第一章 第八話 女王国編8
霜葉たちが騎士団の魔物の調査や駆除に付いて行き、つい先ほど初戦闘を経験した。今はその反省会をしようとしていたのだが・・・・
「さて、これでよし。血抜きが終わるまで放っておこう」
「しかし、こんな時によくやるよな霜葉も」
「そうかな?多分他の皆も何人かやっていると思うよ?」
霜葉が騎士たちにニードルラビットを解体したいと言ってきたのだ。魔物の中には食用に適した物も居て、ニードルラビットは食べられる魔物と知識として知っていたので、できれば解体したいと思ったのだ。
「それに素材として持って帰れば、生産職の誰かのLv上げになるしね」
ニードルラビットは肉は食用可能で毛皮は皮素材、角は装飾品にといくつか使えるのだ。霜葉はこれを城で待っている召喚者たちに持って行くつもりなのだ。理由は生産職は基本自身の職業の生産活動をすればLvが上がるのだ。肉は料理人、毛皮は皮革職人、角は細工師などが加工可能だ。もちろん戦闘でも上がる。
「まぁ、お肉はお昼に食べる方がいいかもね」
「・・・・あんな光景見てよく食べる事考えられるね?霜葉君?」
「動物科は精肉所とか獣医師の手術の見学なんかもできるからね」
霜葉がグロい光景が平気なのは高坂学校でそう言ったところに体験に行ったり、見学した経験があるからだ。現在霜葉たちが倒したニードルラビットは霜葉が持ってきていたナイフで、首を落として木に吊るして血抜きをしている。
「とにかく反省会を始めましょう。騎士のお二人も意見があれば言ってくださいね?」
「わかりました。と言ってもケンゴ殿はともかく、ソウハ殿は私たちが言えることはないのですが・・・」
「そうなんですか?」
「何せ魔物使いが戦う所など私たちは見たことがないもので、しかもその二匹がニードルラビットを倒すとは思わなくて・・・・」
「あ~なるほど。僕も驚きました」
「ですが、戦い方はさっきのままでいいかと。二匹が前衛でソウハ殿が後衛でサポートすると言う形で」
「わかりました」
「ケンゴ殿は・・・・」
騎士たちが健吾に助言を伝えている間に、霜葉は先ほどの戦闘の結果がなぜ起きたのか考えた。とは言えすでに答えに思い当たっている。間違いなく自分の本当の職業【軍勢の魔王】が関係している。
(職業効果って言ってもいいだろうね。この職業には【統率】や【軍勢】なんて物があるらしいし、確か詳細は【統率】の方は戦闘時に仲間の能力が上がるで、【軍勢】は仲間が多ければ多いほど自身と仲間の能力が上がるだったはずだ。つまり、ニードルラビットならこの効果で底上げされた白夜と十六夜に僕の付与魔法術を追加すれば少なくとも互角に戦えるってこと。しかも、固有スキルの効果でLvMAXになれば進化もできる。仲間が増えれば増えるほど自身も含めて強くなるし、仲間は進化でさらに強くなる。改めて実感したけどとんでもない能力だ。隠して正解だよ。でもいつまで隠し通せるか・・・・)
実際、鑑定持ちの副会長がいる限りいつかはばれてしまう可能性がある。
(やっぱり、考えておいたことをする方がいいかな?健吾君や裕佳梨ちゃんと聖夏先輩にも相談しなきゃね)
「・・・・助言としてはこんなところです」
「わかった。次は気を付けてみるよ」
「では、ニードルラビットも血抜きが出来たようですし、解体したら調査再開です」
「霜葉君、お話と血抜きが終わったようだよ」
「あ、わかったよ。ではやってみますね?」
裕佳梨に呼ばれ思考を一旦止めてニードルラビットを解体するためにナイフ片手に近ずいた。健吾と裕佳梨はグロ耐性に自信がないので明後日の方向を向いている。
解体結果は上手くいった。むしろ、素人とは思えないほど上手かった。毛皮には肉は一切ついてないし内臓も損傷させることもなく、角も綺麗に取れた。霜葉はそれらを背負っていたバックに詰めた。肉は近くにある大きな葉っぱで包んで入れた。なおこのバックはメイドさんに用意してもらった。
「いや、マジでどうなってんだよ霜葉?」
