第一章 第七話 女王国編7
今回説明多めです。
霜葉たち召喚者(最近こう呼ばれることが増えたのでここでも使うことにした)たちが戦闘技術や知識を学び始めてから3週間が経過した。おかげで色々なことが分かった。
まずは基本的なことから説明しよう。この世界のお金は価値の低い物から順に鉄貨<銅貨<銀貨<金貨<白金貨<王金貨となっている。それぞれ日本円で考えると・・・・
鉄貨・・・・百円
銅貨・・・・千円
銀貨・・・・一万円
金貨・・・・十万円
白金貨・・・・百万円
王金貨・・・・一千万円
これくらいの価値だ。4人家族が一か月暮らすのに贅沢をしなければ銀貨4枚もあれば十分らしい。白金貨は商人が大口の取引の時に使い、王金貨は国同士が主に使う貨幣だ。
次にこの世界の文化について、この世界は地球で言えば中世の時代をイメージすればいい。ほとんどの国は君主制で貴族がいて平民がいる。貴族の位は低い順に男爵<子爵<伯爵<侯爵<公爵と昔の地球と変わらない。
科学文化は無いが代わりに魔法文化があり、シャワーやトイレなどは錬金術師があるものを参考に作った魔道具だ。魔道具が地球での電化製品の代わりのような物で、冷蔵庫やオーブンなども高価な物だがある。
魔道具について詳しく説明する前にこの世界特有の生物、魔物についても語らねばなるまい。と言っても魔物については多くのことは分っていないらしい。多種多様であり強い魔物もいれば弱い魔物もいる。今この瞬間ですら新種の魔物が誕生しているかもしれないと言うのだ。わかっているのは・・・
・魔物は動物が変異したタイプと初めから魔物として生まれたタイプの二種類。
・魔物は共通で心臓に魔結晶と言う宝石がある。
・魔結晶は魔物の強さで大きさや価値が変わる。強い魔物や長く生きた魔物ほど価値が高い
これくらいだ。魔結晶とは魔力がそのまま結晶化した物であり魔力そのものなのだ。そしてこの魔結晶と言うのが魔道具の動力なのだ。しかも動力としてセットしてある魔結晶が無くなれば新たな魔結晶をセットすればまた使える。召喚者たちは最初説明された時に電池みたいと思ったそうだ。
そんな需要の高い魔結晶は当然魔物を倒さねば手に入らない。しかし魔物は一番弱い物でも素人が倒せはしない。そこで魔結晶の定期的な確保や高品質の魔結晶が欲しい者は冒険者ギルドに依頼を出す。
冒険者ギルドとはざっくばらんに説明するならばなんでも屋だ。魔結晶の確保以外にも商人の護衛、薬草採取、家の草むしりなどの雑用まで、依頼してそれを受けたならば完遂するのが冒険者だ。
他にも各国の特徴、知っておいた方がいい常識などを教わりこの世界のことを学んだ。
「初めはどうなるかと思ったが、人間慣れるもんなんだな」
「確かに、今の所大きな問題は霜葉君のジョブくらいだしね」
「ごめんね二人とも心配かけて」
「あ、ごめんなさい。そんなつもりで言ったんじゃ・・・」
「霜葉は気にする必要はねぇって、裕佳梨もそこまで大事にする必要はないと思うんだが?」
『ご主人~元気出す~』
『主元気出してください~』
『ありがとう二人とも』
「とはいえ、、霜葉君のジョブが大きな波紋を呼ぶことは間違いありませんから、注意はするべきでしょう」
ここは霜葉たちの部屋。今日の訓練や座学が終わり部屋に戻ってきたところだ。そこに生徒会長が訪ねてきて雑談しながら、夕食の準備を待っている。
「訓練や座学を始めて3週間が経ち、生徒たちはだいぶこの世界に慣れてきたようですから、そろそろ次の段階に行くべきでしょう」
「次の段階?」
「そう言えば聖夏先輩。訓練が終わった後女王陛下に呼ばれたみたいですが、何かあったんですか?」
「女王陛下からある提案がされたんですよ。その件を今日の夕食時にでも生徒たちに言うつもりですから、その時にでも」
「わかりました」
『お話終わった~?』
『主遊んで~』
