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第二章  第十三話  魔人国編13

連続更新二回目です!

ゴブリンキングに率いられたゴブリン達が街へと攻め込み、街に居る人々はその迎撃に自分たちがやれることを精一杯やっていた。しかし、そんな中あろうことか副ギルドマスターのブルトルが子飼いの冒険者と共に隠し持っていた魔力を込めると爆発する魔道具を使い、外壁の一部を破壊して自分たちだけ逃げたのだ。


当然、その破壊された外壁からゴブリン達は侵入して街の人々はそれに対処せざるを得なかった。それらを対処する人々の中に【魔物使い】になった子供たちもいたのだが、ボブゴブリン相手に窮地に立たされる。それを助けたのは主の危機に駆け付けた彼らがテイムした仲間のハニーブロンドシープたちであった。


彼らはそのまま戦線に加わり、意外にも活躍していた。そこに援軍として霜葉達も加わりゴブリン達との差を霜葉の魔法術と魔物たちの能力で埋めたのだ。そこに三日月が保護した小熊の両親も子を助けたお礼として助けに来てくれた。


だが、ゴブリンキングが動き出してしまい最悪なことにキングが持つ武器は魔道具であったため、瞬く間に門を敗れらて騎士や兵士たちも倒されてしまった。騎士団団長であるアルノルも重傷を負い、ゴブリンキングの毒牙にかかるかと思われた時に、謎の騎士が助けたのだった・・・・


謎の騎士とゴブリンキングが対峙するする時より少し時間は遡り、霜葉たちがブルーベアの両親が援軍に来て何とかあると思った時・・・


「グガァアアア~!!!」

「「「「!!」」」」

「今のはゴブリンキングの声か!?」


ゴブリンキングの雄叫びが聞こえてきた。その時に外壁の外で戦っていた騎士がその場にいる全員に聞こえる声量で状況を知らせた。


「ゴ、ゴブリンキングが動き出しました!真っ直ぐに門へと向かっています!」

「くっ!とうとう動き出したか!」


ここまで順調にゴブリン達を倒していたがキングが動き出したとあれば状況は引っくり返るのも時間の問題であろう。それほどキング種の能力は高い。しかも・・・・


「た、大変です!」

「どうした!?」

「外壁の上に居る者たちが魔法術を放ったのですが、キングの振るった武器から暴風が発生して魔法術を回避しました!」

「なに!?まさか魔道具か!?そのような物一体どこで!」


ゴブリンキングが持っている武器が魔道具であることが判明し、これにより討伐がさらに難しくなってしまった。そして・・・


バキャ~ン!!!


何かが壊れる音が辺りに響き渡り、見ていなくともゴブリンキングが門を破壊したのだと分ってしまった。それを聞いたトマスはある決断を下した。


「ソウハ殿!門へと援軍に行ってくれませんぬか!ここは我らで何とかなります!」

「確かにその方がよさそうですね!分りました!【アタックブーストワイド】!【ブーストワイド】!行ってきます!皆!」

「孫を頼みます!」


霜葉トマスの頼みを聞いて、皆と共に門へと向かう。その際この場に居る者たちの身体能力を上げるのを忘れなかった。これにはこの場に居た者たち全員が感謝した。トマスも彼の魔法術の効果が切れるまでに此処のゴブリンどもを減らすべく声を上げた。


「皆!ここが正念場だ!ゴブリンどもを街から追い出せ~!!」

「「「「「「「おお~!!」」」」」」」


この場に居る者たちは一丸となってゴブリン達に向かっていた。その頃、霜葉は門へと向かいながら、確認を行っていた。


『ガウェイン!』

『主殿、私はいつでも行けますぞ?』

『うん、頼むね!さすがに全力でやらないと勝てそうにないからね!』

『その通りです。一対一では私でもゴブリンとは言えキング種と戦うのはきついです。ですが主たちと一緒なら・・・』

『うん!僕も全力で援護するよ!』

『私も全力で立ち向かいますぞ』


最終確認を行い急いで門へと向かう霜葉達。そして門へと着いた霜葉達の目に映ったのは、ほとんどの人たちが倒れて今まさにアルノルへと手を伸ばしているゴブリンキングの姿だった。


『ガウェイン!頼むね!』

『御意!』


霜葉はすぐさま【箱庭世界】の入り口を出現させて、その中からガウェインがゴブリンキングに向かってゆく。そんなガウェインに霜葉は自身ができる最大の付与魔法術を施す。


「【フルアタックブースト】!【フルガードブースト】!【フルブースト】!」


その瞬間ガウェインのスピードが極端に上がり、攻撃速度も上昇して次の瞬間には・・・


スパン!!

