第一章 第五話 女王国編5
突然聞こえてきた子供たちの声。子供と言えば先ほどまで一緒に居た、メルビス王女とレギオス王子を想像するが聞こえてきた声は明らかに二人ではなかった。いや、それどころかもっと幼くした声で耳に聞こえてきたと言うよりは頭に響いてきた声のようだと霜葉は思った。
『ご主人~?』
『どうしたの~』
「あ」
霜葉は思い出した。先ほどLvの上がった【思念会話】の仲間の魔物と思念で会話できるという効果を。
「え~と。もしかして君たちの声かなこれは?」
『そうだよ~ご主人~』
『そうですよ~』
「どうしたんだよ?霜葉」
「あ、ごめんね。この子たちを仲間にしたから【思念会話】の効果でこの子たちの声が聞こえて来てさ」
「ああ、そういえば」
「そんな。スキルが有るって聞きましたね」
「うらやましいです・・・」
「「え?」」
生徒会長が何やら恨めしく霜葉を見つめている。その理由に心当たりのある霜葉は苦笑を浮かべた。
『ご主人~名前ほしい~』
『私も名前が欲しいです~』
「うん、名前ね。そうだね・・・・よし決めた!子犬の方は白夜で子猫は十六夜だよ。どうかな?」
『わ~い!僕白夜~♪』
『十六夜・・・気に入りました~♪』
名前が付けて喜ぶ二匹はそのまま霜葉にじゃれついた。
「よしよし。これからもよろしくね。二人とも」
『ご主人~よろしく~』
『よろしくね~』
「しかし、本来会話できない魔物と会話できるのもすごいスキルだな」
「確かにそうですね。色々できそうですし」
「私も欲しいです・・・・」
「・・・・なあ、さっきから生徒会長はどうしたんだ?」
「あ、あの聖夏先輩?どうしたんですか?」
「は!?す、すいません!あまりに羨ましくって我を忘れてしまいました」
「「羨ましい?」」
「え、ええ。その実は私・・・」
そこからは簡単に説明しよう。実は生徒会長無類の動物好きなのだが、動物が近づいてくれないのだ。高坂高校2年の時どうしても動物と触れ合いたかった生徒会長は動物保護施設に突撃し、動物たちを撫でようとしたが結局一匹も触ることすらできなかった。そこに霜葉がやってきたのだ。そして霜葉と一緒にいると動物たちも生徒会長に近ずいてくれたため、何度か霜葉と一緒に動物たちと触れ合って行くうちに親しくなったのだ。
「それに霜葉君と知り合ってからは徐々にですが、私一人でも動物たちが近ずいてくれるようになり本当に彼には感謝しています」
「はぁ~なるほどね。そんな場所で知り合ったんなら俺達と接点がないはずだよな」
「1年の頃は勉強に付いて行くだけで精一杯だったしね私たち。動物保護施設に行く余裕はなかったし」
「僕も勉強で遅れないように必死だったから、紹介したり話す余裕がなくてさ」
「霜葉は特にそうだよな?」
「健吾君だって人の事言えないでしょう!」
「そうだった!」
「「ふふふ」」
和やかな雰囲気になった所で二匹がそわそわしてきた。どうかしたのかと霜葉は二匹に注目する。
「どうかした二人とも?」
『ご主人~おトイレどこ~』
『主おトイレは~』
「ああそうか、どうしようか?」
「ん?どうかしたのか霜葉?」
「この子たちおトイレだって」
「なに!?」
「「!?」」
霜葉はいつものごとくだったが、三人は大慌てだ。ペット用のトイレ用品など異世界にあるわけがない。
「ど、どうしましょうね?」
「人間用のトイレでやれるわけないし、こうなったらシャワー室で」
「ダメ!それだけはダメ!!」
三人が頭を抱える中、霜葉は一つのスキルを思い出していた。
「ちょっと試してみるか。【箱庭世界】」
霜葉がそう言うと目の前に渦が出現してその向こう側に海が見える。霜葉は白夜と十六夜を抱きかかえ渦へと入って行った。
「「「霜葉(君)!!!」」」
渦へと入った霜葉の見た物はオーシャンブルーだった。あたりの様子を見渡したいがまずやることは・・・
「二人ともここでしちゃっていいよ」
『わかった~』
『わ~い砂浜だ~』
~♪♪♪♪~しばらくおまちください~♪♪♪♪~
『ご主人~終わった~』
『すっきりしました~』
用を足し終わった二匹が霜葉のところに駆け寄ってきた。すぐに二人を抱きかかえ後ろに出現したままになっていた渦に飛び込んだ。
「ただいま~」
「そ、霜葉!?」
「霜葉君!よかった~」
「霜葉君!?急にいなくなるから心配しましたよ!?」
「え?」
霜葉は後ろにある渦を見てふと思った。
「ねぇ三人とも?ここに渦があるの見える?」
「は?霜葉何言ってんだよ」
「渦?そんなのないよ?」
「何を言ってるんですか。霜葉君は?」
何とどうやらこの渦は霜葉以外には見えていなかったのだ。しかし、霜葉はそこでまだ聞いていない者が居たのを思い出した。
「二人はここの渦見える?」
『見えるよ~』
『見えますよ~』
「なるほどね」
