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第四章  第二十二話  海王国編20

海王国首島で海賊団討伐に参加することになった霜葉たち。その準備の最中に海賊団によって父親を殺された少年シップに出会った。シップは父親の死を受け止められなかったが、霜葉のおかげで受け止めることが出来た。


さらに、海賊団討伐に対して霜葉たちの参加に反対だったカルネ王女とも和解。着実に準備を進め、とうとう海賊団討伐作戦実行の日が訪れる・・・



明朝。まだ日も顔を出し切っていない深夜と言ってもいい時間帯。港では霜葉たち海賊団討伐者たちは船に乗り込む作業をしていた。さらにはつい今しがた囮の商船が出発したところだ。


それらを見届けているのはカルネ王女に冒険者ギルドマスターであるフィーム。さらには囮の商船に乗っている冒険者の関係者が集まっていた。本来は囮の商船に乗る冒険者は多くとも三組から四組くらいの冒険者パーティの予定だった。


だが、その話をした冒険者たちから、商船の船員すべてを船を操作できる者や、知識のある冒険者たちにしてはどうかと提案があったのだ。その提案の理由は・・・


「あの海賊団はガレオンの旦那まで犠牲にしやがった・・・」

「ガレオンさんには冒険者全員が世話になっていて、大きな恩がある」

「そんな海賊団を倒す手助けができるのなら、冒険者全員喜んで力を貸す。どうか考えてくれないか?」


もちろん、極秘の作戦であることはきつく説明するし、口の軽い者には話はしないと言って、ギルドマスターであるフィームに頭を下げた。この作戦の参加要請の話をした冒険者全員がだ。


フィーム個人としてもこの話に思うことがあったらしく、すぐさま国との話し合いが行われた。その話し合いでニルバーズ殿下とカルネ王女は冒険者ランクはDランク以上で信頼できる者にのみと言う条件で許可を出した。


その結果、想定以上の数が集まり騎士団から人を出す必要はなくなったのだ。それに囮とは言え危険が皆無なわけもなく、戦闘力があるため囮船には冒険者全員が乗り込むことに決まった。さらに海賊団の本拠地が書かれた海図も渡して、襲ってきた海賊を返り討ちにした後に援軍としても期待できることに。


そのすぐ近くの港では騎士団と霜葉たちが、軍船に必要物資を運びこんでいる。今回の作戦では大型の軍船五隻で向かうことになっている。


白夜たちも戦力的に分かれて乗り込むことになっているのだが、霜葉をどこに乗せるかで騎士団内で少々悩んだ。霜葉のサポート能力は一級品であり、霜葉一人乗り込むだけでその軍船の戦力は格段に上がるためだ。


悩んだ末、カルネ王女と同じ軍船に乗って最前線で戦ってもらうことに。そろそろ太陽が顔を出すころに霜葉たちはそれぞれの軍船に乗り込む。


「じゃあ、みんな。頑張ってね!」


霜葉は一旦分かれる白夜たちに挨拶をし、白夜たちも霜葉に思い思いの挨拶をする。白夜に十六夜は霜葉に体をこすりつけ、新月たちは前足を上げ挨拶。金剛一家はきれいにお辞儀。ルナは霜葉の護衛兼各船の援護要因として霜葉と一緒。


そして・・・太陽が完全に姿を現した現在、軍船五隻は海賊団アジトへ向かい港を出た。



大陸や海王国よりも遠い外海と呼ばれる危険海域があり、そこは大型の魔物が生息しているため進むことが出来ない。海賊団のアジトはその海域に入る前の小さな島々が密集している場所にある。


その島々の中に大きな岩礁地帯があり、海王国側だと見つけにくい場所に大きな洞穴のようになっている海岸があるのだ。海賊団はそこをアジトにしている。


いつ海賊と遭遇するかわからないため、甲板にはいつでも戦闘に入れるように二桁の騎士が待機している。無論、交代制で。霜葉はルナと一緒に食堂で水を飲んでいる。そんな時、カルネ王女が話しかけてきた。


「ソウハ殿。漁師から聞いたのだが、シップ君を救ってくれたそうだな? 港で普通に仕事をしていた彼を見て驚いたよ」

「僕も両親が死んだ時に似た経験をしましたからね。でも、カルネ王女はシップ君をご存じだったんですね?」

「ガレオン殿の息子だからな。本人からも聞いていたし、ガレオン殿が海賊の被害にあったことは国としても無視できず、私個人としても思うところがあった・・・」


そう言うカルネ王女は手を握りしめていた。とりあえず詳しい話を聞いてみたところ、カルネ王女は子供のころに若かりし頃のガレオンと出会っており、初対面の時にカルネ王女が悪戯をして王族でありながらガレオン殿は叱ったとのこと。


