第三章 女王国閑話3
久々の友人たちの話です。
霜葉たちが宴を楽しんでいる一方で・・・・女王国に残った霜葉の友人たち桂木 健吾に水梨 裕佳梨。最後に生徒会長にして召喚者たちの代表をしている高坂 聖夏。
この三人は現在、女王国にあるダンジョンで最も深く最も難易度が高い場所に挑戦しようとしている。もちろん道具や武具は召喚者たちが造った最新作を装備して、人数も彼等三人以外に15人の召喚者たちと共に挑戦する。
今回そんなダンジョンに来た理由は女王陛下によってある提案をされたことが発端である・・・・
霜葉が旅に出て半年が経過しようとしていたころ、召喚者たちは順調にその実力を伸ばしていた。特に生産職の召喚者たちは異世界の人々を喜ばせている。
木工、鍛冶、彫金などでは丁寧な仕事で覚えるのも早く品質も高い。その為彼らが造る物は武具ならば冒険者に人気でアクセサリーにしても貴族の着飾る者たちに大人気だ。
調理関係のスキルやジョブに就いた者たちも元居た世界の料理や調味料を製造し、食した者たちを驚かせその胃袋をつかんで離さない。さらに彼らはサバイバル用にと携帯食料や簡単な調味料も生み出しているので商人はそれらを手に入れようと躍起だ。
それ以外にも錬金、農業、大工、漁業にも力を発揮し、女王国は利益を徐々に伸ばしている。そんな中とある手紙を受け取った女王陛下は召喚者の代表である聖夏とその友人である健吾と裕佳梨を呼び出した。
以前も利用した王城の庭園で女王は三人と机を囲んでいた。早々に女王が口を開く。
「まずは皆さん。急な呼び出しにもかかわらず来てくださりありがとう」
「緊急の用と伺いました。それにちょうど依頼で王都へ来ていたのが幸いでした」
「問題ありません」
「女王陛下もお気になさらず」
補足としてその依頼はとある商人の護衛で片道だけのものだ。タイミングが本当に重なったのだ。
「では早々に本題を・・・実は魔人国の国王より手紙が届いて、魔王と交戦したそうです」
「「「!!」」」
「魔王は国王と戦うより前にすでに誰かと戦い、消耗していてすぐに逃げたそうですが、イルバス国王は一騎当千の強者であり、国内外から【雷帝】と呼ばれ最速とも言われているのです」
「そんな人から逃げられたのですか?」
「はい・・・イルバス国王の所見では魔王の傷は早々に癒えるものではないとのことですが、このことを私どもは重く受け止めなくてはなりません」
現在の女王国では一騎当千の強者が亡くなっており、そのために勇者召喚を行ったのだ。以前の獣王との戦いの結果や此度の【雷帝】からの逃走。闘争の魔王の危険度を上げることになった。
「となれば・・・私たちもうかうかしていられませんね」
「はい。そこで提案なのですが、ダンジョンに行ってみませんか?」
「「ダンジョンへ?」」
「実は冒険者ギルドからも進められていたのですが、いい機会かもしれませんね」
聖夏たちも依頼で活躍し冒険者ギルドでの評価も高く、他の召喚者たちもCランクまで到達した者もちらほらといるのだ。そのためギルドからダンジョンへ行ってみたらどうかとも提案された。
「もちろん無理強いは致しません。ですが、一度だけでも行ってみるのはいかがかと私は考えます。幸いにお勧めするダンジョンがある街は私に賛同してくれた貴族が治めるところです。どうでしょうか?」
「・・・すみませんが即決はできません。提案はしてみますが、皆の意見を聴いてから判断いたします」
「もっともな意見です」
その日のうちに召喚者たちの間で魔王に関する情報を教えることに。その日の夕食時に聖夏から女王陛下の提案を聞かされ、ほとんどの召喚者たちが行くことを決意した。
すぐに女王陛下に伝えられ、聖夏と健吾に裕佳梨はダンジョンへ行く準備をすることに。その際にダンジョンへと挑戦する者と彼らが持ってきたドロップ品を加工する者たちで行くことに。
それから2週間後。聖夏たちはダンションへと挑戦するためにその街を治める貴族であるアードル・ヘックバル子爵の屋敷で装備の点検を行っていた。
「大盾と戦棍は問題ないな?」
「ああ! ばっちりだぜ!」
「他の皆の装備も問題ないよ」
