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短編箱はお気楽に~

流れる水を辿って

掲載日:2017/01/06

 ぼくがいま、ここに立っているとして。


挿絵(By みてみん)


 目のまえで、水ろが二つにわかれていた。


 どちらにいこうか。



 左にいこう。




 え? だれにも言わずに出てきたんだよ。

 たびだから。ぼくはたびに出るときめた。


挿絵(By みてみん)


 水ろをたどっていく。どこまでいくかって?


 水ろがつづいているかぎり、ずっと。


 とめるなよ。ぼくは本気だから。




 ひろばのよこをとおる。ひろばには人がいる。

 だれもこちらを見ていない。いいかんじだな。


 しっている人がいないみたい。いたら、とめられてしまうからね。





 どうして水ろには、こんなコンクリートのふたがずっとはまっているんだろう?

 水は空につながりたいのに。

 いつでも、ここでいいやとおもったら空にかえっていきたいだろうに。

 たびをすきなところでおわらせるけんりは、だれにもあるとおもう。

 でもぼくは、まだまだたびをおわらせることはしない。

 ふたはいらない、よけいなおせわ。でもぼくはとにかく先にすすむ。

 



 すこしとまって、しんこきゅう。


 人は自らが何かをしなければ、と決めた瞬間、簡単に諦めることをしなくなるらしい。



 水ろはずっと、つづいている。まだまだ先まで。

 だからぼくは、あるきつづける。


 ところどころ、金あみがはまっている。そこでくらやみの水はすこしだけ、いきをつくらしい。

 ぼくも金あみのところでとまるたびに、しんこきゅう。


 コンクリートのふたは、せんろみたいだね。


挿絵(By みてみん)



 この上をうまくあるけるだけで、じしんがわいてくるよ。



 見たものは。


 つりしのぶ。まるい玉になってのきから下がっている。なまえ知ってるんだ、うちにもあったから。


挿絵(By みてみん)


 ねこ。くろと白がちょっと。しましま。

 ねこはちらっとこちらをみて、すぐどこかにいってしまう。


挿絵(By みてみん)


 三りん車。ぼくはずっとのれる、っていったのに、だれもきいてくれなかった。あぶないから、どこかにいってしまうから、と。もうぼくには小さくなってしまったから、ひつようないけど。


 フェンス、なぜかいつもクリームみたいなみどりいろ。こちらにすこしだけ、まがっている。

 草はどこもおなじように見える。いきおいよく生えていたり、かれていたり。


 しんごうき。すごいな。もうこんなところまで、きていたんだ。いまは赤。ぼくはちゃんととまる。しんごうくらいは、わかるよ。でなかったらたびに出ようなんておもわないから。


 犬がほえる。でもしっぽをふっていた。だれなの? だれ? と大きなこえできいているんだ。


 おみせ。またおみせ。シャッター。水ろはすこしだけ、おしゃれになった。あなのところにひとつずつ、ぎんいろの小さなふたがはまっている。

 ひとつほしいな。しゃがんでとろうとおもったけど、とれなかった。


 ぼくはさらに先にすすむ。





 おしっこがしたくなった。


 でも、先生はいったよ。

「そとで、おしっこをするときは、トイレとか、見えないところでしようね。みちのはしっこや、たてもののかげとか、みんながとおるところでは、はずかしいよ」


 どこかにトイレはないのかな。


 水ろをずっとまえにたどる。


 あった。コンビニだ。



「こんにちは」

 ちゃんといえたかな。おみせの人は、ちょっとふしぎそうなかお。

 ぼくのかお、そんなにふしぎなのかな。


 よくみられるんだ。しらない人から。

 おこる人もいるよ、こんなところをあるくな、って。

 おかしなことをするんじゃない、とかね。

 わらう人もいる。あまりきもちいいわらいかたじゃない。


 でも、わかるんだ。

 ふしぎなかおで見る人、へんなかおでわらう人、

 そういう人は『ふあん』なんだ。

 しらないことが、とてもふあんなんだね。

 ぼくみたいに、たびに出てみればいいのに。いろいろ見にいくためにさ。




 ああ、すっきりした。


「ありがとうございました」

 ちゃんといえたか、わからない。でも、おみせの人はにっこりした。

 いやなわらいかたでは、なかった。ぼくのむねもあたたかくなる。


 この人も、たびをしているとちゅうなんだろうな

 だからわかってくれたんだろう。



 ぼくはさらに、たびをつづける。 



 すこしさむくなってきたかな。

 でもぼくは足をとめない。たびじのはてまで、あるきつづけるのだ。

 ぼくはもう、なんさいだったかわすれたけど、中学生だからね、とよくいわれてる。

 それって、もう大きいってことなんだよ。

 そとで、はずかしいことをしないってことなんだ。

 だから、たびに出るしかくはじゅうぶんあるとおもう。


 はずかしいことは、してしまうかもだけどね。

 


 しかし、

 この世の中で完璧に恥ずかしくない生き方ができている人間なぞ、果たしているのだろうか。

 誰かに迷惑をかけて、誰かの迷惑を受け止め、お互いに恥ずかしい事をくり返しながら、それを反省して、少しだけ『よく』なろうと努力する。

 そう思えば、誰もが生きる意味があるし、旅をする資格があるのかも知れない。



 お日さまがほっぺたのほうからぼくをてらす。

 もうかえるじかんだ、本とうはね。


 でもたび人は、けっしてとどまることをしない。


 旅路の果てまで。




 きゅうに、水ろは大きなよう水ろにぶつかった。

 四かくい川が、ずっとむこうにのびている。

 かぜがつめたくなった。


 においがする。なつかしいにおい。

 四かくい川の、ずっと下のほうから。


 川をたどる。ぼくは小ばしりだろうか。

 かげがずっとながくのびている。

 はしる、はしる。いきがきれても、はしる。



 そしてついに


 ぼくは、うみを見た。


 よせかえるなみ。

 しずもうとするたいよう。


 ぼくは束の間、何か大きな心のうねりを身体(からだ)いっぱいに感じ、喉元にこみ上げる熱い塊をぐっと飲み干した。


 今だけは、ただの旅人。そして、今だけはただの人間として

 その浜辺に立ち尽くす。



 旅路の果てに見たものは、大いなる意思だった。

 遥か彼方まで拡がる水はささやいた。


 ご覧、誰にでも分かることばで語ってあげよう、人生というものを。




 ふりむいたときに、ようやく気がついた。


 ぼくはおなじようにえがおでこたえる。







「なあんだ、ずっとついてきてくれたんだね」


挿絵(By みてみん)



 了

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