第三章 第三十八話 商王国編38
ほんと遅くなり申し訳ない。理由は後書きにて。
雪山でのフロストオーガキングの群れ討伐を終えた霜葉たちは、町へと帰還した。その報告の過程でまた目立ってしまったが、それくらいは仕方がないと考えることにした。
報告を終えて、孤児院へ帰るとキールと知り合いのⅭランク冒険者であるブルスさんたちパーティが居て、何やら言い争っていた。その言い争いの原因はキールの戦闘の粗さだった。
最近のキールは肉ダンジョンに同行している子達からおかしいと言われていたのだ。そのことを子供たちの保護者であるミーナとリーザは心配して子供たちに戦闘指導をしてくれたブルスさんたちに相談した。
結果は彼らがそろって問題ありと判断するほどダメであった。そのことを指摘してもキール本人は聞く耳を持たずに自分は強いを繰り返すばかりで言い争いになったと言う。
さらには霜葉が帰ってきたことで失礼な言動も繰り返し、そのことで怒ったミーナに引っ叩かれて他の子らからも責めるような視線を向けられた。そのままキールは孤児院を飛び出してしまい、その後の話し合いでキールはしばらくダンジョンには入らせないことが決まった。
その翌日、霜葉が孤児院に帰ってきたことで果物や野菜が沢山朝食に並び子供たちは大喜びで食べているのだが、肝心のキールはと言うと・・・・
「・・・ムシャムシャ」
無言で主にお肉を食べている。明らかに機嫌が悪いぞと言う雰囲気が出ている。霜葉提供の果物や野菜には一切手を出さずに。
「ご馳走様!」
「キール。お野菜や果物も食べないと栄養が偏るよ?」
「いらないよ!」
ミーナの言葉にも拒絶するかのようにきつく言い放ち、そのままキールは孤児院を出て行ってしまった。
「もう、あの子ったら・・・」
「まだまだ子供ですね。いつまで拗ねてるつもりでしょうか?」
ミーナはキールを心配し、リーザはキールに態度に呆れているようだ。霜葉は沈黙を貫いた。自分が原因でもあるのでここで何か言うのも二人が気にすると判断したから。
その後は朝食を食べ終えた子供たちが仕事やダンジョンへと出かける。ダンジョンへと出かけた子供たちはミーナからキールが居ないので普段よりお肉が少なくてもいいから安全第一を言い聞かせていた。
そのことに子供たちは真剣に頷いている。彼らはキールと違い戦力低下や自分たちの実力を過大評価していないので素直にミーナの言うことを聞いていた。子供たちを見送ると二人は霜葉に今後の予定を尋ねた。
「ソウハさん町を出るまでどうするんですか?」
「とりあえずはゴーレムダンジョンへ行きますよ。もっとも魔法金属目当てじゃないですけど」
ミスリルとアダマンタイトは貴重な鉱物資源だが、あまり大量に市場に出ると値崩れしてしまう。ダンジョン資源なのでそこまで大量に手に入るわけではないが。それでも気を付けるべき問題だ。霜葉の【アイテムボックス・極】には結構な量がすでにストックされているが、これらは召喚者たちのお土産だ。
彼らからすればファンタジーストーリーでは定番の貴重金属。興味を持つ者は多いだろう。それに危険なこの世界では装備の質を高められるのならしておいた方がいい。
「あとは、町のクエストでも王都へ行くまで受けますよ」
「ソウハさんの子達は大活躍でしたし、取り合いにならないといいですが」
「「・・・」」
ありえそうな予想をリーザが言うので二人は沈黙するしかなかった。とりあえずはギルドへ行き、何か受けられる依頼がないか確認することに。なければ新たに仲間になったカイロスたちのLv上げのためにゴーレムが居るダンジョンへ行く。
いつものごとく町の人々から声を掛けられ、ギルドへと到着した霜葉は依頼を探しているがちょうどいいものがなかった。受付嬢にも尋ねるが・・・
「う~ん、今はソウハさんに受けてほしい依頼はありませんね? ミスリルやアダマンタイトは十分ですし、これ以上は市場に影響が出ますね。町のクエストも緊急性の高い物はありません」
と言われてしまった。なら予定通りにゴーレムダンジョンへと出向き、カイロスたちのLv上げを行おうとギルドを出ようと入り口に向かうと・・・
「おい! 魔物使い!」
後ろから何やら殺気立った聞き覚えのある声に呼び止められた。振り向くとそこに居たのは予想通りキールだった。その手には短い槍を持ちところどころを革鎧で補強している。
なお、キールが現れた段階で機嫌が悪くなる白夜たちだが、霜葉が【思念会話】で落ち着かせている。ある意味危機的状況なのだが、キールはそんなことはつゆ知らず・・・
