第四章 第十八話 海王国編16
大和の初めての進化を経験して、その能力を把握することにした翌日。早々に霜葉たちは海岸で狩りをしていた。進化した大和の初実戦だ。その様子は圧巻だった。
あいも変わらず大和に攻撃を集中させるファングシャークだが、大和が進化したことで防御能力が上がりまともにダメージを与えられない。
しかも、大和は今までのお返しとばかりに噛みついたり、体当たりを繰り出す。この行為にファングシャークは混乱する。そしてそんな隙を仲間たちは見逃さない。
【結界魔法術】で体を包んだ武蔵たちがそのスピードを生かしてファングシャークに体当たりを仕掛ける。すると面白いように相手が吹き飛ぶ。そんな相手に追撃をするガーベラ達とリビュア達。
そんな戦闘が終わるのに時間はかからなかった。昨日と同じようにファングシャークの素材が砂浜に山となる。
『わ~い! ぼく強くなったよ!』
『おかげで楽だったんだぞ!』
『すごいですね! 大和殿の【結界魔法術】は!』
『ああ、おかげでアタシたちはケガすらなかったよ』
今まで苦労して倒した相手に完勝したことで、大和たちは大喜びだ。
「みんな強くなったね。僕も嬉しいよ」
『『『えへへ♪』』』
『ありがとうございます。これもすべて主殿のおかげです』
『ああ、大将のおかげさね。これからも慢心せずに大将の力になるよ!』
『『『おお~!』』』
リビュアの言葉に大和たちだけでなく、全員が頷いたり声を上げる。霜葉は調子に乗るようなら釘でも刺そうかと考えていたが、この様子なら大丈夫と判断した。
その後は、大和たちを【箱庭世界】へと戻して島の中の狩りへと出かけた。その狩りでは大和たちに触発されて、士気が異様に高く上がり成果を上げた。
そして、その日の夕食時に霜葉たちは今後の話し合いをすることに。ダンジョン探索に付いては素材や木々が十分に集まったのでそろそろ帰ることを考えている。
「リビュア達の戦いもあることだし、そろそろダンジョンから出ようと思うんだけど?」
『そうですな。テンタクルスとの戦いのことを考えるとちょうどいい頃合いかと』
本音を言えばそろそろ白夜と十六夜も進化するのでもっと下を目指したい霜葉だが、予定していた期間を過ぎてしまう。今回は進化を諦めるしかないようだ。
「ごめんね? 二人とも」
『大丈夫だよ!』
『はい。進化はいつでもできます』
霜葉は白夜と十六夜に謝るが、二人は気にするなと言い霜葉にじゃれつく。その後はテンタクルスとの戦い方を相談して、旅をしている間はリビュア達は【箱庭世界】で待機することを決めて今日は就寝することに。
翌日。朝飯を済ませた霜葉たちはダンジョンを出るために出発する。現在は8階層に居るため今日一日で半分くらいは進みたいと考えている。
ダンジョンの階段には霜葉の【方向感覚】のおかげで道が分かるが、その道中で少なくない魔物と出会うので多少は時間がかかる。
何とか日が沈むまでには4階層へと辿り着き。今日のところは休むことに。その翌日。霜葉たちはお昼にはダンジョンを出ることが出来た。さすがに浅い階層では魔物の妨害は脅威にならなかった。
ただ、この日は早々に【箱庭世界】で休むことに。その前に白夜と十六夜に話しかける。
「二人とも、この島の周りに何か居るかな?」
『かすかだけど深い場所に居るみたい?』
『私もほんの少ししか聞こえませんが・・・』
霜葉たちの旅での探査役である二人の能力でもテンタクルスの存在はかすかに感じ取れる程度のようだ。
『イカやタコのような軟体系の魔物は狡猾な狩人ですからな。獲物以外は狙わずしつこいのです』
「あれから何日も経っているのに? 執念深いにもほどがあるね・・・」
ガウェインからそのようなことを言われた。どうやらリビュア達を完全にターゲットにしているようで、それ以外は眼中にないようだ。とりあえず【箱庭世界】に入って作戦会議だ。
