3話 脅迫
立ち絵がないと人物像が分からないから、いつか描きたいですね。
3話 脅迫
窓から光が差して、目を覚ました。
…体が異常に重い。そういえば、何かとても大きなことを忘れているような気もする。
…起き上がる。
「…昨日一日、寝てたのか」
ふらつきながら床に足をつき、壁に張り付いた時計をみる。
6時半。今日は学校に行こう。流石に2日も休むのはまずい。
ていうか、あれ…?
なんで休んでたんだっけ…
皆勤賞なんて狙えるような僕じゃないけど、最近風邪をひいた記憶もないし…
ひとまず顔を洗うために洗面所に行く。
…途中、玄関にあるファックスが目に入る。
受信メッセージ1…
寝てる間に来たのだろうか。
…でも、今まで一度さえ使ったことのないファックス機能だ。誰からだろうか。
目をこすりながら、メッセージを印刷する…
―――っッ!?
“お早うございます。先日、命を奪いに来た者です。
まさかあの場で警察が来るとは思いもしませんでした。
彼らが来たことを、貴方は感謝すべきですね。
余談ですが、私達のことを言っておきましょう。
私達は「カリバリア」。世間の悪党組織のイメージそのもの、と考えて間違いではないでしょう。
もっとも、この程度の事を知った程で、貴方や警察に我々が特定できるようなものではありませんがね。
次にいつ来るかは申し上げられませんが、必ず私達は貴方を恐怖に陥れます。
何より、貴方が恐怖を感じることを、私達は、最高の喜びとしているわけですから。
では残りの命、存分に楽しみ尽して下さい。
I'll come to kill you again...”
記憶が戻ってくる。否。
印刷された文字に吸い込まれて、一昨日のことを叩きこまれるような、そんな感覚…
記憶と目の前の現状に、酷く混乱する…
けど、はっきり分かることが一つ。
普通に生活していれば、名前を聞くことも無いような集団に、僕は殺されようとしている…
あの子に起こったことが、今僕にも降りかかろうとしている…?
「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
大人げないなんて分かってる。思う壺だって分かってる。こういう時こそ冷静にならなきゃならない。
こういう事例のテンプレートだ。分かってる。分かってる。
怖い。
鳥肌が立つ。眼球が血走る。声帯が震える。
きっと僕は。
残した事なんて無い筈なのに、殺されるのが酷く怖いんだ。
い や 、
無性に 憎い、 僕を見下して皆殺した 奴等 が
知らぬ間に受話器のどこかを叩いてしまったようで、変な音が、機械から漏れだす。
それのお陰で我に帰った。それでも――
「はぁ…はァ…!」
息が荒れ、冷や汗がどろりと流れ落ちていく。
そのまま崩れるように、一昨日のように、へなへなと崩れ落ちる。
あんな声をこんな朝にあげるなんて冗談じゃない。近所の人に迷惑をかけてしまったはず…
それに、僕は、今、
なんて…
「っぅっぁっ!?」
突然、爆音が鳴り響く。
もしかすると爆音でもないのかもしれないが、僕の心臓は、酷くそれに反応してしまった。
「…っ!?」
唐突に鳴り出す電話。それもファックスと連動している。
だから目前、耳元で、電話が叫び出した。
まさか…っ!
手が震える。そのまま手を伸ばし取ろうとしようと、宙を舞うばかり。取れないんじゃない、取りたくないんだ…!
でも、このままじゃ鳴り終わる…!!!
恐怖を振り払った一瞬、その一瞬に受話器を掴むことができた。何も考えず、素早く耳元に寄せる。
「も…もしもし」
両手を受話器に添えて持つ自分が異様に不自然だった。正座までしている。余計なことを気にして、声までおかしくなったような気がした。
「朝早くに申し訳ありません、紅葉さんのお宅ですか?」
受話器から聞こえる声。…返事を返すのが怖い。けれど、返事をしないと会話が進まない。
「はい…。」
「私は白礼市警察の晴と申します。モララー種の紅葉さんはおられますか?」
昨日の、警部さんか…
一昨日の集団かと思ってしまった。
安堵の息を飲みこんで、会話に戻る。
「僕が紅葉です。…先程、ファックスでメッセージが届いているのを確認しました。文面からして、昨日の犯行者か、その辺りの人かと…」
「本当ですか?よろしければ、今からそれをこちらに渡していただけないでしょうか?」
少し嬉しそうな声が聞こえてくる。
「分かりました」
大学に行く電車の時間は8時。警察は駅の近くにあるし、今からなら大丈夫だろう。
さっきの冷や汗が耳元を伝っていくのを不快に思いながら、話の続きを聴いた。
「ああそれと。ファックスの受信データ、残っていますか」
少し待って下さい、と言って、受信データを見る。警察にとってメッセージの発信源は重要だろう。その場所があの集団の本拠地ではなくても、そこにいた事は明白になる。
勿論、罠、ファックスが破棄されている場合もあるかもしれない。それでも調べてみる価値はあるはずだ。
…しかし、データ何処にも見当たらなかった。間違いなく、さっき…
…そういえば。文章を読んだ後に、どこかを叩いた気がする。
もしかすると、当たったのはデータ消去のボタンだったのだろうか。
いや、きっとそうなんだろう。とんでもない事をしたんだ…
「すみません…メッセージを見た時、自暴自棄になって、思わず消去ボタンを…押してしまいました」
「そうですか。仕方ありませんね……それだけの文章だった。だったら、犯人たちを檻に入れることも容易にできます。こちらも全力で調査させていただきます」
「お願いします…」
「ではまた後ほど」
回線の切れる音が虚しく響く。
…
また大きく溜息をはいた。最近どうも溜息が多い。
コードに繋がった受話器をファックスに戻し、ようやく洗面所にたどりつき…鏡を見て、少し驚く。
我ながら、酷く疲労したような顔になっていた。