表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/3

第1話 装っての旅立ち

本編第175話で旅立った皇帝は、どの様な交渉で協力を取り付けたのか?

それを補完する話となっています。

本編に興味を持たれている方もそうで無い方も、是非ご一読下さい。

 これは。

 協力を取り付ける為に辺境へ向かった、皇帝の旅の記録。

 本流から分かれ支流として流れた後、又本流へと合流する物語。

 それをこれから、書き記して行こう。

 と、仰々しく始まったが。

 果たして何処まで書けるものやら。

 何故か?

 それは、この旅の【主役】の性質による。




 〔ヘルメシア帝国〕の現皇帝、《シルベスタ3世》こと《ユーメント・フォウ・シルベスタ》。

 彼が3人の護衛隊を伴って旅に出たのは、〔グスターキュ帝国〕からの使者が本国へ旅立った翌日。

 かの国と或る共闘作戦を取る、その為に力を借りなければならない者が居る。

 国境付近に位置する地域、〔ワインデュー〕。

 そこを支配する12貴族の1家、《ヤフレ家》。

 ワインデュー内に反抗勢力を誘い込み、まさかの越境による敵国軍の侵入。

 自軍との挟み撃ちにより、反抗勢力を排除。

 それによって平和を勝ち取る。

 反抗勢力とは、《王族反対派》及びそれを操る《ケミーヤ教》なる集団。

 反対派とは文字通り、皇帝とその親族を権力のトップから引き摺り下ろそうとする勢力。

 ケミーヤ教は《グレイテスト》なる者を崇めており、中には強力な力を持つ錬金術師も加わっているらしい。

 そいつが寄りにも寄って、皇帝の弟を化け物に仕立て上げたのだ。

 許されざる蛮行。

 しかしそれ等を倒すには、こちらも分散している勢力を整えねばならない。

 〔或る地〕にて格闘しているであろう、ヘルメシア側の錬金術師達も呼び戻さなければならない。

 詳しい事は【本編】に譲るとして。

 今、自分が出来る事は?