健吾は今回一緒に行動する前衛戦闘隊の代表を務める。彼らは金属鎧を装備し、大小さまざまな盾を持つ者たちだ。これら装備の点検も一緒に来た鍛冶師たちが行い抜かりがないようにしている。
「はい。新しいローブだよ」
「ありがとう」
「気を付けてね?」
裕佳梨は後衛支援隊の代表だ。回復魔法術や霜葉ほどではないが付与魔法術に属性魔法術を使い、前衛で戦う者たちを支援する。彼女たちの装備は皮革師たちが造ったローブだ。魔物の皮で造られているので意外と頑丈だ。
「みんな準備はいいですね?」
「は、はい!」
「だ、大丈夫です!?」
「緊張しても大丈夫。今日が初めてなんだもの。焦らずにみんなと助け合いましょう?」
「「「はい!」」」
そして、これらをすべて束ねるリーダーは後衛攻撃隊に居る聖夏だ。彼女は殿を担当し、バックアタックにも備えている。彼女以外にも接近戦と遠距離戦ができる者が3名ほどいる。
準備を整えて、アードル子爵の訓練場にてとある者たちを待つ間、アードル子爵と話をすることに。
「アードル子爵。お部屋とお食事ありがとうございました」
「気にしないでくれたまえ。こんなことしかできないのだ」
アードル子爵は中年のナイスミドルで渋いお声をしている。体も細いながら筋肉は付いているようでひ弱な印象は一切ない。
そんなアードル子爵は召喚者たちにすまなそうな雰囲気を出していた。此度のダンジョン挑戦の事情が事情なので、騎士たちを護衛に付けることは聖夏からお断りした。それでも万が一ということはあるためダンジョンに行ったことがある騎士を三人同行させることにはなったが・・・・
「そんなことはありませんよ。魔物との戦いを経験して安心して寝れる場所と食事に集中できる環境の重要性は理解しています。それを考えるとこんなことなんて言わないでください」
「・・・ふ、確かに。聖夏殿の言う通りだな」
聖夏の言葉で何とか気分を持ち直したアードル子爵。
「ところで・・・待っている人たちはまだ来ないのですか?」
「もう既に街には滞在しているはずなのだが・・・知らせも昨日のうちに届けた。何かあったか?」
「アードル子爵。勇者様一行とアルバン王子が到着しました・・・・」
「む? やっと来られたか・・・どうかしたのか?」
「それが・・・・」
勇者のジョブに就いている東漸 清志とその後ろ盾になっているアルバン王子。聖夏たちは彼らを待っていたのだ。
ダンジョンに挑戦するにあたり、アルバン王子にも勇者を向かわせてはどうかと女王の方から提案したのだ。この提案にアルバン王子は拒否をせずに受け入れた。だが、そんな彼らが訓練場に現れると・・・
「アルバン王子。これはどういうことですかな?」
「何か問題でも?」
「問題しかありませぬ! なぜ、魔法術師がそんなにいるのですか!」
「勇者様の護衛です。当然でしょう?」
「何が当然ですか! 此度の目的を分かっておいでなのか!?」
現れた彼らは十数名の魔法術師であると思われるローブを装備した一団だった。そんな中央にはきらびやかな装備を纏う勇者とその仲間がいる。
「十分理解しているよ。だからこそ勇者様たちにもしものことがあれば困る」
「そのもしもに対抗するためのダンジョンへの挑戦ではないのですか!?」
「君とこれ以上問答をする必要はない。こちらの準備はできている今回は私も同行する」
「お待ちを! まだお話は!?」
言いたいことだけ言ってアルバン王子はアードル子爵から離れて、聖夏たちに近づいた。
「君たちも今日はよろしく頼む」
「・・・あなた方は何を考えているのですか?」
「何とは?」
「今日のダンジョン挑戦の意味を理解しているとは思えません」
「十分に理解している。だが、ダンジョンでは何が起こるかわからない。もしものことがあり勇者様に何かあれば我が国は魔王の対抗手段を失う」
「・・・あなたには何を言っても無駄のようです」
聖夏は早々に言葉を尽くしても無駄だと判断して、アルバン王子から離れて健吾やゆかりの元へと向かう。そんな彼女たちをアルバン王子は目を細めて観察しているかのようだ。
「何考えてるんだ?」
「やってることがちんぷんかんぷんだ」
「それに副会長の装備・・・ありゃ本気か?」
「はっきり言って戦闘に耐えられるような装備じゃない」
