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◆第67話◆

 週が開けても僕は、夕方に池袋の路地裏をうろつく行動を続けていた。

 いったい何時までこんな事を続けるつもりなのか自分でも判らない。もしかして、聡史もこんな当ても無い事を繰り返していたのだろうか。

 水曜日、先週と同じ曜日に彼らはそこにいた。

 ほの暗く蔭った道を、僕は彼らに向かって歩いた。

「あの……」

「おっ、新顔」

 向かって左側にいた坊主頭に顎鬚を生やした男が言った。耳に大きなピアスを着けている。

 近くで見ると、二人共そんなに老けていない。せいぜい、僕の二つか三つ年上といった感じか。

「何か探してる?」

「エスはありますか?」

「制服はやばいなぁ。誰かに聞いてきたの?」

 右側にいた金髪の男がそう言って笑った。少し長い髪をオールバックに流している。

 僕は手っ取り早く掛けに出た。他には言葉が思いつかなかったのだ。

「ケンイチの昔のダチなんすけど。俺」

「ケンイチって……」

 そう言い掛けた坊主頭の男を、金髪が制した。

「悪いけど、俺らそんな奴知らねぇし」

「ああ、そうすか」

 感触はあった。こいつらはケンイチを知っている……彼らの態度がそれを物語っていた。とりあえず今はそれだけ判ればいい。

「じゃあ、またそのうち私服で来て見ます」

「木曜と土曜は公園の反対側だぜ」

 坊主の男が言った。

 僕は愛想を振り撒きながら、その場を後にした。

「お前、アイツの事は口にするなって言われたろ」

「おお、わりい」

 後から微かに、しかし確かにそんな会話が聞こえた。



「ハルくん」

 表通りに抜ける手前で声をかけられた。それが榛菜の声だと直ぐに判った。

 僕が振り向くと、ほの暗い路地にあるタバコの自販機の陰に彼女は立っていた。

「な、なんだよ。こんな所で何やってんだ?」

「ハルくんこそ。何してたの?」

「いや、別に……池袋探検……かな」

 僕は冗談混じりにそう言うと、彼女を促して歩き出した。

「あの人たち誰?」

「あの人たちって?」

 榛菜は僕の腕を強く掴んだ。

「ごまかさないで。あれって、薬物とかの売人じゃないの?」

「お前こそ、何こそこそつけてんだよ」

 質問をはぐらかす僕に、榛菜は

「クスリ……買ったの?」

 彼女の心配は他所よそにあった。何か勘違いしているようだった。

「お前、何か勘違いしてるよ」

 僕はそう言って笑うと

「俺がドラッグなんか買うわけないだろ」

「じゃあ、何話してたの?」

「話してないよ」

「話してた。あたし見てたもん」

 榛菜の困惑した表情は変わらなかった。

「日曜日にボランティアの友達にお土産渡しに行ったら、ハルくんに会ったって聞いて」

「ああ、飯塚さん。それで俺のことつけてたのか?」

 榛菜は小さく首を横に振った。

「月曜日に亜貴も見かけたって。変な路地から出てきたって言ってた。ハルくん最近何時も遅刻ぎりぎりでバイトに来るってヒカリさんが言ってたし、何してるのかと思って」

 榛菜はそう言って少し俯くと

「黙ってつけたのは、ごめんなさい」

「ハルが思ってるような事は何もしてないよ」

 僕は再び笑うと、彼女の頭にポンッと手を乗せた。

「じゃあ、何してたの?」

 僕は、彼女に話すかどうか躊躇したが

「聡史を殺した連中さ。それを探ってる」

「えっ?」

 榛菜は再び困惑した表情を見せた。

「犯人は捕まったじゃない」

「あれは違うよ。いや、刺したのはあいつかもしれないけど、それを命令した奴は他にいる」

「そんな事調べてどうするの?」

 僕は榛菜の問いかけに一瞬戸惑いを感じた。

 それを調べてどうする……? 僕はいったいどうするつもりなのだろう。

「復讐するの?」

「いや……わかんない」

 その言葉を口にして、僕はふと聡史を思い出して立ち止まった。あの時、クスリの売人を見つけたと言っていた時の聡史と同じセリフを吐いた自分にゾッとしたのだ。

「行こう」

 僕は榛菜の手を掴んで立ち止まった足を前に踏み出した。

 僕は復讐しようとしているのだろうか。

 警察に通報しても、掴まる可能性は少ない。おそらく彼らは、次々と場所を変えているのだろうし、路地に立っているのはほんの末端の連中だ。

 榛菜の心配そうな視線を感じながら、僕は彼女の手を握ったまま駅まで歩いた。





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