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第四章  第二十一話  海王国編19

霜葉たちは海王国で暴れている海賊団を殲滅する作戦に参加するために海王国首島に来ていた。その時の話し合いで海王国の一騎当千の強者であるカルネ・クロージルとも初対面したが、霜葉たちが作戦に参加するのは反対の様子。


霜葉を軽んじる発言をしたせいで、白夜たちが殺気を放ちその結果で白夜たちの実力が知れたため、作戦には参加することに。


その後に港に出向いた霜葉は、首島に着いた直後から気になっていた港の片隅で座り込んで海を眺める男の子に会いに行くことに。


霜葉自身両親を失う過去を持つ経験から、男の子が自分と同じであると予想していた。実際にその予想は当たっていた。男の子に自分の過去を話して、このままではいけないよと教えた。


すると男の子も自身の身の上を話してくれた。彼のお父さんは海賊団に襲われていた仲間の漁師を守るために犠牲になったと。それを自身の口で言ったことで男の子は現実と向き合うことが出来、やっと大泣きすることが出来た。


夕暮れが沈みかけたころ霜葉とルナはお城に向けて帰っていた。あの後、男の子は泣き終えた直後に霜葉と鈴蘭にお礼を言った。


「ありがとう兄ちゃん・・・やっと自覚できた」

「うん、どういたしまして」

「おまえもありがとう・・・」

「パウ~」


霜葉と話す前から男の子を心配していた鈴蘭は笑顔で鳴き声を上げる。男の子は家に帰り、霜葉も帰ろうとしたところ港に居た人たちから次々とお礼を言われた。


さきほどの男の子はシップといい、その父親はガレオンを言うそうでこの首島では有名人だった。彼らの家は代々漁師をしている家でその中でガレオンは歴代でも実力が抜きんでていた。


それでいて面倒見もよく、港で働く人すべてに慕われていた。冒険者としても国からを依頼を積極的に受けていて、信頼されていた。だから彼の死はかなりの衝撃を与えていたようだ。


そんな父親の死を受け止めきれずにいたシップのことは、港の関係者全員がなんとかしてやりたかったが、これと言ったことが出来ずにいた。せいぜい見守ることくらいだ。


だからこそ、霜葉がやってくれたことに感謝したと言うわけだ。特にガレオンが助けた漁師たちからは深く感謝された。彼らは口々にガレオンに世話になったと言うのに情けないと自分たちを恥じていた。


「だったらこれからあの子を助けたらいいんですよ。僕も両親を亡くしてからはいろいろな人に助けてもらいましたから」


そんな彼らに霜葉はそう言った。これも経験談で霜葉のお爺さんは結構な人脈を持っていて、様々な人とかかわってきた。そのおかげで両親が亡くなった寂しさとは無縁だった。


それを聞いた漁師たちは改めて深々と霜葉に頭を下げた。そんなことがあった帰り道で霜葉はあることを考えていた。


(思っていた以上に海賊団はこの国の人たちを苦しめていたんだな・・・その殲滅作戦に参加することはあの子やそう言う人たちを助ける意味もあるんだ)


その海賊団を野放しにするのは、さらに誰かを不幸にし誰かの命を奪われることを意味している。今回の依頼はそう言う意味合いがあることを霜葉は重く受け止めていた。



それからの霜葉たちは孤児院や港で過ごした。海賊団討伐のための準備がまだ済んでいないためだ。そのため霜葉は自分たちが出来ることをしていると言うわけだ。


もちろん、霜葉たちにも海賊団討伐に向けての準備はある。特に霜葉たちの能力や戦力を知るための、模擬戦などは国の騎士団の予定が空けば優先されていた。


その模擬戦で霜葉たちの能力の優秀さは知れ渡るのだが、カルネ・クロージルだけは何やら様子が違うようだ。最初の出会いで霜葉を軽んじる発言をしたのでバツが悪いのかもしれない。


