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第二章  第二話  魔人国編2

霜葉は女王国を旅立ち、西側に位置する魔人国 デュルファンドを目指している。その道中で白夜と十六夜が【存在進化】のスキル効果で成長進化した。また、以前三日月が見つけた魔物の卵からシルバーウィングと言う魔物も生まれ戦力は順調に増えつつあった。


そんな中、霜葉たちは野盗に襲われている一団を発見して助けに入った。その戦闘で人の死を見て心が動揺した霜葉であるが、これも冒険者として生きるのなら必要と自らを奮い立たせた。


そして、助けたご一行の中に魔人国の王族が居てその女性の子供たちが三日月を気に入り一緒に同行することとなった・・・・


「そっか~君はミカヅキちゃんって言うんだね~」

「まぁ~♪」

「うわ~ビャクヤ君も毛がふわふわ~」

「ワフ~♪」


現在、霜葉たちは豪華な馬車の中で寛いでいる。三日月はアルト君が構い、白夜はリルファちゃんが撫でている。この馬車の中は外から見た大きさより倍は広いのだ。おかげで馬車の中とは思えないほど寛げている。


「しかしすごいですね~この馬車は・・・・」

「もともとこの馬車に使われている箱はダンジョンで見つかったのですが、見つけたのが我が国の騎士団だったため国の物となりました。その後研究の成果で馬車にすることができまして、この国の王である兄上が私が結婚する時に私が使えばいいと譲ってくれたのです」


ダンジョン。ゲームではお馴染みの不思議空間。詳しいことはわかってないらしいが、この異世界に広まっている魔道具はこのダンジョンから発見された魔道具を研究して広まった物である。中には複製できる物から複製が不可能な一品物までさまざまである。ちなみにこの馬車は後者である。


他にもダンジョンでは多くの魔物が生息して魔物を倒すと消滅してその場にその魔物由来の素材を落とす。さらに奥に行けばいくほど強い魔物や貴重な魔道具が見つかるので、腕自慢の者たちはこぞってダンジョンに挑戦する。


ただ、ダンジョンもいいことばかりではない。ダンジョンでは無限に魔物が湧くためあまりに多くなりすぎるとダンジョンで生まれた魔物たちが外にあふれてしまうのだ。そのため定期的に国の騎士団がダンジョンに入り魔物を駆除する必要もある。