「やっぱり調理術が関係してるんじゃないかな?あと職人の極みってユニークスキルも」
「え!?ソウハ殿!極みスキル持っているんですか!?」
「?極みスキルと言うのはよくわかりわかりませんが、職人の極みと魔道の極みは持ってますけど?」
「二つも持っているんですか!?す、すごいです・・・・」
「どうかしましたか?」
「そ、それはですね・・・・」
「ちょっと待て、お前のその話は長いから任務を終わらせて野営地に戻ってからにしろ」
「わ、悪いそうするよ・・・すいませんソウハ殿。この話は野営地に戻ってからと言うことで」
「わかりました」
「よし、では調査再開です。周りを警戒してください」
気になる話はあるが、とにかくまずはこの調査と駆除を終わらせることにして霜葉たちは森を進んだ。
それから、何度か魔物と遭遇して霜葉たちが戦ったり、時には騎士たちが戦うのを観察しながら森を調査してまわった。そして現在、霜葉たちは見つけたランドボアと戦闘をしていた。
「ぼぉ!!」
「あまいぜ!」
ランドボアの突進を大盾で受け止める健吾。何度か戦闘を経験して慣れてきた彼はニードルラビットよりも二回りは大きいランドボアの攻撃を難なく受け止める。騎士たちの助言も活かしているのだろう。その戦いぶりに騎士たちも感心していた。
「わーん!」
「ぼぉ!?」
そこに白夜が吠えるとランドボアは白夜に視線を向けて一瞬固まった。そこへ・・・
「隙あり!」
健吾はランドボアの脳天に戦棍を叩き付けた。バキ!!と言う音がしたので頭蓋骨が割れたのかもしれない。
「ぼ、ぼぉ・・・」
ランドボアはそのまま地面へと倒れた。痙攣しているようだがそのうち動かなくなるだろう。
「・・・・戦闘には慣れてきたけど、止めを刺すのは慣れないなぁ~時間かかるなこれは」
「すぐに慣れちゃうのも考え物だよ、健吾君?とりあえず【クリーン】」
「サンキュー裕佳梨」
『ご主人~僕がんばったよ~』
『よしよし。えらいよ白夜。十六夜も僕と裕佳梨ちゃんの護衛ありがとうね?』
『主とおともだち守るの~』
「お疲れ様です。ケンゴ殿はもう我々が助言することはありません。あとは経験を積み重ねればおのずと上達するでしょう」
騎士からもそんなことを言われ、健吾は複雑な顔した。経験を重ねると言うことはそれだけ魔物と戦い命を奪うと言うことだからそのことを想像したのだろう。
「しかし、その魔物二匹のスキルはすごいですな」
「ええ、おかげで魔物を早期発見できてますし、戦闘でも活躍してくれていますね」
騎士二人が言うように白夜と十六夜が結構役立っているのだ。最初に魔物をいち早く発見してからは、このグループでは誰よりも早く見つけてくれて警戒の声を出してくれた。戦闘でも白夜の咆哮を聞けば視線を急に変えて固まるのだ。それが隙となり攻撃が当たりやすい。
十六夜は爪での攻撃を行うのだが、攻撃した直後相手は十六夜を見失うのだ。攻撃されたはずなのに相手がいないこの状況に困惑してそれが隙となり攻撃のチャンスが生まれる。
さすがに気になったので霜葉は二匹のステータスを確認してスキルの説明を見た。
【咆哮】
吠えると目の前にいる相手が自分に視線を向ける。相手が自身より弱いなら一瞬固まる。
【隠業】
気配を操り敵に気付かれにくくする。相手が自身より弱いなら見つけることは至難。
かなり強力である。しかも説明を信じるのならこのあたりに居る魔物は二匹より弱いことになる。霜葉の職業や魔法術で強化されているからだろうが、それでも破格の能力だ。しかも・・・・
名 白夜
種族 【異界犬♂Lv3/10】
スキル 咆哮Lv2 : かみつきLv2 : 嗅覚探知Lv3
名 十六夜
種族 【異界猫♀Lv3/10】
スキル ひっかきLv2 : 隠業Lv2 : 聴覚探知Lv3
Lvも上がっている。戦闘を経験したとはいえ早くないかと疑問に思う霜葉だった。自分たちも上がっているかも知らないから、あとで超鑑定を使い確認しよう決意した霜葉である。