周りが大慌てで止めようとしたところ、ガレオンは大きな声でこう言い放った。


「王族だろうが間違ったことを子供がしたのなら、叱ってダメなんだと教えるのが大人の役目だろうが!!」


ド直球で正論を言われて、周りは何も言い返せなかった。それにカルネ王女も素直に謝り、その場は収まった。


その後はそのことを知った陛下がガレオン殿に感謝し、そこからガレオンの家との付き合いが始まり、おのずとダイダル氏とも顔合わせをしたとか。


「それから私はガレオン殿からいろいろなことを教わった。戦闘方面はダイダル先生に人間として大事なことはガレオン殿から教わったんだ。彼と出会わなければ今の私はいないだろうな・・・」


内面の成長のきっかけを与えた恩人と言うわけだ。その後は雑談をしてカルネ王女と別れ、霜葉は用意されていた部屋にて、今後の話し合いを仲間たちを行う。


(とりあえずは僕たちと騎士団で対応するけど、念のためにガウェインとリビュア達はいつでも参戦できるように準備はしておいてね?)

『承知しました』

『わかったよ』

『戦闘が船の上では我々は参加できませんしな・・・』

『俺たちは・・・特にダメだな・・・』


霜葉は念の為に、ガウェインとリビュア達には参戦させるために準備をさせることに。ガウェインは霜葉の護衛として、リビュア達は海でも十分に戦えるので。


逆に北斗たちとカイロスたちはさすがに戦闘には参加できない。北斗たちは数も多く戦闘経験のない船上での戦闘だから。カイロスたちは体のサイズが大きすぎるので。


(こればっかりは仕方がないね。でも二人には助けられてるんだし落ち込む必要はないよ?)

『ありがとうございます』

『必要なら・・・いつでも呼んでくれ』


優しい霜葉の言葉にこの主に付いて来てよかったと心から感じる二人だった。


(大和に武蔵たちとガーベラたちは、海に落ちた海賊たちを対処して。国の騎士たちも落ちるだろうから、出来ればでいいから助けてあげて。海賊たちが攻撃してくるだろうしね)

『は~い』

『わかったんだぞ!』

『お任せください』


騎士たちから聞いた話では、船上での戦闘では相手を倒すよりも海に落とすことがあると言う。今回のような大規模での戦闘では特に頻度が上がるとも言っていた。


相手はいくつもの海賊団が徒党を組んだ大集団。そんな奴らと戦うとなれば、いちいち倒すよりも海に落とした方がいい場合があるのだとか。そして、そう考えるのは海賊も同じ。海に落ちたとしても油断できない。


その場合は騎士たちの方が有利だと霜葉は考えている。なぜなら武蔵たちやガーベラたちがいるから。海と言う戦闘場所で人間が彼らに勝てるわけがない。



そんなこんなで時間が経過し、いよいよ岩礁地帯へと突入した。霜葉も船の甲板に立ち警戒をしているが、他の騎士たちはやけに緊張をしているのが気になった。


「ここってそんなに危険地帯なんですか?」

「大きな岩が乱立していますので、中型の船など隠れることが出来ます。海賊たちが見張りを配置していることは十分に考えられますので」


そばにたまたまいた軽鎧を着こんでいる騎士に尋ねてみたところ、そんな答えを口にした。


「それと海王国にとってこの岩礁地帯は外海との境界線です。外海には巨大な魔物たちしか生息しておらず、ここがなければ海王国そのものが存在していないとまで言われているのです」

「大和みたいなサイズの魔物がうようよいるわけですね」

「いえ・・・最低サイズでアーケロンの大人クラスなんですよ。海王国の記録だとその倍クラスの魔物もいるとか・・・・」

「・・・えぇ?」


そんな騎士の言葉に霜葉は、船団の最後尾に居るであろう大和に視線を向け、その後に外海と呼べれる場所へと視線を移す。外海は霜葉の予想以上に化け物、否。大怪獣と呼んでいい魔物がいる危険地帯のようだ。


なお、騎士によれば海王国がまだ国として出来上がったばかりのころ、外海の調査をするために大型船十隻による船団が外海に向かった。しかし・・・入った直後に超大型のシーサーペントとマリンドラゴンの戦いを目撃し、断念したと。その判断をした船団長は国から英断だと称えられたとか。


しかしながら、外海が危険地帯であることが判明し、このままでいいのだろうかとの話し合いが海王国の重鎮で会議が行われた。その結果、岩礁地帯に監視船を何度か向かわせることが決定。


その監視船の報告で外海には超大型の魔物しか生息しておらず、一番小さいサイズでアーケロンの大人サイズだと判明した。そのアーケロンにしても長い年月を過ごしたであろう超ド級の個体も確認したとのこと。