「ダンジョンですか・・・いつか行ってみたいですね~」


霜葉としては自身と白夜たちのLv上げになりそうなので行ってみたい気持ちがある。もっともルナがある程度戦闘ができるようになるまでお預けだが・・・


「失礼ですが、ダンジョンにはDランク冒険者以上かダンジョンのある国の探索許可証が必要ですよ?」

「あ、そうなんですね?なら問題ありません。僕はCランク冒険者ですから」

「まあ?そうだったのですか。それは大変失礼いたしました」

「いえいえ。僕は魔物使いですし強そうには見えませんから。実際僕はこの子たちのサポートがメインですしね」

「ぴー!」

「ニャ~」

「ぐぅ」

「ぐる~zzz」


霜葉の言葉に答えるように鳴き声を出す他の魔物たち。無月だけは寝言ではあるが・・・・この子は大変によく寝る子です。


「サポートですか?【付与魔法術】を使っていましたからそれを使って?」

「あとは【回復魔法術】もですね」

「「え!」」


霜葉のセリフに子供たちが反応した。


「ソ、ソウハさん!【回復魔法術】を使えるんですか!」

「ええ」

「で、でしたら今夜は野宿になりそうなのでその時に【クリーン】を掛けてくれませんか!?」

「この子たちや自分にも掛けるつもりですしいいですよ?」

「「やった!」」


そう言ってリルファちゃんは喜び、アルト君も嬉しそうだ。


「ナナリ様もどうですか?」

「よろしいのですか?」

「もちろんですよ」

「ありがとうございます。あの・・・もしよろしければ護衛の騎士たちにも掛けてはくれませんか?」

「はい、いいですよ」

「ありがとうございます!街につけばこのお礼はいたしますので」


そして、この言葉通り道の途中で野宿をすることになり寝る前に全員に【クリーン】を掛けておいた。その際、護衛の騎士たちからは大層感謝された。


「ソウハ殿。本当にありがとう。おかげで暑苦しかったのが一気に快適になった」

「どういたしまして」

「そう言えば、自己紹介とお礼と謝罪がまだだったな?私はナナリ様の護衛騎士団団長 アルノル・ライゼルフと言う。野盗の時は助太刀感謝する。それと野盗と疑ったりして申し訳なかった」


そう言ってアルノルさんは深く頭を下げた。アルノルさんは綺麗な金髪を肩ぐらいまで伸ばして後ろで括っている美人さんである。ちなみにナナリ様は蒼い髪ロングヘアーの母親とは思えない美貌を持ち、リルファちゃんは紫の髪をアルト君は母親譲りの青い髪の短髪だ。


「いえいえ、どういたしまして。それと謝罪は受け取りますね」

「ありがとう。【クリーン】のお礼として今日は私たちが見張りをするから君と魔物たちはぐっすり寝てくれ」

「いいんですか?」

「その方がリルファ様とアルト様も喜ぶだろう?」

「なるほど。わかりました」


騎士団長であるアルノルさんのご厚意で霜葉はぐっすり寝ることができた。ちなみにリルファちゃんは白夜とアルト君は三日月と一緒に馬車で寝ることになった。さらに余談ではあるが、食事の時はルナの食事量に皆が驚いていた。


そして翌日。朝食を簡単に済ませ出発したご一行。この分なら今日の夕暮れまでには街へと着くことだろう。


「今向かっている街がわたくしたちの住む街であり、わたくしの夫がその責任者です」

「その町はどういう所ですか?」

「そうですね・・・かなり大きな街であり近くに大きな森もありますから魔物素材が多く冒険者たちも多いですね。商人たちもその魔物素材を求めてやってくるので、かなりの賑わいです」

「そうですか・・・」

「ナナリ様、失礼いたします」


霜葉とナナリ様が話し合っていると、アルノルさんが馬車の扉の窓を開けてきた。


「何かあったのですね?あら?これは・・・・」

「はい・・・少々困ったことになりまして」

「どうかしたのですか?」

「ソウハ殿、実はな・・・・」


アルノルさんの話では馬車の前方に小さなブルーベアが現れたと言うのだ。しかもかなりの小ささで生まれて2か月も経っていないだろうとのこと。そんな小さなブルーベアが一匹で街道に現れたのだ。


「くぅ~くぅ~」

「おそらく親とはぐれた個体なのだろう。問題は今この時に親と出くわせば我々に襲ってくるのではないかと言うことでな?ブルーベアは冒険者ギルドからこちらから攻撃せねば襲ってこないと言う情報を貰っているだけにこのまま進むのはどうしたものかと思ってな?」

「確かにそれは困りましたね?それにあの小ささでは一人では生きてはいけないでしょう」

「自分もそれが気がかりでして、子を失った親が凶暴になるかもしれませんし」

「なるほど・・・・」

「まぁー」

「あ、ミカヅキちゃん!」


アルノルさんとナナリ様と霜葉が話し合っていると、アルト君と一緒に居た三日月が馬車のドアを開けて外へと出てブルーベアの小熊の下へと向かった。


「くぅ~?」

「まぁーまぁまぁまぁ~」

「くぅ~くぅ?」

「まぁー!」

「くぅー」


しばらく話し合いをしているかのように鳴き続けた二匹は、小熊が三日月に近づきそれを抱き上げた。そのまま三日月は2本足で歩き馬車へと戻ってきた。


『三日月?その子どうするの?』

『この子母親と父親とはぐれちゃったらしいの。私が親の元まで連れて行くの!その間お世話するの!』

「三日月は親が見つかるまでその子を保護するってことでOK?」

「まぁー」


霜葉が態々声を出して確認したことを三日月は深く頷いた。


「僕はそれでいいよ。皆も気にかけてあげてね?」

「ワン」

「ニャ」

「ぐぅ」

「ぐる」

「ぴー?」


霜葉の言葉に皆頷いていた。ルナだけは首を傾げて三日月が抱いている小熊を興味津々で見つめている。当の小熊本人・・・いや、本熊は歩き疲れたのか三日月に抱き上げられたまま寝ていた。


