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第一章 第十三話  女王国編13

霜葉たちが冒険者ギルドで依頼を受けてランドボアを探しに森を探索していると、角の生えた猪ホーンドボアと言う強い部類の魔物に遭遇。しかしこの魔物は健吾の活躍によりあっけなく倒され、霜葉たちも健吾の職業が予想以上に強力だったことに驚いていた。


そして、霜葉達から離れた場所に居る二人組も目撃していた・・・・


「い、今の見たか?」

「あ、ああ・・・・」


二人組は霜葉たちに絡んであっけなく健吾の一撃で気絶させられ、その後に冒険者ギルドから厳重注意と警告を言い渡され、その責任が霜葉たちにあると逆恨みして、奇襲をかけて霜葉たちを襲うことを考えていたのだが・・・


「ど、どうするよ!?ホーンドボアを一撃で倒す奴らとは思わなかったぞ!?」

「静かにしやがれ、気付かれちまうだろうが」

「わ、わりぃ・・・・でもホントどうするよ。ホーンドボアは俺達でも勝てない魔物だぞ?そんな魔物を倒せる奴に勝てるのか俺達?」

「確かに、想定外だが変更はねえ。やるぞ」

「や、やるのか・・・」

「当たり前だ。それに実力はあってもまだガキだし、経験じゃ俺達の方が勝ってるはずだ。俺が連中の前に姿を現すからお前は後ろに回って、女の方を人質にしろ。それであのガキどもは終わりだ」

「なるほどそれなら・・・」


ろくでもない行いをしようとし、さらに下種な行いを相談している二人組。しかし、彼らの行為は無駄に終わるだろう。なぜなら・・・


「よし、行くぜ」

「ああ、わかっ」

ガシュ!!

「?何の音だ・・・あ?」


彼らもまたとある存在・・・・・に後を付けられていたのだから。


「あ、あああ」


うまく言葉を発することができない男。理由は二つある。一つは自身の隣に居たはずの男の首から上がなかったから、そしてもう一つは・・・


「くちゃ・・・くちゃ・・・くちゃ」


男の目の前に口から血が滴っている真っ赤な毛皮をした大きな狼が男に視線を向けているからだ。そして男は見てしまったのだ。その魔物の口の中には自分のよく知る男の顔があったのを。


「ま、まさか、ラージレッド」


男が言い切る前に狼の魔物が爪で男を引き裂き、物言わぬ肉塊へと変えた。



霜葉たちが異変に気付いたのは、ホーンドボアを解体して近くの木に突き刺さっていた角を回収してからだ。もっとも一番先に気付いたのは白夜と十六夜だが、様子がいつもと違った。


『ご、ご主人~』

『あ、主~』

『二人ともどうしたの?』


二匹は慌てて霜葉の足元に駆け寄り、なんだか震えていた。


『向こうからものすごくいやなにおいがしているの~』

『音も今まででいちばんおおきいの~』

「みんな!周囲警戒態勢!」

「「「!!」」」


霜葉が叫んだ内容を聞いて、三人はすぐさま武器を取り一塊になり周囲を警戒した。これはあらかじめ決めておいたことで、察知能力の高い二匹の声を聴ける霜葉が二匹の反応や声で危険だと思えば、叫んで知らせると言うことを。霜葉は今までと様子の違う二匹を見て異常事態と判断。すぐさま他の三人にも知らせた。