「グガァ?」


ゴブリンキングの左手を手首から切り落としていた。ゴブリンキングは信じられないのか数度瞬きをして次の瞬間には痛みによる絶叫を上げた。


「グガァアアア~!?」


そのままゴブリンキングは自分の手を切ったであろう目の前に現れた白銀の騎士甲冑を纏った者を睨みつけた。一方、助けられたアルノルはガウェインの背中を見上げて、そのまま気絶し倒れた。霜葉は白夜と十六夜、ルナにいつでも魔法術を放てるように言って、新月たちと一緒に倒れている兵士、騎士、住人達に回復魔法を施して回った。


さすがにダメージが大きくすぐには意識を取り戻さないようだが、ここに居てはまずいので新月たちと一緒に遠くの場所へと移動させることにした。その間にもガウェインとゴブリンキングの睨み合いは続き、次の瞬間には・・・


「グガァアアー!!!」

「・・・・」


ゴブリンキングは片手斧を右手で振るい、ガウェインはその攻撃を盾で防いだ。これが戦いの合図となり霜葉がこの異世界に来てから最大の戦いが始まった。


次々に攻撃を繰り出すゴブリンキング。だが、ガウェインもその攻撃を防ぎきっている。これはガウェインの技量と霜葉の付与魔法術の効果だけが原因ではない。先制攻撃でゴブリンキングの左腕を切り落とせたのが最大の原因だ。


ゴブリンキングが持っている斧は片手で扱っているが、近くで見ると大斧と言ってもいいサイズである。実際には大斧なのであろう。しかしゴブリンキングが大きく筋力もあるので片手斧サイズに見えてしまうのだ。当然本来は両手で扱う物だ。ゴブリンキングも門を壊すときは両手で振るった。


それゆえ、片手を失った今本来の威力が出せないのだ。そんなゴブリンキングにガウェインは攻撃を防ぎながら反撃を行っている。時に突きを放ち、斬撃を放ち、彼は的確に相手に傷を与えてゆく。それだけではなく・・・・


『今じゃ!三人とも!』

「ワオ~ン!」

「ニャー!」

「ぴー!」


【思念会話】を効果的に使い白夜、十六夜、ルナの三人に魔法術を放つタイミングまで指示している。これにより魔法術の効果で痺れ、凍え、視界が見えづらくなり、それがさらに攻撃頻度を増やしている。


正直、ガウェインもここまで有利に事が運ぶとは思っていなかった。先制攻撃で左手を切り落とせたのはよかったが、それでも今の自分ではゴブリンキングとせいぜい互角だと思っていた。


それがふたを開けてみればこちらが押しているではないか。この結果をもたらしたのは主である霜葉のおかげであることは明白であった。魔王職の強力な能力に仲間と付与魔法術。この三つがあったからこそ今互角に戦えているのだと。この出会いに感謝してガウェインは目の前の敵を倒すため剣を振るう。


ゴブリンキングは自身が苦戦しているのが信じられなかった。これまで自分は常に強者であり勝者であった。特に今持っている武器を手にしてからは負け知らずで苦戦したことすらなかった。それゆえに今自身が抱いている感情が理解できずにいた。それは死の恐怖。ゴブリンキングは生まれて初めて死を身近に感じているのだ。


「グガァアア~!?」


己の理解できない感情を振り払うがごとく咆哮を上げ、片手斧を地面へと振り下ろそうとする。自身ができる最大の攻撃で目の前の者を吹き飛ばそうとした。しかし・・・・


『隙だらけじゃ!!』

スパン!!

「グガアアアア!?」


目の前に敵が居るのに攻撃ですらない振り下ろしができる訳がなかったのだ。ゴブリンキングは左手と同じく右手も手首から切り落とされてしまった。同時に右手で持っていた斧も地面に落ちて深々と埋まった。


『さらばじゃ!』


ガウェインは止めにゴブリンキングの首を断ち切った。その首は飛んでいき戦いを見ていたゴブリン達の元まで到達した。ゴブリン達は自分たちの王が倒されたことが信じられずに固まっている。そんな中・・・


「「「「「「「「オオオォ~!!!!」」」」」」」」


この戦いを見守っていた外壁の者たちと途中から目を覚ましたゴブリンキングの攻撃で気絶していた者たちが歓喜の雄叫びを上げた。その声にやっと状況が呑み込めたのかゴブリンどもが慌てだした。そこへ・・・


ドドドドドドド!!!