だから、海賊団はここをアジトに選んだのかもしれないが、霜葉はいくつかの疑問が浮かんだ。


「そんな危険地帯のそばにアジトを作って、よく今まで何も起きませんでしたね?」


霜葉の言う通り、いくら岩礁地帯が超大型の魔物にとって出入りできない場所だとしても魔物の中には遠距離攻撃できる魔物もいる。魔法術やブレスなどだ。下手に騒いだりするとそう言うことが出来る魔物を刺激しかねない。


「我々もそこは気になりました。しかしながら海賊団が我が国の民を攻撃している以上は、こちらが何もしないと言う選択はあり得ません。海賊団を捕らえればわかる問題でもありますし」

「まぁ、もっともですね」


しかし、霜葉は騎士にそう言いながらいろいろ腑に落ちない気持ちでいた。そもそも海賊団が危険地帯にアジトにできる場所をどうやって見つけたのか。


この疑問は後々に大きな問題になるような・・・そんな不安を感じる霜葉だった。



そんな一幕があったが、海賊団のアジトへ向かう船団は順調そのものだ。大和のおかげで魔物は寄ってこない上に、警戒していた海賊団の見張りも見当たらない。先頭の大型船はもうそろそろ目的地のアジトが見えてくるところだ。


船上では騎士たちが慌ただしく準備をしている。さすがにこの距離で海賊団がこちらに気付いていないとは考えずらい。ならばと戦闘準備をしているところだ。


そんな中、霜葉は甲板の船首にて海賊団アジトを見ているカルネ王女が、険しい顔をしているのが気になった。


「どうかしましたか?」

「・・・静かすぎる。いくら何でもこの距離で我々に気付いていないはずがない。【視力強化】のスキル持ちに確認したが、何の動きもないそうだ」

「それは・・・」

「あまりに異常だ。少々失礼する」


そう言って、カルネ王女は船室へと向かう。船室には短時間だが、距離の離れた同じ魔道具に声を届ける物がある。それを使ってカルネ王女は船同士密集陣形を維持し、ゆっくり慎重にアジトへ向かうよう指示を出す。


そうしてゆっくりと船団が進み、アジトがはっきりと確認できる距離で事態は動いた。最初に気付いたのは周囲警戒をしていた騎士だ。


「か、海賊団の中型船複数確認!!」

「なに!?」

「こ、こちらもです!? 中型船四! 大型船2隻確認!!」


左右を警戒していた騎士からの大声の報告が響く。すかさずカルネ王女は聞き返す。


「なぜ今まで気づかなかった!」

「そ、それが! 海賊船がいきなり海に出現したんです!!」

「なんだと!?」

「こ、こちらも同じです! 岩陰に大きな船影がいきなり姿を現しました!!」


そのような報告が、次々と警戒していた騎士たちから発せられる。そうして船団はいつの間にか海賊団の船に取り囲まれてしまった。訳が分からず、騎士たちはパニックになりかけるが・・・


「うろたえるな!!! 敵がいきなり現れたからと言って我々がすることは何一つ変わらない! まず中型船に対してバリスタを発射! 続いてくる大型船には白兵戦準備! 国の民たちを苦しめたことを後悔させてやるのだ!!」


すぐにカルネ王女が持っていた声を大きくするアイテムを使って、すべての船に聞こえるように高らかと声を上げる。若く未熟と言われても一騎当千の強者に数えられているのは伊達ではなく、パニックしかけた騎士たちはすぐさま落ち着きを取り戻した。


そんな時に状況はさらに動いた。海賊団の大型船の一つから何やら妙な輝きが見えたのだ。そしてその輝きはいきなり大きくなり、すべての船を包み込んでしまった。


「これは・・・結界魔道具か!? なぜ海賊団がこのような貴重品を持っている!?」


結界魔道具とはダンジョンで見つかる魔道具の中では、特に高価なものの一つでそれが発見されれば国が買取に動く。顕密に言えば国ぐらいしか買い取れないほどの価値がある。


一番安価な効果の【結界内の音は結界外に聞こえなくなる】と言う物ですら、最低でも白金貨で取引される代物だ。間違っても海賊団のような犯罪者の手に渡る物ではない。


そして、海賊団の大型船は大砲を放ってきた。海王国側は外海の危険性を考慮して、大砲のような大きな音がする武器は積んでいない。にもかかわらず海賊団が使っているのはその心配がないからだろう。


「そ、総長!? これは!?」

「やはり、先ほどの結界魔道具の効果は結界外への音の遮断か! ことごとく先手を取られるとは!」


海王国が有利と思われたこの討伐戦は、予想に反して海賊団が先手を取る形で始まったのだった。

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