 それを《魔法使い》が指し示してくれた。

 それが今回の旅である。




『皇帝自ら説得に行った方が、効果が有る』との、魔法使いからのアドバイス。

 確かに、危険を冒して直々に参上した方が。

 ヤフレ家を頼りにしている証となり、説得力も増す。

 それを受けて、住まう王宮を出る決心をした。

 但し、皇帝の成りのまま出立したら敵にバレてしまう。

 極秘に向かわねばならない。

 そこで、騎士に偽装して行動する事に。

 お供は同じ騎士である、護衛隊の3人。

 仮に【ハイ】、【ヘス】、【ホム】としておこう。

 素性が知れると、こちらも問題となる。

 彼等も、王宮からの使いとして離れる事にはしているのだが。

 行く先も偽装しているのだ。

 なので、仮の名で呼び合う事にした。

 自身も、仮に【ユウ】と偽名を使う。

 後で怒られそうな、安直な付け方だが。

 名前など、どうでも良かった。

 敵に見つからずに目的を達成し、無事に王宮へ帰還出来れば。




 格好も。

 騎士の中でも比較的階級の低い者が着用する、革の鎧に身を包んだ。

 これなら敵の目も欺けるし、何よりも軽く行動し易い。

 頭も頭巾の様な物を被り、顔が少しでも見えにくくする。

 但し急ぐので馬を使い、一気に突っ切る。

 4頭立ての馬が走るのは、不自然かも知れないが。

 そこまで考えると行動が鈍ってしまう。

 スピード優先と言う事で妥協した。

 そしていよいよ、旅立ち。

 王宮の〔執務室〕から〔玉座の間〕を抜け、外に在る長い坂を下る。

 その麓に用意された馬にまたがり、目的地へ向かう。

 何時頃着くか、予想も付かないまま。

 走り出した。




 この旅には、特別な随伴者が居る。

 駆ける馬に揺られているにも関わらず、ユウの右肩にちょこんと乗って落ちる様子も見せない者。

 トラネコの姿をした使い魔、《メイ》。

 彼女は探索担当。

 変な奴が周りに居ないか、常に気を配る。

 遭遇しそうになると、相手に幻を見せる。

 その隙に馬を駆る。

 その為の要員。

 言わば、保険なのだ。

 メイのお陰で、何とか順調に進んで行く。

 特に最初に訪れる、王族反対派の《チンパレ家》が支配する地域の〔ラミグ〕。

 そこは、出来るだけ止まらず突っ切りたい。

『馬が持つか?』と言う問題もあるが、主要な町を避けながら進めば何とかなると事前協議で判明した。

 それに賭けるしか無かった。

 それ程、時間が無い。

 王宮の在る帝都〔ガティ〕から、皇帝の支配地域〔シルバ〕を出て南西へ。

 ひたすら南西へ、進み続ける。

 それで何とか、通常よりも早くラミグを抜けた。

 ここから更に南西へ。

 反対派から裏切った《ムヒス家》の治める〔シゴラ〕に入ると。

 長が不在なので、これまた寄り道せず突っ切る。

 ムヒス家は裏切った代償で、本領域に帰れず帝都の別荘に隠れているのだ。

 つまり、留守。

 ならば、長居は無用。

 と言う訳で、シゴラも突っ切る事が出来た。

 そこから先は。

 いよいよ。




 シゴラの南に、ワインデューがある。

 ここまで来れば、ヤフレ家が暮らす首都の【ジューレ】まで後一息。

 馬を走らせ続けた為、限界に近付いていた。

 もう無理はさせられない。

 ここからなら、徒歩の方が安全。

 ジューレに通ずる街道は、険しいと聞く。

 ワインデューに入ってすぐの町【ドリイ】で、馬を託す事にした。

 ここには、ヤフレ家の兵士が駐屯している。

 王族に対し擁護も反対もしない《日和見派》に属しているので、反対派のムヒス家が攻めて来ない様に牽制の役目を負っていた。

 とっくにムヒス家が、反対派から離脱したとも知らずに。

 彼等には本当の事を上手く誤魔化し、馬を預ける事が出来た。

 後は徒歩で向かうのみ。

 そこに、一応監視役として同行する兵士が2人。

 彼等はそれぞれ【レイア】【デム】と名乗ったが、本名かは分からない。

 完全に敵では無いと判断しない限り、こちらに名を明かさないのかも知れない。

 それはこちらも同じ事。

 気にしない事にした。




 ユウの肩にずっと乗っているメイの事が、気になるらしいレイア。

 しょっちゅうユウの方を見て来る。

 ネコが好きなのか。

 それとも、肩から降りたがらないのを不審がっているのか。

 隊列は、先頭をレイア。

 後ろに2列で、まずユウとヘス。

 その後ろに、ハイとホム。

 最後尾にデム。

 振り向きはするが、決して自分から話し掛けては来ない。

 あくまで、怪しい奴と見做みなしての行動。

 レイアもデムも、出来た兵士だ。

 ユウは内心、感心していた。

 そして、野宿を繰り返す事何日か。

 ユウは野宿も初めてだったのでドキドキしたが、案外すぐ慣れた。

 そんな新鮮なトキメキが消えた頃。

 目的地に到着。

 レイアとデムに、ジューレの町に在る宿屋へ案内される。

 そして、『当主様がお会いになられるかは、あなた方次第』と念を押される。

 レイアは、ヤフレ家の屋敷まで案内してくれるらしい。

 一先ず宿へ入り、ゆっくり休む事にする。

 デムは、またドリイまで戻る事に。

 レイアはデムを見送った後、ヤフレ家に知らせに行くらしい。

 ジロッと、宿屋の主人がこちらを見て来る。

 既にもう、試されている様だ。

 怪しい奴では無いかどうか。

 今回は、気苦労が絶えないな。

 つくづくそう思う、ユウだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