「さて、召喚者様方が戦っている間に我々の片方が近辺の調査をしたのですが、ゴブリンやオーク、ブルーベアの痕跡はありませんでした。そろそろ昼にもなりますし野営地へ戻りましょう」
「結構なところまで進みましたが、場所は分るんですか?」
「街道まで出れば一番近い町の方向は分るようになっています。この森で一番近いのは城下町ですからね、一旦街道に出ましょう」
「わかりました」
街道は目と鼻の先なので一行は街道まで行き、騎士たちの先導で野営地へ戻る。
「他の皆はもう戻ってるかな?」
「結構奥の方まで行った人たちもいたからな~まだ全員はいないんじゃないか?」
「確かにそうかも」
『ご主人~あのくだものちょうだい~』
『主~ください~』
『二人はあの果物気に入ったみたいだね?』
『『だってあまいの~』』
『はいはい、ちょっと待ってね』
二匹の言うあの果物とは、調査中に見つけた果物のことだ。ピンク色で甘い匂いがしてかなりおいしそうだった。騎士が言うには結構な高級品で自然に生っているのは珍しいとのこと。早速食べてみると桃のような味わいだった。二匹にも与えてみたら、気に入ったようで一つを二匹で仲良く食べていた。珍しいのならと言うことでいくつか持ち帰ることにしたのだ。
バックから取り出そうとしているうちに少々四人から離れてしまったが、霜葉は気付かない。そこに・・・
がさ、がさ。
「グワ」
「え?」
街道よこの草むらから何やら泣き声が聞こえ、視線を向けるとそこに居たのは軽自動車くらいの大きさの青い毛皮の熊であった。
「霜葉君!!」
「霜葉!?」
「な!ブルーベア!!」
「馬鹿な何時の間に!!」
後ろから聞こえた鳴き声に振り向いた四人は、霜葉の目の前にいる熊を見て健吾と裕佳梨は霜葉の心配を、騎士二人は痕跡を探していたブルーベアが後ろに現れた事実に困惑した。一方の霜葉はと言うと・・・・
「・・・・」
「グワ・・・」
目の前にいる熊を、おそらくは騎士たちの言っていたブルーベアだろうと思っていた。しかし、霜葉にはこの熊が先ほどまで戦っていた魔物たちと同じとは思えなかった。威嚇も襲おうとする気配もなく、しかも白夜と十六夜が警戒していないのだ。それどころか霜葉の足元で熊を見つめて首を傾げている。それと先ほどからこの熊は霜葉の持っている果物を凝視している。
「・・・・君これが欲しいの?」
「グワ」
霜葉の言葉に頷くブルーベア。
『二人ともこの果物この子にあげていい?』
『いいよ~』
『主ほかにもいるの~』
『え?』
十六夜の言葉でブルーベアを再び見ると、後ろの方で幼稚園児くらいの青い小熊が3匹居た。3匹の小熊も霜葉の持つ果物を見つめている。
「ちょっと待ってね・・・・はい。この果物4つあげるね」
「グワ」
霜葉がバックから果物を3つ取り出して地面に置いて白夜と十六夜を連れて3歩ほど下がった。すると、大きなおそらく母熊は霜葉に頭を下げて、果物一つを口に銜えその場に腰を下ろし食べ始めた。後ろに居た小熊も母熊に続いて果物を取り食べ始めた。
「「「「・・・・・」」」」
いきなり始めた食事に霜葉以外の4人は口を開けて驚いていた。特に騎士は顎が外れるのではないかと言うくらい驚いていた。彼らはブルーベアが強く凶暴な魔物だと思っていたのだ。その魔物が人からもらった果物を食べているのだから驚くなと言うのが無理だ。しかも、ブルーベアは明らかに霜葉と意思疎通を行っていた。知能の高い魔物がいる事は知っていたが、ブルーベアがそのうちの一体だとは知らなかったのだ。
やがて、食べ終わった母熊と小熊は種を地面に捨てて、霜葉にまた頭を今度は小熊も含めて下げた。
「グワ~」
「ぐ~」
「ま~」
「ぐる~」
「一個でいいの?」
「グゥ」
「そっか。じゃあもう住処に帰った方がいいよ?」
「グワ」
霜葉の言葉に納得したように母熊は4足で立ち、森へと帰って行った。小熊も後ろから付いて行きしばらくすると見えなくなった。