もっとも。すでに実力的にはテンタクルスより上なので、油断さえしなければ勝てる。後は逃がさないようにするために打ち合わせを入念に話し合い実戦だ。
まずはリビュア達がリトルラミアの姿で海に出る。囮として。テンタクルスはリビュア達を獲物としているので彼女たちが海に出れば、姿を現すだろうと判断した。
その狙いは的中し、リビュア達の目の前の海からイカたちが姿を現した。その外見は細長いイカで地球で言うとアオリイカに近い。テンタクルスたちはかなりの数が居て、真っ先に現れたイカはすぐさまリビュア達に襲い掛かるが・・・
長い触腕は見えない壁に阻まれ攻撃が届かない。リビュア達には【結界魔法術】によって守られている。攻撃が届かないことにテンタクルスたちは驚く。その間にも状況は動く。
そのテンタクルスたちの後方に大和が【箱庭世界】から出てくる。さらにはその甲羅のお城には弓を構えている北斗たちが居る。突然のキャッスルアーケロンの出現に混乱するテンタクルスたち。
その間に、リビュア達は姿をサーペントラミアに戻る。彼女たちには【退化】スキルはなかったが、どうも【人化】スキルは【退化】スキルの効果もあることが判明したのでこういうことが可能なのだ。
そして、武蔵やガーベラたちも【箱庭世界】から出てきてガーベラたちがリビュア達にそれぞれの武器を渡して反撃開始。まずは先制攻撃として最初の攻撃を防がれたテンタクルスをリビュア達が仕留める。
その後は蹂躙戦と言ってもいい様子だった。サーペントラミアとなったリビュア達はテンタクルスたちを圧倒した。攻撃されても躱され、たとえ躱されなくとも大和の【結界魔法術】で攻撃が防がれる。
勝てないと判断して逃げ出そうとする個体も、大和や北斗たちを無視することはできずに彼らに仕留められる。彼らから離れようにもルナがそれを許さない。
左右には武蔵たちやガーベラたちに島に近い位置にはカイロスたちまで居るのだから、テンタクルスたちには戦う以外の選択肢はないのだ。
それから島の砂浜にテンタクルスの亡骸が山となるのに数分かかった。これにはテンタクルスを攻撃していたのが、リビュア達しかいなかったためだ。他の仲間たちは逃げ出そうとした個体を仕留める程度だ。この戦いは彼女たちの敵討ちだから。
そんなリビュア達は現在自分たちの戦果にただ無言だ。じっとテンタクルスの亡骸を見つめて、一人が泣きだしたことを皮切りに全員が涙を浮かべる。それはリビュアも例外ではない。やがて泣き止む頃合いで霜葉と仲間たちは彼女たちに話しかけた。
「敵討ちできてよかったね」
『ああ・・・大将。ありがとうね』
リビュアの感謝は敵討ち以外でも、涙を流す時間をくれたことに関しても含まれている。
『ありがとう! 敵を討てたのは大将と仲間のおかげだ!』
『みんなに出会えなければ、どうなっていたか・・・』
『これから先もあたしたちは大将や仲間を助けるよ!』
リビュアの仲間たちも霜葉や仲間たちにお礼を口にする。その日の残り時間は彼女たちの敵討ちを祝福するためと、彼女たちを救うため犠牲になった仲間を冥福を祈るために費やした。
その翌日。早朝の時間帯に霜葉たちはアーシア子爵の島へと向かうため海を進んでいた。大和の姿はアーケロンでだ。さすがにキャッスルアーケロンのままではまずいので。その説明を大和は理解していないようだが、霜葉のお願いは素直に従っている。
昨日はテンタクルスの解体や調理に、その後の宴ではリビュア達が大いに騒いでいた。なお、テンタクルスの素材は食料になる身と墨。後は地球ではイカとんびなどと呼ばれる堅いくちばしのような部位だ。(地球では珍味扱い)
テンタクルスは32体ほどいたが、その半数である16体はまだ解体していない。リビュア達から霜葉に好きに使ってほしいと言われたので、冒険者ギルドで買い取ってもらうことにした。
もっとも霜葉は買取りに出すのは6体ほどで、残りは召喚者のお土産にするつもりのようだ。と言うのも昨日の調理したテンタクルスの身がおいしかったから。醤油や味噌に近い調味料で味付けしたイカ料理はかなりの美味であり、懐かしさもあったようで。
