第三章 第四十四話 商王国編44
大変お待たせしました。
商王国の王都へ着いた霜葉とボールトは王都のボールトの屋敷を管理しているレンディから、王都で霜葉が原因の対立が起こっていると耳にする。
その対立は冒険者ギルドの副ギルドマスターが、霜葉の商王国での功績を疑問視し何か裏があるのではないかと言ったのが始まりのようだ。
とは言え、霜葉の功績は確かな証拠と他者の確認が行われたものでギルドマスターからそのような発言をしたことを逆に問題視された。この問題は商王国の交易品横流しの疑惑がある貴族が黒幕としている可能性があるためかなり根深い問題のようだ。
謁見の日に霜葉とボールトが城へと向かい部屋で待機しているとウィルゲン侯爵が無礼な態度を隠さずに礼儀知らずなことをして部屋へと入ってきた。そのまま険悪な雰囲気となるが、商王国騎士団副団長であるヘイルズが現れて事なきを得る。
「では、ソウハ殿。私の後ろに付いて来てくれ。陛下の御前では私の左後ろに居て、ひざまずいてくれればいい」
ボールトの言葉に頷いて、二人と白夜たちは謁見の間へと向かう。しばらく歩いて大きく堅そうな扉の前にやってきた。
「陛下の命で我が国に多大な利益をもたらしてくれた冒険者を連れてきた」
「話は伺っております。しばしお待ちを」
扉を守っている騎士の一人にボールトが声を掛け、騎士が何やらつぶやく。すると扉がゆっくりと開いた。
「ボールト子爵。及び冒険者ソウハ殿。到着しました!」
騎士が大きな声ではないがはっきりと伝わる声で言葉を口にし、もう一人の騎士が先へと進むようにと促す。それに従い霜葉とボールトは謁見の間へと足を踏み入れる。
そこは広々とした空間で豪華ではないが品のいい装飾がされている場であった。霜葉が進むレッドカーペットの左右には貴族服に身を包んだ者たちが並び、国王の近くには先ほどのウィルゲン侯爵もいた。
そんな貴族たちだが、霜葉を見る反応は真っ二つに分かれていた。左は霜葉に好意的な視線や笑みを浮かべる者たちで、右はウィルゲン侯爵を筆頭ににらみつける者や明らかに見下している者などが居た。
霜葉はこんな状況に内心うんざりとした気持ちになるが表面上にはおくびにも出さない。むしろそんな視線を向けられ怒る白夜たちを抑えるのに必死だったりする。
そんな貴族たちの奥の王座には王冠とマントを付けたドワーフが座り、その左に重厚な騎士甲冑を着込んだ大きなドワーフが仁王立ちしていた。
王座に座っているのが商王国国王陛下で第一印象は中年の人のよさそうなぽっちゃり系のドワーフだ。髭は口や顎周りに蓄えているだけでそれほどのボリュームはない。灰色の髪の方は肩まで伸ばしておりそちらの方が印象的だ。
むしろ、圧で言うならば左に居る騎士がスゴイ。騎士甲冑に包まれていてもわかるほどの巌のような圧倒的体躯。その背中に背負われているハンマーも合わさってかなりの圧を放つ。顔は国王陛下と瓜二つながら引き締まった彫りの深い顔は対照的だ。
そうこうしている間にボールトと霜葉は左右の貴族たちの先頭の一歩手前で止まり、そこで膝をつき頭を垂れる。それに続いて左右の貴族たちも同じようになる。
「皆楽にしてくれ。今回の集まりは私のわがままが発端だ」
そう国王陛下の言葉を合図に全員が立ち上がる。霜葉も遅れて立ち上がる。白夜たちは座ったままだが。
「まずはボールト子爵。大変なことが起こった後に呼び出してしまったこと結果的にそうなったとはいえすまなかったな?」
「もったいないお言葉です陛下。こればかりは致し方ありません。むしろここに居るソウハ殿のおかげで事態も早くに終息しました」
「ほう? それは興味深いな。あとで報告書を読むのが楽しみだ。さて・・・」
ボールトと言葉を交わした後、国王陛下は霜葉に視線を向ける。それに対して霜葉はまた膝を付こうとするが・・・
「そのままでよい。楽にしてよいと言ったのは私だ。何より私自身が招いた客人だ」
「お気遣い感謝いたします陛下」
