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LovePro  作者: HaiTo
1/2

//Object *Girl;


大学の図書館。俺は手元のキーボードをタイプする。MacBookAirの13inchの画面に現れるのは英字列。使用している言語はObjective-C。まだ大学でプログラミングの講義は始まってはいないが、かといって3年間、4年間もあるとはいえ、大学の講義内のみで鍛えたコーディングスキルだけで、企業に就職して開発が出来るとは思えない。確かに研修という制度があるかもしれないが、使われる側で終わるのはごめんだ。

「ビルド――駄目か」

 通らないコンパイルにイラつく。どこでエラーが叩かれているのか、コンパイルエラー時に現れる行数を見ても全く容量を得ない。

「これだから煩雑な言語仕様を持った言語ってのは……」

 そう小さく呟いきながらステップ実行をしようとし、しかしやめた。耳を聞き慣れた音が叩いたからだ。

 これはMacBookProのタイピング音。去年Airに変えたが、それまではProを使っていた。隣、の隣を見るとそこには確かにMacBookProのUSキーボードを叩く女性が居た。そして愕然とした、自分以外にUSキーボードを使っている人間が、しかも女性でいることに。確実に彼女はプログラマーか、それに準ずる人間だと判断する。

「――!? この、この感じは」

 確かに今彼女はこう叩いたのだ。俺自身も慣れ親しんだタイプ。間違えるはずはない。彼女は今確かにこう叩いた。

「template……メタプログラミング!?」

 彼女は小さく叫んだ俺の方へとゆっくりと首を回し、そのメガネ越しにも大きな瞳と目があった。

「貴方も、C++やってるの?」

 それが俺と彼女との出会いだった。

「あ、あぁ。今はObjective-Cばかりやっているけれど。高校生の頃はC++ばっかりやっていた。君は?」

「大学に入ってから、C++をやりだした、くらいかな。まだ一年だけど」

 それでtemplateだと……? 信じられない学習速度なのではないか。と疑った。

「したら同い年か。何を参考にしてるの?」

「これ」

 指を刺されたのは太い本。開かれているのは中程より進んだあたり。背筋に冷たい水をかけられた様なイメージが一瞬だけ頭をよぎる。

「まさか――」

「ストラウストラップのプログラミング入門、読んだことある?」

 言葉を飲み込む。そして吐き出す。

「いや、気になってはいたんだけれど――少し読ませてもらっても?」

 可能な限り自然に。

「いいわよ。ちょっとまってね」

 彼女は細い指を滑らせて栞を挟む。栞には「mikutter」という文字が印字されていた。反応しかけるが、再びぐっと堪える。

「はい。どうぞ」

 やはり、プラのカバーがかけられているが、間違いなくストラウストラップその本だ。ざっとめくる。vector、template、GUI等、様々な濃い内容がこの800ページ超に凝縮されているのが十二分に解る。

「すごいな。噂には聞いていたけれど」

 メガネに掛かった髪を耳へかける仕草をする。その仕草と立っている俺を見上げるようになる配置故に見える、その小さな起伏にどきりとしてしまうが、平静を装い本を閉じる。

「ありがとう。プログラミングはC++が初めてってこと?」

 本を彼女に渡す時、指先が触れる。

「んー、中学生の頃、ちょっとだけHSPに触ってたかな。でも、本当に少しだけ」

 なるほど。と頷く。HSP、プログラミングの入門としてはとても適している言語だと思う。

「HSPか、最近メジャーアップデートがあったらしいけれど、よく知らないんだ」

「私も最近は全然触ってないよ」

 小さく笑う彼女。そっかそっか、と俺も小さく笑みが溢れる。自分の電算機をチラと見て、まだそこにあることを確認し、ずずっと彼女の隣へと移動させる。

「今何をプログラミングしてるの?」

 移動させた後、パタンとMacを閉じる。

「んー、ただ本に書いてるのを書いてるだけさ」

 すっと通る声をした彼女は画面へ再び目を移し、瞳に焼き付ける。

「良いね。講義が始まるか、それじゃあまた」

 バッグを担ぎ、空いた手でAirを携える。じゃあねーという声を聞きながら、ふと立ち止まる。

「そうだ。名前は?」

 振り向いた先に、キーボードから手を離した彼女が微笑む。

「木橋。木橋夕陽。あなたは?」

 きばしゆうひ――名前をしっかりと頭に叩き込む。忘れないように。

「史郎。佐々木史郎。じゃあ」

 図書館を後にする。別館にある講義室までの道のりを風が凪ぐ。





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