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第一章 第十八話  女王国編18

霜葉たちはCランク冒険者になるために試験として護衛依頼を受けていた。もうすぐ試験は終わりと言う時に強い魔物が現れるが、健吾と霜葉の活躍でその魔物を倒すことができた。しかし、その魔物に一人で戦いを挑みあっけなく敗れて足手まといになった冒険者は霜葉の活躍を否定。その冒険者の余りの態度に仲間は激怒してあなたはこの場で一番能力は低いと言い放った。


その言葉に本人は怒り武器を手にしようとしたが、試験の見届け人が気絶させそのまま一行は目的地である辺境の町へと向かう。そして現在・・・・


「この度はありがとうございました。無事に帰ってこれたのはあなたたちのおかげです」


霜葉たちは依頼主の店の前で、依頼主からのお礼の言葉を貰っているところだった。試験の見届け人であるテイザーさんが暴走しそうになった狼の獣人の冒険者ダスケを気絶させてから、一行は無事に町の門へと到着することができた。ダスケを肩に担いでいるテイザーさんが門番に事情を説明する必要があったが、町へと入ることはできた。いまだにダスケは気絶しているが。


「これが僕たちの仕事でしたから、お礼は不要ですよ?」

「いえ、バトルコングなどと言う強い魔物が現れたのです。あの時もう私はダメかと思いましたよ。ですが、あなた方は私たちを守ってくださいました。本当にありがとうございます」


依頼主はそう言って深く頭を下げた。子供たちや馬車の御者もだ。


「特にあなたには荷物も運んでいただき、おかげで予定が狂わずに済みました」

「お役にたてたのならよかったです」

「それでは名残惜しいですが、荷物の荷解きや整理もあるので失礼いたします。あなたたち八人ならCランクになれることでしょう。また会える機会を楽しみにしていますよ」


そう言って依頼主は店の中に入っていた御者もそれに続いたが、子供たちは残り白夜たちを撫でて守ってくれてありがとう~っと言い店へと入って行った。白夜たちも触れ合いが好きではない新月を含め嬉しそうだった。


「はぁ~やっと終わったかぁ~」

「何とか守り切れてよかったね」

「ええ、ほっとしました」

「皆お疲れ様でした。白夜たちもお疲れ。よく頑張ったね」

『『えへへ~♪』』

『ありがとう。兄さん』

『ふぁ~私疲れちゃった・・・』

『俺も・・・・』


霜葉たちは互いの労を労い合った。そんな時、一緒に試験を受けた冒険者のバノン、ラーシム、ナゼック、キーリの四人組と獣人の冒険者組ミンクとコロナが霜葉たちに話しかけた。


「この依頼をやり切れたのは君たちのおかげだ。私たちからも礼を言わせてくれ。ありがとう」

「おかげで助かったわ~」

「お前たちがいなければどうなっていたことか」

「ありがとう・・・・」

「私たちは特にお礼を言わないとね。ダスケを助けてくれてありがとう」

「あんな馬鹿脳筋でも腐れ縁だからね。ありがとうね」

「いえいえ、どうかお気になさらずに。皆さんもいてくれたからこそですよ?皆さんもお疲れ様でした」

「バノンさんたちはともかく私たちはそう言うわけにはいかないわよ。ダスケを助けてもらったし、ソウハには特に迷惑をかけたのに・・・・依頼主にも迷惑かけちゃったしね」


どうやら先ほどの依頼主が言った言葉を気にしている様だ。依頼主は八人ならとこの場に居る冒険者の数に合わない人数を口にした。ミンクは自分たちがその中に入っていないことを察しているのだろう。


「話の途中で悪いが、聞いてくれ」

「テイザーさん・・・・・」

「とりあえず皆護衛依頼達成ありがとう。バトルコングが出てきた時は俺も参戦した方がいいかとも思ったが、皆が協力して倒せたのは見事だ。約一名の判断ミス以外はな」


そう言っていまだに気絶しているダスケに視線を向ける。ちなみに倒したバトルコングだが、霜葉のアイテムボックスの中に入れてある。このクラスの魔物になると素材はなかなか手に入らないため持って帰ることにしたのだ。