霜葉は理解した。この渦は霜葉自身と仲間にした魔物しか見えないのだ。これも破格の能力だ。たとえば誰かに追われていてもこのスキルで逃げれば相手は絶対に見つけることができない。ほとぼりが冷めれば出てくればいいのだから。
「なぁ、一人で納得してないで説明してくれよ」
「わかったよ。でもちょっと待ってね」
そう言うと霜葉はトイレに行き二匹の後始末を行った。二人は大人しく従ってくれて早く終わり三人に説明をしている真っ最中だ。
「・・・・というわけで、今僕が居なくなったのはスキルの効果ってわけさ」
「・・・・・いや、どんだけすごいんだよお前の職業」
「す、すごすぎて理解が追い付かなくなってきたよ・・・」
「これはまた破格の能力ですね。しかし、霜葉君でこれだけすごいのです。【闘争の魔王】はどれだけのスキルがあるのでしょう。そして、そんな者と引き分けた獣王はどれほど実力者なのでしょうか?」
「「た、たしかに・・・」」
三人も能力的にはかなり高い方ではあるのだ。しかし、霜葉の持つ固有スキルの能力はそれをはるかにしのぐほどの効果を持ているように感じた。しかも霜葉の場合はまだLv1なのだ。最初の段階でこれほどの能力を持つなら【闘争の魔王】ならどんなスキルを持つか、またそんな相手に引き分けた獣王の実力はどれほどなのか、三人は空恐ろしくなった。そんな時・・・
パン!パン!
「「「!!」」」
「はい、はい。まだ会ってもいない相手を想像して萎縮しても意味ないよ。これからどうするのかを考えた方がよっぽど有意義だよ」
「霜葉・・・」
「霜葉君・・・・」
「・・・・確かに霜葉君の言う通りですね。今は私たちがどうするかを考えましょう」
「それなんですが、ちょっと協力してくれませんか?」
「何をするんだ。霜葉?」
「能力の把握だよ」
それから四人は霜葉の【箱庭世界】のスキル検証を行った。霜葉がなぜこんなことを始めたかというと、これだけの破格な能力に何か制限があるのではないか。という疑問からだった。そしていろいろ試した結果以下のことが分かった。
・【箱庭世界】には道具を持ち込める。
・【箱庭世界】の時間経過は元の世界と大差ない。
・霜葉や仲間の魔物が他者と接触中は【箱庭世界】に入れない。
・【箱庭世界】に霜葉入った状態で元の世界にいる仲間の魔物と【思念会話】で頭の中で会話が可能。
・上記の逆も可能。
・調べる過程で【箱庭世界】の規模は現段階では学校の教室くらいの広さの島。
「なんか知れば知るほど破格だな」
「でも、なんでもありってほどの能力でもないんだね」
「そうですね。特に他者接触時に行き来が不可と言うのは意外なデメリットですね」
「それに結局は補助的な物だしね。戦闘では基本使えないよ」
とりあえず検証はこれで終わりにするようだ。その後は念のために四人のスキルを霜葉の超鑑定ですべて調べてどういう物かの理解を深めた。いくつか発見があり有意義に過ごした。その後生徒会長が自分の部屋に戻り、夕食までゆっくり過ごした。
なお、話の途中で白夜と十六夜のトイレ問題は【箱庭世界】利用することで解決したかと思われたが、いつも【箱庭世界】で済ませればメイドたちにどう処理しているか疑われるのではないかという指摘が、生徒会長からされてどうするか話し合った結果、とりあえずメイドさんたちに相談してみようと言うことになり相談した結果、なんとペット用のトイレ用品があったのだ。なんでも魔物に言うことを聞かせる魔道具があり、それを使って魔物をペットにする貴族が増えているので創られたとのことだ。世界が違えど人間の考えることは一緒なのかもしれない。そして、しばらく経ったのち・・・・
コンコン
「はい?」
「夕食の準備が出来ました。ご案内しますので準備をしてください」
「わかりました」
メイドさんに呼ばれ、準備をする三人。と言っても脱いでいた制服の上着を羽織るだけだが。後、霜葉は白夜と十六夜を抱きかかえた。
部屋を出ると廊下に生徒たちが溢れていた。どうやら全員を一緒に案内するようだ。ほどなくしてこの場所にいる生徒全員が集まり、メイドさんの先導の下移動をを開始。最終的に着いたのが・・・
「ここは女王陛下と謁見した。大広間ですよね?」
「はい、今回はここにお食事のご用意をさせていただきました。何分皆様の数が数ですので、ここにしか全員が入らないのです。後、立食形式になりますのでご理解のほどを」
「なるほど。わかりました」
メイドさんの説明に納得して返事をする霜葉。前回と同じくメイドさんの相手は霜葉が行っていた。他の生徒は本物のメイドさんに気後れしているのだ。生徒会長は他の生徒と談笑中。前回お前がやったんだから今回もお前がやれみたいな空気なのかもしれない。
「ただ今、皆さま全員を呼びに行っています。揃うまでこの中でお待ちください。料理はともかく飲み物を飲んでお待ちください」