霜葉たちは夕食まで、白夜や十六夜にじゃれつかれるのだった。そして、夕食の時。召喚者の食事は女王陛下と最初に謁見した大広間で行うことになっている。これは召喚者全員が揃った方が安心できるだろうと言う女王陛下の気遣いだ。さすがに最初の夕食のように豪華ではなくなったが。そして、皆が食べ終わる頃に・・・・
「皆さん申し訳ありませんが、私の話を聞いてください」
最初の夕食の時の副会長と同様に大広間の高めになっている床に立ち、生徒会長は召喚者全員に呼びかけた。ほとんどの者が生徒会長に視線を向けて何が始まるかと注目する。
「この世界に来て3週間。皆さんこの世界のことを理解できた頃と思います。また、訓練でも全員が武器の扱いにも慣れ、魔法術もある程度は使いこなしていると思います」
少なくとも武器スキル持ちの召喚者は、武器を持って体を動かしても最初の頃のように疲れたりする事はないし、魔法術スキル持ちもいくつかの魔法術を使えるようになった。
「今日、女王陛下からある提案がされました。それは3日後の騎士団による魔物の調査及び魔物の駆除に同行しないかという物です」
「「「「「え?」」」」」
「この提案は私たちが魔物という物を知識でしか知らないため、実際に見てみるべきではないか?という物です。そこで魔物を目にして可能ならば戦闘も経験したらどうかと言われました」
「「「「「!!」」」」」
戦闘。確かに召喚者たちは自衛のため訓練を重ねてきた。しかし、実際にそれができるかと問われれば即答はできないだろう。彼らはそう言うのとは無縁な生活を長い間してきたのだから。
「少なくとも騎士たちが一緒ですし、危険は少ないと判断できます。ですが、こればかりは無理強いはできません。ですので参加する意思を持った方は3日後の朝食後に訓練所に集合してください。やはり無理だと言う方は、訓練や座学を続行、もしくは生産スキルを試すのもいいでしょう。女王陛下にはそのように伝え了承をいただいております。独断でこのような事を決めて申し訳ありません。ですが、いつかは経験しないといけないことだとも思うのです。どうかよく考えてください」
「「「「「・・・・・」」」」」
召喚者たちは無言。生徒会長の言う通りこの世界で生活するなら魔物は見ておいた方がいいのだろう。戦闘も経験できるのなら安全な時に経験するべきだろう。しかし、それでも彼らは躊躇していしまう。戦闘を経験すると言うことは魔物の命を奪うと言うこと。魔物が危険な物だと頭では理解していても、理屈で理解しているだけなのだから。
「あ~そうだよなぁ~いつかは危険なことに巻き込まれるかもしれないんだし経験できるうちにしとかないとなぁ~」
「そうですね。怖いし恐怖はありますが、何もしないままお城でお世話になるのは嫌ですし」
「裕佳梨の場合は治療院ってとこで働くって選択肢もあるんじゃないか?」
「興味がないわけではありませんが、私は健吾君と一緒に居ます」
「お、おう。ありがとうな」
「ふふ、どういたしまして」
裕佳梨の突然のセリフに顔を赤くして明後日の方向を向く健吾。多分、顔は赤くなっているだろうと予想して笑顔を浮かべる裕佳梨。アー暑い暑い(棒読み)
「二人とも僕たちも一緒にいいかな?」
「わん」
「にゃ~」
「お、おう!いいぜ!でも、お前もドルトス第二王子から治療院か騎士の医療班的なとこから勧誘されてなかったか?」
「結構熱心に勧誘してたよね。それに付与魔法術のこともいろいろ教えてくれたし」
治療院とは地球で言う所の病院のような所だ。職業で【薬師】や【回復魔法術師】が働いている場所で、薬師はともかく回復魔法術師は人手不足であり、回復魔法術スキル持ちなら職業が違う者でも受け入れてくれるだろうと言うことでドルトス王子は霜葉にそこで働くことを進めてきたのだ。また、騎士団の中にも治療を専門とする部隊があるためそこも進められた。
「でもそこに行くなら、ジョブは変えた方がいいって言われたから。ジョブを変えたらこの子たちが仲間じゃなくなっちゃうしね」
