第三章 第三十五話 商王国編35
大変お待たせしました。
雪山に異常が発生している可能性があるとギルドマスターであるビーキスからその調査を依頼された霜葉たち。雪山の麓で群れていた魔物たちを蹴散らして、雪山を調査した結果・・・原因がフロストオーガたちの群れにキングオーガが誕生していることを知った。
その情報を教えてくれたのは、フロストオーガたちの攻撃から仲間の子供をかばっていたホワイトトロールの長だ。彼らはフロストオーガたちに襲われて仲間の一部が命をなげうって時間稼ぎをしてくれたおかげで助かったと言う。
その話を聞いた霜葉は、彼らを仲間に誘うことにした。霜葉の勧誘にホワイトトロールたちは受け入れてくれた。長の名をカイロスと命名して、フロストオーガたちの討伐にも参戦してくれる。仲間の敵を討つために。
彼らの武器に【箱庭世界】になっている樹木を丸ごと使い棍棒を制作。準備を済ませて霜葉たちはフロストオーガたちを探すために雪山を探索中だ。
とは言え、オーガたちの匂いと音を覚えた白夜と十六夜のおかげでどこに居るかはわかっているので、まっすぐにその場所へと向っている最中だが・・・
『ご主人。この先から嫌な匂いがいっぱいするよ・・・』
『嫌な音もです。主・・・』
「ありがとうね。二人とも」
討伐すべき対象を探し当てた二人をねぎらい、霜葉は最後の確認のために仲間全員を見渡した。
『この先にオーガたちが居るけど、みんな準備は大丈夫?』
『・・・アア』
新たに仲間になったホワイトトロールたちは仲間の敵を前に緊張しているようだ。それだけではなく以前の戦闘で負けたがゆえに恐怖を抱いているのかもしれない。そんな仲間に対して霜葉たちは声を掛ける。
『カイロス。大丈夫だよ? 君たちは以前とは違う。強くなってるし僕たちもいる。絶対に勝つよ』
『主様の言う通りですぞ。我々も力を貸します。仲間ですからな』
霜葉の言葉に北斗が続けて言葉を掛けた。それ以外の者たちも深く頷きやる気満々だ。そんな彼らを見たトロールたちは・・・
『みな・・・カンシャする・・・』
仲間たちの頼もしさを感じたのか、カイロスの言葉には感激の気配があった。他のトロールたちも緊張がなくなったわけではないだろうが、多少は肩の力が抜けたようだ。
その後、霜葉たちはゆっくりと警戒しながら進みしばらく経つと雪山の頂上に近い緩やかな雪原にそいつらは居た。
カイロスを助けた時はよく観察できなかったが、霜葉たちの目と鼻の先に青い肌をした筋骨隆々とした2mもありそうな鬼が居た。体のところどころに氷のような物体が張り付いているそいつらこそフロストオーガだ。
数は確実に二桁は居るであろう群れの奥に、鬼たちの中に居ても目立つ存在が居た。そいつは周りの鬼たちよりも高く、3mはありそうな身長に筋肉の体に氷の防具を着こんでいるかのような物体があった。
あれこそがこの雪山での異常の元凶であるフロストオーガキングである。他のオーガたち同様に鬼のような顔に牙が口から上に飛び出して、角も二本ある。周り以上に威圧感がありまさに王の貫録がにじみ出ている。
そんなオーガたちは近づいている霜葉たちに気が付くと気味の悪い笑みを浮かべている。獲物が自ら近づいてきたと思っているのかもしれない。キング以外は。
「ギグァ!」
キングからの低くとも確かな声が聞こえるとオーガたちはびくっと震えて、次の瞬間には気味の悪い笑みが消えた。キングは霜葉たちを見て本能で察したのだ。目の前にいる者たちは自分たちに匹敵すると・・・
その後にオーガたちは片腕に持っていた魔物の骨らしき大きな物を武器のように構え、霜葉たちに突撃した!