「くぅ~zzz」

「まぁまぁ」


そんな小熊を三日月は大事そうに抱き上げポンポンとあやすのだった。


「か、かわいい」

「ミカヅキちゃん、僕にも抱かせて?」

「まぁ」


アルト君が小熊を抱きたいらしく手を向けるのだが、三日月はだめっと言うように小熊を庇う。


「アルト。この子熊は三日月さんが親代わりとなり世話をするのですから、むやみに触ろうとしてはダメですよ?」

「まぁ~」


ナナリ様の言葉に三日月は頷く。


「とりあえず、この子は僕たちが保護して親を探しますね?」

「そうか、どうかよろしくお願いするよ」


そんな訳で旅の同行者が少しの間であろうが、増えたのだった。


それから、夕暮れの迫る時間になる頃になって一行の進む先に街の壁が見えてきた。どうやら、目的の街までもうすぐの様だ。


「もうすぐ街に着きますよ」

「そうですか」

「街へと着いたら、ソウハさんは我が家に泊ってくださいな。助けてくれたお礼を渡したいですし」

「いえ、そこまでしていただかなくても・・・・」

「そう言うわけにはまいりません。あのままでは最悪わたくしたちだけを逃がして騎士団の皆がどうなっていたことか・・・そう考えますとしっかりとお礼はしませんと」

「・・・・・わかりました。そう言うことでしたら」


ナナリ様のセリフから騎士団の人たちのことを大切にしていることが分かり、断るのは失礼と判断してその提案を受け入れた。


その後、街へとたどり着いて門番にアルノルさんが挨拶するとすぐに門を通り街へと入ることができた。街の中を進んだ馬車はそのまま奥にある屋敷へと向かった。


奥にある屋敷はこれまた豪華なれど、しっかりとした造りでかなり堅牢な印象を与える。その屋敷の門番二人が馬車に気付き、門を開けた。


「お帰りさないいませアルノル団長」

「うむ。ダディン様は屋敷に居られるか?」

「はい。ナナリ様たちのお帰りをお待ちしております」

「わかった。二人も門番の仕事は地味だが重要な仕事だ。がんばるようにな」

「「はっ!」」


そう言ってアルノル団長は馬車と共に門をくぐった。屋敷の玄関前でまずはナナリ様が馬車を出ると玄関が開き羽の生えた男性が現れた。


「ナナリ。お帰り無事に帰ってきてくれてよかったよ」

「あなたただいま」

「父上~」

「お父様。ただいま帰りましたわ」

「おっと?アルトもリルファもお帰り」


アルト君が父親に駆け足で突撃して、リルファちゃんは礼儀正しく挨拶を行った。


「アルノルもご苦労様だったね?」

「もったいないお言葉ですダディン様」

「皆もご苦労様。疲れているだろうからゆっくり休んでくれ」

「「「「ありがとうございます」」」」

「あなた。旅のお話の前にお客様がいるの」

「うん?そうなのかい?」

「ええ、出てきてもいいですよ?」

「では失礼します」


そう言って霜葉は馬車から出た。彼の後に白夜たちも続けて馬車から降りる。