「そ、霜葉!!お前大丈夫か!?」
「うん、見た通り怪我はないよ?あの親子お腹が空いてただけみたいだし」
「で、でもいきなりあんな大きな熊がいたからびっくりしたよ!」
「でも、大人しい熊だったよ?何よりこの子たちが威嚇しなかったしね」
「わん?」
「にゃん?」
白夜と十六夜は自分たちの事に話を振られ首を傾げている。
『二人はなんであの青い熊を威嚇しなかったの?』
『あの子いいにおいした~』
『いやな音もしなかったの~』
どうも白夜と十六夜は匂いと音で相手が味方か敵かを判断しているようなのだ。どういう基準なのかはわからない霜葉ではあるが、便利であり二匹のことは信頼しているので助かっている。
「・・・・今日はいろんなことに驚いたが、今のは今日で一番驚いたぞ・・・」
「・・・・俺もだ」
おそらく素になっている言葉遣いに、騎士二人は気付いていなかった。
今回の件は副団長にも報告して、ブルーベアが本当は大人しい魔物ではないかと調査が行われた。そして調べた結果、これまでブルーベアに襲われていたのは自分たちから攻撃した冒険者グループと商人護衛中に出くわして、排除しようとしたからであることが判明した。
また、ブルーベアが果物を取って食べているのが確認されてからは果物が好物ではないかと考え、実際に戦いになったとしても大丈夫な実力者たちが霜葉と同じように果物を与えたところ、受け取り食べて頭を下げて去って行ったとのこと。
この事が判明してからはブルーベアは討伐対象から外れ、旅人や町から町へと移動する商人たちは長持ちする果物か干し柿のような果物を常備するのが定番化した。
ブル―ベアとの遭遇から霜葉以外の四人は落ち着きを取り戻して、野営地へと戻りだした。そして森の終わりが見えて野営地へとたどり着いた。すると・・・
「肉切り分け完了です!」
「よし!木工師組串はできた?」
「出来ています!」
「よろしい!石工はどう?」
「あともうちょっとかかるぞ!」
「まぁそっちは物は試しだからできたら言って!」
「わかった!」
何やら召喚者たちが忙しくしていた。どうやら昼飯を作っているようだが、なぜ召喚者たちが作っているのか?とりあえず、騎士たちはソルア副団長に報告をしに、霜葉たちは作業を見ているひとりに話しかけた。
「ねぇ?これはいったいどういうこと?」
「あ、霜葉君おかえり~二人とちっちゃな子たちもおかえり~」
「おう、ただいま」
「ただいま」
「わん!」
「にゃ~」
この生徒は霜葉と同じ動物科に居る生徒だ。と言うよりこの西の森に来た召喚者たちのほとんどは霜葉の知り合いだったりするのだが、それはともかく・・・・
「この状況はね~簡単に説明すると料理科の子が料理するって言い出したのよ」
「料理は騎士たちが用意するはずじゃなかった?」
「そうだったんだけどね~」
何でもその料理科の生徒が帰ってきて、騎士たちの料理する様を見て衝撃を受けたらしい。曰くあれは料理ではないと。
「なんだ?そんなに酷かったのか?」
「いや?多分普通に食べられるものだよ?ただ作り方が超適当なのよ」
何でも適当に切った保存食を暖めた水にぶち込んだだけの料理だったとか。それを見た料理科の生徒が「私が作ります!」と宣言したんだと。
「ちなみにその子のジョブは料理関係じゃないんだけど、スキルに調理術があるらしいよ」
「いや、スキルがなくても問題ないだろう?料理科の生徒なら」
「まぁ、そうなんだけどね?」
「他の生徒が手伝っているのはなんで?」
「そりゃ、おいしいもんが食えるなら手伝うだろう?」
「それもあるけど、スキルも試してみようってことになってね」
何でもその生徒が始めた時も、お土産として持ってきた魔物素材の中に肉があったのでそれを調理しようと考えた。それから続々と帰ってくる召喚者たちもできることがあるなら手伝うと言って、なら戦闘では試せなかったスキルを使ってみることになった。木工師は串焼き用の串や皿を、石工は鉄板ならぬ石板を作ってみることにしたらしい。