「あ~そうか。それがあったか」
職業は特定の場所で変えることができる。その場所とは冒険者ギルドと教会だ。冒険者ギルドでは登録する時に変えることができ、それ以降はお金を払うことでいつでも変更可能だ。教会の方は冒険者ギルドよりも高いお金を払わなければいけないが、冒険者ギルドは登録しないと利用できないため、一般的には教会が利用される。とある事情で教会はお勧めできないと言われたが、詳細はいつか必ず。
(それに、僕の場合ジョブを変えられるかわからないし、ジョブを変えた時にばれる可能性もあるから)
(なるほど)
「とにかく、皆よろしくね?」
「おう!こっちこそな!」
「よろしく」
『ご主人を守るよ~』
『主を守るの~』
「なんだ?お前も行くのか?」
霜葉たちが話し合っていると、話しかけてきた者がいた。誰かと思い3人と2匹が声のする方へ振り向くとそこに居たのは・・・・
「副会長・・・」
「なんか用ですか?副会長」
「お前みたいな弱いジョブ持ちは行くべきじゃない。足手まといだ」
「へ?」
「いきなり失礼じゃないですか?副会長」
「ぐるぅ~!」
「フシャー!」
「その二匹が魔物に変質して仲間にできたからと言って戦闘に役立つとは思えんしな」
白夜と十六夜が召喚に巻き込まれたことで魔物となり、霜葉にテイムされたことは召喚者たちと城の者には説明済みだ。テイムを試してみたらできて、ステータスを確認したら魔物になっていたとの説明に城の者たちは驚いていた。
「霜葉は確かにジョブは弱いかもしれないが、スキルは強力なんだから役立つだろう」
「ふん、魔物使いが強力なスキルを持ていようが、弱いのに変わりはない。足手まといになるのが分かっている者を行かせるわけにはいかないのだ。皆の安全のためにもお前は残れ」
「随分な言いぐさですね。いつの間にそんなに偉くなったのですか?」
副会長が霜葉に難癖をつけていると、生徒会長が話しかけてきた。
「生徒会長も言ってやってください。こいつのような足手まといを連れていくわけにはいかないと」
「いえ、霜葉君にはできれば付いて来てほしいそうです。ドルトス王子がそう言っていました」
「・・・・はぁ?」
「何ぶん魔物を相手にするため、たとえ弱い魔物でも手傷を負う者はいますし、強力な魔物と遭遇する可能性も零ではありません。また生徒たちが戦う場合もあるでしょうから、治療できる者は多い方がいいそうです。戦わなくてもいいから同行をしてくれないか頼んでみてくれと言われましてね」
「では、明日あたりにでも返事を伝えておきますね」
「お願いします」
「ちょ!ちょっと待ってください!本当に連れて行く気ですか!足手まといですよこいつは!」
「戦闘経験のないあなたの意見より、ドルトス王子が問題ないと判断したのです。そちらの方が信用できます」
「くぅ!」
「それと、女王陛下がこのことを提案した時、あなたと全く同じことを言った人がいたのですが、これは偶然ですか?」
「お、俺はこれで失礼する!」
そう言うと副会長は、最近副会長と一緒に行動している集団に合流して、霜葉たちから離れて行った。
「あんな態度ではバレバレですね。やはり彼はトップの器ではありません」
「生徒会長・・・・容赦ないっす」
「聖夏先輩、ありがとうございます。助かりました」
「いえ、生徒会の所属する者が迷惑をかけたのです。このくらいはしなくては」
副会長は最近、霜葉に対してこのような難癖をつけ始めたのだ。なぜそのようなことを始めたのかは・・・
「それより、聖夏先輩?先ほどのことはやはり・・・」
「ええ、アルバン王子も副会長と全く同じことを言っていました。最終的に女王陛下が本人が決めることですっと言って引き下がりましが、副会長と示し合わせたのでしょう。全く本当に嫌な人ですね」
「最近は、アルバン王子は何もしてこなかったけど、副会長がちょっかいを始めたのも・・・」