「あれは・・・ブルーベア?魔物を連れている様だが彼は?」

「彼はソウハ殿と言って魔物使いなのです」

「魔物使い!?それは珍しい!しかもブルーベアを連れていると言うことは【テイム】できたのか!」

「ええ、実は野盗に襲われたところをご助勢いただいたのです」

「なに・・・わかった。詳しく話を聞きたいからアルノルも来てくれ」

「はっ」

「ソウハ殿。妻たちを助けてくれたお礼もしたいのでしばらく屋敷の部屋で待っていていただけるか?」

「はい、わかりました。あとこの子たちも屋敷の中へ入れていいでしょうか?」

「ああ、なるほど。屋敷を汚さなければかまわないよ?」

「ありがとうございます。気を付けますね」


そう言ってナナリ様の旦那様は家族とアルノルさんを連れて屋敷の奥へと向かった。霜葉はいつの間にかいた肌の青白いメイドさんに案内されて屋敷の一室で待たされることとなった。なお、白夜たちは屋敷に入る前に【クリーン】を掛けておいた。


メイドさんが用意してくれたお茶と茶菓子をいただきながら待っていると、足音が近づいてくるのが聞こえてきた。そして次の瞬間には扉が開いて執事がその後ろからナナリ様とその旦那様が部屋へと入ってきた。


「ソウハ殿お待たせしてしまい申し訳ない。まずは自己紹介だな。私はナナリの夫でこの街の責任者でもあるダディン・ユーディルスだ。身分としては公爵になるな」

「公爵様でしたか。これは失礼を・・・」

「どうかそのままで。君は妻の命の恩人であり騎士団も助けてくれたのだ。自然体で接してくれて構わない」

「いいのでしょうか?」

「もちろんだとも。さあ、どうか座ってくれたまえ」


目の前の男性の身分を聞き慌てて立ち上がった霜葉にダディン様は気を悪くするどころか、自然体で接することを言ってきた。とりあえずソファに座り、体面にダディン様とナナリ様も座り一緒にやってきた執事は近くに待機しメイドさんは部屋の扉の横で待機するようだ。


「まずは改めてお礼を。妻や騎士団を助けてくれたことありがとう。妻やアルノルに聞いた状況を考えると最悪妻たちを逃がして騎士団の皆は野盗に捕まっていただろうしね。野盗や盗賊に女性が捕まればどんな目に合うかは目に見えている。本当にありがとう」

「いえ、たまたま通りかかっただけですので」

「それでも助けると言う行動を選んでくれたんだ。礼をするのは当たり前だよ。さて、トマス」

「はい、旦那様。ご挨拶が遅れましたが、わたくしはユーディルス家の執事をしているトマス・ライゼルフといいます」


そう言って綺麗に一礼をした角の生えた白髪の男性。結構歳を重ねているだろうが、それを感じさせない動きである。


「ライゼルフっといいますと?」

「はい、騎士団団長をしているアルノルはわたくしの孫に当たります。わたくしからもお礼を申し上げたいと思いましてこの場に来た次第で、この度は奥様と孫をお助けいただきありがとうございます」