なお、そう感じたのは霜葉だけでなく白夜と十六夜もかなり気に入ったようだ。今現在も霜葉に焼いてもらったテンタクルスの触腕を噛んで味わっている。
「二人もかなり気に入ったみたいだね?」
『うん! おいしいし噛み応えがあるよ!』
『味もおいしいですし、食感がいいです』
そう言う二人の大きな口からはみ出ているテンタクルスの触腕は、白夜と十六夜によってニコニコ顔で噛み噛みされていたりする。
そんな合間に島が見えて、朝の時間帯に辿り着けた。港では大勢の島民が霜葉たちを歓迎してくれた。漁師などは霜葉と大和が帰ってくれたことに喜び、急いで漁に出たほどだ。
ただ、気になる点が一つ。白夜と十六夜を見た島民たちが一様に驚いているのだ。子供とその親が一番わかりやすく、白夜と十六夜に近寄ろうとする子供たちを親が止めて、子供が文句を言おうとすると親があれを見ろと指差しと子供が驚き親の後ろに隠れる。
「あの、皆さんどうかしましたか? 白夜と十六夜になにか?」
「ああ、いや・・・信じられないもの食べてるなって・・・」
どうやら島民たちは二人が食べている物に驚いているようだ。どうもイカを食べ物だと認識していない様子。カニは人気はないが食べられていたが、イカのような軟体系は食べられてすらいないようだ。
「もったいない。おいしいのに・・・・」
「「「「ソウハも食べたのか!?」」」」
「もちろん。まだあるので後でご馳走しますよ?」
「えええ?」
「いや・・・それはちょっと・・・」
子供や女性だけでなく、たくましい男衆ですら二の足を踏んでいる。なんかシュールな状況である。
とにかくまずは冒険者ギルドへ向かう霜葉たち。その道中でも白夜と十六夜の食べている物に驚かれる。それは冒険者ギルドでも例外ではなく・・・
「え!? あの魔物たち何喰ってんだ!?」
「マジかよ!?」
「良く食えるな・・・」
さすがに騒ぎすぎるので冒険者ギルドに入ってから、霜葉は二人にさっさと食べきってもらうことに。食感を楽しんでいた二人は残念そうだった。
「どうも。帰ってきました」
「お、おかえりなさいソウハさん。スゴイの食べてましたね・・・」
受付嬢ですら、信じられないものを見たと言う反応だ。そんな反応をされている白夜と十六夜はそろって首を傾げた。おいしいのにって感じだ。
とにかく依頼を達成したとして、報告をして確認のためにと解体場へと向かうことに。なお、テンタクルスも6体ほどいるので買取りをお願いしたら、微妙な顔をされた。
「イカの魔物って需要がないんですか?」
「そんなことはありませんよ? 墨は薬効があるので貴重ですし、クチバシも武器素材としてわが国では重宝されております。ただ・・・それ以上に身が取れるので、処分に困るんですよ」
「もったいない・・・」
「え?」
解体場に向かう道中の会話だ。解体場に来たらさっそく依頼の品を順番に出そうとした霜葉だが、ギルドマスターであるバートが来るまで待ってもらうように言われた。その直後にバートはやってきたが。
「ソウハ! 依頼ご苦労様だ! 依頼の成果はどんなもんだ?」
「では、今から出します。最初は伐採した木々を」
そう言うことになり、まずは集めた木々を順番に出す。最終的に18本を提出。
「おお~! だいぶ伐採したようだな! これだけのダンジョン産の木材はそうそうお目にかかれんぞ!」
バートは予想以上の数に大喜びだ。もっとも霜葉はこれでも多いのかと内心驚いている。【アイテムボックス・極】の中にはまだまだ大量の木々があるので。カイロスたちやガウェインが張り切って集めてくれたので。
「次は1階層から3階層の魔物素材を出しますね」
「頼む」
木々は屈強な男のギルド職員たちが倉庫へと持っていき、霜葉は魔物素材を出してゆく。1階層から3階層の魔物素材はアンバーウルフとブルーシザーの素材。