「わかりました。ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして」
そう言ってメイドさんは広間の扉に手を置いた。すると、扉が開き始めて完全に開いた後に目の前に広がっていたのは豪華な料理だった!テーブルの一つ一つの上においしそうな料理が並べられていて、すごくおいしそうだった。全員が大広間に入るのを確認したメイドさんはお辞儀をして扉が閉まりだした。
「おいおい、こんなおいしそうな料理を前にお預けって拷問かよ」
「健吾君仕方ないよ。皆が来るまで待とう?」
「そうですよ。先に食べるのは悪いですし」
「ちぇ。しかたないか」
『おいしそう~』
『食べた~い』
「二人とももうちょっと待ってね」
『う~』
『え~』
それからしばらくすると生徒たちが続々と集まってきた。集まるたびに料理を見て一喜一憂している生徒たち。やがて全員が集まり・・・・
「皆様お待たせいたしました。全員が揃いましたのでどうぞ召し上がってください」
「「「「おおぉー!」」」」
メイドさんの言葉に男子が我先にと料理に群がり、主に肉類を食べている。女子も豪華な料理を味わっているが男子よりはバランスを気にしている。
「お茶会の時はあんまり味がわかんなかったけど、この世界の料理もうまいんだな。結構薄味だけど」
「多分、調味料が貴重なんだと思うよ?」
「私も同意見かな。中世時代の文化ならコショウが金で取引されてたらしいし」
『おいしい~』
『美味~』
霜葉たち三人と二匹も料理を食べて感想を言い合っている。なお二匹は霜葉が料理をお皿に取って与えている。白夜はお肉が十六夜はお魚が好みのようだ。
しばらくは皆おいしい料理を思う存分味わい。今この時は全員が笑顔を浮かべながら仲の良い相手と笑い合っている。そんな時・・・・
「みんな!話を聞いてくれ!!」
突如、生徒会副会長 東漸 清志が大広間の奥にある高めになっている床に立ち、全校生徒に呼びかけた。
「俺はこの国に協力することに決めた!この国が魔王に攻められ滅ぼされでもしたら、俺達は元の世界に帰ることができない!だから俺は協力することに決めた!俺の考えに賛同する者が居ればぜひ手を貸してほしい!!」
副会長はそう宣言して、同志を募った。
「確かにそうだが、戦うなんてできるのか?」
「そ、それに命を奪う何んてわたしには・・・・」
「俺は能力高いらしいから協力してもいいけど」
「俺は無理。なぜなら鍛冶師だから」
「私も無理かな。料理人だし・・・」
副会長の言葉に生徒たちは戸惑い困惑した。中には賛同する者もいたが、極少数だ。それに就いている職業的に戦うことが難しい者もいる。副会長は自分の言葉の賛同者が少ないことに驚いている様だ。
「だ、大丈夫だみんな!俺は勇者だ!俺がいれば魔王など恐れる必要はない!!」
「根拠のない言葉を不用意に発言するのは感心しません」
そこへ生徒会長の高坂 聖夏が副会長に近ずき、彼の言葉を否定した。彼女が来るのは分っていたのだろう。副会長は慌てることなく言葉を紡ぐ。
「根拠はある!俺の能力は高いきっと魔王にも負けないはずだ!」
「そうですか。なら獣王と決闘してください」
「・・・・・なに?」
「実は夕食前に女王陛下とお茶会をする機会に恵まれまして、その時に聞いたのですよ。この国と獣王の治める国 アレスガルでしたか、かなり友好な関係らしく何度か親善試合も行ったとか。魔王と引き分けたという獣王といい勝負ができるならあなたの言葉を信用しましょう」
「な!馬鹿な!そんなことをすれば俺が危ないではないか!!」
「おや?能力は高く魔王にも負けないのでしょう?それなのに獣王に気後れするような人が魔王に対抗できるとでも?」
「獣王のことはよく知らないのだ!」
「それは魔王も一緒でしょ?にも拘らず負けないはずだ、などと言ったのはどこの誰ですか?」
「ぐ!」
完全に口で敗北している副会長。本当にこいつが勇者でいいのだろうかとこれを見ていた生徒の大半は思ったに違いない。
「だいたい、能力は高くとも私たちは戦闘の素人です。ましてやこの世界には【魔法術】という私たちにとっては未知の技術があります。それについてもよく知らないのによくもそんなことが言えた物です」
「で、ではどうすると言うのだ!このまま何もしないまま過ごすつもりか!!」
「それについては私にも考えがあります。皆さん!聞いてください!」
生徒会長は副会長から視線を外し、生徒全員に話しかけた。
「先ほども言いましたが、私たちには知らないことが多すぎます。元の世界に帰れるのがいつになるかわからない今の現状も考えて、そしてこの世界は私たちの世界よりずっと危険であることも事実のようです。ですから私は色々学びたいと考えています。戦闘技術も含めてです」
ざわざわざわ!!
