第三章 第九話 商王国編9
霜葉は商王国のダンジョンで手に入れた魔物素材と魔道具を売るため、ダンジョンのある街の領主であるジムキス様と共に魔人国の街に来ていた。魔人国の街の領主であるリティル・フレグマン辺境伯に面会してこちらが出向いた用件を伝えるとリティル様はすべて買い取ることはできないが、いくつかは買い取ってくれることになった。
ただ、買い取る前に魔道具と魔物素材を鑑定士と鍛冶師に見せて選別したいと申し出て、ジムキス様は当然だと答えて現在、それらの物を見るために騎士たちの訓練所に向かっている最中である。しばらく進んでいったん外に出た直後に学校の運動場のような場所に着いた。ここが騎士の訓練場なのだろう。騎士団らしき甲冑を着込んだ一団も見える。その一団から二人の女性騎士がこちらへと近づいてきた。
「リティル様。どうかされましたか?」
「今日のご予定には訓練所に来るような物は無かったはずですが?」
「ああ、急遽こちらの客人たちの用件でここを使うことになってな。ではソウハ殿、ここに魔道具と魔物素材を出してくれないか?」
「わかりました」
促された霜葉はアイテムボックスからまずは魔物素材を取り出した。その様子を騎士二人は驚いて見ている。
「彼はアイテムボックスを持っているんですね!?」
「と言うか彼の周りにいる魔物たちは、もしかして彼は?」
「ああ、彼は一時期この街で噂になっていた魔物使いだ」
「「やはり!」」
リティル様は二人の女性騎士にこれから行うことの説明し始めた。
「なんと・・・あの商王国の街のダンジョンから魔道具が」
「回復魔法術が攻撃手段として使えるのもすごい発見ね・・・」
「ジムキス殿からそれらの情報を教えてもらい、ダンジョンで手に入れた魔道具と魔物素材をいくつか買い取ることにしたのだ。今彼に出してもらってメイドが呼びに行っている鑑定士と鍛冶師に確認してもらってからどれを買い取るか決めるつもりだ」
「全部出し終えました」
「ああ、そうか・・・なに?」
「「なぁ!?」」
話が終わるころになって、霜葉も魔物素材と魔道具を出し終えそれに視線を向けたリティル様と女性騎士二人は驚いた。そこには大量に積み上げられた魔物素材である輝く骨といくつも並べられた武具の魔道具がパッと見40以上もあるのだ。明らかにアイテムボックスに入りきらない量である。それを見たジムキス様は冷や汗を流しながら口を開いた。
「いやはやまさかこれほど数を持っていたとは・・・凄まじいですな」
「ジムキス殿、これは一体どういうことだ?明らかにアイテムボックスのスキルでは説明できぬ量だが?」
「そこは説明するのはご勘弁を。個人のスキルのことですし、こちらとして他国に話すのは国によって禁止されていることですゆえ」
「むぅ・・・それであるなら仕方あるまい・・・」
アイテムボックス・極のスキルのことは商王国では伝説のスキルとして語り継がれている。それゆえ持っている者と国に居る者ならともかく他国の者に説明するわけにはいかないのだ。
「だが、これほどの量が入るスキル持ちと言うのは貴重だな。ソウハ殿、我が騎士団に入らぬか?貴殿なら特別待遇で迎え入れるぞ?」
「申し訳ありません。私は冒険者と言う立場が気に入っていますし、目的があって旅をしているので・・・」
「ぬぅ・・・そうか、では諦めよう」
未だ驚愕したままの女性騎士二人を置き去りにしたまま、話を進めるリティル様。よく周りを見れば騎士団も驚愕してちょっと騒がしい。この騒ぎは鑑定士と鍛冶師がこの場に着くまで続いた。余談だが、その鑑定士と鍛冶師も予想以上の数に仰天することになる。
ちょっとした騒ぎが落ち着いて、呼ばれた鑑定士と鍛冶師による確認が行われた。確認していくにつれて二人の男性は顔が喜びに満ち溢れている。はたから見れば物を見つめながら男性がニコニコしている様は若干引くが二人がそれに気付くことはない。そしてすべての確認を済ませてリティル様に報告する時に・・・
「どうだ二人とも?これらの物は?」
「いやはや、素晴らしいですよ。魔道具の方は付与されている能力にばらつきはありますが、どれもこれも武具に合っている能力ですべてが一級品です。これほどの物が手に入るダンジョンは少ないですよ」
「こちらの骨もさすがダンジョン産ですな。品質は素晴らしいです。元の魔物が魔物なので防具にするのは気分的に難しいでしょうが、武器になら問題ありません。むしろ武器にすればかなりの物になるでしょう。魔道具のような能力はなくとも頑丈で長期間使える武器になりますよ!」