「街からゴブリン達を追い出す!一匹たりとも逃すな!!」

「「「「了解!!」」」」


討伐隊の騎士たちが馬に乗ってやってきたのだった。彼らはゴブリンを過半数倒した後に騎士以外の者たちを残して街へと戻ってきたのだ。それを指揮するのは騎士団長のサティス。ゴブリンどもは慌てて逃げ出そうとするが、その動きは遅い。ゴブリンキングが倒されたことで身体能力が元に戻ってしまったのだ。


討伐隊の騎士たち、外壁の者たち、トマスに率いられた人たちによりゴブリン達が全滅するのにそう時間はかからなかった・・・・一方の霜葉はガウェインに話しかけようとしていた騎士たちを尻目にどうするか相談していた。


『で、主殿これからどうしますか?』

『とりあえずガウェインは騎士たちに一礼をして【箱庭世界】入って』

『よいのですか?』

『うん大丈夫だよ。【箱庭世界】の入り口は僕と仲間たちにしか見えないんだ。他の人には急に消えたように見えるらしいよ?』

『ほう?それは便利ですな。それならば時空魔法術で転移したように見えますな』

『そう勘違いしてもらうのが狙いだよ』

『わかりました』


騎士たちがガウェインに近づこうとしたら、謎の騎士(霜葉以外の人にはそう見える)は一礼をしてその場から消えた。これにはその場にいた人たちは驚きどこに行ったか辺りを見渡している。しかし、今は謎の騎士に守られていたアルノルを回復しようと、霜葉が言い他の人々もそれに賛同した。


幸い、アルノルは右足の骨折以外は大した怪我はなく骨折も綺麗に折れているのでこれなら効果の高い回復薬で二、三日で治るとその場にいた怪我に詳しい騎士の言葉を聞いて人々は安堵した。それから時間が経ち、ゴブリン達は一匹残らず討伐された。その時間帯は夕日が見える頃合いであった。


それから事後処理でゴブリン達の死体から魔結晶を取り出して、数か所に集めて燃やす作業を住人達も協力して行った。避難していた女性たちも手伝い早く終わらせようとしていた。そんな中で違うことをやっているところもあった。


「「「「「「メェ~♪」」」」」」

「「「めぇ~♪」」」

「どんどん食えよ。お前たちのおかげで坊主たちも無事だったし戦いも楽だったからな!」

「ああ!遠慮すんなよ!」


一つはハニーブロンドシープたちにその日に採れた新鮮な野菜を与えているところであった。実際、彼らが来てくれなかったら子供たちが最悪の結果になっていただろうし、その後の戦いも意外な活躍をして戦闘が楽であった。そのお礼として野菜売りの出店をやっている人たちや農業をしている人たちが菜っ葉系の野菜を彼らに食べさせているのだ。


ちなみに彼らが避難していた屋敷からどうやって戦場に来れたかと言うと、誰かが屋敷の門を開けたわけではなく自分たちの力で壁を越えてきたのだ。方法はメスのヒツジたちに勢いよく飛び掛かりトランポリンのように弾んで飛び越えたのだ。これには目撃したメイドや騎士たちも口を開けて驚いた。


一方その主たちであるルーク、カーター、ヘンリーは互いの無事を喜んで抱き合っていた。その場には院長先生も涙を浮かべて子供たちによくやったと褒めていた。同様に一緒に戦った大人たちも彼らの頑張りを褒めている。まぁ、その前に無茶をするなと叱られてもいたのだが。


似た様な所がもう一つある。それは・・・・


「くぅ~!」

「まぁ~」

「ぐぅ♪」

「ぐる♪」

「グワ♪」

「グル♪」

シャクシャクシャクシャク


助けに来てくれたブルーベアの両親とその子供に最高級の果実を与えて食べているところだ。これも街の人達からのお礼で霜葉からブルーベアの好物を聞き、渡し方も教えてもらい与えて見た所、おいしそうに食べ始めたのだった。新月たちも活躍したことで一緒に食べている。さすがに住人達は近づくのは遠慮している。それでも助けに来てくれたこの親子に感謝しているのは間違いない。