「俺と戦え! 訓練所で決闘だ!」
などと口にするのだった。
ところ変わって霜葉たちは、ギルドの裏手にある訓練所に来ている。ここはギルドの冒険者用に開放している場で主に腕試しや訓練のなどに使用する。まだランクが低い冒険者などはギルドから紹介された高ランク冒険者から手ほどきを受けたり、頻度は低いが低ランク冒険者用にギルドが講習会などを開くこともある。
そんな訓練所では霜葉とキールが向かい合い、訓練用の刃を潰した武器を持って決闘を行おうとしている。なぜこんなことになったかと言うと話はつい先ほどのことで・・・
「決闘? 誰と誰が?」
「俺とお前がだ!」
「なんで?」
「お前に勝って俺が高ランク冒険者並みに強いとわからせてやる!」
などと鼻息荒く宣言しているが、それを見る霜葉の目は冷ややかで・・・
「断る」
「はぁ!? なんでだよ!?」
「僕に何か得があるのその決闘? 僕に言わせればやる意味がないよ」
周りで興味深そうに聞いていた冒険者も頷いている。そもそもこれからダンジョンへ行くと言うのにわざわざ体力を消費するようなことをするなど霜葉の言う通りやる意味がないのだ。それに・・・
「そもそも、なんで僕と決闘なの?」
「・・・ブルスから今日のギルド主催の訓練に出るように言われた」
「ふんふん」
「その訓練で模擬戦をしたら誰も俺に勝てなかったんだよ! なのにブルスの奴俺ばっかり注意するんだよ!?」
「君訓練の意味わかってる?」
霜葉は大真面目に聞いてみたかった。訓練での模擬戦は勝てばいいというような単純な話ではない。攻め方や攻め手の攻撃予測。さらには防御の仕方や反撃のタイミングなど総合的な戦い方を学ぶ場なのだ。キールはどうもそこら辺を理解していない。
「いいから決闘しろよ!」
ゴン!!
キールが言葉を言いきった直後に脳天に拳骨が落とされた。それをやったのはブルスさんだ。彼の様子は怒っているのか呆れているのか、何とも言えないそんな様子だった。
「訓練途中で走り出したと思えば、何をやってんだ」
「どうも、ブルスさん」
「ソウハスマナイ・・・迷惑をかけたようだ・・・」
二人があいさつする最中でキールは頭を押さえてうずくまっている。声に出せないほど痛かったようだ。
「な、何すんだよ・・・」
「それはこっちのセリフだ。お前訓練の模擬戦でこっちの言うこと無視して何をしてんだ?」
「あんなわけわかんない指示やる必要あるか!」
「必要なんだよお前には。それにほとんど奇襲に近いことをやった訓練で勝ったなんて言うな! 訓練相手の子は驚いて動けなかっただけだ!」
二人の会話で霜葉は大体のことは察した。要するにキールは訓練の指示を完全に無視して好き勝手やったわけだと。
「そもそも攻撃するな。防御だけしろってなんだよ!」
「攻撃なんて誰でもできる。むしろ実戦で難しいのは防御や回避だ。ましてや冒険者が相手するのは主に魔物だ。人相手とはまた違うんだよ。だからまずは人相手に防御と回避を学ぶんだよ」
「そんなことするよりも相手を早く倒せば問題ないんだよ!」
キールは素人に毛が生えた程度の実力で何を言っているのだろうか? ブルスさんも深い溜息を吐いてどうしたものかと考えている。半分ほど呆れてもいるようだが。そんな時に霜葉が・・・
「いいよ決闘しよう」
「「え?」」
そんなことがあり今に至る。霜葉は刃引きされた短剣を持ち何度も振りながらあることを確認している。そんな霜葉をキールは余裕で眺めている。霜葉がやっていることを何も考えないまま。
やがて確認が終わり、霜葉とキールの決闘が始まる。決闘のルールは相手の攻撃が体に当たれば勝ちと言うシンプルなもの。ただし、急所への攻撃や倒れた相手の追撃も禁止。これを行った場合は問答無用で負け。審判が止めに入る。
なお、審判役はブルスさん。訓練所ではブルスさんのパーティメンバーに今日の訓練を受けた子供たちに数人の冒険者が見学している。さすがに依頼を受ける者たちが大半だったので冒険者は少ない。
「準備はいいか?」
「いつでもいいぞ!」
「その前にいいですか?」
決闘開始前にルールの確認を終えそろそろ始めるという段階で、霜葉が止める。
「なんだよ? 今になって怖くなったのか?」
「君に怖くなる要素なんてないよ」
「なんだと!?」
「ただの宣言だよ。僕は君に攻撃しない。防御と回避だけしてるよ」
「はあ!? 舐めてんのか!?」
この宣言に目くじらを立てて怒鳴るキールだが、霜葉は本気だ。そんな霜葉を見てブルスは決闘前の会話を思い浮かべる。