「見栄えだけの実用性皆無だぜ? 鎧だからそれなりには頑丈だろうが・・・」
他の召喚者たちもアルバン王子に疑問を浮かべている。中には勇者一行の装備について生産職目線で疑問を受けべている者もいた。
ダンジョンに挑戦する前から不穏な雰囲気がアルバン王子から感じ取れる。そんな状況に正体不明の不安と恐怖を感じる聖夏だ。
ダンジョン挑戦前のトラブルに対して、疑問などは尽きないが問題提起しても無駄と判断して一行はダンジョンへと潜ることに。
ここアードル子爵の治める街にあるダンジョンは、女王国にある四つのダンジョンの中で最も深く最も難関として知られている。
アードル子爵家の歴史で33階層までは確認されているらしいが、残念ながら近年はそこまで到達した者は皆無だ。冒険者ギルドが把握している限り、最高到達は21階層。
その21階層も恐竜型の魔物種であるドレイクが襲ってくる洞窟タイプで、広い洞窟内を多種多様なドレイクが行く手を阻む難関として冒険者の間で知られている。
聖夏たちはさすがにそこまではいかず、5階層まで行って様子を見るつもりだ。彼女たちはダンジョン初挑戦ということもあり、入念に準備と予定を立てて挑んでいる。
「「「キシャァ!」」」
「ポイズンリザード3体! 前方から来ます!!」
「前衛部隊は大盾持ちが矢面に立つ! それ以外は周囲警戒!」
「「「おう!」」」
前方を警戒していた目を強化するスキル持ちが、こちらに向かってくる魔物を大声で伝える。その声に前衛部隊の健吾はすぐさま指示を出し、彼らもその指示に従い行動する。
ポイズンリザードは毒々しい紫と黒のまだら模様のオオトカゲだ。特徴はそれだけではなく毒の塊を口から放ち冒険者を苦しめる。今まさに口から毒の塊を放つが、前衛の大盾に防がれ被害ゼロ。
「艶消しの特殊な薬品を塗ってあるから毒で痛むことはないぜ!」
「攻撃行きます!」
大盾持ちの前衛の後ろで魔法術を準備していた者たちが一斉に放つ。前衛を巻き込まないために初歩と言っていいアロー系の魔法術だが、数が多くそのすべてが魔物に殺到して、すぐさま討伐。あとに残ったのは毒々しい皮のドロップ品だ。
「この皮使い道あんのか?」
「あるよ? 特殊な方法で革に仕立てると毒素の耐性だけ革に残るらしい」
「ついでにその方法でやると毒の解毒剤の材料も手に入る」
「「「へぇ~」」」
ならばとドロップ品は【アイテムボックス】スキル持ちが回収して、先へと進む。
聖夏たちは3階層まで自分たちが戦うことにしていた。と言ってもアルバン王子たちは後方に居るのでどうしても彼女たちが戦うことになるのだが。
しかし彼女たちの戦いは素晴らしいほどに洗練されていた。相手の情報を収集しそれ用に装備も準備し、周囲や前方の警戒もスキルと装備持ちが問題なく行っている。
アードル子爵の騎士たち3人は警戒をしては要るが、安心して見ていられると感じていた。戦闘を生業としている自分たちから見ても彼女たちの戦いは見事というほかないと。
1階層から3階層は多種多様なトカゲの魔物が出現し、冒険者を苦しめる。ポイズンリザードのように搦手で襲ってくる物もいれば、大型のトカゲが真正面から挑む場合もある。
そんな魔物たちを彼女たちは的確にさばいている。ストーンリザードのような防御自慢の魔物はメイスや斧持ちが足を攻撃し、動きを封じた後に後衛が魔法術でとどめを刺す。
ステルスリザードがいた場所には弓もちが即座に先制し、止めを間合いの長い槍持ちが止めを刺す。巨体で襲ってくるギガントリザードには盾持ちが前衛で防御と攻撃を行い、後方支援を受けながら倒した。
全員に満遍なく戦闘経験を積むために多種多様な攻撃を行い、二日で3階層へと到着した。
「ふ~なかなかきついな・・・ダンジョンは」
「そうだね。レベルとスキルは上がるけど・・・あんまり長期間は滞在したくないね」
「だからこそ経験を積むと言う意味では有意義というべきです」
3階層へと降りる前に装備のチェックと休憩を兼ねて小休止をしている一行。その間に調理スキル持ちが簡単なスープを作って皆にふるまっている。
「まぁ、俺たちは結構優遇されている方なんだよな~」
「必要な道具は生産職の皆が作ってくれたしね?」
