第三章 第三十一話 商王国編31
霜葉がハズレダンジョンからミスリルとアダマンタイトを手に入れてから、2週間が過ぎてその情報を聞き集まる者たちが町を良くも悪くも賑やかにしている。そんな時に霜葉は町の領主であるボールトに呼ばれて、屋敷の客室で向かい合っていた。
「やはり、暴力で君から魔法金属を奪おうとする者たちが出たか・・・」
「断固たる対応をしていますから問題ないですよ?」
「私としては頭が痛いよ。治安が悪くなると町に来る商人が減ってしまうからね」
初めはここ最近の近況をボールトが尋ねて霜葉が答える雑談であったが・・・
「ちなみに今日はそういう人たちの相談ですか?」
「それも重要なんだが、今日呼んだのは別件だよ。私と一緒に王都へ来てほしいと国王から手紙が来てね」
「商王国の王様が僕をですか?」
霜葉は首を傾げながら、王様に呼ばれるようなことをしたかな、と考えた。そんな霜葉をボールトは苦笑して見つめていた。
「それはそうだよ。ここ最近の町々のハズレダンジョンで発見されたことは国としては大発見であり、喜ばしいことなんだからね。しかもその発見の功労者はある一人の冒険者であることは国が調べればわかることだよ?」
「あ~」
言われてみれば確かにその通りだと霜葉は納得した。確かにこれまでに霜葉がハズレで発見した数々のことは国からしてみれば両手を挙げて歓迎するようなことばかりだ。
「ボールト様も知っていたんですね?」
「私の場合はジムキスから手紙が来て君のことが書かれていたんだよ。恩人だから困ったことがあれば助けてくれとも書かれていてね」
「そうなんですか?」
「長年の付き合いがある友人だよ。だからこそ彼がハズレダンジョンしかない町に異動されたときは何もできない自分が情けなかったが、君のおかげで友人が救われた。そのことは大変感謝しているよ」
そう言って、ボールトは霜葉に深く頭を下げた。そのことから彼が友人をどれだけ大切にしているかがわかる。
「お役に立てたのならよかったです」
「ふふふ。本当ならもっと感謝を表したいが、話を戻そう。王都へ行くにあたってこちらの準備に2週間近く時間がかかるんだよ。その後に一緒に来てもらいたいのだが、かまわないかね?」
「いくつか質問していいですか?」
「もちろんだ」
そう言われ、霜葉はしばらく考えてから口を開いた。
「まず、僕は護衛はしなくていいですか?」
「君は賓客扱いだからゆっくりしてくれ。護衛は私の騎士たちと別に護衛の冒険者を雇うからね」
「わかりました。次に王都にはなぜ呼ばれるのでしょう?」
「大発見をしてくれた冒険者に国王が一目会いたいんだろうな。調べているうちに君に興味を持ったそうだ」
「ちなみに断ることは可能でしょうか?」
「できる。しかし、個人的には受けたほうがいいと思う。国王のことだから君にお礼が言いたいのと他の貴族達が君にちょっかいを出さないように牽制したいはずだしね。王都での貴族関係のトラブルは私が対応するよ?」
それらを聞いた霜葉は答えを出した。
「わかりました。王都へ行きます」
「そう言ってくれると助かるよ。では2週間後に門で集合しよう」
約束をして霜葉は領主の屋敷を出る。その後は冒険者ギルドへは行かずに町を散歩して子供たち相手に白夜たちが遊び、屋台の料理を堪能し、時折やってくる荒くれ者どもを撃退して、孤児院へと戻ってきた。
孤児院での夕食時に霜葉は2週間後にこの町を出ることを伝えた。孤児院の責任者兼保護者のミーナとリーザは道中気を付けてくださいと言ってくれたのだが、子供たちが・・・
「「もっとここに居てよ~」」
「「「まだ遊びたい!!」」」
小さな子供たちが霜葉を引き留めようとした。特に女の子たちは三日月や金剛一家に抱き着いて離れようとしない。三日月と主に抱き着かれている天青と天藍は・・・
「まぁ・・・」
「「モグ・・・」」
困った鳴き声を出してどうしようか悩んでいるようだ。そんな子供たちにミーナとリーザは声を掛けた。
「みんな、ここまでお世話になったソウハさんとこの子たちを困らせちゃダメでしょ?」
「そうですよ?ソウハさんがいなくなるのはわかっていたことです。明日いきなり出ていくわけではないのですから、残りの時間でいっぱい思い出を作りましょう?」
「「「「「・・・は~い」」」」」
二人の言葉に渋々ながらも返事をして、子供たちは納得したようだ。
「ですが、国の王様に呼び出されるなんてソウハさんはすごいですね~」
「僕的にはどれくらいすごいのかよくわかりませんが、それほどですか?」
「この商王国で王様と謁見が叶った冒険者なんてごく少数ですよ?その冒険者たちもダンジョンで珍しい魔物素材を手に入れてきたり、長年倒せなかった魔物を倒した者がほとんどですね」
「そうね~。少なくともダンジョンで新しい発見をして呼ばれた人はソウハさんが初めてじゃないかしら?」
「「「「ソウハ兄ちゃんすごい!」」」」
