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1 勇者は力尽きる

 魔王の四天王の一人と言われる魔導士ヴァランタン。俺はそのヴァランタンの攻撃に翻弄され続けている。

 勇者として育ち、皆から期待されて旅立ったというのに、何の成果も上げれないまま、俺は死んでしまうのか。しかも犯罪者の汚名まで背負って。

 あの苦しかった修業の日々はいったい何のためにあったんだろう。


「フェリックスと言ったか。勇者というのはこのようなお粗末な存在であったとはな。

 キサマのような雑魚を警戒していたとは、最大の不覚であった。

 我らにも慈悲がある。今、トドメを刺してやろう」

 敵にも憐れみを受けるような有様とはな。


 どうして、マクシミリアンみたいなやつを信用してしまったんだろう。

 あんなに素晴らしい仲間たちと別れて、やつの甘言に騙されてるなんてただの大馬鹿野郎だ。 

 最後の最後に裏切られて、俺を犯罪者として陥れてすべてを奪っていきやがった。


 ボロボロになっちまったが、それでも俺一人でなんとか魔王を倒して見返してやろうとか思ったのがこの有様だ。

 一人で何とかなるわけがないよな。

 どこで間違っちまったんだろうな。


 ケヴィン。

 ……学生時代からケンカばかりしてたよな。

 相性がよかったような、悪かったような。

 つまらないことで仲違いして、すれ違ったまま向かった戦場でヤツは死んでしまった。

 今思うとヤツの死もマクシミリアンの影があったような気がする。

 もし、ヤツが共にいてくれてたら、こんな魔導士なんかに……


 クリスティーヌ。

 ……俺の短い生涯で唯一愛した聖女。

 俺と共に生きたいと言ってくれたのに。

 怖かったんだ。愛するがゆえに失うのが。

 彼女を守りきれる自信がなかった。

 俺の心が弱かったばかりに。


 そして、シャルロット。

 ……可愛かった俺の妹。


 やりなおしたい。

 もう一度。


 もう間違えたくない。

 やりなおしたい……




 目覚めるとそこには懐かしい顔が。


 母さん?

 ここは……懐かしい我が家じゃないか。


 俺は助かったのか?

 あの状況から何か奇跡でも起こったのか?


 体が自由に動かせない……よほどの傷でも負ったのだろうか?

 でも、どこも痛くもないな。


 母さんが優しく俺のほほをなでる。

 やわらかい手だ。

 あれ、母さんなんか若くないか?

 目尻のシワとかなくなってるじゃないか。

 いい美容法でも見つかったんだろうか?


 母さんがなんか言ってるけど聞き取りにくいな。

 頭もなんとなくぼーっとしてる気がする。


 あ、父さんだ。

 父さんも若いぞ。


 おや? 父さんに抱き上げられる。

 そんな軽々しく……


 え?

 もしかして、俺って赤ん坊になってる?


 そんな馬鹿な。

 そんなことは聞いたことがないぞ。


 もしかして、もしかして……

 もう一度やりなおせるのか?

 一からやりなおせるんだな。


 神よ、感謝します。

 もう間違えません。


 今度こそ必ず。


 俺を抱きかかえたまま、父さんがしゃがんだようだ。

 そこには男の子が。

 男の子の小さな手で、俺は頭をなでられる。


 この男の子は誰?

 見たことがあるような気がするけど。


 もしかして、この男の子って俺?

 いや、俺は俺だから……俺って誰?


 ちょっと待って、この男の子がフェリックスなら、俺ってもしかして妹のシャルロットってわけ?

 妹のシャルロットってことは当然のように女の子なんだよね。


 神様、これってちょっとだけ意地悪じゃないですか?




 一ヶ月が過ぎた。

 どうやら俺は妹のシャルロットとして転生したことで間違いないようだ。


 俺は、いや、これからシャルロットとして生きるのなら、いろいろ改めないとな。

 何と言ってもレディになるんだから、俺とか使ってちゃいけないか。

 一人称は「わたし」ってあたりが無難なところか? 前世でも国王に謁見するときとか、「わたし」って使ってたし、今から気をつけていればそのうち慣れると思う。

 ちょっと意識して女の子っぽい話し方をできるように気をつけましょう。


 一応、我が家はそれなりの貴族。父ベルトラム伯爵は地方に領地もあるけど、そちらは基本的に代官任せで王都に屋敷に住んでます。

 屋敷には両親と兄フェリックスとわたしシャルロット以外に、執事やメイドも住み込みで暮らしています。


 兄フェリックスとは二歳違い。このシャルロットはお兄様大好きな妹として育ち、五歳の年に死んだんだ。

 あの時のことは忘れもしないよ。

 父の領地に家族で行った時に、魔族の襲撃を受けたんだ。そしてフェリックスはシャルロットを守ろうとして、その時はじめて勇者としての力が目覚めたのだけど、その力はまだ弱すぎてシャルロットを守れずに目の前で死なせてしまったんだ。

 その時の勇者としての無力さへの絶望がトラウマとなって、将来にいろいろ影響したのかなと、今になって思うんです。


 このまま歴史をなぞればシャルロットは五歳で死に、フェリックスはトラウマを持って成長すると思う。

 その記憶がある以上、襲撃イベントを回避することは容易な気がするけど、フェリックスの勇者としての目覚めはいつになるかわからないよね。もしかしたら目覚めることがないのかもしれないし。

 それはそれでフェリックスは無難で幸せな人生を送れるのかもしれないけど。

 でも、魔王の侵略は確実に起こるはず。勇者フェリックスの死後、どのように歴史が流れていったかはわからないけど、あまりいい未来は見えてこない。

 もし勇者がいなくても明るい未来があるのなら、この転生自体が起こらなかった気がする。


 だから、シャルロット死亡に繋がる魔族襲撃事件を安易に回避するのは考えものだよね。魔族襲撃事件を受けて、なおかつシャルロットが生き残らないといけない。

 なかなかの厳しい展開だよね。

 どうすればいいんだろう?


 そんなことを考えてたら、どうやら生後一ヶ月の頭がオーバーフロー気味みたい。

 すっごくオネムになってきちまった。

 おなかもすいたけど、ギャーギャー泣きわめくしか意思疎通手段がないんですよ。


 あ、母さんが、来てくれた。

 オッパイ飲んで、一眠りすることにしましょう。

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