28 特待生専用喫茶室の情景
昼休みはたいてい食堂で昼食を食べた後に特待生専用喫茶室に行くのが日課となってます。
ちなみに、二年生の特待生アンリエットとはまだ一度も会ったことがありません。どうやら、わたしが熱を出してお休みしたときに一度顔を出したことがあるとピエールに聞きました。
アンリエットとは縁が薄いのかもしれませんね。前世ではさすがに会ったことがあるので顔を見ればわかるとは思うのですが、正直言ってあまり自信がありません。
こちらが意識しているせいかもしれませんが、どうもマクシミリアンの視線が気になります。マクシミリアンの視線がお兄様やクリスティーヌ、ピエールによく行っている気がします。そしてその三人に視線が向かっているより多くわたしに視線を向けている気がするんです。
それだけ視線を気にしていれば目が合うのではと思うかもしれませんが、魔法を使ってるのでその心配はありません。
普通にピエールやお兄様、クリスティーヌとお話ししながら、マクシミリアンのことを魔法で探ってるんです。マクシミリアンは静かに五年生の特待生らと話をしてるように見えるがよく視線はこちらを向いているのです。
その冷たい視線はぞっとするものがあります。
前世のことがあるだけに今から何か企んでいるのではと不安になります。一応、マルセルの長兄のブノワがマクシミリアンと同じクラスらしいのでそれとなく調べてもらうようにお願いしてるのですが、詳しいことを話してるわけではないのであまり当てにはできなさそうです。
でも、この視線気になりますよね。前世のあのことがなければ、これだけ視線をぶつけられればわたしのことに気があるのかとか、もしかして幼女が大好きとか言う特殊な趣味なのではとかいう疑いを持ちたくなりますが、マクシミリアンの場合そんな単純なものではないでしょう。
違うよね? もしかしてそうだったりすると、もっと怖いかもしれません。その線については考えないようにしたいものです。
とりあえず現状ではこれ以上突っ込んだ調査とか思いつかないので放置しているんですけど、想像だけしてるとなんかどんどん怖いことを考えてしまいそうです。
ということを頭のなかで考えつつ、表面上は他愛のない会話をしていたりするわけです。
お母様曰く、貴族のパーティーとかもそんなものだそうです。
やっぱり貴族怖いです。わたしもそんな貴族の集まりの中でちゃんとやっていけるのでしょうか? ちょっと不安になります。
「そういえばシャルロット様は球技大会のドッジボールではずいぶん活躍してらしたそうですね」
おっと、ちょっと意識をそらしてる間にクリスティーヌから話題が振られてますね。慌ててこちらの会話に戻ってニコニコとごまかしておく。
「シャルはこう見えて結構、乱暴者だからな」
お兄様、ひどいですわよ。でも一学期のジョニーをノックアウトした事件のほとぼりが冷めるまではしかたないかもしれませんね。
「ドッジボールに限らず、球技は割りと得意なんです」
「そうなんですね、シャルロット様はあまり運動系は得意ではないのかと思いこんでいましたわ」
「クリスティーヌ様もできましたら、様を付けるのを辞めていただけると嬉しいですの」
機会を見てこのことをお願いしたいと思っていたんです。
「あら、ではわたしもシャルって呼んでもいいかしら?」
「そう呼んでくれたら嬉しいです」
「では、わたしのことも様付けは辞めてくださります?」
脳内ではずっと呼び捨てにしてました。ごめんなさい。
「クリスティーヌお姉様って呼んでもいいですか?」
思い切って言ってみました。様は付いてますけど意味合いはずいぶん違うかと思います。
「まぁ、シャルからそう呼ばれると嬉しいわ」
「ではこれから、クリスティーヌお姉様って呼ばせていただきますね。
クリスティーヌお姉様が本当のお姉さまになったらどれほど素敵かと思いますの。
ね、お兄様」
「シャル、ちょっと調子に乗りすぎてないかな?」
お兄様がわたしのほっぺを、ぐにっとつまみながらそう言ってきます。お兄様ちょっと目が怖いですよ。軽いジョークではないですか。
「ほひいはは、ひはひふぇふほ。ほっふぇほふはふほははへへふははひ(お兄様、痛いですの。ほっぺをつまむのはやめてください)」
「シャル、なに言ってるのかわからないぞ」
「ほひいはは、ひふぉひへふ(お兄様、ひどいです)」
クリスティーヌお姉様もピエールも笑って見てるのではなくて、お兄様からわたしを助け出して欲しいですの。
第ニ章 完
シャルロットの一年生はこれで終了で、いよいよ二年生に進級します。
当初は下級生の期間を第二章って予定だったんですが、あまりに長くなりそうなので学年ごとで章を分けました。
比較的穏やかだった一年生と違って、二年生は激動の予感!
実際のところ、それなりに物語が動くことになりますので。