「それほどか・・・ふむ・・・」
鑑定士と鍛冶師の確認結果を聞いて、リティル様は目を瞑り深く考え込んでいる様だ。やがて眼を開けてジムキス様にこう言った。
「ジムキス殿にソウハ殿。魔物素材と魔道具ともに半分こちらが買い取ろう。魔道具の方は選別したいのだが構わないか?それが終われば値段の交渉をしたい」
「こちらは異論ないです。ソウハ殿は?」
「私もジムキス様と同意見です」
「よし。では騎士団よ!一人一つ魔道具を選んでくれ!それらを買い取り諸君らに使ってもらう故な!」
リティル様の発言に騎士団は嬉々として魔道具を選び始めた。と言うかリティル様も選んでいる様だ。やがて選び終わり騎士団総勢32人は思い思いの魔道具を持っている。リティル様も大剣を選んでいた。その大剣を片手で振るい感触を確かめている。その大剣はかなりの大きさで普通は片手で振るえるような物でないのだが・・・
「中々手に馴染むなこれは。今使っている大剣も長く使っているから換えようかと思っていたのだ。ちょうどよかったな」
どうやら満足している様子。ちなみにリティル様が持っている大剣の能力は・・・
【牙狼の大剣】
ダンジョンで生み出された魔道具。特殊な効果として【切れ味維持】、【破壊力強化】、【脚力強化】がある。
能力に【重量半減】や【筋力強化】がないのでリティル様が片手で大剣を持っているのは素の能力と言うことだ。あるいは【身体強化】や【筋力強化】のスキルを持っているのかもしれない。
「骨の魔物素材も半分こちらが買い取るとして、買い取り金額は白金貨八枚でどうかな?」
「「え!?」」
リティル様が提示した買い取り金額はジムキス様が想定していた買い取り金額を超えていた。ジムキス様は白金貨四枚くらいになれば御の字だと思っていたのだ。霜葉もさすがに相手がいきなりそんな値段を付けてくるとは想定外だった。白金貨八枚は日本円で約八百万の価値だ。
「リ、リティル殿?こちらとしてはそれで文句などないのですが、いいのですか?そちらが出しすぎていると思うのですが?」
「こちらにも事情があってな。騎士団と警備隊の装備向上をしたいと思っているのだよ。ああ、さすがに訳を話すわけにはいかない」
「わかりました。こちらも言えないことがあるので深くは聞けません」
「すまないな」
とにかく、買い取り交渉もあっさりと終わりそうだ。その後の話し合いで白金貨で払われるのは四枚。残りを金貨で払うこととなり、騎士団の何名かを連れて金貨袋を運ぶために屋敷へと向かって行った。なお、霜葉はあちらが大金を払って買った理由について心当たりがあった。と言うかその理由に係ったのだから。間違いなくゴブリンキングの一件が影響を与えている。霜葉はそう確信した。
事実その通りなのだ。あのゴブリンキングの一件の後魔人国全体でキングと名のついた魔物の危険度を見直しているのだ。以前よりも危険な存在として各町に注意喚起を行っている。その一環で魔人国の各街は騎士団や警備隊の増員や装備の向上などを行っているのだ。
やがて、騎士たちとメイドが戻ってきてメイドから白金貨四枚をそして騎士団からは金貨が20枚入った金貨袋を二個、ジムキス様に差し出した。金貨袋の方は霜葉が預かることになりアイテムボックスに入れた。
「ありがとうございました。おかげでまとまった資金を得ることが出来ました。これのおかげでわが町は発展できます」
「こちらこそ。よい取引が出来た。それとそう遠くない日にジムキス殿の街へ回復魔法術を使える者を向かわせる。その時はよろしく頼む」
「はい。お待ちしております」
そう言ってジムキス様とリティル様は握手を交わした。これにてこの街に来た用事は終わった。リティル様は泊まって行くかと聞いてくれたが、さすがにそこまでしてもらうわけにはいかないとしてジムキス様は断った。
その後、馬車で待機していた兵士二人とともに屋敷を出た。それから馬車を止められる高級宿屋で一泊して街を出ることとなる。宿屋の一室で霜葉とジムキス様はテーブルを挟んで向かい合い座っていた。
「ソウハ殿。改めて感謝するよ。君の情報と協力のおかげで取引が思っていた以上にうまく行った。ありがとう」
「「ありがとうございます」」
「どういたしまして」
ジムキス様は立ち上り深々と頭を下げて霜葉にお礼を述べた。ジムキス様の後ろに立っている兵士二人もだ。
「それと取引で手に入れた資金だが、こちらが白金貨一枚と金貨10枚でソウハ殿には残りの白金貨三枚と金貨30枚を渡したい」