「まず間違いなくアルバン王子の入れ知恵でしょう」
これが四人の共通見解だ。さらに先ほどの集団は職業が強力な者たちの集まりで、霜葉や生産職に就いた者たちを戦闘では使えないとして見下しているのだ。もっとも強力な職業と言ったがこの四人ほどではない。
一般的にも最初に就いている物としては強いくらいだ。
「あの~聖夏先輩、3日後の調査や駆除は大丈夫でしょうか?アルバン王子が霜葉君に何かするんじゃ」
「そこは心配ないと思います。騎士団はドルトス王子の味方が多いようですし、それに今そんなことをすれば自分がやったと言っているようなものです。女王陛下やドルトス王子もアルバン王子のやっていることには気づいていますしね」
「なら特に心配する必要はないのか?」
「ただ念のため霜葉君は一人では行動しないようにしてください。裕佳梨さんや健吾君の傍に居てください」
「わかりました」
「俺達も気を付けておきます」
「まかせてください」
『僕たちもいるの~』
『主お守りするの~』
『うん、二人もありがとうね』
『えへへ♪』
『わ~い♪』
霜葉の足にじゃれつきながら、霜葉を守ると言ってくれた2匹を霜葉はお礼に撫でてあげた。気持ちよさそうに目を細める2匹を見て和む4人。それからは部屋に帰り、初戦闘に備えて寝る前に話し合いをするようになり、そしてとうとう3日後の朝食後・・・・
「結構みんな集まったな」
「生産職の人たちは半分くらいですかね?」
「みたいだね」
『人いっぱい~』
『でも少ない~?』
朝の訓練所には召喚者たちが集まっていた。ここに集まったのは魔物を見るためと戦うことまで決意した者が半々と言ったところか。無論ここに来なかった者も居る。来なかった者は全員が生産職だったので他の召喚者たちが行っている間に生産スキルを試す予定だ。
「よし!そろそろ出発するぞ!それと悪いが人数が多いのでな。4つに分かれて東西南北の門からそれぞれの調査場所に行ってもらう!俺は同行できないが4人いる副団長が指揮する騎士団がいるから大丈夫だ!」
ドルトス王子がそう宣言した後、召喚者たちは数がなるべく均等になるように集団を作った。結果、霜葉たちは西の森へ行く班になり騎士団の準備した馬車に乗り出発した。
「なんか俺達だけ馬車に乗ってるのはなんか悪いな・・・」
「そうだね・・・何人かの騎士団の人は歩いてるのに」
「うん、体力には自信がないけどさすがにね・・・」
「遠慮は無用です。召喚者様たちは大事な客人ですのですから。それにこれは体力訓練の一環でもあります。気になさる必要はありません。歩いて一時間ほどで着きますしね」
霜葉たちに答えてくれたのは4人の副団長で唯一の女性だった人だ。名をソルア・ルーバンスと馬車に乗る前に自己紹介していた。
「一時間ほどか、俺達の時間感覚なら一時間もかかるなんだがな・・・」
「移動手段が歩きか馬車しかない世界だからね」
「そうですね。そう言う感覚的な物も慣れる必要があるかもね」
「そろそろ西門に着くころです」
ソルア副団長の言葉で窓の外に注目する三人。なお、白夜と十六夜は霜葉の膝の上で寝ている。窓の外には大きな壁が城下町を囲んでおりその高さは5階建てのマンション位はありそうで、壁の頂上に見張りをしている兵士が見える。西門はその壁の半分くらいの大きさの門で今は解放されている。
「おっきい壁だな・・・」
「あれはひょっとして魔物対策ですか?」
「はい、この世界はほとんどの町や村は壁で囲まれています。魔物対策と同時に戦争時の城壁でもあるわけです。もっとも魔物問題があるため戦争などは滅多に発展しないのですが」
ソルア副団長曰く、下手に大部隊で街道や森などを移動すると、そこに住まう魔物を刺激して襲われることがあるのだとか、それゆえ戦争での進軍が出来ずにやるだけ無駄と言う認識なんだとか。そう言う認識になるまでは戦争もあったようだが・・・
