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◆第54話◆

 聡史が殺された1週間後、犯人が捕まった。しかし未成年の為、顔も名前も公表されなかった。年齢は十八才。僕と、そして聡史と同い年。

 僕はどうしても、犯人の顔が知りたい。ひと目でもそいつを見てやりたいと思った。

 それはただの好奇心などではない。ましてや、それを知ったからと言って復讐心に燃えてるわけでもないだろう。

 僕から親友を奪った犯人がどんな奴なのか知りたい。人一人殺した同い年の奴がいったいどんな顔をしているのか知りたい。

 しかし、どうしたらいいのか僕には判らなかった。

 犯人が送検された拘置所のある建物の周囲をグルグルとバイクで走る日々が続いた。

 未成年の殺人犯を狙ったワイドショウのカメラマンスタッフや特ダネ雑誌の専属カメラマンが連日何組かうろついているので、僕を怪しむ者などいなかった。

「あの……あの犯人の少年て、出てくるんですかね?」

 僕は、近くにいたカメラマンに聞いた。

 雑誌のスクープなどを狙っている連中の一人だろう。テレビカメラの連中よりは、話し掛け易そうだった。

「ああ?」

 ダメか……

「そのうち出てくんじゃない。現場検証とかもあるだろうし」

「現場検証?」

「自白すれば、それを元に犯行現場で検証するから」

「それって、何時?」

「だから、そんなの俺が知るか」

 男はしかめた顔で、僕をチラリと見た。

「そうっすよね……」

 彼に苦笑を返した僕は、歩道を横切って停めていたバイクに乗ろうとした。

「出てきた!」

 離れた場所から誰かの声が聞こえた。

 近くにいたカメラマン数人が、カメラを抱えて走り出した。

 僕は跨りかけたバイクを降りて、歩道の柵を越えてそれを追った。

 犯人が出てきたのだろうか。

 どんな奴だろう。聡史を殺した犯人……少年A

 僕は全力で走る以上の動悸を感じながら、カメラマンの背中を追った。

「こっちからいけるぞ!」

 誰かの声に僕が振り返ると、塀の隙間の格子からカメラを突き出す男の姿が見えた。

 この目で見てやる。犯人の姿をこの目に……

 正面は報道陣でごった返していて、今更行っても何も見えそうも無い。

 他に隙間は無いのか。

 ふと見ると、誰かが塀によじ登った。

 僕も、後先考えずに塀に向かってジャンプした。高い塀をよじ登ると、裏口が丸見えで、白い大きなバンが停まっていた。

 大きく伸びた木の枝とそれに茂った葉が、僕たちをカモフラージュした。

 すぐ横で、パチッ、パチッとデジタル一眼のシャッターをしきりに切る音が聞こえた。

 ……出てきた。

 スーツを着た男たちに囲まれた少年は、頭から誰かの上着を掛けられている。前に小さく突き出した手には大きなタオルがグルグルと巻かれていた。おそらくその下は手錠で繋がれているのだろう。

 僕は塀の上の木陰で目を凝らした。心臓の鼓動が内側から大きく胸を叩いた。

 僕と同い年の殺人犯。いったいどんなヤツなのか。

 クソッ、顔が見えない。

 正面からフラッシュが凄い勢いで焚かれて、嵐のように彼に振り注いでいる。

 段差を越えるとき、チラリと少年が顔をあげた。正面のカメラを避ける為か、その顔はこちら側に向けて少しだけ上がったのだ。

 それを見た僕は一瞬眩暈に襲われた。真夏の青い空を埋め尽くした濁った大気に、思考が溶け出してゆく。

 アイツは……

 あの頃の晴天そら、あの頃の雲、あの頃の風景。僕の頭の中に小学生の記憶が走馬灯のように駆け巡った。

 そんなバカな事があるのだろうか。

 どうしてアイツが聡史を殺すと言うのか……

「ケンイチ!」

 僕は思わず声を出した。

「バカ、声出すな!」

 隣でシャッターを切っていた男が僕に言いながら、それでもチャンスを逃しはしない。

 僕の声で、少年は一瞬だが完全にこちらに視線を向けたのだ。

 間違いない。その面影は充分すぎるほど残っていた。

小学校のクラスメイト、斉藤ケンイチ。そして彼は、聡史のクラスメイトでもあった。

 どうして……

 少年ケンイチは直ぐに顔を下に向けた。僕に気がついただろうか。

「ケンイチ! お前が聡史をったのか?」

 僕は叫んでいた。

「ケンイチ! 何でだ! ケンイチ!」

 自分でも訳が判らなかった。ただ、無我夢中で訊きたい事を必死で叫んだ。

 答えが返ってくるはずもないのに。

「コラ! そこから降りろ!」

 警官が駆けつけて、僕とカメラマンは塀の上から引きずり降ろされ、歩道の上に強く腹這いに押さえつけられた。

 目の前は警官の黒い靴でいっぱいになった。

 押さえつけられた首と腕が軋むように痛かったけど、それ以上に心情こころはもっと痛かった……





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