第一章 第十二話 女王国編12
女王陛下の依頼で霜葉たちは辺境の町へとやってきた。そこで冒険者となり依頼を受けて無事達成した後、霜葉が剥ぎ取った魔物素材を冒険者ギルドに提出して、お金を受け取った時にガラの悪い二人組に声を掛けられたところであった。
「・・・・僕たちに言ってるんですか?」
霜葉は声を掛けてきた二人に視線を向けよく観察してみた。一人は背中に小楯と腰に剣をぶら下げて皮で作られた鎧、レザーアーマーを着ていた。他にも頑丈そうな手甲や革製のブーツなどを装備していかにも冒険者と言った格好だ。
もう一人は、同じ装備で武器は腰に短めの剣、ショートソードを2本ぶら下げている。これを見て霜葉は防具も買わないといけないなと思った。
しかし、その思考はすぐに引っ込めた。なぜなら二人組の顔はお世辞にも友好的な顔をしてはいなかった。こちらを見てにやにやした、いかにもカモを見つけたと言いたげな顔だ。ついでに言えば、強面の顔でヤクザと言っても通用しそうな顔だ。
「なぁに、俺達はDランクの冒険者でな、君たちの先輩にあたるんだよ?」
「だが、今の俺達は金欠でな?かわいそうな先輩たちを助けてくれねえかと言ってんだよ」
そう言いながらにやにやした顔を引っ込めて強面の顔をさらに迫力満点な顔へと変貌した。どうやらこの二人は、顔や雰囲気で霜葉たちを脅迫しているらしい。もっとも・・・・
「お断りします」
霜葉には一切通じないのだが。
「なんだと?」
「そもそも、先輩だからと言って全く交流のない初対面の人間を助ける理由はありませんよ?あと僕たちよりランクが高いんですから真昼間からお酒なんて飲んでないで依頼を受けたらどうですか?」
この二人からはお酒の匂いがすることを霜葉は気付いていた。同時にお酒を飲むお金はあるのに金欠だなどと言うこの二人に呆れた。
「先輩に対する礼儀ってもんが分かってねぇらしいな?」
「そちらは人間に対する礼儀を知らないみたいですね?」
「あ・・・・!てめぇ!」
少しの間を開けて二人は気付いたらしい。霜葉のセリフが遠回しにお前たちは人間か?っと言っているのに。
「上等だ!ぶちのめしてそっちの女どもを可愛がってやるぜ!」
「特にそっちの美人のねえちゃんは念入りにな!がっはっはっは!」
二人が武器を手にして鞘から抜く瞬間に事態は決着した。
ドン!ボン!
「「ぐほぉ!!!」」
いつの間にか二人の目の前に居た健吾によって腹に一発殴られ、床に倒れた。
「・・・・いや、防具着てるのに一撃ってなんでだよ?」
「健吾君の方が強いからでしょう?」
「それ以外ないね」
「そうですね」
健吾が疑問の声を上げても、霜葉、裕佳梨、生徒会長の順で至極当然と言われた。ついでに言えばこの二人の防具はあまり性能のいい物ではなかったのだろう。
「と言うか霜葉、お前俺に【アタックブースト】掛けただろう?」
「なんのことかな?」
「とぼけんな。俺は加減して殴ったのにかなりいい音がしたからな。それ以外ありえない」
「ふふふ♪」
「お前って怒ることってあんまりないけど、怒ると怖いタイプだからな・・・・」
健吾の指摘は正しく、霜葉は健吾が動き出した時にはすでに【アタックブースト】を掛けていた。確実に二人を排除するためにだ。健吾が加減しなければ骨は確実に折れていただろう。
「とりあえず、この人たちどうする?」
「放っておいていいんじゃない?」
「そうですね。異議なしです」
「いや、いいのか!?」
霜葉の言葉に放置を推奨する二人。驚愕する健吾であったが、否定まではしない。健吾も自分の彼女である裕佳梨に手を出そうとした床で倒れている二人を庇う気はなかった。
「ええ、そのままで結構ですよ?」
成り行きを見ていた受付嬢がそんなことを言ってきた。
「いいんですか?」
「はい。実を言いますとこの二人は自分たちよりランクの低い冒険者に対してこのような事を繰り返していた常習犯なのです。そのせいで冒険者をやめたり他の町へ移動する人がどんどん出てくる始末でして・・・
冒険者ギルドでも問題視していたのです。さらに今回は武器まで使おうとしました。目が覚めたら私たちから厳重注意と警告をいたしますので、どうぞそのままで」
どうやらこの二人はやり過ぎたらしい。基本冒険者の争いには介入しないギルドが問題視する程度には。まぁ、働き手を失っているようなものだから当然と言えば当然か。
