バレンタイン編
とある男子は思う。
「なぜチョコを貰えないのだろう」
とある女子は思う。
「なんでチョコを手渡し出来ないんだろう。」
1月14日
「おっはー!夏樹!」
「あ、おはよう柚香」
「なつきぃ…あんたさぁ今年こそはチョコ作るよね?」
「作らない」
「まさかのキッパリ断言!」
「私が作ったところで誰も食べやしないしそもそも渡す相手がいない。」
「いるじゃんここに!」
「なんで柚香に渡さなきゃいけないのよ。」
「友チョコってやつだよ!私は毎年みんなで渡しあいっこしてるよ!」
「それは知ってるけど…なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ。」
「私が欲しいから!」
柚香がテヘッと舌を出してウインクする。あぁ、面倒
「いくら親友の柚香が欲しいって言っても私はあげないし作らない。」
「分からず屋だな〜夏樹は」
「というか何でもう一ヶ月先の話してんの、今は今。という訳でそろそろ私帰るわ。」
「あ!拓海くん!」
「えっ!どこ?」
「うっそー!」
「………あのねぇ」
「そんなにたくみんが好きならあげればいいじゃん」
「いや…それは…」
言葉が詰まる。
「と、とりあえず私帰るね!」
夏樹はその場を嫌がり、逃げる様にして帰っていった。
「ほんとは好きだよ…」
昇降口でローファーを出して履こうとしていると
「誰のことが?」
「たく…えっ…」
振り返った先に拓海くん。
「たく?」
拓海が首を傾げる。
「な、なんでもない!」
そう言ってまた逃げる様に帰ろうとすると
「夏樹!俺にチョコくれよ!」
と拓海が声をかけた。
夏樹は振り返って
「アンタになんか作らないんだから!」
と思いっきりツンデレが言いそうな(というか言ってる)言葉を投げ捨てて走って去っていった。
「ほんとにくれるかな…」
拓海はそれだけが心配だった。
「はー危ない危ない。」
夏樹は胸をなでおろしながら帰路につく。
撫で下ろすくらいしかない胸だが…
家に帰り、自分用のPCの電源を付ける。
「チョコね…」
一言呟いた。PCが立ち上がるまで少々時間がかかるためか、スマホに手を伸ばす。
LINEの通知が2件
まず1件目はお母さんから
『弟の野球の手伝いに行ってるからご飯先に食べてて!』
といういつも通りの言葉。
確かにご飯のいい匂いがしている。
そして2件目、これは柚香からだった。
『チョコ作るために検索かけといたから!』
というメッセージの下に、どこのか分からないURLが貼ってあった。
柚香から送られているので、「まあいっか」とそのURLを押した。
そのページとは…
クックパッドだった。
様々なチョコのレシピがあり、どれもひと工夫入れられていて凝っているものだった。
その中で1つ、輝いているものがあった。
それは…
『本物の板チョコ』
別に輝いてはいないが、キラキラした名前のレシピの中でただ一つだけ、シンプルな名前だった。
夏樹は気になってそのページを開く。
そこで思った。
「なんで私作ろうとしてるんだろう…というかこの板チョコ本当に板だ…」
その板チョコは、店に売ってあるような凹凸のついたものではなく、真っ平らな何も模様がないチョコだった。
そのチョコのレシピの最後に
「この平らな部分にメッセージを書いたりするといいですよ!」
というアドバイスも付いていた。
夏樹は
「あぁ、これだ!」
ついに夏樹の心に火がついた。
次の日
「おっはー!夏樹!昨日のどうだった?」
「うん、参考になった。」
単調な返事をする。
「参考になったならよかった!でもさ、一つダメなのあったよね」
「どんなの?」
「本物の板チョコ?だったっけ」
夏樹がビクッと反応してしまう。
「ま、まさか…夏樹、あんた本物の板チョコにしたとか言わないよね?」
「そ、そ、その…」
「あ〜あ、こりゃダメだ。」
「何がよ」
「夏樹は1人じゃ出来ないってこと。」
「そ、そんな事ない!」
机を叩き、立ち上がる。
「あっ……」
クラス中の視線が集まる。
いろんなところから「委員長どうしたんだろ…」「普段はおとなしいのに…」と、小さい声で話している。
丸聞こえだが。
「す、すみません…」
夏樹はそう言って再び席につく。