『みんな戦闘開始だよ! 【フルブーストワイド】!』
戦闘が始まる前に霜葉が仲間たち全員に【付与魔法術】を掛けて、戦闘力を底上げする。その直後に全員が事前に決めた通りの配置でオーガたちに戦いを挑んだ。
本来なら先制攻撃として魔法術を一斉に放ちたいところではあるが、ここは雪山で雪崩の危険があるためそれはできない。ゆえに最初は真正面からの激突となる。
フロストオーガたちは隊列も何もない力押しの突撃。一方霜葉たちはホワイトトロールたちを前面に出した密集陣形で徐々に近づいている。フロストオーガたちに見えないように後ろにはウェアウルフたちが潜みながら。やがて、両者は激突し戦闘が始まった。
先手はフロストオーガの攻撃でホワイトトロールたちは棍棒代わりの骨や拳の一撃を受けたが、攻撃を受けた直後に持っていた丸太棍棒で頭を殴打した。
これにはフロストオーガたちも驚愕し、予想を裏切った攻撃で何人かのオーガたちはふらふらしだした。その隙を逃すことなく、トロールたちの背後に隠れていたウェアウルフや子供のトロールが足に攻撃を集中させた。
「「「「ギガァ!?」」」」
まさか別の魔物が後ろに居て、トロールと協力するなどとは思っていなかったオーガたちは立つことができずに雪に埋もれることに。
その隙を逃さずに、大人トロールによる殴打の連続で何体かのオーガは動かなくなった。
倒されたオーガたちの後ろに居た仲間のオーガたちは怒りに表情を浮かべて、攻撃しようと駆け出そうとするが・・・
「マァ!」
先頭に居たオーガが空から落ちてきた三日月によって、一瞬で雪に埋もれた。出鼻をくじかれたオーガたちが唖然とする中、三日月は跳躍して仲間の中へ消えていき・・・
「グル!」
地面から土の杭【ロックグレイブ】が鋭利な先端をオーガたちに殺到し傷をつける。三日月によって雪に埋もれたオーガは貫かれて絶命。
さらには【ロックグレイブ】とは別に光の鎖【ライトチェーン】も出現してオーガたちを何体か縛り付ける。
訳が分からずにオーガたちは混乱し、その混乱の最中にトロールたちが迫り、攻撃を加えている。そんな状況の中フロストオーガキングは・・・
「ギグゥ!」
自身の周りで己を守らせていたオーガたちに指示を出す。その中から三体のオーガたちが攻めるために突出していたオーガたちの一番後ろの何体かを引き連れて、敵を包囲するために仲間の左右を移動する。
しかし・・・左右に回っていたのはオーガたちだけではない。左を進むオーガたちは突如として発生し冷え込んだ空気に一瞬身震いをした。このオーガの一団を率いる王の護衛は何が起きたのか辺りを見渡す。
すると、一体のオーガが首を半ばまで切断されて絶命していた。しかも傷口は凍ったかのように氷の粒があった。王の護衛は周りの者に警戒するように指示を出すが、もう遅い。
残りの者も体を切断されて倒れ始めた。驚愕する王の護衛だが、その瞬間に真正面から真っ白い何かが自身に迫り、首へと噛みつきそのまま意識を絶たれた。
右へと進むオーガたちは突如として、攻撃を受けた。その攻撃は速く王の護衛に目視は不可能だった。時折まばゆい黄色の光が見えるだけで、周りや自身にダメージと痺れが発生している。
しかも、いつまで続くのかと思われるほど次の攻撃の間隔が狭い。何もできずに両腕を防御の体勢で構えていると、倒れる音が聞こえた。
視線だけ隣に向けると仲間のオーガがところどころ焦げて倒れている。さらには続々と倒れるではないか。何が起きているのかわからないまま、王の護衛も背中から受けた切り裂かれる痛みと焼かれる痛みにより意識を刈り取られる。
