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怖い間違い電話

掲載日:2012/12/22

 夜中。ベッドで読書をしている最中に携帯電話が振動をした。僕は電話を常にマナーモードにしているから、着信音は鳴らない。だが、その振動音は木製の床に当たっている所為で、着信音よりもよほど喧しくて不快だった。まるで大きな硬い昆虫が、飛び立とうとして飛び立てずに、その身を震わせているかのようだ。

 とてもじゃないが無視はできなかったので、僕はベッドから出ると携帯電話に向かった。携帯電話を床に置いていたのは、充電の為だ。机の上に置いても良いが、それだとコードに足を引っ掛けて落として携帯電話を壊してしまいそうに思えたので床に置いている。

 見ると相手は非通知設定で誰なのか分からなかった。これで架空請求の類だったなら、本当に腹立たしい。今日は休みの最終日。明日からはまた仕事で、最後の憩いの時を、僕は存分に味わいたかったのだ。

 ボタンを押すと、いきなり携帯電話の中から妙に軽薄な声が響いた。

 「やぁ、○○ちゃん! 久しぶり! どうしてた?」

 その軽薄な声の主は、そう僕の名に“ちゃん”付けをして、まるで僕と旧知の間柄であるかのように会話を始めようとした。だが、僕はその声に聞き覚えがなかった。それに、自慢じゃないが、僕は今まで誰かに“ちゃん”付けで呼ばれた覚えなど一度もない。

 「失礼ですが、どなたですか?」

 それでそう尋ねた。失礼というのなら、非通知な上に自分の名も名乗らないで会話をし始めようとした相手の方がよっぽど失礼なのだが、僕は一応そう言った。相手が無礼だからといって、こちらも無礼になる必要はない。すると、その相手は、

 「あれ? 忘れちゃった? うわぁ、ショックだなぁ」

 などと、まるで僕を責めるような口調でそう言ったのだった。僕はそれに多少、苛立った。

 「悪いのですが、本当に覚えがない。もう夜も遅いし切りますよ。恐らく、あなたは間違い電話をしているんだ。僕はあなたを知らない」

 それに相手は、おかしそうに笑いながら「またまた~ 冗談きついんだから」などと返して来る。

 「悪ふざけは止めてよ」

 僕は相手に見えないと承知で肩を竦める。冗談は止めろと言うのなら、自分の名前くらい名乗るべきだと思うのだが…

 ただ、妙におかしくもあったので、僕は思わず笑ってしまった。するとその相手は、「ほらほら、やっぱり笑っているじゃない」などと言って来る。僕は思わず笑ってしまっただけだと断って、こう続けた。

 「とにかく、本当に間違い電話ですから。もう一度かけ直してみてください」

 それから僕は、付き合ってられないとそのまま電話を切った。しかし、それから一分も経たずにまた携帯電話は振動した。やはり非通知。また同じ相手だとは、容易に想像がついた。

 「かけ直してみたけど」

 ボタンを押すと、電話の向こうからはそんな言葉が。先ほどと同じ声だった。ただ、軽薄さは消えている。声のトーンが落ち、どことなく寂しそうにすら聞こえた。

 「なぁ、○○ちゃん。本当に忘れちゃったのか?」

 その寂しそうな声のままで、声の主はそう続けた。僕はこう答える。

 「忘れたも何も、本当に別人なんですよ。お願いだから、信じてください」

 気落ちされると強くは出られなかったのだ。何とか分かってもらおうとした。しかし、それから相手はこう言って来る。

 「何を言っているんだよ。同じ○○小学校に通っていたじゃないか。しかも、六年の時は同じ三組でさ」

 僕はそれを聞いて驚いた。確かに僕はその小学校に通っていたからだ。それで、もしかしたら子供の頃の友達で、本当に僕が忘れてしまっただけなのかもしれない、とそう少しだけ思った。“ちゃん”付けも、子共の頃なら有り得る気がする。相手は続けた。

 「中学だって同じだったろ? 俺は馬鹿だから、同じ高校には行けなかったけど、風の噂で有名な○○大学に進んだって聞いたよ。大学の割には、会社はそれほどでもないが、今の時代、ちゃんと就職できているだけで充分に大したもんだ」

 僕は少し驚いてしまった。その情報が正しかったからだ。しかも、プライドが刺激されて、

 「いや、大学で少しばっかり遊んでしまってさ」

 と、思わず、そんな余計な言い訳のような事すらしてしまった。すると相手は少し笑いつつこう返す。

 「いやいや、それでも俺に比べりゃかなり凄いよ」

 褒められた事で、僕はなんとなく気が緩んだ。そして、もしかしたらこの彼は、本当に僕の子供の頃の友人なのかもしれない、とそう思ってしまったのだった。

 「ところで、君の名前はなんと言うのかな? 実は悪いのだけど、まだ思い出せなくてさ。名前を聞いたら、たぶん思い出せると思うんだ」

 それで僕はそう尋ねた。すると彼はこう言ったのだ。

 「俺? ソウだよ、ソウ。そんな事よりさ、久しぶりに会えないかなぁ? ほら、昔の事とか色々と話したいし…」

 ソウ?

 僕には、その名に覚えがなかった。それに何だか、相手は誤魔化そうとしているようにも思える。そこで僕は悪い予感を覚えた。それでこんな質問をしてみる。

 「あのさ。君は色々と事情に詳しいみたいだから訊くのだけど、僕が中学時代に付き合っていたユミコちゃんは、今はどうしているのだろう? やっぱり、初恋の相手だから気になっちゃってさ」

 すると、そのソウと名乗る相手はこう答えて来たのだ。

 「ユミコ? ああ、あいつね。あまり聞かないけど、確かOLをやっているはずだよ。そろそろ、結婚するんだったっけかな? それよりさ…」

 僕はそれを聞いて怖くなった。ユミコなんて子と僕は付き合った事はない。初めて女の子と付き合ったのは、高校の頃で、しかも全然違う名前だ。僕は彼の話を聞き流しながら、パソコンの電源を入れた。何となく勘が働いたからだ。

 パソコンが立ち上がると、検索サイトを開き、僕は自分の名前を打ち込んだ。次に僕の携帯電話の番号と、そして小学校の名前。つまり、ソウと名乗る彼が、僕に対して提示して来た情報ばかりだ。検索ボタンを押下。画面が切り替わる。表示されたリンクをクリックしてみた。

 すると、そこには僕の名前と携帯電話の番号、そして簡単な経歴と共に、こんなコメントが。


 『お人好しの馬鹿。簡単に騙されるカモ。狙い目』


 まだ彼は何事かを話していたが、僕は「また、電話かけて来たなら、その時は警察に連絡する」とそう言って、電話を切った。

 ……誰の仕業かは分からないが、今の時代、どんな恐怖が待っているのか分かったものじゃない。

 色々と気を付けよう。

 そう、思った。

考えてみれば、これは「間違い電話」じゃないですね…

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