「じゃあさ、みんなで作ろ?そっちの方が楽しいし教えてもらえるよ?」
柚香はこういう時よく機転が利く。
「そう…じゃあみんなで作るわ…」
夏樹は少しがっかり…というより不貞腐れていた。
1週間ほど立ち
「夏樹!今日空いてる?」
「まあ、空いてるけど…」
「よかった!じゃあさ、今日の放課後私の家来て!みんなで練習するの!」
「はあ?何言ってんの…まだバレンタインは先でしょ?」
「だからだよ!下手な人の為に今からなんだよ!」
柚香の強引に持っていくタイムが始まった。こうなっては夏樹でも逃れられない。
「分かった分かった。」
「やった!」
柚香はガッツポーズをして自分の席に戻って行った。
放課後になり、柚香が夏樹の席まで来る。
「じゃあみんな集まって!」
柚香がそう言うと、ほんと数人、えーっと…1、2、3…6人しかいなかった。
「じゃあ、今から私の家に行こう!」
「「おおー!」」
なぜかその6人は気合いが入っていた。
このチョコ作りの練習で夏樹が思ったこと
「やっぱりあの本物の板チョコでいいや…」
時間は過ぎ…
「おーい!夏樹!」
「な、なに…」
拓海が夏樹に声をかける。
「明日くれるよね!」
夏樹は何かわからないようで首を傾げる。
「明日だよ!バレンタインだよ!」
「あ…」
夏樹はすっかり忘れてた。
「とにかく忘れないでよ!」
拓海は明るい笑顔で夏樹に言った。
「あれ?夏樹、顔赤いじゃん!」
「そ、そんなこと…」
夏樹にはその笑顔が太陽のように見えた。
家に帰り
「よし、作ろう!」
大手メーカーの板チョコを電子レンジで溶かし、型に流し込む。
「よし、今のとこちゃんと出来てる!」
型に流し込んだチョコを冷蔵庫に入れ、ガッツポーズをした。
「あら?夏樹何してるの?もしかして…チョコ?」
「うげっ…」
お母さんがやってきた。
「夏樹がねぇ…まあ、がんばりなさい!」
ニコニコしながら戻っていった。
なにがしたかったのやら…
あっという間に時間が過ぎ、板チョコは出来上がっていた。
「あとは…文字だけ。」
そう言ってチョコペンを引き出しから取り出す。
「なんだ、結局準備してるんじゃん。」
自分でもいつ買ったか分からないチョコペンだった。
「どうしよ…なんて書こう…」
頭を使う。
『大好きな拓海へ』違う!
『happy Valentine!』なんか違う!
その他100個くらいのアイデアを考えたが、何一つ《これだ!》といったものが出なかった。
最終的には
『どう書けばいいのかな…』
柚香だよりになってしまった。
するとすぐに返信がきて
『知らないよ!あんたが書きたいこと書きなさいよ!』
活を入れられた。
「ああもう!いいわよ!」
ヤケになって書いた言葉は
『私の将来の夫へ』
あっ…
気づいた時にはもう遅かった。
それ以上はもう考えず、そのまま冷蔵庫に放り込んだ。
バレンタイン当日
「よし、入れた!」
確認してから家を出た。
「夏樹!大丈夫だった?」
「まあ、なんとなくはね…」
柚香が待っていた。
「じゃあ行こっか!」
「うん」
2人で学校へ歩き出したその瞬間
「よっ!お二人さん!」
拓海参上
「な、な、な!」
夏樹が動揺する。
すると柚香が「拓海!これ私から!」と言ってラッピングされたチョコを渡した。
「じゃあ私はこれで!後からちゃんと来なさいよ!」
「柚香ありがとう!」
柚香が走り去って行った後
「夏樹は?」
ニコニコして手を出す拓海
「ちょ、ちょっと待ってて」
鞄の中からチョコを出す。
「そ、その… 」
告白するシチュエーションを作ってくれたんだ、今しかない!
「ん?」
拓海はニコニコしている
「あの…ね、私…」
「うん」
「拓海のことが好きなんだ」
言えた!夏樹が心の中でガッツポーズをすると
「え?知ってたよ?」
「は?」
サラッと言いやがった。
「いや、まあ俺もいつ言おうかなーって思ってたけどまあバレンタインでいっかって考えてたんだ」
夏樹の顔が真っ赤になる。
「そ、そんなのないわよ!ひどい!ひどい!拓海大好き!死ね!」
「ええと…大好きと死ねっていわれてもどうすればいいのか…」
拓海が戸惑う
「だから私と付き合いなさい!」
これが夏樹の人生初告白で、ツンデレになった瞬間であった。
ホワイトデーに続きます