「皆疲れているだろうが、この後試験の結果を伝えるので、冒険者ギルドに来てくれ。バトルコングのことも報告しないといけないしな」

「わかりました」

「了解です」

「・・・・・わかりました」

「では早速向かおう」


そう言ってテイザーは皆の先頭に立ち、冒険者ギルドに向かう。ダスケを肩に担いでいるので町の人の視線が集中しているが、テイザーは一切気にした素振りを見せない。やがて・・・・


「ん・・・んんぅ~」

「ようやく目が覚めたようだな」


気絶から目覚めようとしているダスケを下ろし、ミンクとコロナが支えて起きるのを待つ。


「ん?ここはどこだ?」

「ここは辺境の町よ。あなたが気絶している間に依頼は終わったわよ」

「このバカ。最後まで迷惑かけて・・・・」

「あ!ミンクにコロナ!おまえらぁ~!!」

「ここで武器を抜くなら衛兵に身柄を引き渡すぞ?」

「ああ!?」

「言いたいことはあるだろうが、まずは試験の結果を聞いてからにしたらどうだ?気絶していたお前はともかく、他の皆は疲れているからな」

「・・・・ハァ!分ったよ!!」


そう言ってダスケは、一人で先へと進んだ。他の者もダスケに続く。今のあいつには関わりたくないと皆が思っているからな。


それから冒険者ギルドに到着した一行は、まずはテイザーが受付嬢に試験を無事終わったことを報告してからギルドの二階へと上がった。しばらく経つと戻ってきて・・・・


「待たせたな。試験の結果を言うので二階の大部屋に来てくれ」


そう言葉にした。霜葉たちはテイザーの後へと続き二階の一つの部屋へと入って行った。そこにはすでに一人の人物が待っていた。


「やぁ。試験ご苦労様。とりあえず、座って座って」


その人物は女性であり、緑色の髪を短くして人懐っこい笑顔を浮かべていた。だがその人物の一番の特徴は耳だろう。細長く尖がっているのだ。この特徴の種族は一つしかない・・・・


「エルフ?」

「そうだよ。エルフに会うのは初めてかな?」

「はい」

「そっか。まぁそれも当然だけどね。僕たちエルフは基本、霊樹国 ユディールから出ることはないしね。出るのは僕みたいな変わり者ぐらいさ」


エルフは霊樹国 ユディールで暮らす種族だ。と言うかこの国はエルフしかいないのだ。一応鎖国しているわけではないので、エルフ以外もいるにはいるがその国で暮らしているエルフ以外は皆無だ。ちなみにエルフには他に、褐色の肌を持つダークエルフと名前だけわかっているエルダーエルフがいる。


このエルフの女性に疑問を浮かべながら、とりあえず言う通りに部屋にある席へと座る霜葉たち。全員が座ったのを確認してエルフの女性は口を開く。


「とりあえず僕の名前はミティエル。このギルドのギルドマスターをやっているよ」

「「「「ギ、ギルドマスター!?」」」」


自己紹介を聞いてバノンたち四人が驚きの声を上げる。ギルドマスターは各ギルドの責任者でギルドの幹部と言っていいだろう。すなわち、この町のギルドのトップだ。


「ギ、ギルドマスターがCランク試験を受けた私たちに一体何のご用でしょうか?」

「もちろんお礼だよ?テイザーから聞いたけどバトルコングが出たんだってね?まさかそんな強力な魔物が現れるなんてギルドとしても予想外でね。そのことを聞いた時テイザーと協力して倒したのかなって思ったら、君たちだけで倒したって言うじゃないか!おかげで依頼主は無事でギルドとしても大助かりだからそのお礼に来たんだよ」

「は、はぁ・・・・」

「とにかく改めてどうもありがとうね」

「い、いえ!バトルコングを倒せたのはケンゴとソウハのおかげです!この二人がいなければ依頼主は無事ではなかったでしょう!」

「そのことは知っているけど、いくら二人のおかげだとしても君たちもかなりいい動きをしていたってテイザーから聞いてるよ?二人の功績が大きいのは認めるけど、君たちだって役だったんだからもっと自信を持ちなさい」

「あ、ありがとうございます!」


まさか、ギルドのトップから褒められるとは思わずにバノン達は緊張しっぱなしである。霜葉たちは目の前の人物がどのくらいすごいのかよくわからないのでさっきから蚊帳の外である。ミンクやコロナも自分たちはバトルコングの戦いには関わっていないので、バノン達を羨ましそうに見ていた。ダスケだけは面白くないのか舌打ちしていたが。