「わかりました。では、僕たちはこれで失礼しますね」
「はい、今日はたくさんの魔物素材をありがとうございます」
とりあえず、今日の仕事はこれで終了。霜葉たちは冒険者ギルドから出てこれから何をするか、話し合うことに。
「お金は手に入ったから、裕佳梨と聖夏先輩は服を買いに行ったらどうだ?」
「いいの?」
「魅力的な提案ですが、私たち二人だけで行くわけにはいきません。他の皆が帰ってきてから行きましょう」
「だったら武具店を覗いてみない?」
「なんだよ霜葉?新しい武器でも買うのか?」
「武器じゃなくて防具だよ。特に健吾君と聖夏先輩は必要だと思うんだ。だから買うかどうかは値段次第だけど、どれくらいするのか見ておいた方がいいと思うんだ」
「あ、確かにそうだね」
「う~ん防具か~いるのか?」
今日の戦いを思い出しながら健吾は疑問に思った。
「今日戦った魔物は比較的弱い魔物だよ健吾君。この町の周辺では強い魔物も出てくるって話だし、いつ出会うかわからないよ?そんな魔物と出会ったら防具がないのは危険だよ」
「霜葉君の言う通りですね」
「それに健吾君のジョブは鎧を着ると能力がアップするみたいだし、その鎧がレザーアーマーでもいいのか試してみようよ?」
「ああ、そう言えばそんなこと言ってたな?」
「健吾君、ここは霜葉君の言う通り防具を見に行こう?」
「そうですね。最低でも健吾君の防具は買えるなら買いたいですね」
3人にそう言われて健吾も納得して、4人は武具屋を探すことにした。
武具店は看板に斧と鎧が描かれている店らしく、冒険者ギルドが建っている大通りにいくつか有ったので数店覗いてみたのだが・・・・
『ご主人~あの人いやなにおいするの~』
『主~いやな音もです~』
生徒会長の胸、もとい、腕の中から起きた白夜と十六夜が店の店主を悪い人間だと判断し、その意見を聞いた霜葉は店の武具や防具を鑑定してみた結果・・・・
【鉄のショートソード】
一見綺麗だが、品質の低い鉄鉱石で作られた武器。訂正価格は銅貨四枚。
【ランドウルフの革鎧】
ランドウルフの毛皮で作られた革鎧、毛皮の品質が低いため、適正価格は銅貨五枚。
超鑑定の効果なのか、適正価格までわかってしまった。問題なのはどれも適正価格を超えていることだ。しかも店主が勧めてきた物は適正価格の倍もした。この結果を他の3人にも話して霜葉たちは早々に店を出た。
「霜葉とチビ達のおかげで助かったな」
「でも、適正価格の倍近い物を勧めてくるなんて・・・・」
「白夜と十六夜のスキルはすごいよね~」
『ご主人~僕たちすごい?』
『主~私たちすごいの~?』
『うん、二人のおかげで助かったしすごいよ?ありがとうね』
『『えへへ~♪』』
「確かに倍で売ろうとするのは驚きましたが、作った物を高く売るのは基本ですからね。一方的に責めるのはお門違いでしょう」
とは言え、現在の4人をお財布事情では高いのは遠慮したい。どうするべきかと悩んでいると・・・
「ん?」
不意に、霜葉は自身の左側にある子道の先に武具屋の看板を見つけた。大通りの店よりは小さいようだがなぜか霜葉はその店が気になった。
「ねぇ皆?あの店に行ってみない?」
「お?あんなとこに店があるのか?」
「ちょっと小さいね?」
「では、お昼も食べないといけませんし、あの店で最後にしますか」
霜葉の意見を聞き入れ4人は小道の店へと向かう。そして、中に入ると・・・・
「おお~」
「すごいね~」
そこに有ったのは、見るからにお高い武具の数々だった。装飾や細工は凝った物が多く、武具の輝きも素晴らしい。まめに手入れされているのだろう。念のため霜葉はいくつか鑑定する。
【鉄のロングソード】
品質の低い鉄鉱石を職人の腕と工夫で一級品の武具へと作られた物。適正価格は銀貨一枚。
【ランドボアの革鎧】
品質の低いランドボアの毛皮を職人の腕と工夫で一級品に作られた一品。適正価格は銀貨二枚。
素材は品質の低い物らしいが、職人の腕で素晴らしい武具に生まれ変わった物の様だ。適正価格の高さがそれを証明している。
「む?客か?」
霜葉たちが武具に驚いていると、店の奥から人が出てきた。しかし、その人物は人と行っていいのか疑問を浮かべるだろう。背は霜葉よりも低く150もないであろうし、体は横に大きくだからと言って太った印象はない。一言でいうならずんぐりむっくり体系か?