「それじゃあこちらが貰いすぎです。白金貨なら一枚でいいです。金貨は30枚もらいますが」
「し、しかしそれではこちらの気が済まぬ!君のおかげで街には希望が出来たのだから!」
「と言っても白金貨を貰っても使いどころがありませんし、金貨の方が使いどころが多いんですよね。それに・・・そちらはこれから資金があった方がいいでしょう?」
「それは・・・・」
「でしたら、これは僕からの寄付として受け取ってください」
「ソウハ殿・・・・本当にかたじけない!!」
そう言ってジムキス様は涙を浮かべて礼を述べた。その後お金を分けて今後について話し合った。
「では、明日は冒険者ギルドで待ち合わせて合流したら商王国の街へと帰りましょう」
「こちらもそれでいいが、本当に泊まって行かないのかい?魔物たちの分はこちらが払うが・・・」
「さすがにこんな高級宿屋ではこの子たちは迷惑になるでしょうし、店側が納得しても客が納得しないこともあり得ますから」
事実、この部屋に来る途中で出会った身なりのいい客の中には白夜たちを見て眉を歪める者が居た。
「ですので以前にご厄介になった所があるので、そこに行こうかと思います」
「ソウハ殿がそう言うなら・・・ではまた明日にでも」
「はい、また明日」
そう言って霜葉達は宿屋を出て、とある場所へと向かう。
『ご主人?どこに行くの?』
『以前、この街で泊めてもらった孤児院だよ。あそこならまた泊めてもらえるよ』
『また子供たちと遊べます~♪』
『『『楽しみ~』』』
『あそぶの~』
『私たちは初めてお会いしますね』
『『『『楽しみ~』』』』
大人数の魔物を連れて道を進んでいるので目立ちまくっている霜葉達。中には以前に訪れた時のことを覚えている人々もいるので、声を掛けてくる人もいる。だが一番目立っているのは霜葉の後ろで規則正しく歩いている金剛一家だ。
「もぐも~♪」
「「「「もぐも~」」」」
ザッザッザッザッザ!!
規則正しく一列に並び足並みもそろえて霜葉の後ろをついてくるモグラさんたちを始めてみる人たちは驚いて見つめている。
「一糸乱れぬ動き・・・・」
「なんか・・・かっこいいな・・・」
「きゃー!何あのモグラさんたち!!」
「ちっちゃくて可愛い!」
男性は動きに注目して、女性は可愛さに注目している。何度かモグラさんを触っていいかと子供が寄ってきたが、黒玉たちは父親である金剛か霜葉の後ろに隠れてしまう。金剛はそんなことはないので寄ってきた子供たちは金剛を撫でて満足したら帰って行った。
「もぐー」
そんな子供たちにバイバイの仕草をする金剛。そんなことを繰り返しながら目的地にたどり着いた。そこは古びているがしっかりとした造りの宿屋であり、一応営業もしている。かなり安いためお金のない冒険者や新人冒険者には有名な宿屋だ。そんな宿屋の前をおばあさんが箒で掃除していた。
「こんにちわ~」
「おや?こんにちは。久しぶりですね?」
「ええ、商王国に行ったんですが依頼の関係でこの街に戻ってきました」
「まあまあ、そうでしたか。それでは今日もお泊りしていただけるんですか?」
「はいお願いできますか?」
「もちろんですよ。子供たちも喜びます。何やらかわいい子たちもいるようですね?」
「はい、商王国でテイムした子たちです。皆挨拶してね?」
「もぐも」
「「「「もぐも」」」」
霜葉の言葉に答えて、お辞儀をする金剛一家。そんな様子をおばあさんは微笑ましく見ていた。
「まあまあ、ご丁寧にどうもね。うちの子供たちと仲良くしてあげてね?」
「もぐ~」
「「「「もぐ~」」」」
金剛一家はは~いと言うように片腕を上げた。そのまま宿屋に入り、子供たちに挨拶して久しぶりの再会に子供たちは喜んだ。そして、やはり金剛一家は注目された。
「小っちゃいもぐらさ~ん」
「かわいい~」
「よろしくね?」
「「もぐも~」」
小さな女の子三人に可愛がられているのは天青と天藍の二人。
「「「待て待て~♪」」」
「ワン!」
「ニャー!」
「「もぐも~!」」
小さな男の子三人と中庭で追いかけっこをしているのは白夜と十六夜、それと黒玉と黄玉。
「「「くう~zzz」」」
「ぐぅ~zzz」
「まぁ~zzz」
「ぐる~zzz」
部屋の隅っこで遊んでいた男の子二人と女の子一人と一緒に寝ている新月、三日月、無月。
「ほっほっほ。やはりお主らが来てくれると皆が楽しそうじゃな」
「そうですね~」
「うちの子たちも楽しそうにしていますから、こちらとしてもありがたいです」
「ぴぃー♪」
「もぐ~♪」