「はっはっは。何感謝せねばならぬのは私たちの方よ。君のおかげで我が国はさらに潤うことが出来るのだ」
国王の言葉にソウハの右側の貴族たちもしきりに頷く。しかし、左側の貴族たちは何やら気味の悪い笑みを浮かべている。
「そのことについて陛下。私を含めた少なくない貴族はそこの魔物使いの功績にいささか疑問があるのですが?」
「ほう? それはどういう意味だウィルゲン」
先ほどまで微笑みを浮かべていた国王はウィルゲン侯爵の言葉に笑みを消し尋ねる。
「単純な話です。そのような功績を残すほどの実力が、そこの魔物使いにあるのか疑問なのですよ」
「それはおかしなことを言うな? 確かな証拠の品もある上に他者の確認を行ったと聞くぞ? そのうえで言っているのであろうな」
ウィルゲン侯爵の言葉に国王は怒りの感情を含ませて言葉を口にする。一部の貴族はその言葉に気後れするが、ウィルゲン侯爵は構わずに言葉を続ける。
「確かに証拠の品はありますが、だからと言ってそこの魔物使いが実力者だと言う証拠ではありませんからな。私はこの者とは別の者の功績ではないかと思うのですよ」
ウィルゲン侯爵は得意げに語りどうだと言わんばかりに胸を張る。しかし、この場に流れる空気は一言で言うならば「こいつは何を言ってるんだ?」である。
「ふむ・・・侯爵の言いたいことはわかった」
「おお! わかっていただけますか!」
「だが、それがどうだと言うのだ?」
「・・・・は?」
国王の言葉にウィルゲン侯爵もその仲間である貴族たちも頭の上に疑問符を浮かべる。
「仮にだが、そのような者が居たところで我が国に何か不利益があるのか?」
「こ、この魔物使いが嘘をついたことになります!」
「他に発見者が居たところで仲間である以上、彼も当事者ではないか。それにそんなことをやる意味もないではないか」
「我が国から不当に金品を要求するかもしれませんぞ!」
「ミスリルやアダマンタイトを手に入れることが出来る者がか?」
「そ、それは・・・」
国王の言葉に旗色が悪くなるウィルゲン侯爵たち。彼らの主張は正直言って筋が通らないものでもっと言えばたとえその通りだったとしても商王国には何の問題もないことなのだ。
「で、ですが! 今まで戦闘で役に立たないとされていた【魔物使い】がこのような功績を上げたと言われても到底信じることはできません!」
「それこそ証拠の品があるではないか。ましてや鉱脈を見つけたと言うのではなくミスリルゴーレムと言う魔物を見つけて倒したうえでドロップ品を持ってきたのだぞ?」
「そ、それはですな・・・」
完全に論破されているウィルゲン侯爵。そんな彼に対して、国王は追い打ちをかける。
「そこまで言うのなら専門家の意見も聞いてみればいい。ガンドール」
「は。陛下」
「君から見て彼とその魔物たちの実力はいかほどか?」
すぐ隣に控えている一騎当千の強者【破壊神】ガンドールに国王は尋ねる。さすがに一騎当千の者の意見は無視できずにウィルゲン侯爵も黙って聞く。
ガンドールはしばし霜葉と魔物たちを順番に視線を向ける。視線を向けられた白夜たちは大人しいものである。それどころか視線を向けた相手に対して可愛く首を傾げるくらいだ。そんな仕草に少し場の空気が和らぐ。
「そうですな。はっきり言うと彼とその魔物たち全員と戦うと近衛騎士でも負けますな」
「「「「なぁ!?」」」」
「ほう?」
ガンドールの言葉にウィルゲン侯爵たちは驚愕し、国王は面白そうに興味深げな様子。
「それほどか?」
「間違いなく。下手をすれば近衛騎士団一個中隊でも負けてしまうでしょう。そのほどの魔力を有しております。彼自身も相当魔法術のレベルは高いと見ました」
「だそうだぞウィルゲン?」
「く・・・」
「お前たちは恩人に対して失礼な言動が過ぎる。この場は出ていくがよい」
「へ、陛下!?」
「同じことを2度も言わせるのか?」
「し、失礼いたしました!?」