それ以外の時間は孤児院で子供たちと過ごしたり、港の作業を手伝っていた。港の作業ではシップも協力していた。今まで何もしなかった以上頑張りたいと言っていた。


その時に霜葉たちとは改めて自己紹介をして、白夜たちとも仲良くなった。特に鈴蘭と武蔵が懐いていた。現在も漁師たちが獲ってきた魚を捌きながら二人は話をしている。


「ソウハにいちゃんすごいなぁ~こんな強そうな魔物を連れて、アーケロンまで仲間にして」

「クォン」

「ガァル」

「ホ~」


シップが魚を捌いている左右には白夜と十六夜が陣取っている。二人も港作業の手伝いで白夜は魔法術で氷を生成。十六夜はたまに暴れる大型魚を大人しくさせるため。


ルナだけはすることがないので邪魔にならないところに居るが、そんな三人の視線を受けながらシップと霜葉は手際よく魚を捌いたり、貝を開けたりしていた。


「ありがとう。シップもいい手際だね? その年でそれだけできるのは大したもんだよ」

「慣れてるから。結構前から手伝ってたし」


話し合いながら手は止めずリズムよく作業をこなす二人。


「あっちの子熊三匹と見たことない五匹はかわいいよね。あんなことになるのもわかる」


そう言うシップの視線の先では新月たちと金剛一家が、子供たちや女性たちに可愛がられていた。新月だけはスキンシップが嫌いなので眺めるだけではあるが。


その他の子らは抱っこされたり頭を撫でられたりとやる方もされる方もニコニコだ。無月は寝てるけど。


「あちらは賑わっているけどね・・・」


そう言って霜葉は首島全体の雰囲気を気にした。活気のかの字もないほどの沈んだ雰囲気なのだ。港も仕事はしているが、港の人も買い物客も元気がない。


「海賊団が暴れだしたころから首島の周りは被害が大きかったんだ・・・父さんが死んだ時はショックも大きかったし・・・」


シップは気持ちを沈めながら説明してくれた。やはり、海賊団の影響は大きいと言うことだろう。その後は今日の分の仕事を終わらせてシップと港の人たちに別れを告げた。



後日。霜葉たちは城の裏手にある訓練場に来ていた。騎士団の予定が空いたので霜葉たちとの模擬戦をするためだ。霜葉たちの能力は知れたのだが、新月たちと金剛一家との模擬戦が騎士たちに好評で時間があれば頼まれるのだ。


今も騎士たちが集まりだしたが、海王国の騎士団は他国とは事情が異なる。騎士甲冑のようなフルプレートを装備している者が皆無なのだ。せいぜいが革と甲殻素材を使った軽鎧で半分くらいは動きやすさ重視で胸当てを装備している。


海王国では船での戦闘が多いので重すぎるフルプレートは需要がないのだ。そのため、鎧に関しては軽鎧がせいぜいでそれも軽さを重視して、カニなどの甲殻素材を使った軽量型だ。


そう言う防御を考えている騎士は半分で、もう半分は動きやすさを重視して胸当てなどを装備している。船の上で戦うことを考えると動き回れる装備をした遊撃を担当する者もいたほうがいいとのこと。


騎士たちが集まり終わるころにカルネ・クロージルも訓練場にやってきた。外で彼女を改めて見るとかなりの美人であることが分かる。濃い紫色をした長髪はポニーテールにしているが、顔は小さめできりっとした両目がよく似合う。体系も健康的なアスリートと言うべきスレンダーで、程よい大きさの胸がある。


そんな彼女だが、霜葉たちを見つけると彼らの前へとやって来て・・・


「ソウハ・・・今日は私と模擬戦をやってほしい」


突然の提案をしてきた。


「え~と・・・私では役不足では?」

「無論、魔物たち全員とだ。ぜひ頼む」


そう言って深々と頭を下げるカルネ王女。周りは突然の事態に困惑しているようだが、あとから来た副長であるオートスは慌てていないので理由は知っているのだろう。



そんなこんながあり、霜葉はその提案を承諾。白夜たちと一緒にカルネ王女と相対している。カルネ王女は革製の胸当てやグローブにブーツなどを装備した動きやすさ重視の装いだ。武器はカットラスと言う海賊映画なのでおなじみの武器。


そんな中で霜葉たちはと言うと、白夜と十六夜にルナが何やらやる気満々である。どうも初対面の時にカルネ王女が霜葉を侮辱したことをいまだに忘れていない様子だ。懲らしめてやると雰囲気で丸わかりである。


ともあれ、現在の最大戦力である三人がやる気ならと、霜葉と新月たちに金剛一家は彼らをサポートするために作戦を話し合うことに。そして・・・


「ではこれより・・・カルネ総長とソウハ殿たちによる模擬戦を開始します。勝敗の有無は攻撃がクリーンヒットすれば負け、ソウハ殿に限れば魔物たちが攻撃を受けた場合は模擬戦から離脱とします」


審判役を買って出たオートスが宣言する。これに対して双方ともに合意するために返事をする。


「勝敗が明らかと私が判断した場合は即終了です。では・・・・始め!!」


模擬戦が始まると同時にカルネ王女は霜葉へと駆け出す。その速さはなかなかだが、霜葉たちも負けてはいない。


「【フルカース】」

「く!?」


まずは霜葉が先制した。カルネ王女にデバブ効果の【フルカース】を掛ける。突如として身体能力が落ちたカルネ王女はバランスを崩しそうになるが、なんとか立て直してその場に止まる。そのままどのくらい身体能力が落ちたのか確認しようとしたようだが・・・