「ギルドマスター。世間話はその辺で本題に入ってください」

「わかったよ。テイザー」


部屋に入ってからギルドマスターの横に立っているテイザーからの言葉をきっかけにして、いよいよ試験の結果が言い渡されるようだ。


「ともかく試験お疲れ様。予想外のトラブルはいくつかあったようだけど、依頼主と荷物は無事だったことも考えると依頼は文句なしで達成だ。次は試験の結果だけど・・・・」

「「「「・・・・・」」」」

「まずは、ソウハ、ケンゴ、ユカリ、セイカの四人だけど、君達は文句なく合格だ。バトルコングの戦闘はもちろん戦闘で倒れた冒険者の治療に依頼主の予定外の手助けまで、本当によくやってくれたよ」

「よし!」

「ほっ。よかったぁ~」

「「ありがとうございます」」

『『やったね~』』

『『『zzz~』』』


ギルドマスターの言葉に健吾はガッツポーズをし、裕佳梨は安心して、生徒会長と霜葉はお礼を述べた。白夜と十六夜は霜葉の腕の中で祝福している。新月たちは疲れたのか霜葉の足元で丸くなって寝ている。


「お礼を言うのはこっちだよ。次はバノン、ラーシム、ナゼック、キーリの四人」

「「「「ごくり・・・」」」」

「そんなに緊張しなくとも君たちも合格だよ?戦闘の動きではこの場に居る中では一番よかったってテイザーも認めているし、バトルコングとの戦いでもよくやってくれたそうじゃないか。お疲れ様だね」

「「「「よ、よかったぁ~・・・」」」」


そう言ってバノン達は力を抜いた。よほど緊張していたのだろう。


「最後はミンクにコロナとダスケだけど・・・・・」

「「・・・・」」

「ふん」


ミンクとコロナの顔色は暗い。おそらく合格できないと思っているのだろう。ダスケだけは自信に満ち溢れている様なのだが・・・・


「まずはミンクとコロナだけど、二人は合格だよ」

「「ええ!?」」

「どうやら合格できないと思っていたようだけど、君たちは合格だよ。あ、念のため言っとくけど合格と言ってもぎりぎりだからね?依頼主を待たせたのは減点だし、その後のトラブルだって減点対象だよ。でも馬車を魔物から守る戦闘その物はいい動きだったって報告を受けているし、バトルコングとの戦いの時も馬車を守るために周辺の警戒をしていたそうじゃないか。これで何もしていなければ不合格だったけど、自分たちができることを率先してやったんだから、ぎりぎりで合格にしたんだよ。でもこれからは色々気を付けるようにね?」

「は、はい!ありがとうございます!」

「精進します!」

「最後は君。ダスケだっけ?」

「オウ。当然合格だろう?」

「不合格」

「・・・・・おい。待てよ?今なんて言ったんだよ?」

「不合格って言ったんだよ。ついでに君は降格だよ。Eランクからやり直し」

「はぁ!?おい待てよ。どういうことだよ!?」


納得いかないのか、立ち上がり声を上げるダスケ。しかし、この場に居る皆はむしろ当然だと思っている。


「どうもこうもないよ。君は問題だらけだ。護衛依頼だと言うのに馬車を守る行動は一切しない。魔物が現れるとミンクとコロナの戦闘準備が整うのを待たずに一対一で暴れるだけ。その隙に馬車に向かう魔物に気付きもしない。仲間の彼女たちが対処したからこそ無事だっただけ。それ以外にも他の冒険者に対する暴言の数々や脅迫とも言える行動。挙句の果てにバトルコングに一人で戦いを挑みあっけなくやられる始末。おかげで君を助けるために二人が戦いに参加できなかった。とどめに仲間に対して武器を抜こうとしたんだよね?これだけのことをやったのに合格できると思っている君が信じられないよ」