騎士団と召喚者たちは西門を通過して、約1時間ほど進んだ先にある森を目指す。
「そう言えば、魔物の調査や駆除と言うことでしたが、具体的にどんな調査や駆除をするんですか?」
「魔物の調査の方は森にある街道を中心に近くで魔物が近ずいた痕跡がないかの確認。駆除の方はゴブリンやオークなどの亜人系の魔物がいないか調査していれば始末します。亜人系の中でもこの二種類は危険度が高く、平民でも見つけた場合は報告の義務があるほどです」
「え?ゴブリンとオークってそんなに強いのか?」
「いえ、この2匹の危険度は強さではなく繁殖能力の高さです。奴らは人の女性を襲い孕ませるのです。しかも出産も成長も早く、ゴブリンの団体に一人でも女性が囚われれば半年で倍になると言われています。オークも似たようなものです。ですのでこの2匹は冒険者ギルドでも発見すれば報告と討伐を義務化しています」
「そ、そんな・・・・」
この話を聞いて裕佳梨は顔面蒼白になった。女性の方がこの話はきついだろう。
「ですが、ご安心を。ここ最近はこの2匹の発見報告は王都周辺では確認されていませんから。居たとしても群れからはぐれた個体でしょう。我々騎士団が注意していますので召喚者様方は自身の事をお考えください」
「・・・・はい、教えてくれてありがとうございます」
霜葉はお礼を言って、健吾は裕佳梨を落ち着かせようと声を掛けている。まだ見ぬ魔物たちに二人は気を引きしめた。
それから、1時間後。目的地の森へと着いた騎士団と召喚者たちは、街道のから離れた所で簡単な野営の準備をした。と言っても昼飯作るための焚火と休憩所のテントを張るだけだが。これも経験と言うことで召喚者たちも手伝った。ここで活躍したのは生産職に就いた者たちだった。手際よく火をつける者、テントを手際よく張る者となかなか慣れた手つきで作業をする。
「皆手際いいね~」
「お前だって火をつけるのは上手かったじゃねえか、火打石なんて使ったことあるのか?」
「ないよ?多分調理術が関係してるんじゃないかな?」
「そうなのかな?」
まぁ、効率よく作業ができるのならいいかと言うことにした3人。なお、魔法術で火をつけないのは魔力温存のためだ。これから不測の事態が起きないとも限らないので、温存できるならした方がいいと言う考えだ。
準備ができたのでいくつかのグループに分かれて、調査と駆除のため森へと入る。霜葉たちはソルア副団長の補佐二人と一緒だ。ソルア副団長は野営地で待機。不測の事態になれば発煙筒のような魔道具で知らせることになっていて一番の手練れであるソルア副団長がいつでも駆けつけられるように。
「召喚者様方、今日はよろしくお願いします」
「危険はないと思いますが、注意して進みましょう」
「はい、お二人ともよろしくお願いします」
『よろしく~』
『お願い~』
「「よろしくお願いします」」
挨拶を交わして、森へと入って行く霜葉たち。先頭に盾持ちの騎士が一人と大盾を持っている健吾が、真ん中に霜葉と裕佳梨と白夜と十六夜、そして殿に二刀流の騎士の隊列で進む。なお、霜葉と裕佳梨は杖を持っている。理由は使い込んでいると杖術スキルが手に入るかも知らないからだ。杖術スキルは魔法術の効果を上げてくれるし、万が一のためにも武器スキルはあった方がいいと勧められたからだ。
「ちなみにこの森にはどんな魔物がいるんですか?」
「そうですね、ゴブリンやオークは別にして今まで確認されたのは、ランドウルフにランドボア、ニードルラビット、スピアディア―くらいですか」
「結構な種類がいるんですね?」
「王都周辺では唯一の森ですからね。自生している果物や食べられる山菜なども豊富ですし、それを目当てに魔物も集まります。ランドウルフなども獲物が多いから集まってきました」
「なるほど」
「魔物の強さは、どれも似たり寄ったりです。油断しなければ召喚者様方でも倒せるでしょう」