「あ、霜葉君とおチビちゃんたちお帰りなさい!後、霜葉君も調理術持ってたよね?簡単な作業でいいから手伝って!」
「わかったよ。あ、そうそう僕もお土産の魔物素材の中にお肉があるよ」
「ほんと!?助かるわ~材料が足りないと思ってたのよ!どんな肉がある?」
「えっと、ニードルラビットのお肉が二羽分とランドボアのお肉が一頭分。大きめの葉っぱに包んでおいたよ?」
「葉っぱに包む?そ、その手があったか!?私なんてバックを持っていなかったからそのまま持ってきてここで解体したわよ?ちなみにその猪は脂はどう?」
「少ないけど、あるよ?でも猪だから匂いが心配」
「あ、確かにそれがあるわね。でも、試してみましょう。石工~石板はどんな感じ~?」
「今できたぞ!」
「よし、他の生徒と作った囲いのある焚火に置いといて~」
「わかった!お~い何人か手伝ってくれ!」
「「「「まかせろ!」」」」
彼らは実に楽しそうに作業をしていた。
「・・・・・うちの生徒、適応能力高過ぎだろ」
「ふふ、そうだね」
「まぁ、この状況ではいいことよ」
「わう」
「にゅう」
それからも帰ってきた召喚者たちが持ち帰ったお肉、山菜、ハーブなどで料理が作られいい匂いが漂い出した。ちなみに、お肉は調理術スキル持ちや料理人などの職業持ちが、山菜は植物限定で鑑定できる【植物の見極め】と言うスキル持ちが、ハーブは調合師の職業持ちが持っている【薬草の見極め】を使い持ってきたらしい。
今野営地では、量は少ないがおいしそうな料理が一人づつ配られている。メニューは串焼きにハーブを使ったスープだ。それで足りなければ、余っているお肉を鉄板ならぬ石板で焼いて食うようにとのこと。なお、騎士たちが初めに作っていた物をハーブを使って味を調えたのがスープだ。なお、山菜は初めて見る物も多く、お土産として持って帰ることに。
騎士たちも含め全員に料理が渡され、いざ、実食!
「いただきま~す」
「「いただきます」」
「なんですか?その言葉?」
霜葉たちは一緒に行動した騎士たちと食事を摂ることにして、食事の挨拶をしたら騎士の一人から質問された。
「これは僕たちの世界の国で食事の前にやる挨拶です」
「食事で命を食べる訳ですから、その感謝と作ってくれた人への感謝の意味もあります」
「ほう、そのような文化があるのですか?」
「面白い文化ですな」
騎士たちはそう言ったきり深くは聞いてこなかった。これはあまり召喚者たちの世界のことを聞かないようにしているのだ。あまり元の世界を思い出してしまわないようにとの気遣いだ。とにかく、食事の挨拶を済ませて食事を始めた。
「う、うまい・・・」
「・・・・・」
騎士二人のうち一人は美味さに感激して、もう一人は無言で食べ続けている。
「うん、素材がよかったんだね。これはおいしい」
「そうか?やっぱ作った奴の腕だろう?」
「本人は不満そうだったよ?調味料もなかったから、お肉を叩いて柔らかくしたり焼き方で工夫するしかなかったって」
「いやいや、こんな場所で作る料理なら十分美味いって!」
「そうだよ?」
「まぁ、確かにね」
その後、騎士たちを中心に料理は好評であり召喚者たちもおいしそうに食べていた。作った中心人物はせめて塩と胡椒があれば・・・などと呟いていたが。無論、白夜と十六夜もおいしそうに食べている。
「そう言えば、極みスキルでしたっけ?そのこと聞かせてくれませんか?」
「ああ、そうでした。ではお話しします」
霜葉は森の探索中に聞いたスキルの話を改めて尋ねた。
「極みスキルと言うのは、簡単に言えば達人になれる可能性を示すスキルです」
「達人ですか?」
「はい、本来スキルと言うのは努力して手に入れる物と努力しても手に入らない物があるのですが、極みスキルを持っていると努力次第ですべて手に入るのです」
「すべてですか?」
「はい、たとえば【魔道の極み】と言うスキルでは本来魔法術は努力しても手に入らないのですが、このスキルを持っていると他の魔法術を習得することがあるのです」
