2話 思想
こういう風に、時系列や場面がころころ変わる書き方ってどうなんでしょう。
2話 思想
「…ほぉ」
俺――八峡閃遠は、自分の通ってる幽谷大学のすぐ近くの喫茶店で、話し合いをしていた。
「そういう事で、どうにか同僚の皆さんの説得に協力してほしいのです…申し訳ない、話が飛んでしまいました、まずは」
「俺が、お前の意見に賛成なのかどうか」
「そういうことです」
相手は同僚の陰鎌だ。
全身黒色の体で、耳の真ん中よりちょっと上あたりに、黄色い輪のような筋が入っている。
目は赤色。
そんな奴。
「とりあえず、質問に入っていいか」
この場の経緯を話そう。
前述の通り、俺達は半分社会に足を突っ込んでいる大学生。一応二回生で、俺はもう二十歳を迎えている。
この大学は俗に言う「クラス分け」が無い。当たり前ながら。
ただ、代わりに男女五十音バラバラで、通常四~六人で編成される「寮」に入る。ここは大学と言う組織として、かなり特異な点だろう。
多分学長の気まぐれだ。もっというなら間違いだ。極めて不便である。
さておき、俺達の寮には五人がいる。面子は…
全体のリーダーシップとなっている『陰鎌』。
俺をやたら弄ってくる(決して猥褻な意味ではない)『ココナ』。
妙な雰囲気をかもし出している『kind(通称カインド)』。俺の見解ではオタクだ。
後は――この中でやたら口が達者な俺、『八峡閃遠』。
そして今回の話の中心である…『紅葉』だ。
あいつは校内全体で比べて、いわゆる普通以下の存在だ。…酷い言い分だが、周りはそういっている。言われれば、俺もそう思う。
そんな立場のためか、最近かなりぞんざいに扱われている。
今日も化学の実験で、危うく希少で数が限られている液体を零しかけ、教授や学生に言葉で打ちのめされていた。
この状況を危うく見たか、陰鎌は俺にひとつの提案をしてきた。
簡単なことだ。…同僚である俺達が、紅葉の肩を持つ。立場のある俺だからこそできると、陰鎌は俺に協力を求めた。
ちなみにこの大学では、「同僚」という単語は、「同じ寮にいる学生」のことを指す。ややこしい。
「まず、動機が気になる。このタイミングで、しかも普段紅葉さんともそれほど頻繁に話さないお前が、どうしてこんな事を突然…」
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翌日の朝。俺はバスを降り、徒歩で大学へ向かっていた。
普段予定詰めのうちの同僚達が、今日は珍しく全員揃う。だから昨日、陰鎌さんにあの話を持ちかけられた。今しかない、と。
信号に引っかかる。
そろそろ自動車免許も欲しいな…社会人になる前に取らないと、時間が無くなるだろうし。
いや、この際、俺の単車一筋(普段は通学にバイクを使っている)でこの国を縦横無尽に渡り歩き、踏破するのも…というところで、携帯が鳴り出した。
と同時に、信号が青に変わる。とりあえず単車を進ませて、速度がついてから画面を見る。
…同僚のココナだ。後五分ほどで学校なので、とりあえず保留にしておいた。
…が、よくよく考えると妙な胸騒ぎがする。
だってあれだぞ?普段から俺を馬鹿にし、酷使している(言葉の綾でもなくマジで)あいつが電話?
以前あいつは「あんたに電話をかけること自体が、時間とお金と労力と自分の名誉の無駄」なんて言っていたくらいだ。
酷い奴だわ。
そんなあいつが、電話をかけてくる?…
二度目の電話がかかってこないことを口実にして、自分を落ち着かせつつも、強くペダルを踏む。
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「概ね賛成だな。協力するよ」
「ありがとうございます。…正直、貴方がこれだけ協力的であるとは思いませんでした」
「同僚の危機を救う、だなんてちょっとかっこいいじゃないか。俺だけじゃどうにもならんかもしれんが、お前がいるなら大丈夫だ。
多分他の同僚も賛同してくれると思う」
オレンジジュースを飲み干して言う。いい年の大学生がそんな物飲むのか、と誰にでも突っ込まれるが、
俺はこんな素朴でありきたりな、いつもある味が好きだ。…炭酸もビールもそうだろ、と言われれば反論のしようが無いが。
「明日は寮の皆に説得か…陰鎌さんも大変だろうな。そうだ、今日は奢るぜ」
「いや、ここは割り勘で行きましょう。本当はこちらが奢りたいぐらいなのですが、財政が辛いのです」
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大学に入った途端に、何か学生の皆が騒がしい事に気付いた。
ココナが俺に電話するほどの理由があったっていうのか?
何なんだろうな、なんて、ちょっと面白半分にココナに会いに行こうと、寮に向かう。
はっきり言って。
この後の展開なんて、全く予想してなかった。
「…マジか、お前」
寮に着いた。ココナもいる。陰鎌もいる。カインドっていうやつもいる。
外も寮も落ち着きが無かった。
特に、寮に関しては。
一目瞭然、状況がすぐに飲める。
「まさか…貴方に相談した翌日にこうなるとは――想像もできなかったのですが」
――紅葉がいない。