「でだ、霜葉?そのチビ達は何て言ってんだ?」

「あっちの方角から今まででいちばん嫌な匂いや大きな音がするんだって」

「それは先ほどの猪よりもですか?」

「少なくとも、さっきの猪の時はこの子たちはこんな反応はしませんでしたよ」


二匹はいまだに霜葉の足元で震えながら一方向を凝視している。


「震えてるね」

「おいおい、こんな反応は今までなかったぞ?」

「この向こうに居る何かはそれほど危険と言うわけですか」

「皆、気を付けて」


皆が二匹の視線の先を警戒していると、大きな真っ赤な毛皮をした狼が現れた。そしてその口元には・・・


「え?」

「な!」


人の腕が食み出していた。その腕を狼は霜葉たちの目の前で咀嚼する。


「くちゃ・・ボキ!くちゃくちゃ」

「あ、あ」

「おえ~」


この光景に裕佳梨は顔面蒼白となり声も出なくなり、健吾は堪らず胃の中の物を吐き出した。二人は直視できずにそろって目をそらす。


「二人とも!目をそらしたらダメだ!」

「「え?」」


霜葉が残酷なことを口走ったので二人は信じられなかった。だが、健吾はその意味が理解できてしまった。なぜなら・・・・


「なに!?」


―――――――目の前に爪で自分を引き裂こうとする真っ赤な狼が見えたからだ。


健吾は慌てて大盾を前方に構えた。だが、咄嗟のことで構えは不十分でこのままでは大盾は攻撃を防げない。健吾は自分の死を想像しかけて・・・・


「【ガードブースト】!【アタックブースト】!!」


――――――友人の声でその想像は掻き消えた。


「!おっらー!!!」


健吾は霜葉が自分に掛けてくれたと信じて大盾をただ前方に構えるのでなく、そのまま真っ赤な狼の振るわれる爪目掛けて突撃した!


ガッキィィン!!!

「!!」

「どわ!」


激突した爪と大盾は狼の方は爪を弾かれて、健吾は爪に突撃するために体勢が不十分だったため吹き飛ばされた。


「【ウィンドアロー】!【ウィンドスラッシュ】!」


そこへ生徒会長が風魔法術で追い打ちを仕掛けた。風が矢のように放たれる【ウィンドアロー】に風が刃のように切り裂く【ウィンドスラッシュ】を使ったのだ。しかも、【ウィンドアロー】のは矢の本数が術者の技量と魔力量により自由自在。この場では6本の風の矢が狼に襲い掛かる。


「ウオン!!」


しかし、狼はこの6本の風の矢をその場から飛び退いてすべて躱した。実体のない風の矢をだ。だが生徒会長は慌てない。なぜなら本命は次の攻撃だからだ。


ズシャ!!

「ギャン!!」


飛び退いた狼はいきなり顔面に切り裂かれたような痛みを感じた。生徒会長が仕掛けた攻撃の本命は【ウィンドスラッシュ】の方だったのだ。風の矢が当たればよし、例え躱しても次の攻撃は必ず当てるための布石となるので問題なかったのだ。


実際、この攻撃はかなりの効果を発揮した。顔に当たったことで血が目に入り狼の視界を封じたのだ。生徒会長の攻撃はまだまだ続く。


「【ウィンドプリズン】!」

「ウォン!?」


狼の動きを風が纏わりついて自由を奪う。視界も塞がり身動きもとれない状況では生徒会長が突き出した槍を躱すことは狼にはできなかった・・・・


霜葉たちの目の前には先ほどまで戦っていた狼が倒れていた。改めて見るとかなりの大きさである。先ほどのホーンドボアが中型バイクくらいなら、この狼は大型バイク以上はある。


「あたたたたぁ~」

「健吾君、動かないでよ?【ヒール】!」


健吾は吹き飛ばされた先で木にぶつかり、背中を強く打ちつけてしまった。裕佳梨が回復魔法術の【ヒール】を健吾に発動してけがを回復させているが、二人の顔は暗い。


「サンキューな裕佳梨。それと霜葉も助かったぞ。あの時お前が魔法を掛けてくれなかったら、俺は・・・」


その時のことを想像して健吾の顔には恐怖が浮かんだ。


「無事でよかったよ。それといきなりきついこと叫んでごめんよ?」

「いや、敵を目の前にして目をそらした俺達が馬鹿だったんだよ」

「う、うんそうだよ?でも、まさかあんな場面を見ることになるなんて・・・」


裕佳梨は魔物が人間の腕を食べる場面を思い出して顔面蒼白になった。生徒会長がそんな裕佳梨を抱き締める。


「仕方ありませんよ。私でも直視はしたくありませんでしたが、あの魔物はそれを狙って態々私たちの前に現れたと思いますし」

「やっぱりそうなのか?」

「うん、そうだと思う。狙ってやったのならあの魔物は相当頭がよかったんだよ」

「ああいう奴もいるってことか・・・」


健吾は別に油断していたわけでもなければ、相手を甘く見てもいなかった。しかし、今回は相手の策にまんまとはまってしまった形だ。霜葉の魔法術と自身の職業の特性を把握していなければ、自分はあの時に最悪死んでいて最低でも重傷を負わされていただろうと、健吾は考えた。