「それって・・・」
「はい、言うまでもなく破格のスキルです。ユニークスキルでは一二を争うほどのレアスキルです。それだけでもすごいと言うのに極みスキルは関連したスキルの補正もあるらしいのです」
成程、確かに達人になれるスキルだと霜葉たちは納得した。
「そんなスキルをソウハ殿は2つも持ている。すごすぎです!ソウハ殿なら歴史に名を残すほどの人物になれるかもしれません!」
「さすがに無理ではないでしょうか?」
「いえいえ!実は各国に居る一騎当千の猛者たちもこの極みスキル持ちだと言う噂です!そうであるならばソウハ殿だって可能性が!」
「は、はぁ?」
「この人大丈夫か?」
「さ、さあ?」
「あ~すいません。こいつこの話になるといつもこうなんですよ。ほっとけば元に戻りますから」
それからは興奮した騎士の言葉を右から左に流した。しばらくすると興奮も収まりその騎士は霜葉たちに謝罪していた。
食事を終えた一行は、騎士たちの報告でゴブリン、オークの痕跡はなく、ブルーベアもとある騎士たちの報告で別の調査をする必要があり、今日はこれで引き上げることが決まった。
野営地の後始末をして、さらに調理した肉の骨や内臓は土魔法術持ちに落とし穴作る魔法術を唱えてもらいその中に全部入れて塞いだ。なお、霜葉が解体した魔物の残骸の処理は【クリーン】を唱えて放置した。腐る前にはランドウルフが食べるだろうとのこと。
後始末を終えて騎士たちと召喚者たちは城へと帰って行った。しばらく馬車に揺られて城に着いた一行は、訓練所に集まっていた。
「他のとこに行っていたグループも帰ってるんだな?」
「僕たちと一緒で早めに終わったのかもね」
「でも、なんだか雰囲気悪くないかな?」
『ご主人~なんかいやなにおいするの~』
『いやの音もです~』
「白夜と十六夜も何かあったって言ってる」
「霜葉君たちも帰ってきたんですね」
三人と二匹がこの場所の雰囲気の悪さを感じていると、生徒会長が話しかけてきた。
「聖夏先輩、なんか雰囲気がよくない気がするんですが?」
「私もついさっき帰ってきたのですが、どうやら副会長が問題を起こしたようで」
「問題?」
「一体何をやらかしたんですか?」
「どうも生産職に就いている生徒たちと揉めたようです」
何でも、副会長が行った調査場所で魔物を倒し素材を剥ぎ取ったりすることにした時に、生産職に就いた生徒たちに上から目線でさらに命令口調でやるように強制したらしい。しかも、余計な一言を言ったようなのだ。
「戦えないお前たちの代わりに、倒してやったんだありがたく思え」
などと口にしたらしい。これに対して生産職の召喚者たちは猛反論。そもそも今回の調査に同行した召喚者たちは全員が戦える者たちなのだ。副会長の言葉はその辺を理解していないのだ。
この事がきっかけとなり、生産職組と副会長側で対立が起きてしまった。なお、副会長側に着いたのは一般的に強いとされる職業に就いた者たちだ。調査自体は騎士たちがやってくれたが、あまりに険悪だったので早めに帰ることにしたのだ。現在も解決しないまま訓練所にこのことが広がり雰囲気が悪いのだ。
「はぁ~何やってんだか」
「そちらはどうでしたか?」
「調査自体は完了しました。皆と協力して料理とかしましたし」
「戦闘も経験して、何とか戦えました」
「ただ、命を奪うのはそう簡単には慣れそうにありませんね」
「それは仕方がありませんよ。そう言うのとは無縁だったわけですし、とは言えご苦労様でした。あとでお部屋で詳しく聞きたいと思います。それでは後程」
そう言うと生徒会長は副会長のいる集団に向かって行った。おそらく注意するとともにどういうつもりであんなことをしたのか問いただす気だろう。
「この一件、長引かないといいんだけど・・・」
霜葉はそう思わずにはいられなかった・・・・
次回も不定期更新になりそうです。楽しみにいている読者の方は申し訳ありません