「魔物使いは合格なのに何でおれは不合格なんだよ!?」

「だから、理由は言ったじゃないか。君はCランク冒険者にふさわしくない」

「魔物使いはふさわしいってのか!?」

「だからそう言っているじゃないか?君は耳が聞こえないのかい?」

「なんだと!?」

「・・・・いい加減黙れ、小僧」

「「「「!!!!」」」」


突如、ギルドマスターの口調が変わりこの部屋の全員に圧が伝わる。その圧で新月たちは跳ね起き震えている。白夜と十六夜もだ。ギルドマスターはダスケを睨みつけて話し始める。


「な・・・・」

「自分が強いと思うのは勝手だ。だが、それはふさわしい結果を残してこそ意味があるんだ。今日お前が残した結果にはお前が弱者だと言う結果しかない。そのことから目を背けるのならお前は弱者ですらない。負け犬以下のバカだ」

「・・・・」


ダスケは何も答えない。言葉が届いていると言うよりはギルドマスターの圧にのまれて口が開かないと言ったところか。


「この決定に不満ならこちらとしてもお前のような冒険者は要らないから、冒険者資格剥奪すら検討するよ?むしろその方がいいかもしれないね。冒険者ギルドとしては」

「!!」


このセリフにダスケは何か言いたそうにしたが、やはり口が開かない。ダスケは完全にこの場を支配する空気に呑まれてしまった。すると、ここで・・・・


「ギルドマスター。お話し中に失礼しますが」

「「「「!!」」」」

「ほう?なにかな?」


霜葉がこの空気の中言葉を発した。これには他の冒険者は驚愕し、テイザーとギルドマスターは感心した様子だった。


「出来れば発しているこの圧を解いてくれませんか?うちの子たちが限界です」

「くぅ~ん・・・」

「にゃ~・・・」

「ぐぅ・・・」

「まぁ~・・・・」

「ぐる・・・・」

「あ!ご、ごめんなさい!!さすがに魔物とは言え子供たちにはきつかったね」


そう言うと今までの圧が嘘のように霧散した。それをきっかけにして霜葉以外の冒険者は大きく息を吐いた。特にダスケはかなり本気で深呼吸をしている。それも当然であの圧はダスケに向けられたのであって、他の者が感じていたのは余波でしかない。その余波ですらかなりの圧を感じたのだから、ダスケはそれ以上の、否。その倍は圧を感じていただろう。


「くぅ~ん」

「にゃ~」

「ぐぅ」

「まぁ~」

「ぐる・・・」


白夜たち五匹は圧が消えてもギルドマスターに怯えているらしく、新月たち小熊三匹は霜葉の後ろに隠れ、白夜と十六夜は霜葉の腕の中で震えていた。


「ああ~そんなに怯えないで~!これじゃあ話終わった後に抱っこしたり撫でていいか聞こうと思ったのに嫌われちゃうじゃないか!」

「そんなことよりギルドマスター話の続きを」

「そんなことって!でも、まぁそうだね。とにかくダスケだっけ?君は不合格で降格だよ。これ以上駄々を捏ねるのなら本気で冒険者資格剥奪も検討するからね?」

「・・・・・わかったよ!!待ってろよ!すぐにDランクに上がって試験を受けてやるからな!」


そう言うとダスケは部屋を出て行った。何やら一階が騒がしいようだが、すぐに静かになった。


「やれやれ、今からでも資格剥奪に変更した方がいいんじゃないかな?」

「ですが、あやつの戦闘技術は確かにCランクの実力はありますからな。周りと自分自身を見直せば十分可能性がありますので」

「可能性があるのは認めるけど、彼がその可能性に気付くかどうかは別問題だと思うんだけどね~まぁ、彼のことはもういいや。とにかくみんなお疲れ様でした。受付でランク変更手続きをするからギルドカードを提出しといてね」

「「「「わかりました」」」」


そう言って彼らは部屋から出て行き一階へと向かう。そして彼らのいなくなった部屋では・・・・


「・・・・ソウハにケンゴ、ユカリにセイカか・・・・あの子たちがこの国の勇者召喚・・・・で呼んだ異世界の者たちなんだね。確か他にもいるんだっけ?」

「ええ、なんでも全員合わせて500人以上だとか。正確な数は分りませんが」

「それはまた結構な数が呼ばれたね。前は3人くらいだったはずだけど」

「ギルドマスターは以前の勇者召喚を知る数少ない者の一人でしたな」

「まあね。その時の勇者と呼ばれた者はお世辞にもそんな風に呼ばれるような奴じゃあなかったけどね」

「ギルドとしてはどう動きますか?」

「別に何か特別なことはしないよ。せいぜい冒険者になっている異世界の者たちを見守るくらいさ。特に彼ら四人は実力が伸びればAランクに、もしかしたらSランクにも到達するかもしれないしね」