『ご主人・・・ごめんなさい・・・』

『主・・・ごめん・・・』

『二人ともどうしたの?』


いきなり謝罪する白夜と十六夜。様子も耳は垂れ下がり、尻尾もいつもより力がないようで、どことなくしょんぼりとした雰囲気が伝わってくる。


『『なにもできなかったの~』』

『何言ってるのさ?二人のおかげであの魔物に気付けたんだよ?』

『でも、戦えなかったの~』

『主守れなかったの~』


そう言って二匹はますます落ち込んだ。いつもと様子の違う二匹に他の三人も気付き始めた。


「白夜と十六夜はどうしたのですか?」

「なんか戦えなかったことで、僕を守れなかったのを落ち込んでいるようです」

「おいおい、落ち込む必要はねぇぞ?」

「そ、そうだよ。その子たちのおかげであの魔物に気付けたんだから」

「その通りです。あの魔物に気付かなかったらどうなっていたことか、白夜と十六夜は今回一番のお手柄ですよ?」

『ほら?皆二人のこと感謝しているよ?』

『『でも~』』


どうやら二匹にとっては大好きな霜葉を守るために戦えなかったことが、かなりショックなことの様だ。


『あの魔物は頭もよかったようだし、強さも今までで一番だと思うよ?二人はまだ子供なんだから自分たちのできることで頑張ればいいよ?』

『『そうなの?』』

『そうだよ。それに今はあの魔物クラスとは戦えなくてもそのうち戦えるようになるから』

『『ほんと~?』』

『うん。二人のLvが上がれば進化してより強くなるんだ。そうすればあの魔物クラスとも戦えるよ?僕も頑張るから一緒に頑張ろう?』

『強くなれるの?』

『主守れるようになるの?』

『うん。今だって二人には助けてもらってるよ僕は』

『がんばるの~つよくなるの~!』

『今度は主を守るの~!』


霜葉の説得により元気になり強くなるための頑張る決意を固めた二匹であった。その様子を見ていた三人も元気になり霜葉の足元でじゃれついている二匹を見て笑顔を浮かべる。


「二匹も元気になったし、どうするこれから?」

「それなんだけど、一旦町に帰らない?」

「ふむ、なぜです?」

「さっきの魔物のこと報告しようかと思って、かなり強い魔物じゃあないかと思うし、あいつ一体だけかどうかも怪しいしそれに・・・」

「それに?」

「二人はあんなことがあった直後だし、僕も今は平気だけど思い出してきたら緊張と疲れが一気に来たみたいなんだ。このまま他の魔物との戦闘はちょっと遠慮したい」

「あ~なるほど。気を使ってもらって悪いな霜葉」

「あ、ありがとうね」

「どういたしまして」

「そう言うことでしたら異論はありません。町へと帰り一旦休みましょう」


それから、4人と二匹は街道へと戻り町へと向かった。だが、何事もそううまくは行かないようで、帰る途中でランドボア3体連れに2回も遭遇。この遭遇戦で活躍したのは白夜と十六夜だった。


『ご主人は僕たちがまもるの~!』

『つよくなるの~!』


先ほどの狼との戦いの後の決意を早速実行している二匹。無論、霜葉も付与魔法術で支援をしている。さすがにランドボア三体相手にサポートなしではきついためだ。生徒会長も二匹の決意を汲んで魔法術でサポートをしている。


倒した後はさすがに人の死という物を強烈に見た後だからか、霜葉も解体する気力はなく血抜きだけして、アイテムボックスに入れた。もちろん、あの真っ赤な毛皮の大きな狼も解体せずに入れてある。