ミーナとリーザの説明に霜葉は多少は理解できた。そもそもハズレをわざわざ探索しようという冒険者がいない。霜葉がこの国を訪れて、秘密が多いことを隠すためにハズレを探索した結果なのだ。商王国にとっては棚から牡丹餅といえるだろう。
さらには霜葉たちがハズレで有名な魔法金属を持ってきたことを肉ダンジョンで肉を狩りに行っている子供たちが、尊敬するような目で見ている。彼らにとって霜葉は冒険者の夢である一攫千金を成し遂げた者なのだ。
ただし・・・一人だけ全く違った目を向けているが・・・
「ふん!運が良かっただけだろう!ハズレを誰かが探索すれば発見できたんだ!いい気になるなよ【魔物使い】!」
「キール!そんな言い方してはいけません!」
「失礼な言動ですね。ソウハさんにはいろいろお世話になっているのに」
「ふん!別に頼んでないやい!ご馳走様!」
そう言い、キールという少年はさっさと部屋を出て行ってしまった。そんなキール少年にほかの子供たちは・・・
「何あの態度?」
「キールおにいちゃんどうしたの?」
「さいきん変なの・・・」
「ソウハさんが活躍してからイライラしてるな?」
「嫉妬でもしてるのかしら?」
などと言い困惑している。キールは元から霜葉のことを小馬鹿にした態度だったのだが、霜葉がハズレからミスリルとアダマンタイトを発見してからは何やら様子が変なのだ。今回のようにかみつく言葉が増えたのだ。
「キールったら、何を気にしてるんでしょうね?」
「大方、ソウハさんがうらやましいんでしょう。冒険者として成功をしているソウハさんに嫉妬しているけど、それを認められなくてイライラしていると予想します」
ミーナもキールの態度に不安を隠せないようだ。一方のリーザはキールの行動理由に当たりをつけている様子。案外的外れではないかもしれない。
「ともかくソウハさん。キールが失礼なことを言ってごめんなさいね?」
「僕は気にしてませんよ」
「それでも失礼な言動だから、保護者としては謝りたいのよ。ソウハさんのおかげでお肉だけじゃなくてお野菜や果物も食べられているのに・・・」
霜葉たちがこの孤児院に泊めてもらうための条件として、お肉以外の果物や野菜を提供している。お肉ばかりでは栄養が偏るし、食べ盛りの子供たちにはお肉以外も食べることができる今の状況はすごく助かっているのだ。
まぁ、お肉が定期的に食べられるだけでも孤児院としては恵まれているが、さすがに毎日お肉ばかりというのもつらいものがある。
二人は明日改めて、キールを叱ると言い食事を再開した。その後は楽しい夕食の時間となり食べ終わった後には片づけをして就寝した。
翌日。ミーナとリーザは朝食の前にキールを叱っていたのだが、キールは態度を改めるどころかますます意固地になり失礼な言動を繰り返している。
「魔物使いに謝るつもりはねぇ!」
「お世話になっている人に何て言い草よ!」
話をしていたミーナも感情的になり、いつしか言い合いに発展した。このままではいけないと思いつつ子供たちは割って入れず、霜葉も当事者であるので話に加わることもできないし、先ほどからキールの言動にイライラしている白夜と十六夜にルナをなだめるのに必死だ。だからこそ事態の収拾に動いたのは・・・
「姉さんもキールもそこまでです。これ以上は話をするだけ無駄です」
「リーザ・・・」
「ふん」
もう一人の保護者であるリーザが二人を止めることになった。
「姉さんはもう少し冷静に話をするべきです。姉さんまで声を荒らげてどうするんですか?」
「うう~ごめん・・・」
「キールもソウハさんの何が気に入らないのかはわかりませんが、最近お肉以外を口にできるのは間違いなくソウハさんのおかげです。あなたも果物とお野菜を食べているのですからお世話になっている以上感謝はするべきです」
「・・・・」
ミーナを妹であるリーザが注意して、キールにも注意をする。ミーナは素直に謝ったが、キールは黙ったままだ。とはいえバツの悪そうな顔をしているのでリーザの言っていることは理解しているらしい。
「とにかく、お話はこれまでです。みんなと一緒に朝食を食べましよう」
リーザの言葉で朝食を食べ始めた。子供たちは笑顔で果物や野菜を食べ、霜葉への感謝を口にしている。新月たちや金剛一家も霜葉から渡された果物や野菜類を食べている。彼らと仲がいい子供たちなどは一緒に食べたり世話を焼いていたりする。
一方のキールは、黙って黙々と食べている。先ほどのリーザの言葉が堪えたのか今日は霜葉にかみつくことはなかった。
「グルゥ・・・」
「ガァルゥ・・・」
「ホ~・・・」
尤も、白夜に十六夜おまけにルナまでにらんでいるこの状況では、かみついた瞬間に三人がさらに怖くなるだろうが。
『三人とも?実力行使はだめだよ』
食事をしながら三人を【思念会話】で注意している霜葉がいなければすぐにでも襲い掛かっていたことだろう。