「それほどですか・・・でも、あのソウハと言う少年はどうでしょうか?彼自身の実力は認めますが、魔物使いではSランクになるのは厳しいのでは?」

「そうだね。彼が本当に・・・・・魔物使いならね」

「どういう意味ですか?」

「ん~ただの女の感なんだけどさぁ。彼はもしかしたら勇者以上の存在になるかもしれない。そんな気がするんだよ」


そんな会話がギルドマスターと副ギルドマスター、元Aランク冒険者と元Bランク冒険者の間で行われていた・・・・



一階の受付嬢にギルドカードを提出してランクの変更を行い、これで霜葉たちはCランク冒険者となった。

バノン達とミンクとコロナの二人はいち早く変更を終え、霜葉たちと別れの挨拶をして別れた。特にミンクとコロナはダスケを探しに行ったらしい。なぜそこまで彼にこだわるのかは疑問だったが、事情の詮索は無粋と判断した。


変更の間に霜葉はバトルコングの解体を行うために解体場へと向かう。ただ、バトルコングは血抜きをしていないので本来ならバトルコングをアイテムボックスに入れても時間経過で血が抜かれているのだが、霜葉のアイテムボックス・極は時間経過はしない特別な物だ。


だから普段は血抜きをしてから入れてそこら辺を誤魔化しているのだが、今回は血抜きする時間がなくこのまま解体場に出すと辺りが血まみれになるだけでなく、霜葉のアイテムボックスの秘密がばれてしまう。今までは。


この護衛依頼の前に霜葉はアイテムボックスのスキルを調べていたら、整理機能があることを発見してそれを使えば血抜きせずにアイテムボックスに入れた場合でもバトルコングの血をまとめることが可能だったのだ。さらに入れ物をアイテムボックスに入れておけばその中に収納することも可能であった。かなり便利である。


だが、今回はそこまでせずにバトルコングはお肉や内臓以外の物がすべて素材らしいのだ。もちろん血も。なので血だけをアイテムボックスから出して解体場の職員が用意してくれた樽に移して、毛皮に爪、歯や骨なども全部解体した。一頭丸々なのでかなりの量の素材になった。毛皮だけはかなりの傷があったので、霜葉の【錬金術】スキルでも面積は減った。それでも品質的には最高なので解体場の職員が言うには全く問題がないらしい。


ちなみにこのバトルコングは霜葉たちの物と言うことになった。バノン達は所有権を主張せずに霜葉たちに譲ったのだ。ミンクとコロナも戦闘には参加していないことを理由に霜葉たちに譲った。


「坊主!これはどのくらい買い取っていいんだ!」

「そうですね。この骨はどう言った扱いになるんですか?」

「鍛冶屋に持って行けばインゴットにできんだよ。この魔結晶くらいの手のひらサイズの魔物の場合は、全身の魔力が体を変質させるらしくてな。特に骨なんかは影響をもろに受けてるんだ。ちなみに魔物の骨で作ったインゴットはそこら辺の鉄鉱石で作ったインゴットより強力な武器になるぜ」


実際。バトルコングの魔結晶は霜葉たちが今まで見た中では一番デカかった。


「では毛皮はこちらが引き取るので血と骨は半分を買い取りに出します。魔結晶も売りますね。他も全部買い取りに出します」

「よし!わかった!」


解体場の職員は嬉しそうにしていた。その後、半分の血と骨と歯と爪、魔結晶は護衛依頼の報酬と合わせて合計金額が金貨四枚と銀貨六枚になった。今までで一番の稼ぎになった。そして残りの魔物素材はと言うと・・・


