第一章 女王国編閑話1
長らくお待たせしました。閑話なので短めです。
霜葉が旅に出て五日が経過した頃。健吾たちは今日も依頼を受けて森の奥地へと足を踏み入れていた。
「おらぁ!」
「ボァ!?」
現在健吾たちは大型のランドボアであるラージランドボアに遭遇して戦闘の真っただ中である。健吾たちを発見したラージランドボアはその巨体で突撃を行ったが、健吾の革製の大盾によって防がれた所だ。
「【ウィンドスラッシュ】!」
「【アーススラッシュ】!」
動きの止まったラージランドボアに生徒会長と、今回健吾たちと同行していた召喚者二人の内一人が魔法術で攻撃を行った。風の斬撃が顔面で発生して驚愕したラージランドボアはさらに地面から発生した剣のように鋭い突起によって足を貫かれた。
「ボァァ~!!!」
「今だ!畳み掛けるぞ!!」
「まかせろ!」
健吾の指示にもう一人の召喚者が担いでいる戦槌を天へと伸ばしたのち思いっ切り魔物の背中へと叩き付けた!
「おりゃぁー!!」
ボキ!!!
「ボァ~!?!?!?」
この一撃が致命傷となり、ラージ種であるこの魔物は驚くべき短時間で討伐された。その後健吾たちに同行していた召喚者二人によって血抜きが行われて、片方のスキルであるアイテムボックスに入れられた。
「いや~しかし健吾の持ってる革盾は結構頑丈なんだな?前持ってたのは金属製だしそれより弱いかと思ってたぜ」
「言っとくけど、どんな皮でもいいって訳じゃあないらしいぞ?」
「そうなのか?」
「ああ。作った職人が言うにはバトルコングって強い魔物の皮だからここまで頑丈なんだと。そこら辺のランドウルフやボアじゃ向かないってさ」
「そうなんだ?残念ね~私たちも作れるかと思ったのに・・・・」
「だな~」
この会話からわかると思うが、今回同行している召喚者二人は冒険者もしている生産職に就いた召喚者である。霜葉が旅に出てしまい倒した魔物を運んだり解体する役目を持つ者がいなくなったので、健吾たちは生産職に就いた召喚者たちと一緒に依頼をしているのだ。なお、今回は三人一緒だったが健吾たち三人が分かれて行動する場合もある。
「でも、さっき倒したラージ種の魔物の皮ならできるんじゃない?」
「ん~どうなんだろう?ラージ種は強いって言うが向いてるのかね?」
「それもそっか。なら博打するぐらいなら無難に革鎧にする?そろそろ前衛をしている何人かの防具が傷だらけだしちょうどいいわ」
「あ~そうだな。特に以前レッドウルフの群れに遭遇した奴らがいただろう?無事だったけど武器や防具が随分痛んでたっけな」
「そうね。彼らの防具を最優先した方がいいでしょうね」
そんな会話をしていると・・・・
「はいはい皆!そう言う話は町に帰ってからよ!周囲の警戒をおろそかにしないようにね」
「あ!すいません生徒会長!」
「すいません!」
「ふふ。謝る必要はないわ。重要な話だしね。でも!安全を考えると町についてからの方がいいでしょう?」
「そうですね。聖夏先輩」
「依頼のラージ種であるランドボアは討伐が完了しましたしもう帰りましょうか?」
「そうね。貴重な素材らしいしその方がいいかもね。では周囲を警戒しつつ町へと帰りましょう」
「「はい」」
そうして生徒会長が先頭に立ちまずは街道を目指して歩き出した。あとに続く召喚者の少女と裕佳梨。健吾と召喚者の男子は周囲を警戒しつつふと気になったことを召喚者の男子が健吾へと話しかける。
「しかし、生徒会長も変わったよな?硬さが取れたって言うのか・・・自然体になったって言うのか・・・うまい言葉が出てこねえけど」
「いいたいことはわかるぜ?」
霜葉が旅に出た後に生徒会長は健吾と裕佳梨の前では敬語をやめて自然体で接するようになったのだ。初めは二人共驚いていたが、生徒会長が事情を説明して二人は納得して同時に喜んだ。二人とも生徒会長の話し方に壁のようなものを感じていたため、その壁がなくなったことに対して喜んだのだ。