生徒会長の戦闘技術を学ぶと言う発言で、生徒たちは動揺した。生徒会長もこの国に協力するのかと。
「この国に協力するしないに関わらず戦闘に巻き込まれることは十分に考えられます。現在魔王の脅威にさらされているわけですからね。ですからそう言う時のために自衛できるようになっておきたいのです。協力するかどうかは、技術を身につけた後に答えを出したいと思います。そのほかにも、自分の食い扶持は自分で稼ぎたいとも考えています。さすがに何もせずに国の世話になり続けるのは抵抗がありますし」
「あ~確かに」
「それは言えてるな~」
「自分で自由に使える金があった方がいろいろ便利ではあるな」
「俺は彫金師だけど、戦えないわけじゃあないしな」
「私は皮革職人だよ。【魔法術】は持ってるし一応は戦えるかな?」
生徒会長の考えに共感する者が続々と出始めた。高坂高校という学ぶ意欲を持つ者が集まる学校に居ただけに生徒たちは自立心が高かったのだ。
「無論、戦えるからと言って必ずしも戦う必要はないとも考えています。生産職に就いている生徒もいるようですしそちらで稼ぐと言うのも選択肢に入れると良いでしょう」
「確かにありだな!」
「この世界で刀あるかな~?」
「この世界のアクセサリーも見てみたい」
「服のデザインはどんなのだろう!」
「ふ、ファンタジー食材で料理できるかな?」
この発言で騒いでいるのは専門科に居た生徒たちだった。専門科に居た生徒の大半は生産職に就いている。それも、自分の学んでいた専門科の関係職業にだ。だからかこの世界の特有の素材で物を作れるか、または自分たち世界の技術で元の世界の物を作れるかなどと騒いでいたりする。
「私は明日にでも自分の考えを女王陛下に伝えたいと思います。私の考えに賛同してくれた生徒にも一緒に学んでほしいと考えています。どうでしょうか?」
「賛成です!」
「わたしも!」
「おれも!」
ぱちぱちぱちぱちぱち!!!
次々と賛成の声が上がり、いつの間にか拍手にまで発展して全生徒が生徒会長に拍手を送っている。霜葉たち三人もだ。こうして全生徒はこの世界についてと戦闘技術を学ぶことを女王陛下に伝えることになった。
―――――――たった一人拳を握り悔しさに奥歯を噛みしめている者に気付かぬまま・・・・・
―――――とある城の一室―――――
「そうか、召喚者たちはそう決めたのか・・・・」
「問題ない。計画通り能力の高い者を選別して味方に引き込め。手段は問わない。ただし、決して怪しまれるな。双方にだ。わかったな?」
「しかし、セイカ殿は味方にするには難しいか・・・・すでに相手と接触したようだし。しかたがない、勇者の職業を持つ彼を引きこめたことで満足するか」
「能力は相応に高い。少なくともあの落ちこぼれよりは使えるだろう・・・・」
「そう言えは彼も相手と接触したようだな・・・ふん、物好きな。あんな者が一体何の役に立つと言うのか」
「この国はもっと強くならねばならぬ。そのためには・・・・」
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翌日。生徒会長は女王陛下に謁見した。夕食時に話した内容を女王に伝え許可をもらうために。女王はこの要請を承諾。すぐさま召喚者たちへの教育の準備が行われた。
そして3日後準備が整い、召喚者たちは各々の学ぶ場所に居た・・・・