赤ずきん
新キャラ登場!
「おい、起きろ、ベル」
ハンスは、ベルの傍らに膝をつき、呼びかける。
「うう…、ハンス?」
ベルは起き上がり、辺りを見回す。
「ここは、どこなの?」
「わからない。起きたらここにいた」
ハンスは首を振る。すると、
「…!ヒース、ヒースはどこ?」
なんと、一緒にこっちにきたはずのヒースがいないのだ。
「ど、どこいっちゃったの?」
ベルはハンスの服の袖をつかむと、
「ハンス、どうしよう」
「とりあえず、ヒースを探してみよう。このままじっとしてるわけにはいかないからな」
ベルは、こくん、と頷いた。
長い大理石の廊下を歩いていくと、ある扉から、フワッとお菓子のにおいが流れてくる。そっと扉を開けると、美味しそうなお菓子がのったテーブルがあった。すると、
「だれかいるの…?」
と、声が聞こえた。
(ど、どうしよう。だれかいたんだ。ハンス…!)
コツコツと響く、だれかの足音。こわばるハンスとベル。
「あなた達は、だれ?」
(み、見つかっちゃった…!)
「お前は、だれだ」
ハンスが聞き返す。
「私はブランシェ。あなた達、どうしてここにいるの?ここは、私の夢の中よ。だれもいないはずよ」
「ここ、夢の中なの?」
「その通りよ。あなたは?」
ハンスとベルは顔を見合わせると、
「私は、ベル。ベルリーナ。ベルは愛称なの。」
「俺はヨハネス…ハンスでいい。」
「そう。あなた、変わった顔をしてるのね」
「…っ」
ブランシェはベルをまじまじとみつめる。ベルは、ハンスの後ろに隠れた。
「夢の中とは、どういう事だ」
ブランシェは、長い銀髪をくるくると指でいじりながら、
「私が聞きたいくらいよ。あなた達は、どうしてここに来れたの?」
「わからないの。ヒースについていったら、ここに」
「ヒース?まだ仲間がいるの?」
ブランシェは、目を細めてベルを見た。
「ひ、ヒースは、ぬいぐるみなの。突然動き出して…あなた、黒い兎のぬいぐるみを見なかった?」
ブランシェは、きょとんとした顔をすると、ケラケラと笑い出した。
「あははははは!!ぬいぐるみが動き出すだなんて、随分ぶっ飛んだ作り話じゃない!」
「つ、作り話なんかじゃ…!」
「まあいいわ。私の夢にあなた達がいられるのはめんどうだし、脱出の手伝いをしてあげる。ちょうど暇つぶしが欲しかったし。」
にっこりとブランシェが笑う。ハンスは、警戒するような目でブランシェを見ると、ベルに服のはしをにぎらせて、ブランシェのあとをついていった。
「この夢の世界のどこかに、赤ずきんがいるわ。」
「赤ずきん?」
「グリム童話の、赤いずきんを被った女の子。だけど、この夢の世界にいる赤ずきんはちがうわ。長い金髪に、赤い瞳。真っ赤なずきんを被った、美しい女の人なの。」
「赤い瞳…」
ベルが目線を下に下ろす。
「そう。あなたと同じような、赤い瞳よ、お嬢ちゃん。でも、赤ずきんの目は、もっと毒どくしい、血のように真っ赤な目だったわ。」
「お前は、赤ずきんとやらにあったことはあるのか?」
「あるわ。この世界に来た時に。赤ずきんは、ここは私の悪夢の世界だと言ったわ。私は、信じてなかったけどね」
ブランシェは、フッと振り返ると、にっこりと笑った。
「そして、私はずっとこの世界に閉じ込められている。だれもいないし、何もない。本当に、夢の中なんだって、思ったの。」
「寂しくなかったの?」
ベルがたずねると、ブランシェは、
「寂しくなんかなかったわ。むしろ清々しかった。お母様は死んでしまったし、お父様は家のことばっかりだったし。私が11歳の時なんか、35歳のおじさんと結婚させようとしたのだから。政略結婚ってやつ。だれもいないし、誰も何も言わないこの世界、最高だった。あの時まではね。」
「あの時まで?」
「ここは、夢の世界。帰りたいとか、死にたいとか、そういう願い事以外は、叶うようになっている。だから、私はある日、願ってみたの。暇つぶしが欲しいと。」
ブランシェは、真剣な表情で、廊下の先を見つめた。
「そうしたら、赤ずきんに、鬼ごっこをしようと言われたの。12月31日の、深夜12時までに、私のことを捕まえられたら、あなたの勝ち。何でも好きなようにこの空間をいじれる本をあげる。ただし、私のことを捕まえられなかったら、あなたをもとの世界へ戻すわよって。」
ベルとハンスは顔を見合わせた。
「さてと、ちょっとお話しすぎちゃったわね!さあ、ついたわよ!」
ブランシェが扉を開ける。すると、
「鬼ごっこの続きをしにきたの?」
そう、くすくす笑う、赤いずきんを被った女の人が、後ろから話しかけてきた…。
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