11 【フェリックス視点】俺の妹
俺はフェリックス、七歳で初等学校の二年生だ。
家族といっしょに領地の城へ避暑に行っていたときに、魔族の襲撃が起こったのだ。
魔族の姿を見たあの瞬間に俺の中で何かが目覚めたのだ。魔族が放った魔法がシャルを襲った時に俺はシャルを守る力を欲した。そしてその力が俺から溢れ出たのだが、その力はあまりにも小さかった。
シャルが魔族の放った魔法に砕け散ったと思い、俺は絶望に襲われた。シャルを守れない力なんてなんの意味があるというんだ。
「シャル!」
「はい、お兄様」
絶望の中で俺が叫んだら何故か後ろからシャルの返事が返ってきた。
一瞬何が起こったのかわからなかった。
でも、シャルが無事だったんだ。もうその理由とかどうでもいい。
「シャル、無事だったのか。よかったよかった」
俺は思いっきり強くシャルを抱きしめた。
「お兄様、怖かったですの。お兄様のおかげで助かりました」
俺はシャルを守れたんだよな。俺の中で目覚めたこの力のおかげだ。
どうやら俺のこの力の正体は勇者の力らしい。
王都より召喚命令があったのだが、シャルが高熱を出してしまった。シャルが熱を出すのはいつものことなんだが、今回の熱はなかなか辛かったようだ。
よほど怖い思いをしたんだろうな。俺がもっとしっかりしてないとだめだな。
心配したが、三日ほどでケロッと治っててホッとしたものだ。
王都へ戻ると俺は国教会で勇者判別の儀式に呼ばれた。国教会とか入るのも初めてでとても怖かったものだ。何故かシャルがいっしょに行きたがってたが、どうしてこんなものに行きたいんだろうか。
俺の付き添いでいてくれた父さんとも、国教会の入り口で別れて一人で怪しげな儀式に参加させられたのは、もう二度と体験したくない嫌な思い出となった。
こんな儀式のためにせっかくの夏休みを潰されるなんて。
これに呼ばれなければ、シャルとの楽しい日々がもう数日続いてたのに。
そして王命で剣術指南の家庭教師がつくことになった。前騎士団長らしい怖そうなおじさんだ。
何さ、このスパルタの特訓は。
俺もう泣きそうだよ。
父さんがつけた家庭教師じゃなく、王命ってことだから嫌でも辛くてもひたすら耐えるしかないのかな。
俺がイヤイヤ特訓を受けてると、シャルが特訓の見学をしたいって言い出した。剣の修業とか興味なさそうだったのに。
でも、シャルが見てるとなると俺も頑張らないといけない。
「お兄様、頑張って」
可愛いシャルになんて言われて頑張らないわけないじゃないか。
「お兄様は負けないもん」
俺が吹っ飛ばされても、シャルがそう言ってくれたら俺はすぐに立ち上がれる。
「お兄様、素敵です」
俺の攻撃が決まった後にこんなこと言われたら、もう男冥利につきるってものだ。
「お兄様、ファイト」
俺がへばってると、こんな声をかけてくる。休むヒマもあったものじゃないな。
見てろよシャル。俺は頑張るからな。
勇者になって変わったことと言えばもう一つ。初等学校で王命により特待生となった。
特待生になると専用の喫茶室が使えるようになるので、昼休みとかそこに行くようになった。
特待生は平民が多くこれまであまり関わりがなかったけど、同学年の特待生に聖女として名高いクリスティーヌがいるんだ。
クリスティーヌは気品があってとても平民とは思えない。そして何より可愛い。
シャルも可愛いけど、シャルの可愛さとはまったく違うその笑顔を近くで見れるだけで専用の喫茶室に行く価値があるってものだ。
そう言えば今年は年度の途中だったからクラスはそのままだけど、来年度からは特待生はAクラスと決まってるから、クリスティーヌと同じクラスになれるはずだから、これも楽しみだ。
そんな話をしていたら、シャルも特待生になるって言い出した。
シャルはとても賢いから特待生もムリじゃなさそうだな。
そして本人は内緒にしてるつもりみたいだけど、魔法を使えることも知ってる。たぶん、俺だけじゃなく母さんやメイドの二人も気づいてると思う。
まぁ必死で隠してるふりのシャルを見てるのが可愛いから、皆でそっとしておいてあげてる感じだ。
そんなシャルだったのに、よほど特待生になりたいらしい。
魔力検査も受験するみたいだ。シャルなら学力試験だけで十分、特待生になれると思うんだけどなぁ。
俺と一緒に特待生になりたいらしい。
可愛いことを言ってくれるじゃないか。
特待生試験はなにか凄いことになったらしい。
母さんが何がなんだかわからないことになってたようだ。どうもシャルの魔力がとんでもない魔力だったようだ。
さすがシャル。
春からはシャルと一緒に初等学校で特待生か。
なんか楽しいことになりそうで、今からワクワクしている。
何があってもシャルのことは俺が守ってやらないとな。