「もしかして。ドワーフですか?」
「いかにもそうじゃが、ドワーフを見るのは初めてか?」
「ええ、そうなんですよ」
霜葉の言葉とそれを認めた店主?の言葉に他の三人は驚いていた。お城での覚えておいた方がいい常識の勉強の時に人間以外の種族については、教えてもらっていたが実際に目にするのはこれが初めてだ。
ドワーフは主に商王国 タンワオで生活していて、他の国には神聖国 シャイバーンを除き数は少ないが生活していると聞いていたが、この町にもいたのだ。
「して、何用でこの店に来たんじゃ?」
「今日はこちらの彼の鎧が欲しくて訪ねました」
「ど、どうも」
「ふむ・・・・・」
霜葉は正直に店に来た目的を話て、健吾は初めて見たドワーフに緊張しているのか恐る恐る答えた。そんな健吾をドワーフはじっと見つめた。
「お前さんは【守護騎士】か・・・」
「え!?なんでわかったんすか!?」
「わしは職業限定で鑑定できるスキルを持っているんじゃよ。しかし、人族が【守護騎士】とは珍しいのう?職業のこともよく知っている様だし、鎧を求めたのはそのためか・・・」
「そうなんですよ」
霜葉は職業限定で鑑定できる目の前の人物を警戒して、超隠蔽のスキルで素早く自身のステータスを隠した。
「断っておくが、鑑定したのはこの坊主だけじゃ。他の3人は鑑定しておらん。さて、欲しいのは鎧か・・・お前さん鎧は装備したことはないな?」
「あ、はい」
「であるならば、最初は革鎧がいいじゃろう。ちょっと待っておれよ」
そう言ってドワーフは店の奥に行き、しばらくして一つの革鎧を持ってきた。
「これは、ランドウルフの毛皮で作った革鎧じゃ。鎧を装備したことがないならこれでまずは慣れることをお勧めするぞい。価格は銀貨二枚と言いたいが、勝手に鑑定した謝罪も込めて銀貨一枚と銅貨四枚でどうじゃ?」
霜葉は持ってきた革鎧を鑑定したところ、適正価格は銀貨一枚と銅貨二枚となっていたので、買ってもいいと思った。
「皆はどうかな?僕は買ってもいいと思うよ?」
「それよりもあちらにある革鎧がいいのではありませんか?」
「ん~私は霜葉君に賛成だね」
「そうだな~俺はよくわからないしこの人の言う通りにした方がいいんじゃないか?」
多数決の結果、この鎧を買うことにした。なお、生徒会長が霜葉の意見を否定したのは用心のためだ。表向き霜葉には鑑定スキルはないことになっているので、ここで全員が霜葉の意見に従えば疑われるかも知らないと思ったためだ。
「では、その革鎧を買います」
「まいどあり。ならば坊主、この革鎧を一回装備して見ろ。装備して動いてみて動かしにくいところがあるなら言ってみな。手直ししてやる」
「わかった」
そう言って霜葉がお金を払った後に、健吾は店主から受け取った革鎧を店主から着込み方を教わりながら、装備してみた。
「へぇ~ちょっとは固いかと思ったが、意外と柔らかくて動きやすいんだな!」
「言っておくが、すべての革鎧がそうとは限らんからな?素材によっては固い物もあるし、作った者の技量でも変わるからの?でだ、動かしにくい箇所はないか?」
「う~ん・・・どこにも違和感はないぞ?」
「ならばよしじゃ。それから、もし魔物の毛皮を手に入れたら材料持込みで安く作ってもよいぞ?」
「いいんですか?」
「もちろんじゃ。と言うかの【守護騎士】の職業持ちがいる坊主たちなら、この町周辺の魔物では相手にならんわ。であれば、いつか珍しい魔物素材を持ち込んでくれるかもしれんからな。儂としても珍しい魔物素材でいろいろ作りたいからの」
「わかりました。その時はお願いします」
「期待しておるぞ?」
それから、霜葉たちはお釣りを受け取り店を後にして住処へと戻って行った。その後は、生徒会長は辺境伯の下へ行き、今日の門番の態度に対する意見を言いに。霜葉たちは各々で好きに過ごした。霜葉に関しては白夜と十六夜と遊んでいたがね。
やがて、生徒会長と他の召喚者たちが帰ってきて、生産工房に行っていた者たちは初めから高Lvのスキルを所持していたからか、すぐに仕事を覚え工房に居た職人たちを驚かせ喜ばせた。これで溜まっていた魔物素材を減らせると中には泣き出した者までいたと言う。
