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赤いふるさと  作者: Mikoto
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壱の思い出

私は誰もいないバスに乗って揺られていた。

実家に帰るのは大学にはいってからはじめてだった。


人には視覚、嗅覚、聴覚、味覚、感覚の五感が備わっている。でも稀に、そこに第六感というものが存在することがある。第六感でよく言われるのは幽霊が見える、と言うものだろうか。でも別に幽霊でなくとも、五感以外に感じる何かがあればそれは第六感と言えるのではないか。私には、特に心が通い合う相手と同一化することがあった。それも、相手が辛いと思っている時にだけ。私には兄がいた。兄は不幸な交通事故に巻き込まれてなくなったが、その時同一化したことは今もとてもよく覚えている。兄の苦しみ、痛み。でも兄が死ぬ間際に私を強く想ってくれたからこその同一化だった。そのことだけが私の気を少し軽くしてくれた。今度の帰省も母が倒れる瞬間に同一化したことだった。母が心配だった。


バスの終点から村まではまだかなりの距離があった。こんな山の奥地にまさか村があるなんて、あのバスの運転手でさえも知らないだろう。

私の生まれ育った村は不思議な場所だ。山奥にありすぎるがゆえに、独特の発達をしている。村の人も人数は少ないないが、あの村を出たいとは誰も思っていないみたいだった。それこそ、よその学校に行くために村を出る若者もいたけれど、結局は村に帰ってきて村で暮らすのだ。

山道を一時間も歩いただろうか。この時期ならではの真っ赤な紅葉が村を取り囲んでいる。濃く渋い赤色。

私は大きな谷に吊り下げられたつり橋を渡り村へと入った。なんとも不思議な気持ちになる風景だ。

一見、普通の田園風景かと思う。でもその田園風景の中に、まるで安い合成写真のように、小さなビルや家がポツポツと建っている。存在感も紅葉の木の方があるのである。


私はまず、自分の家の前に立って唖然とした。

木造の趣のある2階建ての家はすっかり変わり果て、正直品が良いとは言えないスナックバーができていた。ちょうど中から出てきたのはお義姉さんだった。

「お義姉さん、こんにちは」

「あら、もう来たの?」

お義姉さんのそのじっとりした目付きが私は好きではない。

「あの、これは……?」

「あぁ、お義母さんが家を出るっていうからスナックにしたのよ。2階は泊まれるようになってるから勝手に使って」

「あの、母は?どこにいるんですか?」

「奥地の老人ホームよ。老人ホームから連絡もらったんじゃないの?」

「えぇ、まぁ……」

「変な子ね。まぁ、勝手にしていってちょうだい」

勝手にしていってもなにも、ここはもともと私の家だったのだ。私は黙って2階に上がり、懐かしい私の部屋に荷物を置いて、さっさと家を出た。

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