20 通学
家の転移魔法陣は翌日に一気に書き上げました。本を見ながら丁寧に書き写すだけなんですが、ひたすら魔力を流し込まなければなりません。
とても大きくて、しかも細かくぎっしりと術式を魔法陣に書き上げるのに、魔力がどんどん垂れ流されている感じです。
これだけ一度に魔力を使ったのは初めてかもしれません。なんか体がすっきりとして、身軽になった感じです。
あぁ、溜め込んでた魔力がどれだけわたしの体を圧迫していたんでしょう。
いつもこんな状態なら、きっと体もどんどん成長できるぞって感じがします。
一晩寝たら、魔力がいっぱいに溢れてましたけどね!
どれだけ回復が早いんでしょう、わたしの魔力って。
いろいろ頑張りすぎてるから今日あたりに熱を出すんじゃないかと自分でも思ってましたけどなんともなさそう。少しだけ丈夫になったかもしれません。
「お兄様、転移魔法陣とおって学校に行きましょう」
「本当に大丈夫なのか? ちょっと怖いな」
「大丈夫ですよ。ちゃんと昨日のうちに実験済みですから」
意外とお兄様は保守的なんです。知ってましたけどね、わたしの方はもうそう言った自重はどこかに置いてきてしまったようです。
ちゃんと完成後、初等学校と魔法大学とにそれぞれ行ってきましたよ。
その時にオーギュスト校長に借りていた転移魔法陣の本もお返ししましたし。
まだ同行者連れてってのは未体験なんですが、そこまで解説しなくてもいいでしょう。
お兄様の手を取って、移動魔法陣を起動。魔法陣がわたしたちを赤い光で包みこみます。
アネットに見送られて学校へ出発です。
「おや、ここは何処だ?」
職員塔の三階へは、お兄様もやはり初めてくるようです。
「職員塔の三階になります。ここに転移魔法陣と校長室があるんです」
「そうなのか、初めてきたよ」
階段を降りてそれぞれの教室へ向かいます。二階から一階に降りる途中とかで何人か通勤してきた先生方とすれ違うのは仕方ないところですね。
この子たちはなにしてるんだろう? って感じの視線が痛いです。
「これ使っても大丈夫だったのか?」
お兄様が不安気に聞いてきます。
「校長先生の許可を頂いてますので大丈夫です」
そう言えばオーギュスト校長からは直接何も言われてない気がしますね。でも転移魔法陣の登録をしてもらえたし、オーレリアン先生から通学に使ってもいいって言われてたし……
問題あったらオーレリアン先生に言えば何とかしてくれるでしょう。
「おはよう」
元気よく教室に入ると、ピエールはもう席についていました。こんなに早いんだ。
「おはようございます、シャル。
今朝はずいぶん早いですね」
いつもどおりの朝なんですが、通学の時間が短縮される分だけ早く着きます。わたしの転移魔法陣を当てにしてゆっくり準備するといざっていうとき遅刻しちゃいますので、朝がこうなってしまうのは仕方ないですね。
「たぶん、これからも朝はこのくらいになりそうですね。
ピエールはいつもこんなに早いんですか?」
「そうですね、奨学生が遅刻とかなったら恥ずかしいから早めに行動しなさいって言われてるんです」
ピーエルは真面目ですね。まぁうちもお母様が遅刻とか許してくれそうにはないですから同じかもしれません。
「シャル、謝らなければならないことがあります」
「なんですの?」
「先日のことを家で話したら、母さんに怒られてしまいました。
あの歌は学校で歌ってはいけませんって」
確かにあの歌は不味いです。周りの皆が意味がわからなかったからよかったです。やっぱりピエールは意味もわからずに歌っていたんですね。
「あの後、シャルが気分悪そうにしてましたが、シャルは意味がわかったんですよね、怒ってますか?」
いえ、怒ってたのではなく、メロメロになってしまってたんです。
「いえ、別に怒ったりはしてませんよ。あの歌の意味は教えてもらったんですか?」
「え……うん……」
なんかピエールが真っ赤になってうつむいてしまいました。
ちゃんと意味をしっかり教わったようですね。
そんな真っ赤になってるピエールを見てたら、あの時の気持ちがまた湧き上がってきて、わたしもなんか……
二人して赤くなってもじもじと微妙な雰囲気のまま押し黙ってたら後ろから、
「んもう! 仲がいいのはいいんですが、朝っぱら二人の世界を作らないでいただけません」
いつの間にか来ていたらしい後ろの席のリゼットに怒られてしまいました。
ごめんなさい。
「もしシャルがよかったらですけど、明日から朝のこの時間にボクの歌を聞いてもらってもいいですか?」
ピエールは本当に歌うのが大好きなんですね。そういえば、オーギュスト校長はピエールのことも特別視してましたよね。
やっぱりピエールのこの歌は特別な何かがあるんでしょうか?
「はい、喜んで」
少しわたしもピエール耐性をつけないといけませんね。