町へと着き、霜葉たちは冒険者ギルドへと向いたどり着けば、霜葉たちと面識のある受付嬢にあの狼についての報告を行った。すると・・・


「真っ赤な毛皮の大きな狼・・・・まさか、ラージレッドウルフ?そ、遭遇して倒したのですか?」

「はい、苦戦はしましたが、倒しました。それで詳しい話と念のため報告に戻った次第です」

「・・・・・」

「どうかしましたか?」

「あ、すいません。まさかラージ種の魔物がこの町の周辺に居たとは思わず、びっくりしまして。しかも、それをあなた方が倒したと言われて・・・・確認なんですが、本当に倒したのですか?」

「この場でその死体を出してもいいですよ?」

「ぜひともお願いしますが、ここでは狭いのでギルドの解体場があるのでそこでお願いします」

「解体場?」

「本来、冒険者自ら魔物の解体をするのはいないわけではないのですが、極少数なのです。ですからギルドの方で解体に手慣れた人材がいる解体場と言う場所を用意しているのです。あなた方には不要と思い説明しませんでしたが・・・・」

「なるほど」


と言うわけでその解体場で、狼を出すことに。なお、解体場を利用するには解体した魔物素材を必ずギルドに買い取ってもらうことと使用料として銅貨一枚を払うことが条件らしい。


解体場はギルドの一階の奥の方にあり、なかなかの広さがあった。その場所には何人かの冒険者と魔物を解体しているおそらくはギルド職員が居た。


「おう、魔物解体か?使用料して銅貨一枚を貰おうか」

「すいません。今日は別件できました」

「ん?何かあったのか?」

「ここに居る彼らが、ラージレッドウルフを倒したらしいのでその死体の確認です」

「ら、ラージレッドウルフ!?この町周辺に居たのか!?でも、どこにあるんだ?」

「説明するより出してもらった方が早いでしょう。とりあえず端に移動して出してもらえますか?」

「わかりました」


部屋の端っこに移動して、霜葉はアイテムボックスからラージレッドウルフの死体を出した。


「あ、アイテムボックス持ちかよ!?しかも本当にこれはラージレッドウルフで間違いない・・・」

「しかもかなり大きな個体ですね。一体いつから居たのか・・・・」


解体場に居た他の冒険者や職員も何やら騒がしい。


ちなみに霜葉たちはラージ種の魔物のことは知識としては教えてもらっていたが、見るのは初めてだったためこの狼がそれだとは気付かなかった。


ラージ種と言うのは長年生きた魔物が突然大きく成長した魔物のことだ。なぜそんなことが起こるのかは分かっておらず、一般的にはLvMAXになった魔物が極低格率でなるのではないかと言われている。真偽のほどは定かではないが。


それに、重要なのはむしろラージ種の強さの方だ。ラージ種は長年生きただけあり知能も高く戦えば冒険者ランクD以下であれば苦戦は必至で、何人か死ぬとまで言われるほどで討伐にはランクC以上の冒険者が最低4人はいると言われている。


