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17 鈍感系

 初日の専用喫茶室は皆の自己紹介を聞いてるだけで終わっちゃいました。

 予鈴の鐘が鳴ったので、皆は午後の授業に向かいます。

 わたしもピエールと二人で教室へ。


「すっごく緊張しちゃったよ」

「ピエールの歌、とっても素敵でした」

「ありがとう。シャルの魔法も凄かったよ、あんなの初めて見た」

「わたしのあの魔法は魔法大学の人たちなら誰でも使えるようなものです。

 でも、ピエールのはそういうのじゃないと思うんです。

 また聞かせてもらいたいですわ」

 実際のところ召喚魔法の一番基礎的なやつですからね。魔法陣を自作するのは大変だったけど、召喚だけなら魔法陣さえあれば誰でも使えそうです。


「歌うのは大好きだからいつでもいいよ。

 シャルが聞いててくれるならいつまでだって歌えそうだよ」


 さり気なくなんてこと言うの!

 今、キュンってなったよ。

 前世の男だった意識があるから、まさか男の子に対してこういう気持ちになるって思わなかったよ。

 どうもだんだんと前世の意識が薄れてきてる気がするんですよ。このまま、もともとのシャッルロットとしての自我がだんだん強くなっていくのかなぁ。

 この体も人生もシャルロットのものなんだからそれでもいいんだけど、忘れちゃいけないことがあるってのもまた確か。


「あれ? どうかした?」 

 思わず足が止まってしまったので、ピエールも止まってこちらを振り返った。

「なんでもありませんのよ。授業が始まっちゃうから急ぎましょう」

 わたしは慌てて顔を下に向けて早足で歩き始めます。

 今、顔見られちゃ不味い。絶対、赤くなってるに決まってるから。


「シャル、待ってよ。

 ボクなんか変なこと言った?」

「約束ですからね。後でまた歌を聞かせてもらうんですからね」

 んもう! わたしはピエールに追いつかれないように走って教室へ駆け込みました。


 やばい、ピエールの方見れない。

 午後の授業はピエールの方を向かないように反対側の窓の方をずっと見てました。

 あのくらいのことでこんなになっちゃうなんて、もしかしてわたしってチョロすぎ?

 これは精神面を鍛える必要があるかもしれません。

 まさか、乙女心なんてものが自分の中にあるとは思ってもいませんでしたよ。


 そんなこんなで午後の授業はうわの空。

 それはまぁそれで問題はないんです。別に今更一年生の授業を真面目に聞く必要もありませんし。

 それよりも心を落ち着けないとね。


 初恋なんでしょうか? ただの気の迷いかもしれません。

 とにかく初めて自分の中の女の子ってのを意識してしまいました。これはいろいろ不味いです。

 別に今ここで恋を成就させてなんてことは考えてません。ピエールとは普通のお友だちでいいんです。

 本当だよ?


「シャル」

「はい!」

 思わず大きな声で返事してクラスの皆の注目を集めてしまいました。

 ピエールが声をかけてくれたようですね。

 あっといつの間にか午後の授業が終わってたようです。マジ気づいてなかったです……


「なんかさっきから変だね、なんかあった?」

「ナニモナイデスヨ フツウデスヨ」

 うー……ぜんぜんちゃんと喋れてない!


「やっぱり変だと思うけど……まぁいいや」

 どうやらピエールは鈍感系主人公さんのようですね。軽くスルーされてしまいました。

「シャルはこれからすぐに帰っちゃうのかな?」

「お兄様が迎えに……」

「そうか、それじゃフェリックス様が迎えに来るまで、約束どおり歌いますから聞いててくださいね」

 本当にピエールは歌うことが好きなのね。

 でも、さっきわたしが大きな声を出したせいで皆が注目してる気がするんですけど……


 そんな細かいことは気にしないようでピエールは本当に楽しげに歌い始めました。

 やっぱり何度聞いても、とっても上手な歌ですねぇ。

 でも、この歌ってどう聞いても恋歌ですよね。


 先程の喫茶室での歌は皆の方に向かっての春の喜びの歌でした。

 でも、今度のはわたし一人の方を向いた恋歌。

 その威力は段違いです。

 ピエールの攻撃がクリティカルにわたしの防御力を通過していきます。

 お兄様助けて!

 わたしのHPは残り僅かです。


 わたしが恥ずかしげに真っ赤になって顔を伏せてる前で恋歌を歌うピエール。

 遠くでクラスメートの女の子たちが温かい目で見てくれてます。

 すごい構図ですよね。

 なんか両手を胸に当ててうっとりした顔で見てる子もいますよ。

 こうしてピエールに歌ってもらうのはとても嬉しいです。でもこのシチュエーションはとっても辛いんです。


「どうだったかな?」

 一曲歌い終わって陽気にピエールが聞いてきてくれます。

「とっても素晴らしかったです」

 恥ずかしげに小さな声で答えるわたし。

 実際、歌は素晴らしいんです。でもわたしのメンタルがもう限界です。


「じゃ、次は」

 え、次があるんですか……たぶん、もうわたしが耐えられる気はしません。

 ピエールが次の歌を歌い始めました。


 え、ピエール。

 歌の意味わかって歌ってる?

 次の歌は、もっと激しい大人の愛の歌でした。

 まわりのクラスメートたちはキョトンとして意味がわからなそうなのが唯一の救いです。

 ですが、わたしのメンタルはすでにこの攻撃に耐えられませんでした。


 見事な攻撃でした。

 シャルロットはここに敗れ去ったのでした。

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