「ライゼルフ家は代々私たち王族の血を引く者を助けてきた家系でね」

「そうだったんですか」

「それとこちらが、お礼の品となります」


そう言ってトマスさんは右手に持っていた袋を開けて、テーブルの上に金貨10枚を重ねた。


「金貨10枚ある。君は冒険者だと言うので白金貨よりも金貨の方がいいと思い10枚にしてみたが、どうだろうか?」

「こんなにいただいていいのですか?」

「もちろんだとも。君のやったことはそれだけの価値がある」

「・・・・・わかりました。有難くお受け取りしますね」


霜葉はそう言うと金貨を受け取り、懐のローブにあるポケットに入れるフリをしながらアイテムボックスに入れた。


「今日ところはこの屋敷に泊っていくといい。トマス部屋へと案内してくれ」

「はい、旦那様」


そう言ってトマスは霜葉を促し、部屋を後にした。そして霜葉と魔物たちが部屋を出て行ったあとで・・・・


「中々、見どころのある若者だね?」

「ええ、本当に」

「しかし、君たちを襲った野盗をけしかけた黒幕はいったいどこのだれか・・・」

「犯人に心当たりはいくつかありますが、証拠がありませんしね」

「これからは、屋敷の警備も厳重にする必要があるかもしれないな」

「そうですね。子供たちの警護も強化しましょう。あなたたちには仕事を増やすことになりますが、どうかお願いね」

「はい、奥さま」


そう言ってナナリ様は部屋にいるメイドに語りかけたのだった。


霜葉が案内された部屋はかなりの広さとベットの豪華さに驚いていると、トマスさんが・・・・


「この部屋は客室の中でも特に質の高い部屋です。ソウハ殿にならこの部屋を使ってもらいたいと旦那様がおっしゃりまして」


さらにメイドたちが現れて、部屋の隅に上質な布を敷いてくれて白夜たちはこちらで寝てくださいと言い、白夜たち五匹と小熊はその布の質感が気にったのか寝転んでいる。無月などはもう寝ていたりする。


やがて夕食の時間となり、霜葉たちはメイドさんの案内の下食堂へと向かった。食堂の扉をメイドさんが開けるとそこにはユーディルス家の家族が勢揃いしていた。


「来たか。さあ座ってくれ!今日は我が家の料理長が腕によりをかけて造った料理だそうだよ?遠慮せず食べてくれ」


そう言うと霜葉の席であろう場所にはメイドさんが三人おり、その内の一人が椅子を引いて着席するように促した。白夜たちは霜葉の後ろでメイドさんたちがお世話するようだ。


そうして出てきた料理は、地球の料理と似通った物から初めて見る物までいろいろだった。もっとも霜葉が知らないだけで似たようなものはあるかもしれないが。


ちなみに、白夜と十六夜は焼いた骨付き肉を新月たち小熊組はイチゴのような小さな果実だった。これが小熊達は大層気に入ったらしく、保護した小熊を含めて嬉しそうに食べていた。


「くぅ~♪」

「まぁ~」


そして三日月はそんな小熊の世話を甲斐甲斐しく焼き実に微笑ましい光景が広がっていた。世話するメイドさんたちも思わず笑顔になるほどである。


「妻たちから聞いてはいたが、本当に果実が好物なのだね?」

「この子たちはスキルに低燃費と言うユニークスキルが有りまして、それの効果で少ない食べ物でも満足するようなんです」

「ほぉ?魔物のスキルにはそのような物もあったのか?」

「ミカヅキちゃんおいしい?」

「まぁ~♪」

「ビャクヤ君もおかわりあるからね?」

「ワン!」


ちなみに子供たちは早々に食事を済ませて、メイドさんと一緒にアルト君は三日月たち小熊組を構い、リルファちゃんは白夜と十六夜をお世話していた。ちなみにルナはと言うと・・・・


「ぴー♪」

「慌てずにゆっくり食べていいからね?」


霜葉が世話をしながら食事をしていたりする。これは霜葉以外の者をルナが怖がってしまい結局霜葉自身が世話をするしかないと結論したからだ。


「いやはや・・・・その鳥の魔物は小さい体ながらよく食べるね?」

「おかげで旅の途中では食べられる魔物を探す羽目にもなりましたよ」


ルナの食べっぷりを始めてみるダディン公爵はその食べる量に驚きを隠せない。


とりあえずそんなこんなで食事を堪能した霜葉たちは今日は早々に休むことにした。ダディン公爵からはお風呂もあるので入ることを勧めてくれたが、ルナを一人にできないと断った。なお、アルト君とリルファちゃんが三日月と白夜と一緒の部屋で寝たいと言ってきたが、ナナリ様が「いけません」と一喝したらしぶしぶあきらめた。


そして翌日。久しぶりのベットでぐっすりと寝れた霜葉と白夜たち五匹と小熊は、食堂で朝食を食べているところである。ちなみにルナは寝る時も霜葉の傍を離れなかった。仕方ないので枕の傍で寝ていた。