「おいおい!これはバトルコングの素材じゃないか!!」


ここは、もはやお馴染みになりつつあるドワーフの夫婦が営んでいる武具店だ。霜葉はここにバトルコングの素材で何が作れるか聞きに来たのだ。


「こりゃ驚いたねぇ~あんたたちバトルコングを倒したのかい?」

「僕たちだけで倒したわけではありませんが、Cランク昇格試験の途中で出くわしまして」

「おや?あんたたちはもう試験を受けられたのかい。結果はどうだった?」

「無事にCランクになることが出来ました」

「そりゃおめでとう」


霜葉が奥さんと話している間に夫の方は骨や毛皮を眺めていた。


「ん~こりゃ全部が高品質の立派な素材だ。ここまでの物となるとなかなかお目にかかることはないわい」

「今回はこれらを使って何か作ってほしいのですが、何ができますか?」

「そうだな~まずは骨と血だが、これだけの量なら坊主たち全員の武器か【守護騎士】の坊主の大盾が作れるぞ。しかもかなり強力な物がな。次に毛皮だが、これくらいの大きさなら二人分の革鎧は余裕で作れる。あとはブーツが二人分だな」

「皆どうしようか?」

「う~ん防具は今着ているのがいい物だしやっぱ武器じゃないか?」

「で、でも健吾君が一番危険なんだし大盾を作ってもらえば?」

「そうですね。今使っている大盾もかなり行使していますし、そろそろ変え時かもしれませんね」

「でも、それを言ったら武器もだろう?」


意見が出ているがなかなか決まらない。そんな時に霜葉が店主にあることを聞いてみた。


「すいませんが、この毛皮で大盾を作れませんか?」

「なに?毛皮でか?」

「はい。鎧になるのだし盾にもなるのではないかと。何とかなりませんか?」

「中々面白い発想じゃのぅ~ふむ。確かにこの大きさなら大盾にできなくもないのう」

「では?」

「しかし何分初めての試みじゃ。失敗するかもしれんぞ?」

「皆はどう思う?」

「いいんじゃないか?防具は今装備している物があるんだしな」

「私も賛成」

「試す価値はあるかと」

「では、僕たちの武器と毛皮の大盾をお願いします」

「よしわかったわい!腕が鳴るのう~!!金額は銀貨八枚で前金で四枚もらっとこうかの。それから武器の方は四日はかかるだろうが、大盾の方はいつ完成するかわからん。すまんが時間をくれ」

「わかりました」


こうして新たに装備の依頼をして霜葉たちは住処へと帰宅した。


住処へと帰り、召喚者たちに試験の結果を報告すると全員が我がことのように祝福してくれた。それを祝って夕食は【料理人】や【調理術】スキル持ちが腕を存分に振るい豪華な食事を作った。それを食べながら霜葉たちは試験のことを話した。すると話題はダスケのことになった。