「なんで決闘をするんだ?」
「このままではキールは危ないので、彼の自信を粉砕します。それで冒険者をやめるようならそれまでです。むしろ他の子供たちの安全を考えるとその方がいいでしょう」
「それもそうだが・・・どうやって?」
「理屈攻めですね」
などと言っていた。理屈攻めと言う言葉と今の宣言で霜葉の行うことの予想をするブルス。何より二人の武器を見比べると霜葉の宣言は難しいことではない。
「ふざけやがって! 俺の実力を見せてやる!」
「ふざけてはないよ?」
「とりあえず、両者開始位置に」
ブルスさんの言葉で二人は一定の距離を置き武器を構える。
「それでは・・・始め!」
「おらぁ!」
ブルスさんの開始の合図でキールは速攻で突きを放つが、距離が離れており普通の槍より短い槍でははっきり言って意味のない攻撃だ。普通なら構えた状態で相手に徐々に近づいてから攻撃するものだが。
そんな攻撃ともいえないお粗末なものを霜葉は余裕で回避。さらに霜葉はキールから離れ短剣を持った右腕を低く構え、体は正面ではなく側面を相手に向け左手は後ろに回しできるだけ身体を小さく見せる。
その構えを見た周りの冒険者たちは感心した。霜葉の構えは理にかなったものだからだ。小さな武器を持っているならこれ以上はないと言えるほどの。
対してキールの構えはお世辞でも褒めることができないひどいものだ。短槍なのに両手で持ち、必要以上に力を込めている。これでは短槍の利点を生かすことはできない。
「おら!」
それからもキールは霜葉を攻めるがことごとく霜葉によけられ、または短剣で弾かれて全くかすりもしない。当然だ。キールの攻撃が大雑把なのもそうだが、最大の理由は霜葉が防御に集中しているからだ。
そもそも戦闘で一番隙が多いのは攻撃中や攻撃後または攻撃しようとした瞬間だ。攻撃せずに防御に集中している相手を倒すのはよほど実力に差がないと難しい。
ましてキールは槍の扱いが雑すぎる。槍の最大の攻撃手段は突き。だがそれはあくまで最大であって他の攻撃手段としては斬撃や刃の反対側を使った打撃もできる。ついでに邪道ではあるが棍のように振り回して攻撃することも可能と言えば可能だ。
それらを考えるとキールの攻撃手段は力を込めただけの突撃じみた突きだけ。しかもそれを普通の槍でならともかく短槍でやっている。これは武器を全く理解していない行動だ。
「はぁっはぁっはぁ・・・」
「全力で攻撃してばっかりだからすぐ疲れるんだよ?」
「うるさい! 最大の攻撃が当たればそれで終わりだろうが!」
「それは当たればの話でしょ?」
さすがに全力の攻撃をし続けたせいで息が上がってきたキール。その為、今は攻撃せずに離れている。ここで霜葉は予定通り理屈攻めを行う。
「相手だって負けたくないから攻撃を回避または防御するのは当たり前。だからこそ攻撃側は攻撃を当てるために工夫しないといけない。こちらだって攻撃を身体に当てないために回避や防御の技術は学ぶ必要がある。君はそういうことをしたことあるの?」
「そんなことする必要は」
「あるんだよ。防御や回避の技術を学べば相手がどんな行動をするのかを予測することもできるし、逆に自分がどうすれば相手に攻撃を当てられるかもわかるようになる。知っているってだけでもかなりの差が出るんだよ?」
武器の違いがあれど回避や防御と言うのは似通った部分がある。腰の落とし方、力の込め方、または脱力するタイミング。魔物では意味のないことだが人相手であれば回避や防御の訓練と言うのはいろいろな意味で馬鹿にならない。
「君が冒険者を続けると言うのなら、必ず人相手に戦うことがある。その為にも君は学ばなければならないことが多いんだよ? それなのに狭い世界で自分は強いだなんて自信なんて持つんじゃないよ」
「うるせぇ! 俺が強いのは事実だ!」
「僕に攻撃を一撃も当てられないのに?」
「てめぇが避けたりするからだろう!」
「話聞いてた? 僕だって負けたくないんだから攻撃しないって宣言したのなら回避や防御するにきまってるだろう? 僕が宣言した時に君がしないといけなかったのは宣言の取り消しだよ。回避や防御に集中している相手に勝つような実力は君にはないんだよ」
「う、うるさい!」
霜葉の言葉を遮って、またも無意味な突撃攻撃をするがあっけなく回避される。その直後にキールは足が絡まりこけてしまう。
「く、くそ・・・」
「攻撃に全力だから体力も続かない。そもそも短槍で突撃なんて無意味なんだよ」
「なんだと!?」