冒険者になった者たちは持っていた魔物素材を売り、お金を得たと同時に冒険者ランクがEになり、何人かのグループは早速討伐依頼や採取、素材調達などの依頼を受けた。その依頼の道中で食べらる物の判別ができるスキル持ちは、キノコや果物などを採取した。朝に霜葉が言っていたことを実行したのだ。
その結果、十分な数を確保でき依頼も達成してほくほく顔で帰ってきた。それから男子は昼食の用意を女子は服を買いに出かけた。昼食はキノコや他の召喚者が買ってくれた塩や自生していたハーブを使いお肉を炒めたのでなかなかいい香りを醸し出している。なお、コショウはかなり高額だったため買えなかった。
女子が帰ってくるのはかなりかかるだろうと判断して、男子は先に食事を済ますことにした。
「この肉とキノコ炒めうま~!」
「きのこも味も歯ごたえもいいな~」
「うん、やっぱり塩は買ってきてよかったよ」
「この果物、酸っぱいけど柑橘系だと思えばいけるぞ?」
「今度はこの果物使ってレモンソースっぽくして見るか?」
「それいいな!」
食事はかなり好評の様だ。料理ができる者たちなどは次はどのように調理するかを話している。女子の分を残して食事を終えた男子は今日の行動について話し合った。その結果・・・
「あ~防具か。確かに万が一を考えると要るな~」
「皮革職人の職業に就いている奴は作れないのか?」
「う~ん服とか靴ならともかく、鎧はな~しばらくは無理」
「鍛冶師としても無理だな。そもそも金属鎧って結構重いし動きにくいぞ?」
「それもそうだな。あと着て動くことに慣れとかないと結構音がするって、前に騎士に聞いたことがあるぜ?」
霜葉たちが防具を買ったことを報告したら、他の召喚者たちも念のため手に入れた方がいいと判断した。だが、生産職の者たちは作るのは作り方を教わらなければならず今すぐには無理だと判断。よって、霜葉たちが買った店で他の皆も買うか悩んでいる。素材持込みだと安くなるかもしれないと霜葉から聞いたので、討伐した魔物素材を持ち込むことにするか、自分たちでいつか作るかよく考えることにした。
その後、女子も帰ってきて男子の作った料理を食べたらキノコの味と食感が男子以上に好みに合ったようで女子全員に好評だった。それから、夕飯の分の食材を分けて女子は自分たちの建物に帰って行った。その日の残りは自由に過ごして早めに夕飯を作り食べ明日に備えた。
そして翌日、朝食を作り食べて召喚者たちの大半は生産工房へと向かった。霜葉たち以外は生産職なので今日は生産スキルを使い何か作ってみたくなったらしい。ちなみに彼ら召喚者たちが生産工房で働いたお金は日払いで払われることになっている。いつ元の世界へ帰れるかわからないためだ。お金は半日で銅貨四枚だ。
霜葉たち4人と二匹は冒険者ギルドで、今日一日依頼を受けて報酬や魔物素材でお金を稼ぐ予定だ。現在霜葉たちは依頼を選んでいる最中だ。そして選んだのは・・・・
【ランドボアの毛皮の納品】
目的: ランドボアの毛皮を4つ納品。
報酬: 銅貨6枚
【ランドボアの討伐】
目的: ランドボアの3体討伐。討伐証明に牙を要提出
報酬: 銅貨7枚
これらを選んだ。早速受付に並び依頼を受けて現在は町の外だ。なお、外壁の門に居る門番は霜葉たちを見ても過剰反応はしなかった。
「あの門番、昨日の人と違って普通にしてたね?」
「昨日辺境伯にお会いできましたし、あのままではうわさになってしまいますから、他国には特に神聖国には私たちの存在は隠したいでしょうしね」
「あ~あの宗教国家か~」
今話題になった神聖国 シャイバーンは神聖教と言うこの世界で一番大きな宗教の総本山であり、その宗教の影響で人族絶対主義の国家になっているのだ。そのため、神聖国では人族以外の種族はほとんどいない。
獣王の魔王に対する忠告の手紙を受け取っても何の反応もしなかったのはこのためだ。人から聞いただけでもこの国の人族主義なところは嫌になるくらいである。霜葉たち召喚者は特にその思いが強かった。
また、教会のほとんどが神聖教であり教会で職業変更すると神聖国に情報が行くため、召喚者たちは職業変更は教会ではやめてくれと言われている。この国は人族主義であると同時に職業主義者で強力な職業の者を集めているのだ。ゆえに、強力な職業に就いた者たちが多数いる召喚者の存在はできれば神聖国には隠したいのだ。
