一ノ詩
二十年余り
七千と三百日
幽かに残る幼少の記憶
何故忘れてゆくのか
恐ろしい
いや真に恐れるべき事は
何を忘れたのかを忘れる事だ
確かに存在していた出来事
時間も場所も違えど
確かに刻んだその物語
例え我らが消え去っても
無数の、あの時、あの場所の
落ちていた一つのあの石ころ、あの木、あの土は
伝える手段を持たずに
ただ、記憶するのみ
今でも、明日も
同じ時間に存在しながら
二度と無い干渉の機会
遠い過去の幻
この場所では
ある海竜がねぐらとし、ある貝が食事を行い、ある魚の餌場となり
ある人が脚を失い、ある犬が命を落とし、ある獅子が雌を巡って争い
そして静かにあいつが眠っている
その事を今の生物は誰も知らない
知る由もない
しかし
確かに存在した出来事
限界を見せ始める口伝と書物
ただ忘れないでほしい
書物を詠み漁り
まるで創始から物事を見続けたと
勘違いをしている
そこの貴方
この世にある
すべての文献を暗記しようが
その実一部にも満たぬ知識であると
また
それがどの様な都合の良い形で
改変され続けている事を
話が反れた
今私が一番伝えたいこと
それは
数日の命のウスバカゲロウ
万日を悠々と生きる貴方たち
無駄にしたその間は
ある生物の一生かもしれない
ということ
どうか
覚えていて
今あなたが楽しいと感じるこの時に
肉親や親友を亡くして
泣き叫んでいる者もいる
という事を
空で離れていようが
その者と同じ時を刻んでいることを
以上、最近感じたことでした
読んでいただき感謝します