「クォン!」

「ガァル!」


白夜と十六夜が一瞬でカルネ王女の眼前へと迫った。迎撃は無理と判断し、避けようとするが・・・


「ちぃ!」


身体能力が下がった状態ではぎりぎりで避けるのがやっとだった。さらに状況は霜葉たち有利に進む。


「なぁ!?」


カルネ王女の後ろに下げた左足が地面へと沈んだのだ。さらにそのタイミングで金剛と黒玉と黄玉が囲むように地面から出てくる。しかも沈んだ左足が重く動かない。地面の中で天青と天藍が拘束しているのだ。


さすがに避けるのは無理と判断し、迎撃するためにカットラスを構えるが・・・


「ホー!!」

「あた!?」


上空から急降下したルナにより頭突きを喰らわされ、この模擬戦は終了となった。



「ホー!」

「クォン♪」

「ガァル♪」


模擬戦に勝利して白夜たちは上機嫌だ。一方の霜葉とカルネ王女はと言えば・・・


「完敗だ。初対面での言葉を謝らせてくれ。申し訳なかった」


そう言って深々と頭を下げるカルネ王女。


「謝罪はお受けします。でも模擬戦の結果は僕たちに有利でしたから。船の上で戦えば違う結果になると思います」


そう言う霜葉だが、その理由はカルネ王女のジョブにある。カルネ王女のジョブは【大船長】で船上での戦闘に補正を与え、乗っている船や船員などにバフをもたらすジョブ。陸地での戦闘はメリットがないと言っていい。


「それでも負けは負け。ソウハ殿たちの実力を見くびっていた私のミスだ・・・まったく、ダイダル先生からも決めつけるなと言われていたのにな・・・」


カルネ王女の口から先代の一騎当千の猛者であるダイダル・シューツワットの名が出た。先生呼びが気になった霜葉はそれを尋ねると、詳しく聞かせてもらった。


ダイダル氏が存命だったころ、カルネ王女は幼少のころから船などを遊び場にしており、よく騎士や船員たちを困らせていた。もっともそれは子供の遊びレベルでカルネ王女も自分が悪いと感じた時は素直に謝っていたので、皆からは好意的に受け入れられていた。


そんな日々で自然と海軍総大将のダイダル氏とも交流の機会は多かった。ダイダル氏が上の立場にかかわらず、部下たちの声を聴くために港に顔を出していたのも大きかっただろう。


その交流の中でダイダル氏はカルネ王女の才能を感じていたのだろう。カルネ王女が10歳の時に教育係を買って出たのだ。もちろんこれには誰も反対などしなかった。


カルネ王女ももともと交流のあった人物なので、不満も反対もなく受け入れた。ダイダル氏から勉強や訓練を受け、時に辛く厳しいこともありながらカルネ王女は成長を続けた。その過程でダイダル氏のことを先生呼びになったとか。


そんな折にダイダル氏に異変が起きた。体調不良を感じることが頻発したのだ。すぐにダイダル氏は医者に診てもらうことに。その結果は・・・


「残念ですが・・・すでに手遅れです」


そう医者に言わた。ダイダル氏の体は病に蝕まれ、もう残りの命も少ないとわかってしまったのだ。その結果を聞いた国王はダイダル氏に望むことはないかと問うた。これまで国に尽くしてくれた者に少しでも恩を返せないかと。


「ならば・・・今まで通りの生活を望みます」


ダイダル氏は特別なことは望まず、今まで通り国に尽くすことを選択。カルネ王女の教育係も続けたいと。国王は感謝の言葉を口にした。


それからのダイダル氏は変わらずに生活を続けた。焦ることもなく生き急ぐこともなく自分の命尽きるまで国のため、そして自分に変わり強者になる可能性を秘めたカルネ王女に持てるすべてを教えるために。


残念ながら、そのすべてを教えることが出来ずにダイダル氏は逝かれてしまった。それでもダイダル氏は笑顔で眠りについたそうだ。たくさんの人々が自分の死を悲しんでくれる。それはこの上なく幸せだと最後に言葉にして。


「その後のダイダル先生の葬儀には国のすべての貴族が参列し、先生のお墓には今も民からの花などが手向けられている」

「ほんとうに、すごい人だったんですね」

「ああ・・・だからこそ先生の教えをすべて教われなかったことが悔しい。もっと早い段階から私の方から頼んでいれば、そう考えてしまうよ」


そう言ってカルネ王女は空を見上げる。もしかしたら泣きそうになっているのかもしれないが、確かめる様なことは霜葉はしなかった。


このようなことがあり、カルネ王女も霜葉たちへの態度を改めて、海賊団討伐について進めていきとうとう作戦決行の日が近づいてきた。

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