「荷物もアイテムボックス持ちが要れば、かなり少ない手持ちですみますからね。ありがたいことです」
野営に必要なテントや毛布。食事に関しては日持ちするうまいものを調理師が作ってくれた。装備にしてもダンジョンに付いて来てくれた戦える生産職が一日の終わりに整備してくれる。
現在も皆の装備をチェックしてくれている。そう考えるとかなり本格的なダンジョン挑戦というべきだ。
「それでもあいつ等みたいなのはどうかと思うけどな?」
「「・・・・」」
今までいい雰囲気で会話していた健吾、裕佳梨、聖夏であったが、健吾の一言と視線で空気が凍った。
その視線の先にはダンジョンなのに豪華な食事をしているアルバン王子と勇者一行が居た。ご丁寧にテーブルと椅子を出してだ。
これの可能にしているのは魔道具のアイテムボックスだ。ダンジョンではごくまれに有用かつ貴重な魔道具が手に入るのだが、使い方を間違っていると声を大にして言いたい三人である。
そもそもそのような過保護にしてもいいのかというのもある。この先のダンジョン挑戦に対してかなり心配にもなる。
そしてその心配は現実になる。4階層に挑戦するときにアルバン王子からここからは我々が戦うと言ってきたのだ。
一応、彼等も戦うことで経験を積ませないと意味はないとして聖夏は一瞬悩んだが、結局はその申し出を受け入れた。そしてすぐに後悔した。
彼らの戦いははっきり言ってお粗末なのだ。もっとはっきり言ってしまえば脳筋である。なぜならば・・・
「前方よりリザードマン4体接近」
「手筈通りに。勇者様方とどめはお願いします」
「任せてもらおう」
護衛であるはずの魔法術師が魔物の接近を教えて、アルバン王子が指示を出す。そして目視できるほど近づいたリザードマンたちを魔法術師とアルバン王子が魔法術で拘束し・・・
「「「「消し飛べ―!!」」」」
勇者とその仲間たちが強力なスキルを放ち、一掃する。
「「「マジかあれ・・・」」」
「「「・・・・・」」」
聖夏たちはあまりの過保護っぷりと脳筋じみた作戦および、ゲームで言えばパワーレベリングと言うべき経験など知ったことかという手法に呆れた。
これには同行していたアードル子爵の騎士たちも開いた口がふさがらなかった。あれではレベルとスキルだけが上がる中身のない戦士が誕生するだけだ。いざ一人で戦う時に何もできない者が。
「ふっふっふ。僕たちのスキルの威力に驚いているね? 僕たちが戦う限り5階層へはあっという間に辿り着くさ!」
気分良くした勇者である清志がそんなことを得意げに口する。周りの仲間たちも同意するかのようにドヤ顔だ。
「アルバン王子、あなた気は確かですか」
そんな勇者を無視して、聖夏はアルバン王子に詰め寄る。そんな彼女の様子など知ったことではないようにアルバン王子は答える
「何か問題でも?」
「これが問題ないと本気で考えているのならば、即座に考えを改めるべきです」
「そうですか?」
「これで魔王に対抗できると本気で考えているのですか! 他の国に居る一騎当千の強者とも戦えると言えますか!?」
さすがに聖夏は声を荒らげてアルバン王子に詰問した。アルバン王子が本気で何を考えているのかわからないからだ。こんな・・・人形を作るようなやり方を本気で大丈夫かと思っているのかと。
「できますよ」
「なぁ!?」
「話は以上ですか? ならば先へと進みましょう」
アルバン王子は即座に断言して聖夏を驚愕させ、すぐさま先へと進みだした。そんな後ろ姿に底知れぬ恐怖を聖夏たちと騎士三人に与えて。
それからの行動は三日かけて5階層へと到着。聖夏たちはそのまま帰ることにしたがアルバン王子たちはこのまま先へと向かうと言った。
騎士三人は強く止めたが、アルバン王子を止めることはできずに先へと進ませてしまった。今回の件でアルバン王子の行動に強い不信感を持った聖夏たちと騎士三人はすぐさま帰還するために急いだ。
騎士の一人が【方向感覚】のスキルを持っていたのでフル活用して地上へと急いだ。強行軍で二日かけて地上へと戻り、すぐさま今回の事を女王陛下へと報告するために。
彼女たちのダンジョン挑戦はそんな後味の悪さを残したのだった・・・・・
次回の更新は三日後です。と言っても第三章の登場人物紹介なんですが。