それから二日間過ごしているうちに他の召喚者たちにも同じように敬語をやめて、今では辺境の町に居る召喚者たちの前では緊張することなく自然体で会話ができるようになっていた。
「今の方が以前より生き生きしているから、町の人たちも見惚れる奴が増えた気がするしな」
「そろそろ告白する奴が出てくるかもな?」
「はっはっは!確かに出てきそうだな!」
男子二人はそんな話をしながらも、周囲の警戒をおろそかにせずに女子たちに付いて行った。
町へと到着してからは冒険者ギルドへと向かい、健吾たちは依頼の報告を生産職の二人はラージランドボアを解体するため解体場へと向かった。
余談だが、彼らが倒したラージランドボアはラージ種でもかなりの大物だったようで解体場の職員がかなり驚き同時に喜んだ。これほどの大物は滅多に出会えないため素材の貴重価値は高い。残念ながら毛皮は彼らが革鎧に仕立てたいと言って買取できずに落ち込んだが、その代り立派な牙とお肉を買い取りできると知り一瞬で立ち直った。
お肉はさすがに大きすぎて全部は消費できないために今日召喚者皆で食う分を残して残りを買い取りに出したのである。買い取りに出したお肉はギルドが町に売り出したら、料理屋と貴族が競って買い取ろうとしたためギルドはかなり稼いだのだった。
そしてその日の夜。召喚者たちは男女に分かれてラージ種のお肉を実食していた。
「このお肉はおいしいですね~」
「猪だし脂がしつこいかと思ったけど、すごくさらっとした脂だね!」
「しゃぶしゃぶサラダにしたけど、これなら普通に焼いた方がよかったかな?」
「そうかな?お野菜と一緒に食べるとさらにおいしいよ!」
ラージランドボアのお肉は女子たちに好評のようである。それも当然でラージ種のお肉は食べらえる魔物の場合かなり美味なのだ。そのために料理屋と貴族が求めたのだ。
「男子はステーキとかにしてそうだね?」
「ハンバーグとかもアリじゃない?」
「豚の角煮・・・・」
「やめて!想像するとおいしそうだけどカロリーが~!」
ちなみに正解はステーキである。男子全員あまりのうまさにもっと欲しいと食欲全開であったそうな。
「さて皆。食事しながらでいいので簡単に明日からの予定について話しましょう」
「明日は王都に行く辺境伯と一緒に行くことになってましたよね?」
辺境伯であるガルレオ・カルナキスは王都へと出向き、町の近況を報告することになっている。その際召喚者たちも同行することを求められているのだ。理由は二つあり、一つは彼らの大半が持っているアイテムボックスのスキルに辺境周辺で採れた天然物の希少食材や魔物素材を王都へと持って行くためである。これにより当初よりも大量に運べるため同行を求めたのである。
二つ目は王都に残っている召喚者たちにも辺境の町に来てもらうためである。そのためには現在町に居る者たちから直に話を聞いた方が来てくれるのではないかと辺境伯は考えたのだ。生産職はもちろん戦闘職にも来てもらえば戦闘経験やスキルのLv上げにもなる。無論、危険もあるが今町に居る召喚者たちの活躍を聞く限りではメリットの方が大きいと辺境伯は判断したのだ。
「ええ。私たちのやることは荷物の運搬と他の召喚者たちの勧誘っと言ったところね」
「荷物の運搬は私や聖夏先輩はお役にたちませんから、勧誘を頑張りましょうか?」
「そうね。無理強いはできないししてはいけないけど、話を聞いて行ってみたいと思う人は多いと思うわ」
「話するなら霜葉君のことも言わないとね。特にクマを仲間にしたことは」
「王都に残った動物好きの先輩たちは悔しがるだろうな~あの可愛さは破壊力抜群だったわ」
「霜葉君と言えば生徒会長ちょっと聞いていいですか?」
「ええ、なにかな?」
「ズバリ!二人は付き合っているんですか!」