余談だが、数年後この事がきっかけでこの街ではブルーベアを討伐することはご法度となった。しかも、このブルーベアの子供が大人になって友好的な関係を築くことが出来て、この街の冒険者はたまに彼と会うのだが果物を手渡しできるようになるのだった。


そして最後の場所では・・・・解体の見世物が行われていた。


「はいこれも終わりましたよ」

「わかった!次の樽を持ってきてくれ!」

「おう!」


ゴブリンキングの解体が行われていたのだ。キング種の素材は例えゴブリンと言えど貴重な素材だ。内訳は皮に髪の毛、角に骨と血である。角は一本しかないがそれでも立派なものである。残念ながら血はすべて流れてしまい固まっていたので回収できなかったが、それでも他の素材は無事なのでもったいないから回収しようという声が街の武具職人たちから上がったので行っているというわけだ。


始めはこの街で一番腕のいい職人であるマドックに解体してもらおうと考えていたが、そのマドック本人が霜葉に解体してもらうべきだと強く主張した。職人たちは首を傾げたが、最近冒険者ギルドが売りに出している魔物素材は彼が解体していると言うと、反対意見は出なかった。ギルド職員も否定しなかったし、マドックが言うならと納得したのだ。


そう言うわけでマドックからの要請で解体作業を始めた霜葉であるが、すぐさまその手際に職人たちが注目した。よどみなく動くナイフ、肉片一つ付かない皮、肉を骨から削ぎ落とす技術そのすべてが凄まじい腕であった。いつしか霜葉の解体作業は職人たちが周りで見始めて、冒険者ギルドの解体場職員も素材の整理を手伝い始めた。ちなみに霜葉の近くでは邪魔にならない様に白夜と十六夜、ルナがお行儀よくじっとして待っていた。


「はいこれで終わりですね」

「お疲れ様だね」

「「「「「おお!!」」」」」

パチパチパチパチパチ!!


解体作業が終わった瞬間には見学していた職人が拍手を自然と行っていた。その中心に居る霜葉は照れながら皆に対して頭を下げている。


「ところでこの素材はどうするんですか?」

「ギルドマスターが帰ってきたら、領主様と話し合って決めると思うよ?これほどの素材は滅多に出回らないからね~」


霜葉は解体場職員に気になったことを聞いてみた。詳しく聞いてみるとキング種の素材はラージ種の素材よりも二回りほど価値が高いとのこと。これを売りに出すだけで最低でも金貨12枚はするらしい。それほど価値が高いなら職人たちが回収しようと言い出したのもわかる。なお、ゴブリンキングが持っていた武器の大斧は騎士団が回収している。


ゴブリン達の魔結晶回収も終わり、数か所のゴブリン達の死体に火を付け燃やす作業が行われた。その作業の前にブルーベアの親子は森へと帰って行った。親の背中で三日月にいつまでも手を振っている小熊が印象的だった。三日月も見えなくなるまで手を振っていた。


それと入れ替わりで冒険者たちと兵士も帰ってきた。ギルドマスターのオルフ殿とデルタさん。警備隊総隊長のジプスもいる。彼らもゴブリン達の後始末をして帰ってきたのだ、これでこの街を騒がせたゴブリン問題は解決した。


この場でオルフ殿と領主であるダディン様が皆に感謝するとともにゴブリン問題の解決を高らかに宣言した。街の人々はようやく終わったことを安堵した。この解決に尽力してくれた住人達にはダディン様から報酬が出るそうだ。冒険者たちにも活躍に応じて報酬が支払われる。


しかし、今日はもう遅いし壊れた外壁や門の補修や修復などの計画も練らないといけないので、報酬は明日に支払うことになったり今日は解散となった。


それからは街の住人達が食材を出し合って炊き出しが行われた。頑張った人たちに少しでもお礼がしたいと女性たちが中心となり、美味い料理を大量に作り始めた。それに便乗して酒場を経営している人たちも酒を振る舞い、街はお祭り騒ぎとなった。


兵士や騎士は門の見張りと壊れた外壁の見張りをするため交代で酒は飲まずに料理を食べることにした。料理を受け取る時に人々から次々と感謝されて、彼らは自分たちの頑張りを実感し誇った。