左右に展開したオーガたちが倒されているとは知らずに、フロストオーガキングは自身の指示した結果を待っていた。ところがいつまで経っても状況に変化がなく、それどころかオーガたちが押され始めた。
最初の戦闘での混乱も収まり、今では純粋な戦闘が行われてところどころでオーガたちとトロールたちとウェアウルフたちが戦っている。
相手の主戦力はウェアウルフたちでホワイトトロールたちは真正面から攻撃を行い、彼らの防壁となっていた。ゲーム的な言葉で言えばタンク役と言ったところか。
とは言え、一度戦ってすでに勝っている相手にオーガたちは勝利を確信して攻撃していたが、何度か攻撃するうちにおかしいことに気付く。
自分たちの攻撃があまり効いている様子がないのだ。それどころかトロールたちの丸太棍棒の攻撃が以前の攻撃と比べて痛い。
とは言え大したダメージではない。ないのだが、確実に痛みを起こす攻撃を頭狙いで行われてはさすがに無視できない。片腕で防御するか相手の腕をつかみ身動きを封じるかする必要がある。
しかし、そうして行動が制限されるとウェアウルフたちが足を集中して攻撃するのだ。立派な武器を持ったウェアウルフたちが足を攻撃し、雪に埋もれさせてトロールたちがとどめを刺す。そうやってオーガたちは徐々に倒されている。
仲間のオーガが助けに行こうとしても【ロックグレイブ】や【ライトチェーン】で邪魔をされ、空からクマのような魔物が押しつぶしに来る。何体かはそれでも健闘し、相手を圧倒すると今度は空から美しい鳥の魔物が黒い何かを放ちオーガを倒すのだ。
その戦況に最初は高みの見物をしていたフロストオーガキングも苛立ち始めた。そんな時唐突に相手の奥に居る妙な輩が目に留まる。
「【アタックブースト】! 【エリアヒール】!」
その輩が何かをしているのは明らかだった。王は決断し残りの護衛すべてに指示を出し、あの輩を始末するように命じた。
この状況で王が命じた指示は、重要だと理解している護衛たちは全速力で奇妙な輩目掛け突き進む。誰にも邪魔されずにあともう少しで到達するときに・・・
「モグ」
「「「「モグ」」」」
いきなり目の前に石柱がいくつも飛んできた。金剛一家が放った【ストーンバンカー】である。とっさの防御が間に合ったが距離を離された。
体勢を立て直す間にウェアウルフたちが襲ってきた。仮にも自分たちは王の護衛に選ばれた強者。後れを取るわけにはいかんとオーガたちは戦闘を開始したが・・・
「【フルカースワイド】!」
突然体が重くなり、動きもぎこちなくなってウェアウルフたちに対応できなくなった。なす術無く狩られるオーガたちには自分たちに何が起こったのかはわからずに命を絶たれた。
王は訳が分からなかった。この雪山で敵なしだった自分の群れが徐々に倒されている。この状況を変えるための指示を出した者たちも帰ってこない。
混乱しかけた王の目の前でまた一人配下が倒される。その瞬間に王の体を支配したのは激怒だった。激しき怒りを宿したまま戦場へと足を進めようとしたが・・・
「グゥ!」
横合いからの攻撃に気付き、ガードするが三歩ほど後退させられた。攻撃してきた者に視線を向けるとそこに居たのは真っ赤な鱗に覆われた大きなクマの魔物だった。
「ギグァ!」
自身に攻撃してきた愚か者に対して、王は先ほど感じた激怒を込めて襲い掛かった。
「グゥ!」
「ギグァ!」
そこからは両者ともに一歩も引かずに拳の殴り合いや、爪を使ったひっかきにたまに噛みつこうとする。さすがはキング種であるフロストオーガキングは新月の攻撃に怯むことなく攻撃をしている。
しかし、分が悪いのはフロストオーガキングの方だ。地の利はキングの方にあり動きにも繊細さがある。反面、新月の攻撃に対して決して少なくないダメージを受けている。