「そいつバカだろ」

「白夜と十六夜もそんな奴がいたんじゃめっちゃ怒っただろう?」

「助けてもらったのに礼も言えないなんてなんて人なの!」

「て言うか、大丈夫なのか霜葉?そいつお前を逆恨みしないか?」

「兎の獣人・・・・リアルバニーさん!一目見たい!!」

「馬鹿なこと言ってんじゃないよ・・・・」


まぁ。ダスケばかりが話題ではないがね。話に聞いていた獣人のことを珍しがっているだけかもしれない。


「でも、確かにしばらくは気を付けた方がいいかもしれないなぁ~」

「なんのこと?」

「ダスケって奴のことだよ。あいつバカみたいだし霜葉を倒して実力を認めさせてやる!なんて結論しないかと思ってな」

「そ、そこまでするかな~」

「断言できないのが、困りますね・・・」

「気にしすぎじゃないかな?そんなことをやったら冒険者同士の争いに介入しないギルドも黙ってはいないだろうしね」

「まぁ、確かに。降格処分にした奴がいきなり問題を起こせば黙ってはないか?」

「そうだよ」


霜葉たちはそう結論したが、どこか絶対にないと断言できない感じがしていた。


そして翌日。朝食を食べた後に霜葉たちは冒険者ギルドへと向かっていた。今日もお金を稼ぐために依頼を受けに行くのだ。


「今日はいつものように簡単な依頼か?」

「Cランクになったんだし、ちょっと難しめの依頼を受けた方がいいと思うよ?」

「私たちが簡単な依頼を受けるのは他の冒険者の迷惑になるかもしれませんしね」

「確かに、そうですね」


そんな風に今日の予定を話していたら・・・・


「おい!魔物使い!」


いきなり後ろから声を掛けられ、振り向くと昨日の夕食時に話題になったダスケがいた。


「何かご用ですか?」

「俺と決闘しろ!お前を倒して俺がCランクにふさわしいと認めさしてやる!」

「お断りします」

「俺の後に付いて・・・なに!?」

「だから、お断りすると言ったんですよ」


ダスケの言った言葉に霜葉は即座に断った。霜葉たちは内心で「やっぱり来たよ・・・」とげんなりしていた。


「そもそも、僕と決闘して勝ったとしても冒険者ギルドはあなたがCランク冒険者にふさわしいと判断しませんよ?あなたが不合格になった理由は実力云々ではなく、護衛依頼にふさわしい働きをしなかっただけなのですから」

「うるせぇ!上から目線の説教なんていらねぇ!!冒険者は強ければそれでいいんだよ!!!」

「お前いい加減にしろよ?」

「ああぁ!!」

「霜葉の代わりに俺が相手になってもいいんだぜ?」

「俺の相手はそこの魔物使いだ!他の奴らは引っ込んでろ!!」

「・・・・本当にいい加減にしてくれませんか?」


健吾がダスケに文句を言っていると、生徒会長が不機嫌さを隠すことなくダスケを睨みつけた。その様子は他人が見てもヤバいと判断するくらいの雰囲気があった。


「なんだ?女も引っ込んでろ!」

「こちらの仲間に対して決闘を挑む暇があるのなら、バトルコングでもさがして倒せばいいのではありませんか?」

「あんな魔物がそう簡単に見つけられてたまるか!」

「そうですか。つまりは自信がなくて逃げているわけですね」

「・・・・ああ?」

「自身を倒した魔物に挑む度胸がないから、弱者と言っていた霜葉君に挑んでいるわけですか。ギルドマスターの言っていた通りあなたは負け犬以下のバカですね?」

「なんだと!」

「だってそうでしょう?自身が強いと自信があるのなら、それこそギルドマスターやテイザーさんにでも挑めばいいのです。それをせずにさんざん弱者だと言っていた霜葉君に決闘を挑む時点であなたは自分より弱いと判断した相手にしか挑まない臆病者です。そんな人がCランクに上がれるわけがありません。護衛依頼は自分より強い魔物が襲ってくるかもしれないのですから。それはあなたも身をもって知っているでしょう?」


そう言って生徒会長はダスケに対して挑発するような言葉を並べた。しかし、言いたいことを言ったからなのかその顔はすっきりとしていた。


「て、てめぇらまで俺を馬鹿にしやがるのか!」

「馬鹿な行動ばかりしているからだぜ?そんなんでよく自分は強いなんて態度が出来たな?」

「しかも、まだ助けてもらったお礼を言っていません。まぁ、今さらですから期待していませんでしたが」

(な、なんか二人とも怖いね霜葉君?)

(それだけ二人とも彼の態度に腹を立てていたってことだね)

「じょ、上等だ!こうなりゃお前らまとめて相手になってやる!俺がお前らなんかに負けるわけがねぇ!!」

「それはどうかな?」


と、ここで第三者の声が聞こえた。声の方に視線を向けるとそこにはテイザーとその後ろにミンクとコロナがいた。


「てめぇが何でここに居やがる!」

「ミンク、コロナ両名がギルドに知らせに来たのだよ。お前がソウハに決闘を挑もうとしているとな」

「おまえら!」

「それだけじゃないわよダスケ・・・・」

「悪いけどもう私らも付き合い切れなくてね・・・・」

「ああ?」

「ダスケ。今この時よりお前の冒険者資格を剥奪する。もうお前は冒険者ではない」

「なぁ!?どういうことだよ!?」

「昨日、ギルドマスターが言った事を理解せずに街中での決闘騒ぎ。私やギルドマスターに挑めば見どころがあると判断したが、あるいはバトルコングを探しに行った場合か。しかし、貴様はさんざん弱者と騒いでいたソウハに決闘を挑んだ。そんな性根の冒険者などいない方がいいからな。もっとも周りを見ていないお前は挑む前に倒れていただろうがな」