そう言って左側に居た貴族たちはそそくさと退散した。その後は霜葉の功績に対しての感謝と褒章の話になったが、霜葉はこれを辞退。そもそもミスリルとアダマンタイトも自分たちの分は確保しているのだから、それに関しての褒章はもらえないと霜葉は包み隠さず話した。
「欲がないことだな? しかし、無理強いするのも我が国の沽券にかかわるか。であれば致し方あるまい。この場では以上としよう。皆の者よく集まってくれた」
国王の言葉でこの場は解散となる。その後先ほどの部屋で飲み物を飲んでくつろぐ霜葉たち。白夜と十六夜とルナは霜葉から撫でられてご満悦。失礼な貴族たちに対してこの三人はいつ襲い掛かってもおかしくないほど怒っていた。
霜葉の【思念会話】で抑えていただけである。そのせいで彼らには我慢を強いることになったのでお詫びに優しくなでているのだ。そんな風にくつろいでいると・・・
扉が開かれ、現れたのは先ほど王座に座っていたサイフォン国王だ。護衛としてガンドールとヘイルズ副団長も後ろに続いている。
「楽にしてくれていい。ここでのことは公式には残らないからね」
慌てて膝を付くためにソファから立ち上がろうとしたボールトと霜葉だったが、その前にサイフォン国王が先手を打った。
さすがに国王陛下が来たことで霜葉はボールトと並んでソファに座ることに。対面に座っているサイフォン国王はニコニコ顔で霜葉を見ている。
「国王陛下。一体何用でいらしたのですか?」
「なに、彼に対しての礼だよ。あの場では国王としてのメンツがあってろくにお礼が言えなかったからね」
そう言って国王陛下は霜葉に向き直り・・・
「君のおかげでこの国の利益はさらに上がる。ミスリルとアダマンタイトが無限と言っていいほどにあると言うのはかなりの利益が見込めるからね!」
興奮冷めやらずと言っていいほどに言葉を口にするたびに興奮しているらしく、声が大きくなる。
「物としての価値は当然高いが、我が国の職人の手で造られた武具の価値もうなぎのぼりだよ! やはりここは職人たちの腕を競い合わせた方がいいかもしれないな・・・・そうだ! いっそのこと国宝級の装備を造る大会などを催して、完成品を一般の者に見せるようにすれば我が国の職人の腕を国内外に広めることが・・・」
「兄上。政治と商売の話はあとでじっくりとしてくだされ」
ますますヒートアップするサイフォン国王に弟であるガンドールが苦言を呈する。同時に溜息を吐き、隣のヘイルズ副団長も苦笑いを浮かべている。
「おっとすまないね? これほどの利益が見込める事態など私の代どころかこの国始まって以来のことだと言っても過言ではない。そのおかげで考えるのが楽しくてね?」
などと人の好い笑いを浮かべ、右手で後頭部を撫でるサイフォン国王。どうやら目の前の国王は根っからの商売気質&政治的思考が根付いているらしい。
「それ以外でもソウハ君の功績は、確実にこの国にプラスになる物ばかりだ。アンデットダンジョンの利用法。魔道具の確保数に何より農地の開拓! 特にこの農地の開拓は素晴らしい! この国ではイモ類しか育てることが出来なかったが、君の魔物たちが耕した農地では他の野菜類が順調に育っているようだ。特に菜っ葉類がこの国で育つのはかなりの事件だ!」
「それは興味深い話です」
「ボールト子爵のところも確か耕してもらったのだったな? ならば領地に帰ったら急いでいろいろ試してみると良い。町が違えば育つ野菜も違いがあるであろうからな」
「兄上。話が脱線しかねませぬぞ」
またしても話がヒートアップしそうな時にガンドールが口をはさむ。先ほどからタイミングが良すぎるので慣れているのだろう。
「あ~すまないな。ともかくソウハ君。君の功績はどれもこれも我が国に利益をもたらしてくれる。本当に感謝しているよ」
「もったいないお言葉です」
「それほどの恩人だと言うのに一部の貴族たちには困ったことだ。謁見の時も申し訳なかった」
そう言って座ったままであるが、サイフォン国王は頭を下げた。
「へ、陛下! 国王が頭を下げては!?」
