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タンスの中から

作者: 小松八千代
掲載日:2018/01/12

これはある夫婦の赴任先での話。

家具付き女中付きの豪邸を借りて、高級気分を味わっていたある日の事、女中に留守を頼んで出掛けた。

早めに用を終えて帰ってみると

「あなた、玄関、鍵掛かってないわよ」

「鍵掛けるの忘れたのかなあ。門は掛けてあったな」

「玄関だって掛けないとだめよ。ちゃんと、鍵掛けなさいよ、って言ってあるのに、もう、ここは物騒なんだから」

それで中に入ると、玄関を入った所の右側にある階段から、女中が髪をかき上げながらバタバタと降りてきた。

「あら、二階に上がって何してたの?」

「いえ…あのう掃除してました」

「掃除?」

「はい、階段とか」と、言いながら階段を塞ぐようにして立っている。

この女中、年の頃は二十五、六だろうか。肥満タイプで、体重は小柄な奥さんの倍位ありそう。

「あ、そう」不審に思った奥さんは、女中を押しのけるようにして二階に上がる。

「キャア~!!」二階から悲鳴。

「なんだ、どうしたんだ」旦那が二階に駆け上がる。

寝室のドアのところで、奥さんが中を指差してわなわなと唇を震わせている。

「だ、誰かいたのよ!?」

「誰かって?」呑気な旦那。

「男の人よ」

「男?誰もいないぞ」寝室を見回しながら言った。

奥さんも入って来て

「変よ、ベッドカバーが乱れてる」

「乱れてるって?」

「皺寄ってない」

「そう言われればそうだけど」

と言いながらカーテンを開けて、庭を見下ろす。ほんとは旦那も不気味で怖い。

誰か居たような気配はある。

そっと、洋服ダンスを開けた。

ぶら下がった服の間に若い男の顔が。目と目が合ってギョッとなっている旦那の鼻先に

「コモ エスタ セニョオル」と、まず男は挨拶をしてタンスから飛び出すと、旦那を押しのけて階段の方へと脱兎のごとく逃げ出した。

呆気にとられて暫し呆然としていたが、慌てて窓から下を覗くと、女中が門扉を開けて、男を外へ出すところだった。

「なにやってたんだ、あいつら?泥棒か?」

奥さんが、鏡台の中とか調べている。

「何も盗られてはないみたいだけど」

「盗る暇なかったんだろう。俺たち予定より早く帰って来たから」

「ああ…でも、このベッド気持ち悪いわ」

「このベッドの上でやってたってことだな」

ダブルの高級なベッドの上で、やりまくった後か途中か知らないが、物音を聞いて慌てて洋服ダンスの中に隠れたのだ。玄関口にある階段から、裸で降りるわけにもいかず、服着るのに暇いって奥さんに見つかってしまった。

その後、女中もどこへ行ったのか、荷物もろともいなくなっていた。


※「コモ エスタ セニョオル」ご機嫌いかがですか、と言う意味だが

通常よく使われる挨拶言葉。


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