「どういことだよ!」

「周りをよく見ろバカめ」

「ああ?」


ダスケが周りに視線を向けると、まず正面に白夜が唸り声を上げながらダスケを睨み、その左右に新月と無月が戦闘態勢で待機。ダスケの後ろには三日月がいつでも襲い掛かれるように待機していた。そして最後の十六夜はと言うと・・・・


「フシャー」

「なぁ!」


いつの間にかダスケの肩に乗っており爪を首に添えていた。戦闘になる前の段階でダスケには勝機はなかった。


「やっと気づいたようだな?お前が感情に任せて剣を抜けば、その子らがお前を倒していただろう。回復魔法術を使える者が二人いるから死にはしないだろうがな」

「くぅ!」

「皆もういいよ。帰っておいで?」

「わぅ」

「にゃ」

「ぐぅ」

「まぁ」

「ぐる」


霜葉の声に従い、白夜たちはダスケから離れる。と言っても相変わらずダスケを睨みつけたままだが。


「て、てめえら!いつの間に!」

「え?最初からですが、気付かなかったんですか?」

「なぁ!」

「ちなみに、この子たちの実力はそれほど高くありません。ランドボアよりは強いでしょうが、それ以上となると私たちのサポートが必要ですね」

「な、なんだと!?」

「目の前の相手ばかりに集中して、周りを警戒していないからだ。これでもまだ自分は強いと言い張るか?」

「い、今のは油断しただけだ!」

「戦闘では油断した者から死んでいくものだ。貴様が何を言っても負け犬以下の戯言にすぎん。それと貴様が宿に忘れて行ったこのギルドカードはこちらで処分しておく」


そう言うとテイザーは懐から銀色に輝くカードを取り出した。


「そ、それは俺のカードだぞ!」

「貴様はもう冒険者ではない。言っておくが貴様のことはギルドの連絡網で各国の冒険者ギルドに伝わるから、他のギルドに行って登録することはできんぞ?」


先ほどからテイザーはダスケのことを貴様呼ばわりしている。どうやらダスケに対して彼も怒っている様だ。


「く、くそったれがぁ~!!!!」


そう叫んでダスケは去って行った。去り際に霜葉を睨みつけて。


「まったく。私もまだまだだな。ギルドマスターの言う通りにしていればよかったか・・・」

「来てくれて助かりました」

「気にしないでくれ。今回の件はこちらのミスだ。奴の処分が甘かったせいなのだからな」

「いや、あいつのことだからそれでも問題起こしたと思うぜ?」

「それでもだ。奴の問題点を指摘した後にでも模擬戦でもして奴の自信を砕くなりすればよかったのだ」


霜葉と健吾がテイザーと会話していると、ミンクとコロナが生徒会長と裕佳梨に話しかけていた。


「今回はごめんなさいね。ダスケのやつこっちの話も聞かないで宿を飛び出したから止められなくて」

「馬鹿だとは知っていたけどね。ここまで馬鹿とは思わなくて・・・・本当にごめんなさい」

「ミンクさんやコロナさんが謝る必要はありませんよ?」

「そうですよ。ところでこれから二人はどうするのですか?」

「お金を稼いで故郷に帰るつもりよ。でもダスケがいないから苦労はするでしょうね」

「でしたら私たちの知り合いの冒険者を紹介しましょうか?彼らはまだEランクですが、人柄と実力は保証しますよ?」


生徒会長が言っているのは召喚者たちのことだ。何度か一緒に依頼もしているので実力などは把握済みである。


「いやでも・・・今回迷惑かけちゃったし・・・」

「ミンクさんたちが責任を感じることはありませんよ?それにこちらとしても実力や経験豊富なあなた方と一緒なら彼らもより安全に依頼ができますから」

「ミンクここは紹介してもらおうよ?今から信頼できる奴を探すのは無理があるし、二人の紹介なら信用できるよ」

「・・・・・そうね。お願いできるかしら?」

「もちろんです」


こうしてミンクとコロナはしばらく召喚者たちと依頼をこなしていくことになった。ちなみに一部の召喚者たちからはミンクやコロナは大歓迎されて二人はあまりのテンションに面喰うこととなる。まぁ、彼女たちも女性の召喚者たちと意気投合して結構な頻度で一緒に依頼をすることとなる。この出会いは二人にとって良かったのだろう・・・・・

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