「・・・・・はぁ?」
生徒会長はいきなり聞かれたことがすぐには理解できなかった。しかし、理解が追い付くとだんだんと顔が真っ赤になり発したセリフは・・・・
「わ、私と霜葉君がつ、付き合ってる!?そ、そんなうれしい・・・いえ!まだそこまで行っていません!」
「「「「まだ?」」」」
「「「「やっぱり!」」」」
「あ・・・・」
生徒会長の失言に女子生徒たちの反応は二つに分かれた。言葉に驚くものと納得する物の二つである。
「そっか~生徒会長も霜葉君狙いか~」
「あら?と言うことはあなたも?」
「違うよ?親しい先輩が霜葉君狙ってるんだよ。と言うか霜葉君は先輩たちが狙ってるのがほとんどだよ?」
「霜葉君狙ってる先輩たち多いよね!」
「動物と居るところを見るとすっごく和むからそれにやられた人が多いんだよね~」
「あ、あの皆。もしかして気付いていたの?」
「「「「いえ」」」」
「「「「はい!」」」」
生徒会長の確認のセリフにも、気付いた者とそうでない者とで別れていた。
「うう~」
「私も半信半疑でしたが・・・もしかしてとは思ってました」
「裕佳梨さん・・・・」
「でも。私は応援しますよ聖夏先輩!二人ともお似合いですし」
「そ、そうですか?」
「はい!」
「あ~確かにそうね。副会長よりは100倍お似合いだわ」
「そうね~」
「きょ、強力な対抗馬が現れたようね!これは先輩に報告せねば!」
「むしろ諦めるんじゃない?」
「言えてるわ」
話がかなり脱線したが、この後生徒会長が普段の調子に戻り明日の予定をしっかり話し合い寝ることにした。
そして翌日。召喚者たちはガリレオ辺境伯と共に王都へと向かった。道中のトラブルもなく二日間の日程で到着した。到着したその日は夜になっていたので、荷物を下ろした後はお城の以前泊まっていた部屋に召喚者たちは案内されて寝ることにした。そして夜が明けて朝食時・・・・
「なんかここの食事も久しぶりだな?」
「そうだね~」
朝食は召喚者たち専用になりつつある大広間で食している。また、食事しながら辺境に行っていた召喚者たちが城に残っている召喚者たちを来てみないかと勧誘している。健吾と裕佳梨も戦闘職系の職業に就いた者たちに話しかけている。反応は好感触であり特に王都で冒険者となった者たちは興味津々だった。
彼らにとっては王都周辺での狩ではLvが上げづらくなってきたようで、リスクはあってもよりよい環境でLv上げを行った方がいいのではないかと思っていたらしい。生産職の召喚者たちも作る材料が豊富にある辺境の地には興味津々だった。
「この分だと、結構な数の生徒が行くことになりそうだな?」
「ん~?それだと住む所が心配だね?」
「それは問題ありませんよ」
「あ、聖夏先輩」
「住処については辺境伯殿が用意してくれることになっています。なんでもとある貴族の方が所有する屋敷を使っていいと言ってくれたらしいです」
「それならよかった」
なお、そのとある貴族とはヨルウィン子爵のことだ。バカ息子がしでかしたことへの罪滅ぼしもかねてガリレオ辺境伯に協力を申し出たのだ。
「ところで聖夏先輩?何かあったんですか?妙にお疲れのようですが・・・」
「・・・・わかりますか?」
「言葉が元に戻ってますよ?まぁ、ここに居るのは慣れているメンバーだけじゃあないでしょうがそれにしても疲れている印象がありますよ?」
「・・・・実は副会長のうわさを聞いたので」
「「副会長のうわさ?」」
「ええ、内容は・・・・」
~~~~~女王執務室~~~~~
「では、召喚者たちは予想以上に頑張ってくれているわけですね」
「はい。女王陛下」
ここはお城の女王陛下の執務室。現在この部屋には女王であるミューファルド・リュカレアと辺境伯のガリレオ・カルナキスの両名がいる。今辺境伯から辺境の町に居る召喚者たちの活躍を報告しているところだ。