「・・・・・狼や猪と同程度の強さの兎って・・・・」
「はは・・・私たちからしたら違和感があるよね?」
兎が強いと言われ、何か納得できない健吾であった。
「それと、これは未確認の情報なのですが、ブルーベアを見たと言う目撃情報があるのです」
「ブルーベアですか?」
「ブルーベアとはその名の通り青い毛皮の熊ですが、魔物ではかなり強い種類です」
「今回の調査はその痕跡を探すのも任務の内ですね」
「そんなに危険なんですか?」
「強さ的には先に上げたどの魔物より強いです。我々が二人がかりでも厳しいでしょう」
「マジか・・・・」
「ですので万が一出会えば、この魔道具で副団長を呼ぶことになると思います。その間、召喚者様方は我々が守りますので我々の指示に従ってください」
「わ、わかりました・・・」
強そうな騎士二人が勝てないと判断するブルーベア。一体どんな魔物なのだろうか?その後しばらく進んでいると・・・・
「ぐぅ~」
「にゃー」
白夜と十六夜が足を止め前方を睨みつけた。
「なんだ?」
「どうかしたの?」
『二人とも、何があったの?』
『前にいやなにおいがするの~』
『いやな音もです~』
「多分、この子たちの嗅覚探知と聴覚探知で何かを見つけたんだと思う」
「ふむ?でしたら、静かに移動してみましょう」
ここからは音を立てずに静かに前へと進む。しばらく進むと目の前に頭に三本の小さな角を生やした兎が二匹木の下で寝ていた。
「あれって?」
「あれがニードルラビットです。二匹一緒にいるところを見るとオスとメスでしょう」
「な、なんかかわいい・・・」
「そうか?この二匹の方がかわいいぞ?」
『ご主人~ぼくかわいい?』
『主わたしは~?』
『うん、二人はかわいいよ?』
『『わ~い♪』』
「確かにニードルラビットは貴族の間で飼われるのが増えた魔物です。ですが、魔物は魔物です。今この時は倒すべき敵です」
「は、はいわかりました」
ニードルラビットの可愛さに裕佳梨が気を緩めたが、騎士の言葉で引き締め直した。
「では、我々が倒してきますので・・・・」
「待った。騎士さん俺らに戦わせてくれないか?」
「「健吾君?」」
「いきなりで大丈夫ですか?まずは我々の戦いを見てからの方が・・・」
「いや、ここで怖気づいたらなんかダメな気がするんだ。それに強いと言ってもあんな可愛い奴とすら戦えないんじゃあれより怖いやつとは戦えないよ」
「・・・・否定できませんな」
「・・・・わかりました。しかし我々が危ないと判断した場合は、すぐに割って入ります。それは覚えておいてください」
「わかった。ありがとう」
二人の騎士は健吾の意見を聞き入れた。
「わりぃ。二人とも勝手に決めちまって」
「いや、健吾君の言ったことは正しいよ」
「そうですね。あんな可愛い子たちに怖気づくようじゃ、猪と鹿と戦えませんよね」
「二人ともありがとう。あとはどうやって戦うかだけど・・・」
「ここは盾を持っている健吾君が、一撃を与えるのがいいよ。寝ているわけだし初撃は入れたいよね」
「その後はどうします?」
「一匹を健吾君と裕佳梨ちゃんが相手をして、もう一匹は僕とこの子たちが引き受けるよ」
『がんばるの~』
『たおすの~』
「大丈夫か?」
「さすがに倒そうとは考えてないよ。健吾君が相手を倒すまで時間稼ぎするから」
実際ここから見た限りではニードルラビットの大きさは白夜と十六夜より一回り大きい。さすがに倒すのは無理だと判断した。
「わかったぜ。なるべく早く倒すから頼むな?」
「うん。お願いね」
話し合いが終わり、健吾が前に出て裕佳梨はその後ろに霜葉と二匹は二人からやや離れて進む。そして・・・
健吾は一気にニードルラビットに向かって突撃した!持っている戦棍を当てるために構えながらだ。そして戦棍の間合いにもう少しと言うと言う段階で・・・
ニードルラビットが突如起き上がり、健吾は咄嗟に武器を振るうがニードルラビットは戦棍を避けた!