冒険者ギルドでも発見されれば緊急依頼として冒険者ランクC以上に討伐を依頼するほどだ。


「ともかく、確認はいたしました。疑って申し訳ありませんでした」

「いえ、お気になさらずに」

「それでは、4人の冒険者ランクをDにいたしますので皆様のギルドカードの提出をお願いします」

「え?でも、きのうランクEになったばかりですよ?」

「問題ありません。と言うよりラージ種を倒せる皆様をランクEのままにしておく方が問題です」

「はぁ?わかりました」


とりあえず納得して4人は、ギルドカードを受付嬢に渡した。


「では、私は受付に戻ります。皆様にはラージ種討伐の報酬も支払いますので」


そう言って受付嬢は部屋を出て行った。


「ところで坊主たち?こいつは解体してもいいか?」

「ん~ちなみになんですが、この魔物をここで僕が解体しても素材はギルドで買い取りですか?」

「いや?その場合は買い取りはなしでもいいぜ?この場所の使用料として銅貨一枚は貰うけどな」

「では、払います」


霜葉は銅貨一枚を払い、ナイフを取り出してついでにランドボアや角の生えた猪も解体することにした。


「あ、みんなはどうする?僕はここで解体しちゃうけど?」

「そうですね。受付にでも戻ってそこでお待ちしますよ?」

「そうだな。先に帰るのも悪いし霜葉を待ってるぜ」

「そうだね」

「わかったよ」


他の三人は受付へと戻り、霜葉は解体を始めた。ちなみに白夜と十六夜の二匹は霜葉の傍で丸くなっている。


それから霜葉はランドボア6体とホーンドボア(解体場職員に名を聞いた)1体とラージレッドウルフ1体を解体した。ランドボアはいつも通り毛皮と牙とお肉に、ホーンドボアは毛皮と牙とお肉と角、ラージレッドウルフは毛皮に爪に牙だ。お肉は食えないようなので除外して、魔結晶8個を手に入れた。


「よし、これで終わりっと」

「いやはや、見事な手際だったな!しかも錬金術で傷まで直すとは・・・坊主!ここで働かねえか!?」

「あはは、お誘いはありがたいですが、僕は冒険者ですので」

「う~んおしいな~ここも人手不足だし、人材確保したかったがな~」

「お忙しいようでしたら、お手伝いするのはかまいませんよ?」

「それは助かる!その時は依頼として報酬も払うぞ!」


よし、臨時収入先ゲットと思った霜葉である。ついでに、料理ができる召喚者たちにもここのことは教えておこうと思った。なお、内臓とかの不要な物は解体場職員が処理してくれるようだ。


その後は霜葉と二匹は受付へと戻り三人と合流、受付嬢からランクDになったギルドカードを受け取り、依頼を達成してランドボアの残りの素材もお肉と魔結晶以外は買い取ってもらい、ラージレッドウルフの討伐報酬は何と銀貨八枚になった。今日の収入は合計で銀貨九枚と銅貨九枚だ。


それから霜葉たちは住処へと戻った。かなりショックを受ける光景を見たからか、4人はそのまま一度寝てしまった。なお、冒険者ギルドにはラージレッドウルフの犠牲者がいたことは話してある。おそらくは冒険者だと思われるが、念のため衛兵に話して町の人が犠牲者ではないか調べるとのこと。


冒険者であれば死んだことは自己責任であり詳しくは調べないと言われて、4人はここが命の軽い世界だと改めて感じた。4人が起きたのは夕食頃であり、他の召喚者も彼らの様子がおかしいことに気付いて心配した。そんな召喚者たちに霜葉たちは今日経験したことを知らせるために夕食後全員に話した。


皆、話を聞いて男子は驚き、女子は顔面蒼白となった。しかも、もしかしたら健吾が死んでいたと言う話は召喚者たちに少なくない動揺を与えた。霜葉はこの話の後、冒険者をやめる人がいるかもしれないと思ったが、話だけで辞めたくなるのならどの道そのような状況になったら危ういため黙って静観した。


霜葉の予想通り、話を聞いた者で特に女子が、恐怖に震えて冒険者をやめると言いだした。何人かは説得しようとしていたが、命に係わる重要なことだから個人で考えて答えを出すようにと生徒会長に言われ、引き下がった。無論、相談には乗るからいつでも誰かに頼りなさいとも付け加えた。


その後は重い雰囲気に包まれ、解散となった。霜葉たちも生徒会長から冒険者を続けるかどうかをよく考えるようにと言われた。


そして翌日、やはり何人かの女子は冒険者をやめる選択を選んだ。これからは生産職としてお金を稼ぐとのこと。数人の女子は料理人であったり調理術を持っていたため、霜葉は冒険者ギルドの解体場で働けるかもしれないと教えた。その情報に女子は霜葉にお礼を言って詳しい話を聞いてみると出かけて行った。