孤児院の院長先生も協力して、霜葉がお肉を提供してくれたので肉じゃがを作った所、これが大変に好評で他の女性たちにもレシピを教えて作ってもらう事態にもなった。以来この街では肉じゃがが人気メニューとして末長く愛されることになる。


一方、この状況の中霜葉たちはと言うと・・・・


「な、なぁ!よければ俺達と組まねぇか!!」

「ちょっと!私たちが声掛けてるでしょう!」

「君の能力は素晴らしい!ぜひ俺達と一緒に依頼を受けてくれ!」


冒険者たちからの勧誘の嵐の中心に居た。この事態のきっかけは霜葉の能力が知れ渡ったことが原因だ。街にゴブリン達が攻めてきた時、霜葉の【付与魔法術】と【回復魔法術】の効果の高さを実感した冒険者とそのことを街の人々から聞いた冒険者が勧誘するのは当然だった。


ついでに言えば、ここまで活躍したのだから報酬もかなりの物になるのではないかと考え、仲間になってそのおこぼれにありつけないかと言うハイエナのような考えの者も居る。そんな冒険者の思惑を知らない霜葉は・・・・


「すみませんが・・・・僕は誰とも組むつもりはありません。この子たちもいますし必要を感じません」


霜葉にはこれっぽっちも誰かの仲間になったり、誰かを加えるつもりはないのだ。理由は霜葉が口にした通り必要がないのだ。そもそも自身の職業などの隠し事が多い霜葉にとって他の者と組む意味はない。リスクが高すぎるのだ。これが事情を知っている生徒会長や健吾、裕佳梨なら問題ないのだが、それは現時点では望めないことだ。


「そ、そこを何とか・・・」

「ちょっと~あんまり強引な勧誘は感心しないわよ~」

「「「「げぇ!」」」」

「「「「デルタさん・・・・」」」」


霜葉が断ってもしつこく食い下がろうとするのが居たのだが、それに待ったをかけたのはデルタさんだった。相変わらず現れた時の反応が真っ二つに分かれているが。


「彼の能力の高さは私だって知っているけど、だからと言って無理やり仲間にするのはどっちにとってもいいことではないわよ?それにあんまりしつこいと彼のお仲間さんがいい顔しないわよ」

「「「「え?」」」」

「ワン!」

「ニャ!」

「ぐぅ!」

「まぁ!」

「ぐる!」

「ぴ~!」


デルタさんの言葉を肯定するように白夜たちは鳴き声を上げる。若干居心地が悪いのかその鳴き声には怒気が含んでいるように聞こえた。


「彼を仲間にするってことはこの子たちとも付き合っていかないといけないのよ?そのことを忘れている様じゃあうまくいくわけないわよ」

「「「「うっ・・・・・」」」」


痛いところを突かれた冒険者たちは皆黙ってしまった。まぁ、これは彼らを責めるのは少々酷と言う物だろう。魔物使いと言うジョブに就いた者など今までいなかったのだから、彼らが魔物たちのことを考えられないのは当然だ。


「わかったなら彼も休ませてあげなさいな!断ってもいるんだし、離れた離れた!!」


デルタさんの仲裁で冒険者も諦めることにしたのかは分らないが、離れて行った。白夜たちはようやくいなくなったかと言いたげに機嫌が直りつつある。そんな中デルタさんは唐突に・・・


「今回はありがとうねソウハ君」

「いえいえ、ここを守ることは僕も望んだことです。お礼は言う必要はないですよ?」

「それでも言いたいのよ。ほら私は変わってるでしょう?だから、いろんな街では気味悪がれたりしたんだけどこの街は受け入れてくれた人の方が多いのよ。だから私はこの街専属の冒険者になったの。私みたいな変わり者を受け入れてくれた人たちに少しでもお礼がしたくてね。そんな街を守るために活躍したあなたには言いたいのよ。本当にありがとう」


