表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Seoul Excalibur  作者:
序章 CATION.
2/5

1話 殺気

逃げたい時は逃げればいいけど、逃げる場所がない時もあるもんで。

1話 殺気


「……?」

あまりに日常的でない言葉に錯乱し、軽く開いた口が、塞がらない。

と、無理矢理逃避してみる…

「貴方を殺しに来ましたと言っているのです」

…僕自身が信じたくないのか、逃避しているのか分からないが、確かなのは…意味が分からない。

この人は、僕を笑わせる為に冗談を言っているのか?だが。

その声には間違いなく、醜い物がこもっている。

そんなのが今、こうして僕と話している事を信じる事が出来ない。

ただ逃げるように、考えは傾いていく。

「は、はは、何言って…」

やっと声になった笑い。全身に走る、寒気と共に。

その問いには誰も答えず、そして誰も動こうとはしない。


間が、空く。

どうして僕って、こんな事ばっかり起きるんだろう。

もちろん…現実だった。耳や目じゃない、肌で感じる。

光や音じゃない、体温で感情が直に伝わる。



金縛りのように動けない。

恐怖はより増してゆく。

鮮明に。

悪寒、汗、震え、―――記憶。


何故。何故こうも、現実は…

逃げたくて仕方ないのに、いつまでも降りかかる。

振り落としたくて仕方ないのに、どこまでもしがみつく。

壊したくて仕方ないのに、貪るように、剥がれる、もぎ取られる。

何故。何故。


しゃきん、と。

額の一寸先に 鈍く光り 尖る物が



「言ったでしょう?I come to kill you,Mr.Koyo .」

一体何を持ちだした。こんな、こんな物を。こんな凶器を、ゲームの世界でも無い!

冗談じゃない…!!

こんな、こんな物が…!!

こんな事が…!!

夢だ、夢だ、夢だ――!!!

「心残りはないですね…ではッ!!!」

なにが、何が心残りは無いだ…!!

やられる…!!!!


僕の一生は、僕の一命は、僕の時間は、僕の存在は。

一体なんだったのだと。

死ぬことに意味のある存在なのか。

昔から、今でも、そう思っているのに。

いざ死ぬとなると、どうしてこれほどにも怖い?

何に怯えているんだ、僕は?

もう何も怯える物も無くなるのに。

なんて、なんて我儘なんだ。望んだ形じゃないか。自分が出来ないから、やってもらえたじゃないか。

だのに――最期まで、僕は大嫌いなエゴの塊じゃないか。

どうして、

どうして。

僕はただ、いつも同じ、頭を俯せ、目を瞑って、時間の流れに、逆らえな――――


――銃声?



「ッ――!来るぞ!」

影の1人が口に出す。

それと同時に、僕に死をもたらそうとした影も、手を止める。

頭を上げ、先の叫びの方を向くと、不自然に見慣れた、警帽を被った影。手にはごく普通の拳銃。

すぐさま発砲を再開する。サイレンの音が少し先から鳴り響き、赤い色が回り迫り来る。

「…!満足はした、撤収する!」

鈍い物を持った影の仲間が後ろを向いて走り出す。だが影は――僕を殺そうとした者は――銃弾を障害物で防ぎ、まるで予測しているかのように翻していく。

そして最後に言った。…多分、僕に。

「…これは“警告”と思っていただければ、と思いますよ。いつまでもうじうじしている訳にはいかないのではないでしょうかね。」

その声は…いとわしく、おぞましく。そして憎しみのこもった、そんな声。

…けれど何故か、その声は、何かそれとは別の物がこもっていた。そんな気がして…

見る間もなく、その影は他の影を連れ、刹那の内に夜闇の中へと消えていった。

警帽の影は安堵するように、構えていた拳銃を降ろす。

「は…発砲しないんですか…?」

あまりの恐ろしさから、聞いてしまう。

自分が助けられたのにすら気付いていなかった。自分が涙声なので、みっともなく思った。

その人は銃を銃口からポケットに入れ、

「警察は相手が背を向いていると、何か特別な場合でないと発砲出来ないのよ…」

女の警官さんは、申し訳なさそうにそう答えた。

すぐに数台のパトカーが着く。

…銃の発砲。冷静になってみればとうに知っている知識だ。よく考えるべきだった…

パトカーから数人、警官が降りてくる。その中の、特に少し丸い体系の人は上司のようで、周りの警官が彼に頭を下げて道を通していた。

彼もそれに応じるように腕をあげ、一人一人に敬礼する。彼は先程の女の警官さんの前で止まり、事情を聞いているようだった。

彼女が頭を下げると、彼はそのまままっすぐこちらに向かってきた。

僕はやっとふらふらと立ち上がる。片手を地面に張っても、立つことが難しかった。

「待たせました。私は白礼警察の警部、はらすと言います。大体の事情はうちの者から聞きましたが…とりあえず、外傷などは大丈夫ですか?」

…外傷じゃない。僕の存在だなんて、下らない事で頭がいっぱいで。

そのいっぱいの頭も色んな事が巡り巡って、落ち着いていない。

けど、外の傷は大丈夫だから。

「大丈夫です…。」

そう言う。余計な事は言わない。

「そうですか、無事で何よりです」

でも、こんな事を言ったって、

「申し訳ありませんが…貴方にはすぐ署に来てもらいます。警察は情報から的確に事件を突き止める必要がありますから」

こうなることだって、今更分かってるはずなのに。

彼は自分の言葉につけ足して続ける。

「その前に一つ…貴方は今回襲われた事について、何か心当たりはありますか?どんな小さなことでも結構です」

…恨みを買った覚えなんて、いくらでもある。ただ、…僕を恨んだ人達を巻き込むのも何故か、遠慮というか、そんな情が入ってしまう。

そもそもその人達には集団性がない。あんなおぞましい風格と統括力、ましてや凶器なんて持っていないだろう。

ある集団はそれほど過激ではないから、言うまでもない。…その中には、僕の同僚もいる。

第一、その中で駅の経由を知っている人がいても、家を知っている人は本当はいない。

「いえ…見当もつきません…」

そして、僕もまた一つ、付け足した。

「…ただ、僕を殺しにきたみたいです…」



…眠くない。

警察に事情調査されて、もう朝だというのに、眠くない。

でも、疲れた…

あんな長い間、晴れない気分で、コトを隠すつもりで言えば。

額に手をやり、溜息をつく。汗がべっとりついていた。

「なんだってんだ…」

今日は学校を休むことにして…僕は眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