「短槍の利点は普通の槍よりも扱いやすいのと片手でも扱える軽さだよ? だから正しい攻撃は手数重視の攻撃や速さを意識した突きだ。 さらに言えば片手でも扱えるからもう一方の手に軽い盾も持つことができる。 正直、君は攻撃を意識しすぎだから小さくてもいいから盾を持った方がいいよ」
「ブルスと同じこと言うなよ!」
「あのさ~ブルスさんがその助言をするっていうことは君に必要なことなんだよ? ブルスさんが弱くなるようなことを君に言うと思う?」
これは霜葉も確認したことだが、最初にブルスたちのパーティがキール達に戦い方を教えた時にキールには短槍と小楯を持つスタイルを考えていた。だが、当初のキールではさすがにその二つを持って戦う体力も筋力もなかった。
そこでまずは短槍を持たせて体力と筋力を上げてから、再度小楯を持つことを提案するつもりだった。そのことを実行する前にキールが増長してしまったわけだが。
「そもそも、自分が強いって証明するのならなんで僕に決闘を申し込んだの?」
「お前なら俺より弱いだろう!」
「今僕相手に苦戦しているのは誰だよ?」
「うるせぇ! 大体なんで【魔物使い】が接近戦できるんだよ!」
「それを教えてもいいけど、その前に一言いい?」
「なんだよ・・・」
「臆病者」
「はぁ!? なんだと!」
「だってそうだろう? 君は弱いって判断した相手としか戦わない臆病者だ」
霜葉の侮辱ともいえる発言にブルスとそのパーティは驚くが、最後の霜葉の言葉で気付いたことがある。
「誰が臆病者だ!」
「じゃあなんで僕と決闘してるんだよ? 自分が強いって証明したいのなら身近にいたブルスさんに決闘を申し込めばいいだろう? それをせずに自分より弱いって判断した相手に決闘を申し込んでいる時点で臆病者の証明だ」
「自分より弱い相手と戦って何が悪いんだよ!」
「あのさ、冒険者っていうのは常に危険と隣り合わせなんだよ? 依頼の最中に自分より強い魔物と出会うなんてよくあるんだよ。実際、僕もこれまでそう言う事態を経験している」
霜葉の言う通りでたとえ比較的安全な薬草採りなどの依頼を受けても、突発的に魔物と遭遇することは多い。ましてやその遭遇した魔物が弱いとは限らない。自分たちよりも強いなどと言う事態はあり得る話だ。
「ここ最近で言えば、この町に来る途中でフロストワイバーン三匹に遭遇して苦戦していたブルスさんたちも見てる。でも、彼らは逃げ出さず護衛していた依頼人を必死に守ろうとしてたよ? 彼らが戦っていたからこそ僕の間に合って助けることができた」
ブルスのパーティではフロストワイバーン一匹ならなんとか倒すこともできただろう。三匹は彼らの実力では倒すのは難しい。それでも彼らは逃げず、諦めず、弱音も吐かずに依頼人を守るために必死に戦った。
「わかった? 決闘っていう安全を配慮した戦いですら強い者との戦いを回避する君は臆病者なんだよ? そんな君が強いだって? そんなことあるわけないだろう」
霜葉はふざけず、笑わず、至極真面目に言葉を言いきった。そんな霜葉に対してキールは数秒ほどうつむいたが・・・
「うるせぇ!!!」
再度突撃し、霜葉の顔面目掛けて突きを行った。当然これは決闘のルール違反。この瞬間にキールの負けが決定。ブルスが止めようと動くがそれより先に霜葉が行動した。
「ルール違反したのはそっちが先だから」
霜葉は斜めに進み槍が右ほほをかすめるぎりぎりで回避。一方のキールは霜葉が前に進んだことで止めるタイミングをずらされた。そのまま霜葉の構えた左ひじに激突。
「がは!」
キールの防具は軽さ重視のためあまり防御力がない。まだ子供なキールがちゃんとした防具をつけれるほど体力も筋力もないのも理由だが、突撃の勢いもプラスされた左ひじの威力は強烈で彼はその場にうずくまる。
「これが実戦なら、左ひじじゃなくて短剣を構えていたよ?」
「!!!」
霜葉は一切の躊躇もなく告げる。実戦なら君はもう死んでいると。その事実に今更ながら震えるキール。そんな両者にブルスさんは近づき・・・
「この決闘はキールのルール違反により、勝者はソウハだ」
宣言しなくてもだれが見てもはっきりとわかる勝者と敗者だが、はっきりとわからせるためにブルスは宣言した。これ以上ないほどの結果をキールにわからせるために・・・
遅くなっている理由としましてはポケモン最新作のダウンロードコンテンツやらあつ森やらやっているのもそうですが、ちょっと精神的にきつくゲームで息抜きしている時間が増えてます。詳しくは活動報告で。
次回の更新は未定です。