ウルフ系の魔物素材は海王国では貴重であり、いろいろ需要がある。ブルーシザーの魔物素材は防具に最適で、軍船の装甲などにも使われる。それらの素材が山盛りで解体場にあるのはここ最近ではなかったことだ。
「おお~、ここまでとは。すさまじいな」
「買取りでいいですか?」
「もちろんだ!」
それからどんどんと話は進んでゆき、4階層から6階層の素材であるホワイトウルフとアイアンクラブにソードフィッシュの素材は霜葉が持っている半分を買取りに。
7階層と8階層の魔物素材であるシルバーウルフとスティールクラブにファングシャークの素材はスティールクラブの素材を多めに買取りで。残りの素材はほどほどに買取り。
「スティールクラブの方が需要があるんですか?」
「そうだな。冒険者よりも領主や国の騎士団に需要がある。それと軍船の装甲としてはコストがすぐれているからな。これ以上の素材もあるにはあるが、めったに手に入らんしな」
シルバーウルフの皮は高級品として交易品で人気があるらしく、ファングシャークの素材は戦闘用以外でも利用価値が高い。
「あとテンタクルスを6体ほど解体したいんですが」
「むう・・・・」
「買取りは難しいですか?」
「それもあるが・・・とれる素材よりもその身が多くてな? 処分に困るんだ」
「おいしいから食べればいいのに・・・・」
「「「「「え!?」」」」」
この霜葉の言葉にこの場に居た霜葉以外の人が驚いた。
「ソ、ソウハ!? テンタクルスを食べたのか!?」
「はい。僕の故郷では普通に食べますが?」
「・・・・旨いのか?」
「はい。酒好きな人にはおつまみとしても人気ですね」
言っている途中でどうせならばお昼としてご馳走しようと考えた霜葉。さっそく考えを実行するためにテンタクルスを解体する。
解体を済ませた霜葉たちは港へと引き返して、港で働く人たちにこれからやることの許可といい道具がないか確認したところ、大きな鉄板があったので鉄板焼きの準備をしているところである。
最初は驚いて大丈夫かと心配していた島民たちだが、テンタクルスが受け入れられないときは霜葉たちが消費すると言うので許可を出してくれた。
やることがやることなのでなのか、霜葉の準備を見ている島民は少数だった。一方、白夜に十六夜やルナと武蔵たちにガーベラたちは楽し気です。この子達はイカを喜んで食べるので。
まず霜葉はシンプルに醤油焼きや味噌焼きを作り、白夜たちにふるまうことに。大きさをそれぞれに適した形に切って大胆に焼く。
表面が固まってきた頃合いで醤油や味噌を塗りさらに焼いて行く。するとイカと調味料の焼けた香ばしい香りが食欲を刺激する。それは霜葉たちだけではなく・・・
「なんだこの香りは・・・!?」
「醤油や味噌の香りだけじゃない?」
「やっべ・・・腹が減る・・・」
いい香りが否応もなく腹を刺激して、だんだんと見物人が増えてきた。
「試食したい人が居るなら提供しますよ?」
「・・・もらえるか?」
「はい。少々お待ちを」
我慢できなくなり、見物人の一人が食べてみることに。周りは驚いているが、この香りでは見たいな納得もある。さすがに彼一人だけではあるが。
やがて、出来上がったイカの醤油焼きを霜葉たちはおいしくいただいている。霜葉から皿を渡された島民も恐る恐ると言う感じで口に運び一気に噛みつく。
「! うま!?」
「「「マジか・・・」」」
「ど、どんな味なんだ?」
「旨味が強い! それが醤油の焼けた香ばしさと旨さと相まってうまい! こりゃー酒が欲しくなるぜ!」
そのまま彼はさきほどの恐る恐るの様子をから一転、むさぼるように食べだして至福の表情を浮かべる。これに興味を惹かれて次々に霜葉に食べてみたいと声が掛かる。
その数時間で、この場でお祭りのようにテンタクルスを食べ始める島民たちでにぎわった。中にはお酒片手にテンタクルスを食べる者たちも。やはりイカはおつまみとして異世界でも受け入れられた。
続きは未定です。