「では、私たちも答えを出しましょう」

「当然、僕は続けます。職業を代えるとこの子たちの安全のためにもありえませんから」

「わん!」

「にゃん!」


霜葉の腕の中で、二匹は元気よく吠えた。


「俺も続けます。恐怖もあるし怖いけどだからって逃げたくはありません」


健吾も昨晩考えて答えを出したようだ。


「私も続けようと思います。このような事はこの先にもあるでしょう。どんな状況でも動けるくらいに強くなりたいですから」


生徒会長も続けるようだ。残るは・・・・


「私も続けます」

「大丈夫か裕佳梨?無理する必要はないんだぜ?」

「無理はしてないよ?私も強くなりたいの。私が強くなれば、皆の傷も癒せるはずだから。それに強さが足りずに目の前の助けられる命を助けられない状況にはなりたくないの」

「裕佳梨・・・・」


裕佳梨の言った状況は十分あり得ることだ。ここで冒険者をやめるとその状況になった時に後悔すると判断したようだ。


「だから続けます」


その時の裕佳梨の目は覚悟を決めた決意を宿していた。


「・・・・・みんなの決意は固いようですね。では改めてよろしくお願いしますね」

「「「よろしくお願いします」」」

『『よろしく~』』


4人と二匹は決意を新たにして冒険者を続けることとなった。


「では、今日も依頼を受けてお金稼ぎと強くなるために経験を積むとしましょう」

「あ、その前に革鎧を買った店に行ってもいいですか?」

「なにか買うのか?」

「買うんじゃなくて、防具作成の依頼だよ」



「いつかは珍しい魔物素材を持ってくると思っていたが、こんなに早いとは予想外じゃ・・・・」


ここは健吾が今装備している革鎧を買った店だ。霜葉はここにラージレッドウルフとホーンドボアの素材を持ち込み防具を作って貰おうと考えたのだ。


「毛皮の方は革鎧にしてほしいんですが、この角や爪と牙は何かに使えますか?」

「そうじゃのう~角はこの太さなら戦鎚に、爪と牙はナイフやショートソードにできるのう。だがのう」

「?」

「防具はともかく武器の方は坊主たちが持っている物の方が性能がいいと思うぞ?しいて言えば、おぬしの腰にあるナイフよりはいいのができるくらいじゃな」

「ではナイフと防具を作ってください。他のは売ります。皆もいいかな?」


霜葉の言葉に3人は頷いて答えた。


「まいどあり。ところでこれらの毛皮を革鎧にするのは構わんのだが、それだと3つくらいしか作れんぞ?」

「そうなんですか?」

「まず、このラージレッドウルフの毛皮の方は大きさと品質ともに問題なしじゃ、これならいい革鎧になるし余った革でグローブやブーツも二人分は余裕で作れる。問題はこっちのホーンドボアの方でな、サイズが平均より小さい。このサイズではぎりぎり革鎧は一人分しかできん」

「革鎧はと言うことは他の防具は作れるので?」

「察しがよいのう。こいつなら革の胸当てであれば二人分は作れるぞ?」

「では、ラージレッドウルフの毛皮では革鎧、グローブ、ブーツを二人分。ホーンドボアの毛皮では胸当てを作ってください」

「了解じゃ、代金は素材持込みで銀貨八枚じゃが、他の素材の分を差し引いて銀貨六枚じゃ。前払いで三枚貰っとこうかの」

「ではこれで」

「よし。ではサイズを測りたいが誰がどの防具を装備するんじゃ?」


店主の質問に対して、4人は相談した結果はラージレッドウルフの装備一式は生徒会長と健吾が、ホーンドボアの胸当ては霜葉と裕佳梨が装備することにした。


「わかった。ちょっと待っておれよ」


そう言って、店主は店の奥へと向かいしばらくして・・・・


「またせたの」

「あんたたちかい?こんな上等の魔物素材を持ち込んだのは」


店主の隣には同じドワーフなのだろう。店主と全く同じ体形の女性が居た。女性と分かったのは胸があったからでそれ以外は店主と変わりなかった。


「女の方はわしの妻がサイズを測るのでな。店の奥に行ってくれや」

「よろしくね!」


何とも気風のいい感じがする人だ。その後サイズを測り出来上がるのは三日後と言われ、霜葉たちは改めて店主にお願いして店を出た・・・・・


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