「なに!?」
当てるつもりで振るった武器を避けられ、驚愕する健吾。避けたニードルラビットはそのまま着地すると角を健吾に向けて突進してきた!
「く!?」
この攻撃は大盾で防いだが、そのままニードルラビットは突進しては離れるのを繰り返した。慣れない戦闘で健吾は防ぐのがやっとだ。その隙にもう一匹のニードルラビットが後ろから突進しようとした時・・・
「させないよ!白夜、十六夜!頼むね!」
「わん!」
「にゃー!」
「まずは、【ブースト】!【ブースト】!」
霜葉は二匹に指示を出して、付与魔法術で二匹の身体能力を上げる。ここで呪文名だけで魔法術が発動したのは霜葉の持つスキル【無詠唱】の効果だ。これは呪文を唱えずに呪文名だけで魔法術が発動できる様になるスキルだ。霜葉は訓練でこのスキルを使いこなしていたのだ。
「わーん!」
「!!」
「にゃ!」
白夜が吠えると、ニードルラビットが視線を急に白夜へと向けて固まった。その隙に横へと回り込んだ十六夜が顔をひっかいた!
「きゅ!!
「わん!」
さらに続けて、白夜がニードルラビットに突撃して首に噛みついた!そのまま力を込めて喉をふさぐ!
「!!!」
ニードルラビットはやっと動きだし、白夜を振り払おうと体を左右に振る。しかし白夜は簡単には離さない。そこに・・・・
「【アタックブースト】!」
霜葉が付与魔法術を追加した。今の呪文は攻撃力限定のブーストでただのブーストよりは高く攻撃力が上がる。付与魔法術に関してはドルトス王子から教わり、霜葉はいくつかの呪文を教えてもらっている。
しかしここで予想外のことが起きる。呪文が掛かった直後、白夜はニードルラビットの喉を噛み千切ったのだ!喉を噛み千切られ呼吸が出来なくなったニードルラビットは絶命した。霜葉としてはそのまま押さえてもらおうと思って呪文を掛けたのだが・・・これを見ていた騎士たちも驚いている。そして白夜は引き千切った肉を吐き出して、十六夜と共に霜葉のもとへ。
『ご主人~たおせたの~』
『主~ほめてほめて~』
口の周りを血で染めて霜葉の下にやってくる様は、子犬でも怖いだろうが、霜葉は・・・・
「二人ともご苦労様。白夜は動かないでね?【クリーン】」
いつも通り二匹と接した。さすがにそのままではまずいと判断して【クリーン】を掛けたが。
「二匹ともすごいな!俺も負けてらんないぜ!!」
ニードルラビットの攻撃を防御しながら二匹の活躍を見ていた健吾は、相手の突進に合わせて大盾を振るった。するとニードルラビットが大盾に激突した瞬間にゴキ!!と言う音が響き、ニードルラビットは吹き飛び近くの木に当たり動かなくなった。おそらく首の骨が折れたのだろう。
「うわぁ・・・手応え気持ち悪い・・・これが命を奪うってことかよ」
「大丈夫健吾君?」
こうして霜葉たちの初戦闘は終わった・・・・
やっと戦闘まで行けた・・・