「陛下! おやめください!」
さすがにこの事態は予想外。慌てるヘイルズ副団長とボールト子爵。霜葉もいきなりの事態に呆けてしまう。唯一ガンドールだけは特に変わりがない。
「何を言う! この国に多大な利益をもたらした恩人に対して無礼を働いた貴族が居るのだ! ならばその貴族たちを抑えられなかった国のトップが頭を下げるのが道理であろう」
「「むぅ」」
だが、その二人に対して自らの論理を口にする国王。さすがに正論な内容なので二人は何も言えなくなった。
「もし、王都滞在中にまたあの貴族たちが迷惑をかけたならばボールト子爵にすぐに言ってくれ。ボールト子爵はすぐに王宮に使いを出してくれ。ガンドールにヘイルズは知らせがあった場合は直ちにその貴族の館を押さえよ。以前から貿易品の横流しが噂であったからな。何かしらの証拠が出るかもしれん」
「「わかりました」」
そう言ってサイフォン国王陛下は息を吐き、話をいったん止めてまたしても霜葉に向き直る。
「今回出向いたのは先ほどの話と、これからは依頼を受けてもらいたいのでその話のためだ」
「依頼ですか?」
「うむ。一つはここ王都の農地の開拓だ。ただ、王都の農地は広い上にいまだに広げている最中だ。その為、王都に居る間はこれに尽力してほしい」
「それでしたら問題ありません」
「ありがとう。さらには君の魔物たちに兵士と騎士たちの模擬戦を頼みたい」
「模擬戦ですか?」
「これは後ろに居るガンドールからの提案なのだが、詳しくは本人からしてもらおう」
そう言って国王は後ろに視線を向け話を促す。
「君の魔物たちが冒険者相手に模擬戦をしたと言う話を聞いたのだ。ならばと兵士と騎士の新人相手に頼めないかと考えた」
「新人ですか?」
「うむ。と言うのも兵士の大半は平民でそのうちの半分は食うに困った者たちだ。そのせいでいざ魔物相手に戦うと腰が引ける者が大勢いるのだ。人間相手は訓練でどうにかなるが、魔物相手ではそうはいかんからな」
「なるほど」
納得できる話だ。治安維持で人間を相手にする場合はそれを想定した訓練である程度は練度や経験を積めるが、魔物相手ではほとんどがぶっつけ本番だ。
「騎士に関しては兵士と違い貴族の家督を継げない次男や三男なのだが、大半が家柄を誇示するだけの軟弱者たちだ。中には冒険者相手に経験と訓練を行う者が居ないことはないが、本当に少数なのだ。そこで君の魔物たちと模擬戦をして資質を見ようと考えている」
「資質ですか?」
「まぁ、ありていに言えば根性と怯むことなく戦えるかどうかだな。怯え竦むことはあれどまっすぐに魔物から目を背けぬ者。逃げ出さない者などを選別できればと考えている」
「ふむ? いろいろ考える必要がありそうですね」
「騎士の方は模擬戦の方法を考える必要があるだろうから、後日話し合いたい」
「わかりました。ちなみに報酬は?」
「農地開拓の方は金貨三枚。開拓できた広さで上乗せもありだ」
報酬を尋ねた霜葉はサイフォン国王から提示された報酬額に驚いた。
「開拓にしては高くないですか? 銀貨五枚もあれば十分な仕事ですよ?」
「それだけ期待してるんだよ。野菜に関しては民の食に直結する問題だしね」
「こちらとしてもありがたいので受けます。模擬戦の報酬は?」
「騎士と兵士合わせて、金貨二枚だ」
「そちらも高いと思いますが?」
「魔物との模擬戦など君たちが居ないとできない訓練だからな。貴重な機会であることを考えた額だ」
「そちらも受けます。どちらを先にやりましょうか?」
「農地開拓の方を頼む。そちらが順調なら模擬戦もよろしくお願いしたい」
「開拓ならこの子達ががんばるので」
「「「「「モグ」」」」」
霜葉の言葉に金剛一家は任せろと言うように腰に両手を添えて胸を張る。その可愛らしい姿に場が和む。この話し合いで霜葉の王都滞在中の予定が決まった。
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