「ソウハ殿はこれからどうするのだね?」

「そうですね・・・・取り敢えず冒険者ギルドに行って依頼を受けてみようと思います」

「だったら、アルノルにギルドまで案内させよう。アルノル頼んだよ?」

「了解しました。ダディン様」

「何もそこまでしていただなくとも・・・・」

「気にする必要はないよ。それに、こちらとしては冒険者ギルドに不安材料があってね?」

「不安材料?」

「・・・・ソウハ殿はこの町は初めてだし、説明しておいた方がいいね。実は・・・」


ダディン様の話だとこの町の冒険者ギルドの副ギルドマスターはかなり問題のある人物なのだと言う。そんな人物がいる場所に魔物使いの霜葉が行けば、絶対何かするだろうとのこと。


「そんな人が良く冒険者ギルドの幹部になれましたね?」


副ギルドマスターと言う地位はギルドマスターほど権限があるわけではないが、それでも副と言う立場なのだからそれなりに重要な地位だ。少なくとも問題のある人物がいるべき地位ではない。


「一応は優秀なんだよ。だが、基本自分の利益を優先するタイプで自分さえよければそれでいいと考える人間だ。ギルドも人手不足なんだろうね」


ダディン様の言葉にどことなくいやな予感がする霜葉であった。


そして食事を終えた霜葉はアルノルさんの案内の下冒険者ギルドに向かっていた。屋敷を後にする際、ダディン様家族が見送りに来てくれて、何かあれば私を頼るといいとの言葉を貰いナナリ様とトマスさんからは改めてお礼の言葉を。リルファちゃんとアルト君はまた遊びに来てねと言って見えなくなるまで手を振っていた。


案内されて街の中を歩いているのだが、やはり霜葉たちは目立つようで・・・・


「あれ?アルノル様だ。帰ってきたんだな」

「後ろに居る若い奴は誰だ!?」

「人族?魔物も後ろを歩いているが何なんだ?」

「ちょっと!あのブルーベアの子供見て!?」

「や~ん!ちっちゃな小熊を抱いてる!?かわいい!!」

「肩にいるあの鳥も魔物か?」


アルノルさんもこの街ではやはり知っている人が多いらしくより目立っていた。まぁ、彼女が居てこそそこまで騒がれていないようだが。そして、周りに騒がれることしばらくして冒険者ギルドに着いた。


「ここが冒険者ギルドだ」

「結構大きいんですね?」

「ここは辺境と言うわけではないが、魔物は多く生息しているからな。冒険者ギルドにとっては重要な場所なのだろうな」

「なるほど」

「さぁ、中に入ろう。ギルドマスターだけがいればいいのだがな?」


アルノルさんが先導して冒険者ギルドの中に入る。中は女王国の辺境の町の冒険者ギルドと大した違いはなかった。こちらの方が広々としているくらいか?そうな風に感想を抱いていると・・・