その後は何事もなく朝食を食べ終えて、子供たちは各自の仕事へと出かけた。霜葉たちも冒険者ギルドへと向かうことに。
冒険者ギルドへ向かう途中で馴染みの住人達に声を掛けられたり、子供たちが白夜たちを撫でたりを繰り返しながら冒険者ギルドへとたどり着いた。早速中に入り今日もハズレダンジョンの依頼を受けて探索しようかと思っていた霜葉だったが・・・
「ソウハさん!お待ちしていました!ギルドマスターがお話があるそうです。お手数ですが、2階のギルドマスターの部屋へ向かってくれませんか?」
「ふむ?わかりました」
受付嬢の一人が霜葉に声を掛けたのだ。何の用かと疑問を浮かべながら霜葉たちは2階のギルドマスターの部屋へと向かう。
そして霜葉たちは現在ギルドマスターのビーキスの部屋で待機中。霜葉はソファに腰かけて白夜たちは霜葉の後ろでお座りしている。やがて、片付けていた書類が一段落したのか、ビーキスは霜葉の正面のソファに腰かけた。
「呼び出しておいて待たせてしまい申し訳ないね。ハズレダンジョンの買い取り品のことで最近は忙しくてね。まぁ、こちらとしてはうれしい悲鳴というやつだけど」
「それはお疲れ様です。ほとんど僕のせいですね」
「はっはっは気にすることはないよ。こちらとしては利益が上がるのは望むところさ。雑談はこのくらいで本題に入ろう」
そういうとビーキスは背筋を伸ばし真面目な顔をして本題を口にする。
「覚えているかい?君が助けてくれたブルスたちとアルトという商人のことは?」
「はい。覚えています。確か、フロストワイバーンに襲われていましたね」
「町の近くにフロストワイバーンがいたことは異常で、本来なら雪山の山頂か雪山周辺にいる魔物なんだよ?ギルドはこの事実を異常事態と判断して、腕の確かな冒険者数組を雪山の調査に向かわせたんだが・・・」
ビーキスはいったん話を区切り、少し間を作り話を続ける。
「その雪山周辺にはフロストワイバーンが何匹も飛んでいたというんだ。それだけではなく本来なら雪山から降りることはない魔物も数体遠目だったが、確認したというんだ」
「もしかしてかなりの大ごとですか?」
「このまま何もせずにいればさらに大ごとになるだろうね。その周辺にいる魔物たちがこの町を目指すことだって可能性としてはありうる」
確かにビーキスの言う通り、魔物が大量に同じ場所に居ればいつか食料を求めてどこかに移動することがある。その結果、町を襲うなどと言うことになりかねない。
「そこで、フロストワイバーン3匹を倒した君たちに指名依頼をしたい。その雪山に登り何が起こっているのか調査を。そしてその原因の排除を頼みたい」
「その依頼の報酬は?」
「原因の調査報告で金貨6枚。原因の排除で金貨12枚と銀貨4枚だ。さらに原因を排除したと判断された場合は私からも冒険者Bランク試験の推薦状を渡そう」
「僕はもう一つ持っていますよ?」
「推薦状はいくつも持っていたほうが有利なんだよ。それだけ実力を評価されていると判断され、試験でも有利になる。さらにはいくつも持っているものは試験の優先権があるからね。受けてもらえるかい?」
ビーキスの言葉にしばし霜葉は考えて、答えを出した。
「その依頼受けます」
「ありがとう。助かるよ」
「今日準備をして明日には雪山に向かいたいと思います。雪山の正確な場所は?」
「雪山はこの町から・・・・」
霜葉は雪山の場所をビーキスに確認して、冒険者ギルドを出た。そのまま日持ちする食料や雪山を歩くために革製品を置いてある店でブーツを購入。サイズに関してはやや小さいが贅沢は言えない。
ブーツはともかく食料品に関しては全く買う意味はないのだが、買わずに出発したら疑問に思われると思い購入した。それから雪山でも構築でき壊れにくいテントを購入し毛布も追加で購入してから、孤児院へと帰ることに。
孤児院での夕食時に明日はギルドの依頼で雪山に行ってくることを伝え、皆から激励や気を付けるようにと言葉をもらった。キールに関しては何も言わずにただ黙って食事をして食べ終わるとさっさと部屋へ帰ってしまったが。
キールに関してほかのジョブに就いている子供たちからは、最近戦いも雑になり周りのことを考えなくなっているとミーナとリーザに相談していた。
さすがに戦闘に関しては専門外なので、子供たちに戦い方をレクチャーしてくれたブルスさんたちに相談すると言っていた。知り合いの名をここで聞くことになるとは思わなかった霜葉はちょっと驚いた。
そんなことを話し合いながら夕食を食べ終えて、今日は就寝。そして翌日。霜葉は朝早くに朝食を作って、早々に雪山を目指すことに。子供たちはまだ寝ているが、ミーナとリーザが見送りに起きてくれた。
「「ご武運を」」
「ありがとうございます。行ってきます」
二人の言葉に見送られ、霜葉たちは孤児院を出発。そのまま門まで行き門番さんからも激励され門を出て雪山がある北に向かう。