「私たちも注意はしておきましょう。でも、今は依頼を達成のために動きましょう」
「そうですね」
「チビ達もよろしくな?」
「わん!」
「にゃん!」
「なんていったんだ?霜葉?」
「よろしく~だってさ」
それから霜葉たちは昨日のように街道を進み、途中で横の森に入って行った。離れた場所で後をつけている二人組に気付かぬまま・・・・
「おい、本当にやるのか?」
「当たり前だ。このままでは腹の虫がおさまらねぇ!」
昨日霜葉たちに絡んできた二人組が、霜葉たちを追跡していた。理由は逆恨みだ。健吾によって気絶させられた二人はあの後、起き上がりそのままギルドマスターの部屋まで呼ばれて、これまでの行動に対する厳重注意と同じことを繰り返すならば冒険者資格を取り上げると警告までされたのだ。
この件で反省でもすればそれで終わりだったのだろうが、あろうことかこの二人は反省どころか、今回のことが霜葉たちのせいだと見当違いなことを考えて、その考えが膨らみ続けて霜葉たちに借りを返すと言う結論になり今現在のような状況になっているのだ
「どうせあいつらは、冒険者になったばかりでまともに戦闘なんてできるはずがねぇ。昨日は油断しただけだ。不意を突けばあんなガキどもは簡単に倒せる」
「確かにな」
「それにだ。男はともかく女はどっちもいい女だろう?特に片割れは極上だ。ことが終わればせいぜいいい声で鳴いてもらおうぜ?へっへっへ!」
「それもそうだな。終われば俺にもくれよ?」
「当然だろう?」
随分と頭の悪い会話をしながら、霜葉たちの後に気付かれないように続く二人組。
一方、霜葉たちは自分たちの身に危険が迫っているとは知らずに、ランドボアを探すために森をゆっくりと進む。すると・・・
「ぐる~」
「フシャ~」
白夜と十六夜が前方を睨みつけて、低く唸り声を上げる。
『ご主人~今までで一番いやなにおいがするの~』
『主~いやな音も一番大きいです~』
「ありがとう二人とも。皆この先に何かいるみたいだけど、今までとは違うみたい慎重に行こう」
「どういうことだよ?」
「なんかこの二人が言うには、この先に居るのは今まで一番嫌な匂いや嫌な音が大きいんだって」
「そ、そうなの」
「ふむ、確かにそれは気になりますね。では、今までよりも慎重に近づきましょう」
「了解です」
そうして4人と二匹はいつも以上に慎重に前へと進み、二匹が警戒した魔物を視界に捉えた。
「あれ、ランドボアじゃないよな?」
「うん、ランドボアよりは二回りくらい大きいね」
「そもそも、ランドボアには牙はあっても角はありません」
「つ、強そうだね・・・」
『おっきいね~』
『角もすごいの~』
霜葉たちが見つけたのはランドボアよりも大きく立派な角があるサイのような猪だった。サイほど大きくはないのが救いか。この魔物はホーンドボアと言ってランドボアよりも強い魔物だ。と言うよりは霜葉たちが出会った魔物ではブルーベアよりは弱いが、他の魔物よりは強い魔物だ。
「なんだか強そうだしどうしようか?」
「そうですね。安全を考えれば遠慮したいところですね」
「じゃあ引き返しますか?」
「いや、無理だな。こっちに気付いたぞ」
霜葉たちがこの場を離れる相談をしていたら、ホーンドボアが霜葉たちに気付いてじっとこちらを凝視している。すると・・・
「おい!やばいぞ!」
いきなり走り出して霜葉たちに目掛けて突撃してきた!健吾は咄嗟に前に出て大盾を両手持ちして突撃を受け止める構えだ。
「俺が受け止めるから聖夏先輩とチビ達は奴を攻撃してくれ!!」
「む、無茶だよ!健吾君」
「今はこれしかない!」
「わかりました!」
「サポートするよ!【アタックブースト】!【ガードブースト】!」
「助かる!」
霜葉は少しでも健吾の助けになればと、付与魔法術の攻撃力と防御力を上げる魔法術を健吾に掛けた。迫るホーンドボアに健吾は自らも大盾の一撃を与えるために激突する瞬間を狙っていた。そして・・・
「おぉっら!!!」
ホーンドボアが大盾に激突する瞬間、健吾は思いっ切り大盾を突き出した!