孤児院で子供たちの世話と宿屋を経営している老夫婦と椅子に座り遊んでいる子たちを見守る霜葉とルナ、金剛。皆が思い思いに過ごして夕飯時になれば、おばあさんと霜葉が腕を振るい夕飯を作り子供たちと白夜たちに振る舞い、おまけでその日宿屋に泊っていた冒険者たちにも振る舞った。皆おいしいと言いながら笑顔で食べている。
そして翌日。朝早くに霜葉達と宿に泊まっていた冒険者たちがギルドへと向かう。宿屋を出るときには老夫婦と子供たちが総出で見送っていた。子供たちが見えなくなるまで金剛一家が両手を振っていたのが印象的だった。
ギルドへと向かう道中、冒険者たちは霜葉に昨日の夕飯と今日の朝飯のお礼を口にしていた。朝食は簡単なスープだったが、朝にはちょうどいいと冒険者たちは喜んでいた。ついでと言った感じで霜葉を一緒に組まないかと勧誘していたが、霜葉は断り続けた。そんなことをしているとギルドに到着して冒険者たちとはここで別れた。
「じゃあな。飯本当にありがとうな!お前も依頼頑張れよな!」
「はい、そちらもお気を付けて」
「「「おう!」」」
彼らは依頼を受けるために依頼書が貼られている場所へと向かう。霜葉は反対の場所にある受付へと歩を進める。霜葉が近づくと受付嬢は笑みを浮かべた。
「ソウハさんお久しぶりですね。今日はどうされたんですか?」
「どうも。商王国の街で依頼を受けまして昨日ここへと戻ってきたんですよ」
「そうだったんですか。では、ひょっとして道中で遭遇した魔物の買い取りですか?」
「それもですが、まずはこちらを受け取ってください」
霜葉はダルバンから受け取った手紙を受付嬢に渡した。その手紙にはギルドの紋章である盾とその前で交差する二本の剣が描かれている判子が押されていて、それを見た受付嬢は目の色を変えた。
「これは・・・」
受付嬢はすぐに中身を確かめた。しばし無言で中の手紙に目を通した受付嬢は読み終えてため息を吐いた。
「噂には聞いていましたが、ここから一番近い商王国の街は予想以上に厳しいようですね・・・ともあれ了解いたしました。ソウハさんがお持ちの魔物素材喜んで買い取らせていただきます」
「ありがとうございます」
「では、この手紙で数が多いと書かれているので解体場で見せてもらっていいですか?」
霜葉は受付嬢の言葉に頷いて、受付嬢と共に解体場に向かう霜葉達。その前に手紙の中にギルドマスター宛の手紙があったらしく受付嬢は別の職員に手渡すよう頼んでから向かった。霜葉達はギルドの職員以外いない解体場に着いた。朝早いため空いているのだろう。受付嬢と霜葉に気付いた解体場の職員が近づいてきた。
「オウ、こんな朝早くにどうした?と言うかそこの坊主は久しぶりだな」
「ええ、ちょっと事情がありまして」
「事情?」
「ええ、実は・・・」
受付嬢から説明されて解体場職員は納得した。
「はぁ~成程な。冒険者たちが噂してたが事実だったってことか。まぁ、坊主の事情は分かった。じゃあ、買い取る魔物素材をここに出してくれ」
「わかりました」
そう言って霜葉は魔物素材を出し始める。最初は受付嬢も解体場の職員もニコニコ顔で眺めていたが、次第に顔が驚愕へと変わっていった。そして買い取ってもらう魔物素材を出し切った。
「これで全部です。買い取りお願いします」
「「・・・・」」
「どうかしましたか?」
「いや・・・多いって聞いていたが予想以上だ」
「そうですね・・・まさかここまで多いとは」
驚いた顔をした受付嬢と解体場の職員たち。しかもその後に何やら考え込んでしまった。
「これだけの魔物素材買い取れるのか?見た所品質もかなり高いぞ?」
「そうですね・・・魔結晶は問題ないと思います。需要は高いですから。問題は他の素材ですね・・・」
「でしたら、買い取れる素材を厳選してもいいですよ?こちらとしても少しは減らしたいので」
「そう言っていただけると助かります」
「それじゃあ、選別するか」
選別の結果、魔結晶はすべて買い取りで残ったのがメイルスコルピオンの素材三体分に、アイアンタートルの素材が二体分、そしてテイルモンキーの素材が五体分だ。買い取りされた素材は防具などで人気が高く品質も高いのですぐに買い手がつくと言われた。
そして買い取り額は驚くことに金貨12枚と銀貨八枚に銅貨三枚である。ちなみに白金貨ではないのは霜葉が金貨で払ってもらえないか聞いてみた結果である。霜葉は受付嬢にお礼を言って冒険者ギルドの酒場にてジムキス様たちを待つことにした。
次回更新は次の日曜日予定です。




