26 領地の城の転移魔法陣
いろいろありましたが、まずまず平穏に一学期が終わったと思います。だって魔族がどうこうとかいうようなことが起こってませんからね。
去年のあのこと思えば大抵のことは平穏と言っていいでしょう。
ということで、夏休みがやってきました。
我がベルトラム伯爵家は、夏休み恒例となってますが、領地の城へと向かいます。また馬車の旅ってことでゲンナリしてますが、お父様に領地の城にも転移魔法陣を設置してもいいって許可をいただきましたので、帰りはひとっ飛びで戻ってこれそうです。
そのために、夏休み前にオーギュスト校長から、再度本を借りてせっせと写本してました。
さすがにこれだけの大きな魔法陣ですから、何も見ずに書けるほど魔法陣に対する理解が進んでいません。
未だに魔法陣は理解できない部分がたくさんあります。この理解できない部分をちゃんと調べておかないと、オーレリアン先生から出されている転移を魔法陣なしで行うという課題もクリアできないでしょうね。
結構な難題だと思うんですよ。
そして来年からは馬車の旅も要らないってことになりますね。
「来年からは、全員わたしが送りますわ」って言ったのですが、騎士の皆さんは馬も連れて行かないといけないようですし、旅は必要だそうです。
馬も一頭ずつわたしが引っ張っていけば転移できると聞いたんだけどなぁ。なかなかわたしに馬を預けるとか怖いものがあるんでしょうね。
わたしもさすがにちょっと自信がないかもしれません。
そして、ただ旅をしていただけに見えましたが、途中の町や村にお父様はそれなりにお仕事での用件もあるんだそうです。
主に忙しそうだったのは、お父様より執事のレオポルドだったようですが。
領地の城で思い出すのは昨年の魔族の襲撃。あれからもう一年経ったのですね。
そういえば前世ではそのトラウマのせいで領地の城へは数年行けなくなってなってました。今回はお兄様も当然へっちゃらです。
しばらくは家族水入らずの日々がおくれそうですね。
昨年同様に十日間の馬車の旅で、わたしは一度も熱を出さずに城へ着くことができました。やはりずいぶん強くなってますよね。
まぁ城に着いてそうそうに熱を出して倒れてしまったんですけど、それも一日で元気になってますから、やっぱり強くなってるんですよ、きっと……
元気になって真っ先に転移魔法陣の作成。これさえ書いておけば、いつでも家までひとっ飛びですからね。ちょっとした用でも気軽に行ってこれます。
今年は約束とかしてないからダメですけど、来年以降、お友だちを城へ招待とかもできるかもしれませんね。
送り迎えすればその日のうちに帰ることができるんですから。
お兄様もクリスティーヌをお招きすればいいと思いますわ。
転移魔法陣は三時間ほどで完成しました。二回目ってことで少し慣れて効率よく書けた気がします。そしてどうやら前回、家に書いた転移魔法陣のときより魔力の残り具合が多い感じです。
転移魔法陣を書くのに必要な魔力は変わらないと思うので、これはわたしの魔力総量がまた増えているんでしょうね。
最近はあまり魔力の圧縮拡張とかはしてないのになぁ。
成長期なのかなって思いましたけど、そう言えば魔力は使えば使うほど総量は増えるんですよね。
転移魔法陣作成が原因のような気がしてきましたよ。前回あれだけたくさんの魔力を使ったんですから、そりゃ魔力総量も増えますね。
きっと今回のせいでまた増えていることでしょう。
転移魔法陣作成が終わったので試しに家まで転移してみました。
これまで転移の時はほぼ魔力を使わないなって思ってたのは大きな間違いだってことがわかりましたよ。
これまではずっと歩いてもすぐのところへの転移でしたが、今回は馬車で十日もかかるところへの転移。
すっごく魔力が必要でした。転移の必要魔力は距離に比例するんですね。
魔力総量が増えてなかったら、帰りの魔力が足らなかったかもしれません。
気をつけないといけませんが、今日のように転移魔法陣を書いたりしなければわたしの魔力はそうそう減ることはないので別にこのくらいなら何往復かしても問題なさそうな気がします。
でも、普通の人には転移魔法陣での長距離移動はあまり現実的でないのかもしれませんね。
魔力もたくさん使ってひさびさに体もスッキリしてます。
お兄様の様子を見に行くと、騎士の皆に鍛えてもらっている様子。夏休みの間は剣術指南のロベールもいませんからね。
真面目に努力してるお兄様は素敵です。
「お兄様、頑張って」
いつものように声援を贈るとお兄様が手を振ってくれました。
あ、そんな隙を見せてるから、騎士のマルコに一本取られてしまってましたよ。
マルコも去年よりなお一層強くなってますね、頼もしいことです。
お兄様、油断大敵ですわよ。