デルタさんはそう語り、食事を楽しんでいる街の人々を見つめていた。その眼はとても優しそうであった。・・・何人かは寒気を感じて身震いしていたが。


「そうでしたか・・・どういたしまして」

「まぁ~!」


霜葉はそう答えて三日月はデルタさんの足に近づき、私も頑張ったと言いたいのか両前足を上げて抗議している様だ。


「ええ、もちろんあなたたちの活躍も聞いているわ。ありがとうね~♪」

「まぁ~♪」


デルタさんはそう言いながら優しく三日月の頭をなでるのだった。その後は霜葉に明日領主の館に来るようにとのギルドマスターの伝言を伝えて、別の料理を受け取りに行ってしまった。このお祭り騒ぎは夜遅くまで続いた・・・・


そして翌日。霜葉は白夜たちを連れてダディン様の屋敷へと向かっていた。早朝であるのと昨日のお祭り騒ぎで酒を飲み過ぎた人たちが多くいたため辺りは静かであったが、門と壊れた外壁からは何やら作業音が聞こえるのでもうすでに直し始めているのだろう。


門番さんにすぐ屋敷へと通してもらい、メイドさんの案内である一室に到着した。


コンコン

「旦那様。ソウハ様が来てくださいました」

「おお!そうか!入ってくれ」


メイドさんが扉を開け霜葉に入るように促して、白夜たちと共に入る。そこに居たのはダディン様とその妻であるナナリ様。その後ろに待機しているトマスさん。騎士団長であるサティスとアルノル。警備隊総隊長のジプスと副隊長のミルス。ギルドマスターであるオルフ殿とBランク冒険者のデルタさん。この街でそれ相応の立場に居る人たちが揃っていた。彼らは細長いテーブルに備え付けてある椅子に座り、霜葉を待っていた。


「ソウハ君、態々呼び出してしまってすまなかった。君の活躍は聞いていたので本来なら迎えを寄越すところだったのだが、何分門や外壁の修理に人手が足りない状況でね?許してほしい」

「お気になさらずに。それで今日はどうして呼ばれたのでしょうか?」

「うむ。昨日の事態に付いて詳しい話を聞きたくてね。また同じことが起こらないと言う保証はないから対策もしっかり取らねばならない。君は街での出来事にはすべての場所に関わっていたと聞いている。ぜひ話を聞かせてほしい」

「わかりました。協力しますよ」

「ありがとう」


そのようなやり取りの後に霜葉は席に座ろうとしたところ・・・・


「ソウハさんが来てるんですか~!」


部屋の扉を勢い良く開けて入ってきたのはダディン様とナナリ様のご息女リルファちゃんだった。その後ろにはご子息であるアルト君とメイドが二人控えていた。


「リルファ。お行儀が悪いですよ?」

「う!す、すみませんお母様」

「姉さま・・・だからちゃんとノックしようって言ったのに・・・」


リルファちゃんの行動を注意するナナリ様。その様子を困り顔で眺めているアルト君。後ろに控えているメイドたちも苦笑している。とりあえず霜葉は自分に用があったであろうリルファちゃんに声を掛ける。


「それで私に何かご用ですか?」

「あ、はい。ソウハさん話し合いが終わるまでビャクヤ君たちと遊んでいいですか?」

「この子たちと?」

「はい!話し合いは時間がかかると思うんです!その間、私たちがこの子たちと遊んでいます!その方がこの子たちも退屈しないのではないかと思って」

「ふむ・・・・みんなはどうする?」

「ワン!(遊ぶ~!)」

「ニャ~!(遊びます!)」

「ぐぅ!(遊ぶぞ!)」

「まぁ!(遊ぶの!)」

「ぐる・・・(遊ぶ・・・)」

「ぴー!(みんなといくの~!)」

「じゃあ、お願いしていいですか?」

「もちろんです!」


そう言うことになって白夜たちはリルファちゃんたちが中庭で遊ぶために連れて行った。昼までかかるようならお昼御飯も食べさせると言っていたので任せてみよう。白夜たちも楽しそうにしていたし、アルト君は三日月と手を繋いで歩いて行ったのでとても微笑ましかった。メイドさんも笑顔になっていた。ルナも最近は白夜たちと一緒に行動してくれるので助かっている。なお、メイドさんにはルナの食欲はサイズ相当になっていると伝えてある。


「ソウハ殿ありがとうございますね」

「いえいえ、こちらも助かりますから」

「では、話を始めようか?」


とにかくこの話し合いも事後処理の一環なのだろうと、霜葉は考え協力するために椅子へと座り始まろうとしていた・・・・

感想・誤字脱字報告・応援コメントお待ちしております。作者のやる気が上がります。


次の更新は18時です。

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