地力の方は新月に分があり、今は霜葉の付与魔法術によって底上げされている状態だ。しかも新月はスキルの効果で相手の攻撃のダメージを軽減できる。
戦闘を始めた時は激怒に支配されていた王だが、ここにきて冷静になり相手の戦闘力を脅威と判断。王は切り札を切ることにした。
「ガァー!」
「グゥ!?」
相手に噛みつこうとして口を開け新月が防ごうとすると王の口から冷気のブレスが放たれた。一気に氷点下近くの冷気が新月を包み、苦手な寒さに震えてしまう。その隙を逃す王ではない。
「ギガァー!」
そのまま渾身の力を込めて右ストレートを放つ。その攻撃は新月の顔にクリーンヒットして無視できないダメージを与えた。新月は唯一顔だけは鱗で覆われておらず、そこへの攻撃は弱点でもあるのだ。
さすがの新月も苦手な極寒の冷気を浴びせられ、動きを封じられたときに弱点個所を攻撃されたのは効いたらしく、吹き飛ばされる寸前だった。吹き飛ばずに済んだのは意地と根性で耐えたのだ。
そんな新月に再度冷気のブレスを浴びせようとする王だったが・・・
「【フルカース】!」
「!?!?」
突然に体が重くうまく動かせなくなった。この場面で一体何が起こったのか王は考えるが、答えが出ることはなかった。新月が大きく振りかぶった右爪がフロストオーガキングを斜めに引き裂き命を絶ったがゆえに・・・
こうして霜葉たちの戦力は多少のダメージを受け怪我もしたが、キング種を倒したことでこの戦いは実質的に霜葉たちの勝利だった。
霜葉が新月のピンチに付与魔法を使い援護した直後にフロストオーガキングは新月の一撃で倒された。その直後には他の群れは戦闘力が落ちて、脅威度が下がった。
キング種に率いられて強さを得たので、王が倒れればその強さを失うのは道理だ。それゆえ、残った群れを倒すのにそれほど時間はかからなかった。
何匹かは逃げ出そうとするが、ここで逃がすほど霜葉も仲間たちも甘くなくカイロスたちの仲間の敵でもあるわけで、一匹残らず全滅させた。その直後に・・・
《ウェアウルフの群れすべての個体のLvMAXを確認。条件達成。【存在進化】の効果で進化を行えます。群れの進化は長の進化先が群れすべてに適用されます》
「お?」
『主様!』
『ちょっと待ってね北斗。みんなを回復して回収する物は回収しないと』
『そ、そうですな。すいません』
『ごめんね?』
『謝ることなど・・・私も周りが見えていませんでした』
進化できることに喜ぶ北斗だが、大規模な戦闘をした直後だ。全員のケガや体力の回復はもちろん倒したオーガ種の回収などやることがある。
まずは回復からだが、これにはカイロスたちが活躍した。以前は回復役が霜葉ただ一人だったが今なら体力回復くらいならカイロスたちに任せられる。
まだまだ回復魔法術のスキルLvも低いので上げるためにもカイロスたちにやらせることに。霜葉はケガの回復を行いまずは一番ダメージを負った新月からだ。
『大丈夫かい新月?』
『問題ないぞ。お兄さんも援護ありがとう。あいついい拳だった・・・』
そう言ってキング種の死体を眺める新月。なんだか格闘漫画の達人のようなセリフだ。この子はどこに向かっているのだろうか? 霜葉も新月の言葉に苦笑している。
新月を回復した後はカイロスたちが体力を回復した仲間を順番に回復させて、仲間全員でオーガ種を回収。その後にもう夕方近くになったので【箱庭世界】へと帰り、北斗たちの進化を行うことにした。
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