「これはこれはアルノル様。どうやら無事に帰ってこれたようですな?」


アルノルさんに声を掛けてきた男がいた。霜葉からは見えなかったが、声が聞こえた瞬間アルノルさんは一瞬だけ苦虫を噛み潰したような顔をしたが、一瞬で元の顔に戻した。


「ああ、ブルトル殿か。昨日戻ってきたところだ。それで今日は旅の途中で出会った恩人を案内してきたところでな?」

「恩人?」


ブルトルと呼ばれた男はそこで初めてアルノルさん以外に同行者がいることに気づき、霜葉とその周りと肩に居る魔物に気付いた。


「なぜこんなところに魔物が?アルノル様これはいったいどういうことですかな?」

「この魔物たちは心配無用だ。彼はソウハ殿と言って魔物使いなのだ。周りにいるのは【テイム】した魔物たちだ」

「まものつかい?はっ!そんな使えない職業に就いた者が一体何の用だ?」


魔物使いだとアルノルさんが説明すると、目の前の男は霜葉をあからさまに見下したセリフを口にした。


「副ギルドマスターとは思えないセリフだな?ブルーベアを4匹も連れている魔物使いが使えないなどと口にするとは」


どうやらこのブルトルと呼ばれた男が、問題視されている者のようだ。


「ブルーベアとは言えまだ子供ではないですか?そんな物を連れている奴が冒険者としてやっていけるとは到底思えませんな!」

「あ、もうすでに冒険者の資格は持っています。ランクはCです」

「C?嘘などついて俺をだます気か?そんなことあるわけがないだろうが!おい、お前たち!このほら吹きを摘み出せ!」

「わかりました」


ブルトルが近くのテーブルで酒を飲んでいた冒険者らしき者たちに指示を出すと、男たちは動きだし霜葉に近寄ろうとする。だが・・・


「ソウハ殿に何をするつもりだ?言っておくがソウハ殿は嘘はついていないぞ?と言うよりそんな嘘はギルドカードを見れば一発でわかることだろう?」

「いくらアルノル様の言うことでも、このような者の言葉を鵜呑みにするわけにはまいりません。それにこんな若造がCランク冒険者なわけがないでしょう?」

「何を揉めている?」


アルノルさんとブルトルの言い合いに待ったをかけたのは、2階の階段から降りようとしている筋骨隆々とした角の生えた大男であった。


「ギルドマスター」

「・・・・・ちっ」


アルノルさんは現れた男の素性を明かし、嬉しそうに笑顔を浮かべ反対にブルトルは厄介な奴が来たと言いたげな顔をしている。階段を降り切った大男は、アルノルさんの前へと進み出た。


「これはアルノル殿。帰っておられたか?それで、うちの者と何を揉めていたので?」

「ブルトル殿が私が案内してきた客人をうそつき呼ばわりしたのだ」

「なに?本当か?ブルトル」

「それはこの若造が魔物使いであり、Cランク冒険者と言うからです。こんな奴のどこがCランクに相応しいと言うんですか?」

「魔物使い?それは確かに珍しいな?それでそう言うからにはギルドカードも確認したんだろうな?」

「それは・・・」

「確認していないのか?全く何をやっている。それが嘘かどうかはギルドカードを見れば一発でわかるだろうが!君すまないがギルドカードを見せてくれるか?」

「はいどうぞ」


霜葉は胸ポケットから出すふりをしてアイテムボックスからギルドカードを出してギルドマスターに渡す。


「ほう?確かにCランクだな。うちの職員が失礼なことをして申し訳なかった。この通り謝罪する。おい、お前も謝るんだ!」

「し、しかしギルドマスター魔物使いの戦闘力には疑問があります!」

「でしたら、旅の途中で倒した魔物素材がありますので買い取りをお願いします」


そう言って、霜葉はもはや面倒になりその場でアイテムボックスから寝る前に剥ぎ取ったホーンタイガーの皮を出した。


「な!?」

「なんと・・・・アイテムボックスのスキル持ちだったか。その素材をよく見ても?」

「どうぞ」

「ありがとう・・・・む~見事だ。肉は一欠けらたりとも付いておらず、傷もない。これなら革鎧にするもよし貴族の屋敷に飾っても見栄えするだろうな」

「たしかに・・・」


アルノルさんもこの皮を見て感心したのか、釘付けになっていた。


「ホーンタイガーを倒せるのなら問題ないな。まだ何か言いたいことはあるかブルトル?」

「い、いえ・・・・」

「だったらもうお前はいない方がいい部屋に帰れ。彼には俺から謝罪をしておく」

「で、では失礼いたします」


そう言って、ブルトルは二階へと去って行った。ブルトルの指示を聞いた冒険者たちも飲み直すためにテーブルに戻った。去り際に霜葉を睨みつけて行ったので反省は微塵もしていないと思うが・・・


「全く奴には困った物だ・・・・自己紹介が遅れたが俺はギルドマスターのオルフという者だ。手間をかけるが詳しい経緯も聞きたいので俺の部屋に来てくれると有難い」

「わかりました。問題ないです」

「すまないな。アルノル殿も来てくれるか?」

「構わないぞ」


かくしてトラブルに巻き込まれた霜葉はギルドマスターの部屋に招かれるのだった・・・・

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