「生産職に就いている召喚者たちのおかげでかなりの数の素材で商品が作れました。これにより貯まるだけだった魔物素材がかなり減り、倉庫に余裕が出来ました。また、作った商品はかなりの品質で商人たちが競って買い求めています。おかげでわが町は例年を超える利益を上げています。正直ここまでとは思ってもいませんでしたよ」
「・・・・・・」
「女王陛下?」
「彼らの能力が高いのは喜ぶべきなのでしょうが、私は喜べそうにありません。こちらの世界のことに無理やり巻き込んでしまったのですから」
「・・・・・・我らが不甲斐ないばかりにこのような事態になり、申し訳もございません」
「何をおっしゃいますか?勇者召喚の反対の立場だった私に一番に賛同してくれたあなたを不甲斐ないなどとは思っていませんよ?此度のことは何もかもタイミングが悪かったのです。魔王が出現したことも。我が夫が病で亡くなったのも」
そう言って女王は、なんとも悲しげな表情を浮かべた。亡くなった夫のことを思い出しているのだろう。
「女王陛下・・・・・」
「とはいえ、いつまでもそのことに拘っているわけにはいきません。彼らを無事に元の世界へと返すためにも我々もできることをしなければ」
「そうですな。おっしゃる通りです」
「それに勇者召喚を行ったことは必ずいいことばかりではないようですしね」
「?それはいったいどういうことですか?」
辺境伯の疑問の声に女王陛下は一枚の羊皮紙をガリレオ辺境伯の前に差し出した。
「これは?」
「話だけは聞いていると思いますが、召喚者の中に【勇者】の職業に就いた者がいてその者のこれまでの行動の報告書です」
「拝見します・・・・・」
辺境伯はその羊皮紙を受け取り、内容を確認すると顔が驚愕へと変わった。そこに書かれた内容はとても勇者の職業に就いた者の行動とは思えない内容ばかりなのだ。
現在、生徒会副会長の東漸 清志は第一王子のアルバン王子の勧めで勇者召喚の賛成派である貴族たちの領地を回っている最中だ。身分としては冒険者なのだが、アルバン王子が後ろ盾をしているからなのかやりたい放題なのだ。
「他の冒険者との諍いを何度も、平民たちに高圧的な態度で接する、さらに倒した魔物の処置の放棄によりアンデット化・・・・なんですかこの内容は!」
すべて読み終えた辺境伯は怒りを込めて叫んでしまった。女王陛下はその言葉を咎めたりはぜずに目を瞑り溜息を吐いた。女王もこの内容には驚愕したのだろう。
なお、魔物のアンデット化は魔物を倒し体内にある魔結晶を取り出さずに放置した場合に起こる現象で魔物の損傷度合いでゾンビになったりスケルトンになったりするのだが、ここで問題なのはゾンビとスケルトンを倒すためには体の中にある魔結晶を壊すしかないため利益と言う点では何もないのだ。
そのため、魔物を倒す場合は魔結晶を取り出すのが最低限のマナーとされている。大半の冒険者はこれを守っているのだが・・・・
「書いてある通りです。【勇者】の職業に就いた者は問題行動ばかりやっているのです」
「このことをアルバン王子には?」
「もちろん確認と把握しているのかを問い詰めたのですが、「こちらで処理しているので心配はない」と言っただけでそれ以上のことは何も言わないのです」
「アルバン王子はいったい何を考えているのか・・・・」
「・・・・夫が亡くなり魔王が獣王と同等の実力があると知ってから、アルバンの行動には疑問が付きまといますが、今後はより注意が必要かもしれません・・・・」
「私の方でも気を付けておきましょう」
「お願いします」
同じころ、健吾と裕佳梨にも生徒会長が副会長のうわさを伝え、ため息を吐いていた。副会長のことで女王と生徒会長は同じ悩みを持つこととなったのだった・・・・・
次は予定を変更して、第一章の登場人物紹介を投稿します。閑話2は細かい内容が浮かばなかったよ・・・・