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Seoul Excalibur  作者:
序章 CATION.
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0話 宵闇

はじまりはじまり。

序章 CATION.


0話 宵闇



また失敗した。何度目だろうか。何度間違えたら僕は…気が、済むのだろうか。

鞄を肩にかけ、帰り道を俯いて歩く僕。左方には、コンクリート越しに、石橋と、暗くどす黒く見える川。

夜の少し遠くに、街灯が眩く輝いていた。

闇を照らせるほどの明るい光…

どうしたら皆から「光」と思われる事が出来る…?

輝けない。突出した力が無い。失敗ばかり。いつも、いつも。いつも。

周りからは、ただ呆れた声ばかりが聞こえる。何時も同じその言葉にはうんざりする。それ以上に自分自身にもうんざりする。


周りを引く人間になんて、到底なれないのは分かっている。

だから周りとして、付いて行く。そういう人間でも構わないと思ったこともある。

でも僕が、どちらを選んで、どちらを演じようと…煙たがられる。もしくは、無視される。

僕には人と人とを隔てるために必要な何かが…誰もが持っているようなそれが、ハンディキャップとして、決定的に欠如している。

生まれた時に配られた手札が。

当たり前が、僕には無い。僕だけには、無い。


結局、この世に必要とされるのは常人以上の者だけだ。

僕のような塵は、必要ない。

此処に居ても、何処に居ても、光は見えないだろう。

いっそのことなら、死んでしまおうとも思えた。

一番簡単だろう。なのに、…怯えているのか、僕には出来ない。


「生きる」…ある種それは試練だと、思う。

歩いて、壁に当たって、どうにか先に行こうとして、ボロボロになって…

厭だと思うことがある。決められた寿命の上で、何度も何度も。

その途中で、誰もが何度か、折れる。

ここで選択肢は二つ諦めるか、折れた自分を繕って、また立ち向かう。僕のような人間は――諦めようとする。

諦める、つまり逃げる。「生きる」上で諦めるための手段、それは一つしかない。「死ぬ」事だ。

逃げだ。逃げた者はそれを境に、二度と苦しみを味わう事はない。

でも、残された者は?「生きる」という試練、或いは悪夢から、一人抜け駆けしようとする背中を見ている、「生きる」者は…

逃げた者は消える、残らない。でも、物理的にではない、後ろめたい、感情的な物を、残された者を一方的に動かすような、厭な物…それだけを残す。

逃げる、「死ぬ」事は、今「生きる」、立ち向かい、戦おうとしている人を冒涜して、否定する事と、全く同等――

こんな、僕のような、必要のない塵ですら。

死ぬことで。

僕の存在を、脳髄の隅で認知している人達を。

否定する事になるのだろう。


だったら生きる。死ぬ事に怯え続けて、生きることに厭気しかなくて…そんな抜け殻。死人ではなく、死人のような、抜け殻として――

二度と喜びを味わうことも無い。恐怖、面倒だとか、そんな些細で厭な感情も、絶対に無い。

僕にとってそんな物、どうでもいい。だから封じ込めて――感情という感情を、消して生きる。必要がなくていい、それで良い。


この時は、そんなことを考えた。

だけど――後に考えてみれば、それは無理なことだった。

その時は、考えるまでに至らなかった。何にも関わらず、生きていけると思った。

けれどそれは、「生きる」上で、「生きる」事を冒涜すること。

なんて、僕には無理だったのだ。

だったらやっぱり死ねばよかった、というのも、結局は違うのだけど…

今生きる人達を冒涜するのも、やっぱり僕には無理だったわけだし。

なんだろう。

なんていうんだろう。

分かんないや。


角を曲がり、暗い通りに出る。家まであといくらだろうか。



その刹那。


唐突に風を切るような音。

…上ッ!?

僕は驚いて尻もちを付き、目をつむりながら顔を俯かせた。


ここはつい最近まで駄目な市長ばかりで、無駄な所に金銭を使い、暮らしは乱れていた。

今僕がいる所はその遺産。2階建ての薄汚い建物が並ぶ、活気など欠片もなかったこの商店街は、もう完全に放棄されている。

数年前の大規模清掃や、町のボランティアのお陰で相当な量の廃棄物が整理されたが、ここは未だ残ったまま。

今の市長は町の発展を第一にしている為、ここの撤去は後回しにしている。…とは言っても、いつまでも野放しにする筈はないだろうけど。


僕はここを通るのが一番近い為、いつも通っているだけだ。

それが、こんなことになっている。

大人になっても、人気の少ない所には行かない方がいいようだ…と、半ば自嘲して思う。


明らかに、誰かに襲われている。

一体なんだ。僕は大金なんて持ちあわせてない。恨みを買った覚えは……ある、か。

やっぱり、僕は…

必要、ないんだろうな。


おそるおそる目を開け、上を見る。


暗くて影しか分からないが、降りてきたのは人だった。目を凝らすと、複数人いるのがわかる。

まるで地の底からの死者のようで。冷酷で、下劣で。そんなイメージが脳裏をよぎる。

…デジャヴ。そうだ…思ってみれば、僕の人生、こんなイベントばっかりだ。

「厭だ、だから、関わりたくないって」

うなり声をあげながら頭を押さえ、狂ったように蠢いた。

周りの影は、そんな僕を気にもかけていない。

少なくとも、そう思えてならない。

怖い。


尻もちをついたまま後退りしようとする。それでも後ろにも何かが塞がり、下がる事を許されはしない。

振り向いている間に前からくらうかもしれない。振り向けばどれ程の恐怖が降りかかるか分からない。

どうしようもなくうずくまっていると、最初に降りてきた人が口を開いた。



それは、この世の声なのかと、そう考えてしまうような、冷たさ。

それは、この世の残酷な一面のみを映し出すような、酷。

その一声が。

「I just come to kill you」

誰も知らぬ、知る余地も無いこの一時。悪夢は姿を現した。

無慈悲なまでに、時は動く。

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