいぶん忙しい一日でしたので、熱が出るかもと少々心配ではあります。

 でも、ヨハン殿下のこともありますし、今はそうそう寝込んでる場合ではないはずですから。

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