ボキ!
「ブモォー!!」
「「「「え!?」」」」
その時の4人は形容しがたい顔をしていた。何せ相手は大きさ的に中型バイクくらいはあるのだ。そんな大きな物体が健吾に迫ってきたのだし、皆はよくて健吾が押し負けるのではないかと思ったのだ。
しかし、結果はと言うと・・・・健吾の大盾に激突したホーンドボアの角は根元から折れて吹き飛び気絶しているではないか。
「はぁ!?なんで!?」
「と、とりあえず止めを刺すね!」
皆がこの結果に騒然となっている中、霜葉だけはこのチャンスを逃さず自身に【アタックブースト】を念のため掛けて、ナイフをホーンドボアの喉元に突き刺した。
それから残りの三人はショックから立ち直り、現在霜葉が解体のために血抜きをするために首を切ろうと悪戦苦闘している最長に三人は先ほどの結果を話し合っていた。
「いくらなんでも出来過ぎだよな?」
「そうだよね?」
「霜葉君が掛けた魔法術の効果があったとしても、疑問ですね?」
「では検証してみますか?」
「「「検証?」」」
やっとの思いでホーンドボアの首を落とした霜葉は、血抜きをしている間に話に加わった。
「まず、健吾君は今革鎧を着てるよね?」
「そうだな?」
「じゃあその状態であの岩を持ち上げてみてくれない?」
霜葉が指差した先には、大の大人くらいの重量はありそうな岩だった。
「いやいや!いくらなんでも無理だって!」
「まあまあ、物は試しにやってみてよ?」
「?わかったよ?」
霜葉に言われて、最初は否定したがとりあえずやってみることにした健吾。岩の前に立ち抱えるように腕を回して力を込めて持ち上げると・・・
「ふんぬ~!!」
ボコ!
「「え!」」
「やっぱり」
岩は持ち上がり、土からも残りの部分が姿を現した。
「もういいよ!健吾君!」
「そ、そうか!よいしょっと!」
健吾は岩を下ろして、この結果に驚いていた。
「ま、マジか・・・持ち上がった」
「多分だけど、鎧を着た効果でさらに身体能力が上がって、さっきの魔物の時は後ろに僕たちがいたからさらに能力アップ。止めに僕の付与魔法術でさらに底上げしたからこそのさっきの結果じゃないかな?」
「す、すごいね・・・」
「健吾君のジョブは私たちの想像以上に強力だったようですね」
「ええ、少なくとも仲間が後ろにいる状況ではとても強力なジョブのようですね」
「な、なるほど・・・」
「でも、健吾君?あんまり無茶はしないでよ?さっきだってたまたまうまくいったからよかったけど、心配したんだから!」
「わ、悪かったよ裕佳梨。でもさっきはああするしかないと思ったんだよ?」
「口答え禁止です!」
「いってぇ!いてててぇ!!わ、悪かったよ!だから耳引っ張るのはやめろ~!!」
恋人二人のじゃれつきに霜葉は、苦笑を浮かべて血抜きの終わったホーンドボアを解体しに行き、生徒会長も苦笑を浮かべて二人を見ていた。なお、白夜と十六夜はそんな二人を不思議そうに見ていた・・・・